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遼平くんは、孤独を身体の中に封じ込めるように長身を縮めると、口元を覆った。
それでも薄暗い部屋には、漏れ出した嗚咽がいつまでも、いつまでも響く。

私はこの時初めて思い知った。
本当に、永美ちゃんはもうこの世にいないのだと。

どんなに強く願っても、もう戻ってはこないのだと。

しばらくの間、成すすべもなく立ち尽くしていた私は、晴臣に促されて家に帰ってからも、ずっと遼平くんのことを考えていた。

疲れ果てた顔。
こぼれ落ちた涙。
すすり泣く声。

今日見たもの、聞いたことの全てが、当時まだ子どもだった私には衝撃的で、あらゆる感情に胸の中を激しく揺さぶられる。

悲しみ
驚き
同情
戸惑い

そして、嫉妬。

そう。
私は確かに嫉妬していた。

大の大人が、人目を、それも、私と晴臣子どもの目も憚らずに泣く程。
私もそんな風に想われたいと願ってしまったのだ。

不謹慎だということは分かっていても、はっきりと永美ちゃんが妬ましかった。

こうして重くて苦い罪悪感とともに、私の恋は始まった。

あの日から、少しずつ、でも、確実に前に進み始めた遼平くんの姿を、姪という立場を利用してずっと見守ってきた。

と言っても、会えるのは永美ちゃんの法事のときと、盆正月、子会社の社長として遼平くんが父を尋ねるときの、年に数回程度。

毎日、次に会える日を指折り数えて待つ。

会えたときに少しでも良く思われたい。
心の中で永美ちゃんに謝りながら、自分磨きを止められなかった。
でも、前の日の晩は、期待と興奮で眠れなくて、遼平くんに見せるのは毎回寝不足の酷い顔。

永美ちゃんを裏切っているから、バチがあったったんだと激しく自己嫌悪するくせに、浅ましくもまた次に彼に会える日を確認してしまう。

最低で最悪な無限ループ。

そんな私のことなんて知らずに、遼平くんは合う度にその魅力を増していく。
完全に取り戻した清潔感。
嫌味なく着こなした上質なスーツ姿。
重ねた年齢が醸し出す大人の色気と落ち着き。

彼を知ってしまえば同年代の男の子たちは完全に霞んでしまい、誰にも関心が持てなかった。

「姪だから年に数回は会える」という考えは、すぐに「姪だから年に数回しか会えない」という考えに変わり、高校に入学して間もない頃には遼平くんのいる会社で働くことが目標になり、今に至る。

結局、私は新入社員に向かって祝辞を述べる遼平くんを直視できなかった。
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