3 / 11
2:施術開始
しおりを挟むギルフォードは、マンドラゴラ夫婦の自宅へと入ると、双葉へと近づいていく。
双葉は、ピンと天へと伸びて元気そうだが、成長しているようには見えない。
種から発芽するまでも長い時間がかかった。
オフィーリア様曰く、この双葉は、両親以上に上位種のマンドラゴラらしく、魔王城から溢れる魔素を浴びてはいるが、それだけでは魔素が足りていないらしい。
魔素が一定以上溜まるまでは、成長できないとのことなのだ。
ギルフォードは、少しでも双葉の成長の足しになればと、森の中で魔石を探しては、双葉の近くに埋めている。
魔石は魔獣の身体の中に核として在る物だ。簡単に言えば、大気中の魔素が凝縮されて固まったものだ。獣と魔獣の違いは、体内に、この魔石が有るか無いかだといえる。
人間は魔石を魔道具の動力にするため必要としてはいるが、中々手に入るものではない。
魔獣を倒して、その体の中から取り出さなければならないからだ。しかし魔獣を倒せる人間は、そうそうにはいない。
ギルフォードは、そんな魔石を魔の森の中で、拾ってくる。
人の手にかからなくとも、死ぬ魔獣は多くいるから。魔獣は死ぬと身体から魔石がこぼれ出て、一定の時間が経つと地に帰る。
ギルフォードは、地に帰る前の魔石を探して、せっせと双葉の元へと届けているのだ。
「きゅっ」
「うきゅっ」
ギルフォードが魔石を埋め終わるころ、マンドラゴラ夫婦がやってきた。手に手にぞうさんじょうろを持っているから、水を汲みに行っていたのだろう。
マンドラゴラ夫婦は、それはそれは双葉を大切にしている。
芽が出る迄は、ヤキモキしていたが、芽が出たら出たで、なかなか大きくならない双葉に、またもヤキモキしている。
それを側で見ていたギルフォードは、自分にも何か出来ないかと、魔石を集めるようになったのだ。
「うきゅきゅー」
ドラ子が双葉に向かって、水をかける。その横で、ゴラ男が謎の伸縮踊りを踊っている。
「早く大きくなれよぉ」
ギルフォードも双葉に向かって声をかける。
柵の外では、シアと亀助が、まだ揉めているようだが、一切無視する。
「きゆゅ」
「え?」
ギルフォードの目の前で、双葉が揺れると、小さな声が聞こえた。
「もしかして、双葉の声?」
ギルフォードは微かに聞こえた声の方に向かい、耳を近づける。マンドラゴラ夫婦も耳を澄ましているのか、双葉に注目している。
ポコリ。
小さな土くれが双葉の横からこぼれ出ると、双葉が揺れながら、伸びていく。
小さな顔が、現れてくる。
「うっわぁ、可愛い」
小さな小さなマンドラゴラが上半身を土から出して、ギルフォードを見ている。
未だ頭の葉っぱは双葉だけだが、双葉はピコピコと動いている。
「「うきゅきゅきゅきゅ~」」
マンドラゴラ夫婦も大喜びだが、その場からは動かない。
双葉は力を入れて身動きしているのだが、中々土の中から出てこられないようで、思わずギルフォードは手を挿し伸ばす。
「あらあら駄目よぉ。生まれたてのマンドラゴラは、自分の力で土から出なければならないのよ」
いつの間にかにギルフォードの背後には女神オフィーリアがいて、ギルフォードの手を押さえ付ける。半透明なオフィーリアの腕は、ギルフォードの手を通り抜けてしまったが。
お手軽顕現の女神に、ギルフォードは驚いて、ピクリと身体を震わせてしまう。
「うわぁ、そうなんだ。知らなかったとはいえゴメン。オフィーリア様に止めてもらって良かった」
ギルフォードの手は、双葉にあと少しという所まで来ていたのだ。慌ててギルフォードは、自分の伸ばした手を引っ込める。
やや長い時間をかけ、やっと双葉は土から自分の力で這い出てきた。
その時、可愛らしい悲鳴を上げたのだが、魔の森に認められているギルフォードに、悲鳴が作用することは無かった。
そして、おぼつかない足取りで、マンドラゴラ夫婦ではなく、ギルフォードへと抱き着いてきたのだ。
「ウフフフ。可愛らしい赤ちゃんねぇ。生まれたばかりなのに、双葉ちゃんはギルフォードのことが好きなのね」
ホンワリと笑うオフィーリアだが、マンドラゴラ夫婦の冷たい視線にさらされているギルフォードは、それどころではない。
「うきゅう、うきゅう」
小さなマンドラゴラは、ギルフォードの腰にしがみつき、嬉しそうに双葉を揺らしている。
「騒がしいけど、どうしたの?」
リーリアが魔王城から出てきた。
夕飯を作っていたのだろう、片手にお玉を持っている。
「もしかして、双葉ちゃんが土から出てきたの?」
ギルフォードに抱き着いている双葉を見て、リーリアが嬉しそうに、駆け寄って来る。
「キシャーっ」
双葉が威嚇音を発し、ピリピリと辺りに魔力が放出される。
「双葉ちゃん……」
リーリアは畑の柵から中に入ることが出来ず、悲しそうに双葉を見ている。
(どうしてこんなにリーリアを嫌うのだろう?)
小さな双葉に触れるのも躊躇われ、ギルフォードは、ただただ困惑してしまうのだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説



今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。




淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる