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これには遼平くんも気分を害したらしい。
スッと場の空気が凍りつくのが分かる。

「ちょ、ちょっと!晴臣!?」

慌てて晴臣をひとまずチャペルの外に連れ出そうと腕を引いてもびくともしない。
遼平くんと二人、完全に睨み合っている。

「…僕は蓮見さんに頼んでるんだけど」

声を荒げたりしない分、逆に迫力がある。
こんな遼平くんは初めてだ。

「ダメなものはダメです」

「だから、なぜ君が?蓮見さんの婚約者だから?でもそれは形だけのものと聞いているけど?」

「そうですけど、俺、千歳のことなら何でも分かるんで」

「それじゃ話にならないな」

言い捨てた遼平くんの声は驚くほど冷たかった。
晴臣は悔しそうに下唇を噛み締めている。

「蓮見さん、君の気持ちは?」

突然話を振られて、飛び上がりそうになった。

遼平くんの期待に応えたい気持ちと、モデルなんてできっこないという気持ちで完全に板挟みだ。

「私、はー」

やっぱり無責任に引き受けて、遼平くんをがっかりさせてしまうのが一番イヤだ。
そう思って、断ろうとした時、チャペルのドアが再び開いた。
それも、かなり騒々しく。

「蓮見!早かったねー!!」

「蓮見ちゃん!!良かったぁ。来てくれてありがとう!!社長から話聞いてるわよね?あんまり時間ないからすぐ着替えて」

こうして私は遼平くんに返事をする前に、白黒コンビによってあっという間に控室に連行されてしまったのだ。


控室の扉を開けると、完全に心を奪われた。
白で統一された部屋は一面、天井も床も壁は大理石でできている。
その他、真鍮製のレリーフが美しい大鏡、繊細な模様があしらわれたペルシャ絨毯、イタリア製と思われる上質なレザーのソファは、100万円は下らないはず。

愛妻を、緊張が続く式の合間に少しでもリラックスさせようと、一点一点例の設計士がこだわり抜いて選んだものだということは、素人の私でも分かる。

外観は急いでいて見逃していたけれど、こんな素敵な部屋、女として見惚れずにいられるわけがない。
奥さん、さぞ幸せなんだろうな…。

などとぼんやりしていると、真由先輩は、早速私を大鏡の前に立たせ、数着あったドレスの中から迷わず一番大人っぽい、クラシカルなタイプの一着を選び、私の前身にあてがった。

「…ん。やっぱりこれね」

真由先輩の言う通り、そして、自分で言うのもなんだけど、妙に似合っている気がする。

ここ控室へ来る途中、とにかく撮影スケジュールが押しているということを聞かされていたので、不安をひた隠し、ただ黙って着せかえ人形のように脱がされ、着がえさせられる。
こうして身にまとったドレスは、胸の辺りがほんの少し苦しかったものの、サイズはほぼぴったりだった。

「次はメイクね。飛鳥、紅美さん呼んできて」

「え?紅美さんって、あの松本紅美さんですか?」

「そうよ。蓮見ちゃん、よく知ってるわね」

採用試験対策としてeternoの創業史をかじったので、私でも知っている。
松本紅美さんは、遼平くんや永美ちゃんと同じく、eterno立ち上げ時にLotusから引き抜かれた当時の若手実力ナンバー1美容部員だ。
今は現場から離れて、後進の指導や撮影時に腕をふるっていると聞いている。

ドレスの裾を整えていた飛鳥さんは手を止めて、バタバタと部屋を出て行き、すぐに松本さんを連れて戻ってきた。

松本さんは、想像していたよりずっと小柄で、童顔でびっくりした。
でも、何より驚いたのはー

「―永美さん」

彼女が私を見て、開口一番そう呟いたことだった。
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