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「なっ!?何で僕なんですか!!?」

助かった。
遼平くんがびっくりするほど派手に狼狽えてくれたお陰で、私が縮み上がったことは父にバレずに済んだようだ。

「えー?だって、遼平、昔よく酔っ払うと人前でも永美にキスしてたじゃーん」

「ちょ、やめてくださいよ。人をキス魔みたいに!それも社員二人の前で!!」

「いいじゃん、本当のことなんだし。それに、ここ数年酒は控えてるって聞いてたのに、酔いつぶれたところに千歳ちゃんが居合わせたうえ、その日から千歳ちゃんの様子がおかしいと来たら疑うでしょ、普通」

普段大人で落ち着いているeternoの社長も、父の手にかかれば形なしだ。
遼平くんの顔はちょっとムキになっているのか、紅潮している。

「そんなことしてませんって!大体ソレ、相手が永美限定のことですし!いくら酔ってたからって、ちーちゃんと永美を間違うわけないじゃないですか!」

残念だけど、遼平くん。
あなた完全に私のこと永美ちゃんと間違えて、何回もキスしてくれちゃってますからね。

という心のツッコミは、胸に納めた。

だって、ここまで「ない」と名言されれば、いっそ清々しい。
遼平くんの記憶に全く残っていなくて、本当に良かった。
まだ胸は痛むけど、お陰でちゃんと気持ちにケリをつけることができそうだ。
キスのことは私が一人墓場まで持っていく。
そして、天国で永美ちゃんに会えた暁には土下座して謝ろう。

そんなふうに初めての失恋を噛み締めている私を他所よそに、父が

「え?そうかな?この間のポスターの千歳ちゃんなんて永美の若い頃に…」

と性懲りもなく遼平くんに絡んでいると、突如として晴臣が勢い良く立ち上がった。

「おじさん」

地を這うような低い声に、賑やかだった部屋が瞬時に静まり返る。

「え?は、晴臣?どうした??」

オロオロと晴臣の顔色をうかがう父に、先程まで遼平くんを手玉に取っていた社長の威厳は微塵も残っていない。

「ちょっと、千歳借ります。その間二人でストーカー対策についてきっちり話し合っといてください」

「あ、う、うん。分かった。話するなら中原に言って会議室案内してもらって。こっちはとりあえず顧問弁護士にすぐ連絡取って、IPアドレスからいやがらせ犯の情報開示請求するよう指示してから遼平と話し合ってきちんと報連相する!!」

父が電話をかけるより早く、晴臣が私の手首を掴んだ。

「千歳、来い」

思い切り掴まれたところから、晴臣の怒りがビリビリと伝わってくる。

マズい。
あんまり静かだったから、晴臣の存在、すっかり忘れてた。
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