僕とあの子と一ヶ月

黒沢ハコ

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馴れるまでの一週目

本当になにもない

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「おはよう、レイ」
「おはよう、おはよう!」
すっかりいたくなった目を擦りながら、
僕は目を覚ました。
あれから、いつのまにか寝てしまったらしく、
レイに抱き締められて寝てした。
のそのそと起き上がったレイは、
僕の顔に触れて、
「大丈夫?」とでも言いたげに見つめてきた。
「大丈夫」
もう、ふっきれた。
「レイ、ご飯食べよう」
コクコク!
レイは、力強くうなずいた。

僕は、パンに昨日の肉と野菜、
棚の奥にあったチーズを挟んで
サンドイッチにしてたべた。
どうやらレイは、チーズが苦手だったようで、
ビーは、レイの残したチーズを食べていた。
トントントン
誰かが、ドアを叩いた。
なんだろう?
キッチンにある小さな扉。
大人は通れないが、赤ちゃんぐらいなら
通れる大きさだ。
僕は、その扉を恐る恐る開けた。
「え?」
僕のすっとんきょうな声に、
レイが驚いて近づいてきた。
扉を開けたところには、
小さなバスケットがおいてあった。
「これ、なに?」
バスケットにかかっている布をどかすと、
中にはパンや野菜、
塩漬け肉とフルーツが入っていた。
誰が届けてくれたんだろう......
「ふー」
考えてもきりがない。
「レイ」
僕が名前を呼ぶと、レイは笑った。
「家の中案内してくれる?」
レイは、うなずいた。

家の外見に対して、家の中はきれいだった。
掃除をしている様子はなかったが、
ほこりはなかった。
グイッ
レイは、僕の手を引いた。
とりあえず、二階の部屋からだ。
僕は、レイの部屋のとなりを開ける。
扉は、ずいぶんとすんなりあいた。
なんにもない部屋だった。
そのとなりも、また隣も、隣も、
なにもなった。
きれいな色のカーテンが、
風にゆらゆらと揺れていた。
レイは、ずっとここに一人だった......?
僕は、レイの手を握りしめた。
レイは、僕より小さいと思う。
しゃべれないし、物事をよくわかっていない。
それでも、生きてこられた。
てことは、もしかしたら僕と会う前には、
誰かといた?
そんなことを考えながら僕は、
一番はじっこの部屋を開けた。
そこは、今までの部屋と違った。
開けた瞬間に流れ込んでくる風はなく、
なんとなく、匂いがした。
インクの匂いだ。
よくみると、本棚がたくさん壁にあり、
そこにギュウギュウに本が並んでいる。
小さなこが読む本から、大人が読む難しい本。
レイは、キョロキョロと辺りを見渡した。
もしかしたら、
ここに入ったことがなかったのかもしれない。
僕は、本棚をぐるりと一周見て回った。
部屋には本当に、本以外なかった。
この家の部屋は、とても適当な気がしてきた。
クイクイ
「なに?」
レイの方を見ると、
レイは一冊の本を抱えていた。
レイはその本を、僕につきだしてくる。
その本には、
ニコニコ笑顔の人が描かれていた。
「読んでほしいの?」
レイは、よくわかっていないままうなずいた。
「むかしむかし......」
僕は、壁に背を預け、
膝にレイをのせて本を、絵本を広げた。
そのお話は、二人の男女の話だった。
遠い国に暮らす二人は、国を逃げ出して
森の中で二人で幸せに暮らしていた。
そんなある日、
二人の親が二人のことを見つけて、
二人を自分の家に連れ戻してしまう。
そんななか、
たった一人だけ子供が残されてしまった。
子供は、とても悲しんだ。
すると、一人の少年が現れた。
少年は、
少女と一緒に暮らして大きくなっていく......
そして、すっかり大人になった頃。
少女の親が戻ってきて、感動の再開を果たす。
それから四人は、一緒に幸せに暮らしていく。
なんだか、とんでも話な気がした。
だけど、レイは嬉しそうに聞いていた。
「おもしろかった?」
レイは、うなずいた。
それから、絵本のページをペラペラとめくり、
少年と少女ご出会ったシーンを開いた。
「なに?」
レイは、少女の方を指を指したあと、
自分を指した。
次に絵本の少年を指差して、僕を指す。
レイは、この二人が僕たちに似ていると
言いたいのかもしれない。
「似てる?」
レイは、うなずいた。
確かに、そうかもしれない。
この絵本の少年と少女は、
一人ぼっちだったのに互いに出会って、
二人になった。
「本当、僕たちみたいだね」

僕らはそのあと、お昼を食べた。
肉と野菜を炒めたのと、果物。
そこまで、おなかはすいてなかった。
すっかり食べ終えてしまうと、また、
さっきの部屋にもどっていくつか絵本を読み、
階段の裏にある廊下にいってみることにした。
廊下には、赤いカーペットがしかれていた。
とりあえず、進んでみる。
廊下は、とても薄暗かった。
そして......
「壁......?」
僕は、そっと手で触れてみる。
壁だ。
どこをさわっても、扉などない。
ここは、ただの廊下?
何て変なとこだろう。
グイッ
「レイ?」
レイは、下を向いたままでいる。
ここが、怖いのかもしれない。
「大丈夫だよ」
僕は、探検をそこまでにして部屋に戻った。
明日、一人で見に行こう。
この家には、ものが無さすぎる。
だけど、探せば何かあるかもしれない。
そう思って僕は、眠った。
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