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第十章 灼熱の大地と永遠雪のセツナ

145-そのころ女湯では

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<ドワーフの街 天然温泉 女湯>

 ってなわけで、むさ苦しい野郎共の話はここでオシマイ!
 ここからはサツキちゃんの実況でお送りするよ!
 この街の温泉は火山がドーンってなってお湯が沸いたのを、皆が入れる温度まで冷ましたやつを溜めているとかどうとか。
 詳しいことはぜんぜんわかんないけど、お肌に良いとか受付のオバチャンが言っていたので、うら若き乙女には大変良い感じのお湯らしい!
 ところが残念なことに、男女混浴ならストレートにドキドキ展開を期待できるというのに、浴室が別々のレイアウトになっているときたもんだ。
 しかも、真ん中の仕切りをよじ登って覗ける仕組みになっていれば救いがあったのに、ココの温泉は女湯と男湯が遠く離れた別棟という徹底ぶり。

「野郎連中が女湯を覗き見にチャレンジすらできないなんて、あまりにもロマンが無さ過ぎるよねー」

『えっ、覗き見? ロマン? どーゆーことです???』

 さすがに清楚路線なエレナさんにこのネタは通じない模様。

『僕も……全面的に同意』

「さすがフルルやるじゃん!」

『ま、チャレンジできる場と機会があったとしても、あの奥手ボーイ連中にそんな甲斐性あるとは思えないっすけどね』

「それもそうなんだけどねぇ……はぁ」

 ホント近頃の男連中ってのは情けないったらありゃしない。
 ま、それはそれで後でなんとかするとして、あたし達はせっかくのパラダイスを堪能しようではないか!
 ちなみにドワーフ達は夕方に働き終わった帰りでそのままお風呂に入って、お家に帰ってから夕食をとるらしく、夜遅くからお風呂に居るのはあたし達だけ……つまり今は貸し切り状態だ。
 きっと、男湯の方もおにーちゃんとユピテルの二人きりであろう。

『ばばんばばんばん……ばん』

『フルルは何を歌ってるっすか?』

『いい湯……だね』

『うん?』

 雪の妖精ながら、ハルルとフルルのふたりも温泉を満喫しているようだ。
 てわけで、あたしは湯船で肌を火照らせながら幸せそうにぼけーっとしているエレナさんに近づいてみた。

「で、お兄ちゃんと一生連れ添うと誓い合った気分はいかほどで?」

 バシャーーンッ!!!

 あたしの問いかけを聞くや否や、エレナさんは顔面からお湯に突っ伏してしまった。
 耳が真っ赤になっているのは……まあ、のぼせたせいじゃないよねー。
 それから顔の下半分を沈めたままブクブクしていたものの、しばらくして観念したのか顔を上げて白状した。

『そりゃ嬉しいに決まってます。私が聖なる泉を護っていた頃だって、正直カナタさんにはずっとココに居てほしいなーって思ってましたし。魔物が大襲撃して来たときだって、ここで独り死んじゃうのか~……って思っていたところに颯爽と現れて、お姫様抱っこからの「俺にエレナをよこしやがれ!」ですよ!』

「ほほう」

 おにーちゃんとエレナさんが二年前に戻った経緯は旅に出る前にちょっとだけ聞いてたけど、そんな出会ってすぐに脈アリだったのは初耳だ。
 まあ、おにーちゃんだって美人プリーストのおねーさん (名前忘れた)の尻を追いかけて旅に出たのにいきなり抜けられちゃった挙げ句、それ以降は超絶毒舌なシャロンちゃんと復讐に燃えるレネットさんに囲まれて旅をしていたわけだし、シディア王子の正体にも気づかないまま。
 そんな状況下で優しくされたもんだから、間違いなくエレナさんにゾッコンだったであろう。
 つまり最初っから二人とも両想いだったわけで、それなのに二人が想いを確認するのに一年もかかった時点で、まったくノロマにも程があるってもんだ。

「ま、あたし的には、おかーさんに二人の進展ぶりを報告するのが今から楽しみだよね~」

『えええっ!?』

「おにーちゃんの日記だと今回の事件が終わった後、七日以上かけて聖王都に戻って王様に報告してたけど、フルルの力でエメラシティまで飛んで戻れば一日だもん。今度は六日くらい実家でのんびりできるよ~」

『は、はわわわわ……か、カナタさんのお母様の報告とは……あわわわわ』

 エレナさんが顔を赤くしながらアワアワしていて、なんだか微笑ましい。
 ……と、あたし達がきゃいきゃいと騒いでいたところ、ペタペタと入り口付近から足音が聞こえた。

「お、他にもお客さんが来たみたいだねー」

 そして湯気の向こうから見えてきたのは、ナイスバディなおねーさん。
 フルルが別の世界で『真の姿』とやらに戻って大きくなった時の姿に匹敵するくらい胸元がバーンって感じで、それを長い銀髪で隠しているのが超エロティック!

「……あれ?」

 あの全身からエロエロな感じの雰囲気を漂わせてるおねーさん……どこかで見たことある気がするんだよねえ。
 はてはて、誰だっけか???
 うーんうーん。

『……』

 あたしが必死に思いだそうとしている最中、エレナさんは無言のままじっとおねーさんを眺めている。
 まさか、あの人がおにーちゃんに言い寄ってくるんじゃないかとか、またムダな心配してるのだろうか?

『は~う~、疲れた身体にしみるわあ……ふぃぃぃ~~~……お゛ぅ~~』

 せっかくの美人が台無し過ぎる感嘆の声を漏らしてるけど……はて、なんだか声も聴いたことある気がするよ。
 するとエレナさんは無言のままスッと立ち上がり、ざぶざぶと湯をかき分けながらおねーさんに近づいて――


~~


<ドワーフの街 天然温泉 玄関外>

 ユピテルと男二人、ひたすら外で待ちぼうけ。
 そもそも俺達は長湯する趣味も無いので、汗を流してちょっと湯船に入ってすぐに出てしまった。 

「せっかく風呂に入ったのに、外に出たら暑すぎて汗だくってのは、なんだか釈然としないな……」

『まあ、サツキちゃんが行きたいって言うから仕方ないし……』

 女の子の風呂が長いのは仕方ないにしても、今日ばかりはいくらなんでも長すぎる気はする。
 とか思っていた矢先、建物の入り口に見知った姿が見えた。

「やっほー、あがったよー!」

『おかえりサツキちゃーー……あれ?』

 サツキのことだから、ユピテルに絡みながら「ほれほれ、うなじを堪能するが良いゾヨ~」とか言いながら突撃してくるかと思ってたのだけど、普通に出てきたのが意外だった。
 ……というか、何故かメンバーが一人増えていた。

『カナタさん、お待たせしました』

「ああ、うん。……ところで、そちらの女性は誰???」

 俺の目線の先に居たのは、少し気まずそうに俯いた女性。
 長い銀髪が印象的で、俺の問いかけに対して顔を上げ……って、うわあっ!?

「えっ、えっ?」

 あまりにも予想外過ぎる人物の登場に思わず仰天。
 な、なんで!?
 俺が困惑している最中、銀髪の女性は少しだけ怯えた様子で自らの名を名乗った。

『あの、私の名は……セツナと申します……』
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