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遼平くんの、永美ちゃんへの想いを嫌というほど私に刻みつけた、無理やりという言葉とは程遠い、泣きたくなるほど優しいキス。
思い出してしまって、思わず唇を強く擦ると、その手を晴臣が掴んだ。

「やめろ、思い出さなくていい。俺のキスで全部忘れさせてやるから、いいって言えよ」

まだ言ってないのに。
瞳にだけ熱を宿した、凛とした晴臣の顔がグッと私の顔に寄せられた。

「そんな…おとぎ話じゃあるまいし」

「千歳が望むなら王子にだって、魔法使いにだってなる」

晴臣は、本気だ。
私の知らない所で、私のために、ずっと努力してきたという強い自負を感じる。

こんな状況でキスなんてされたら、絶対に絆されてしまうと躊躇う私のうなじを、晴臣が促すように撫でた。
その指先が、微かに震えていたのがダメ押しー

「いいよ」と言う代わりに、自分の唇で晴臣の唇を掠める。

晴臣はそれを合図に私の後頭部を強く引き寄せると、ハッキリと告げた。

「千歳、好きだ」


1ミリの隙間もなく、ピタリと重ねられた唇から、晴臣の熱い想いが流れ込んで来る。

「…千歳がいい」

私の心が飽和状態になったのを見透かしたかのように、晴臣は一度唇を離すと、角度を変えてゆっくりと舌で私のの中をいっぱいにした。

既にもう息が苦しいのか、胸が苦しいのかも分からない。

「ん…ふ…」

「…千歳じゃなきゃ嫌だ」

一方的に口内を舐め回していた晴臣の舌が、今度は誘うように私の舌をすくい上げた。
販促部のフロアに似つかわしくない、舌の絡み合う水音と、乱れた吐息の音だけが響く。

「ん…ハッ…ハアッ…」

「千歳以外要らない」

深さと激しさを増していく口づけに、立っていることもままならない。
膝から崩れ落ちる直前、何とか晴臣のシャツにしがみつくと、腰から抱え上げられデスクに座らされた。

私を見下ろす晴臣の顔には、いつもと違って涼しさの欠片もない。
前髪の間から覗く額にはうっすらと汗が滲んでいる。

そのまま覆いかぶされ、また唇を重ねられるのかと思えば、

「好きだ」

という耳元で囁かれた一言と、脳に直接響くようなグチュッという水音にゾクッと腰が跳ね上がった。
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