上 下
135 / 209
エクストラステージ ふぇありーていまーず2

135-隔離小屋にて

しおりを挟む
【同日 夕方】

<エルフ村 隔離小屋>

 あれから一同は村の入り口近くにある来客用の宿……もとい、ヨソ者を隔離するための小屋にやってきた。
 そして全員が室内に入るや否やサツキちゃんが勢いよくドア閉め、思いきり不満げに襟首を掴んできた。


「超絶アウトーーーーッ!!!」


『えええっ!?』

「っていうか、あそこでマールちゃんのコトを『妹みたいに思ってた~』と言っちゃった時点で論外ッ! 何考えてんのさっ!!」

『フラグ……ばっきばき』

『はあ』

 村に来て早々によく分からない波乱で始まり、ようやく小屋で一息つけたと思ったタイミングでコレである。
 ていうかフラグってなに???

『まだ自分の罪深さを理解してないみたいっすね』

『何が罪なんだよぅ』

 口を尖らせながらぼやくオイラを見て、ハルルはわざとらしく大きなため息を吐いた。

『前にキミらのコトは一通り聞いてたっすけど、要するにキミはあの子の祖父のせいで死にそうになった挙げ句、村から出て行ったんすよね?』

『まあ、そうだね』

 例の件は明らかに自身が被害者だったうえ、カナタにーちゃんの見た「もう一つの世界」では死にそうどころか、レネットねーちゃんに心臓を射貫かれて死んでたらしい。

『で、想いを寄せていた男のコと不本意な形で別れて、二度とえないと思ってたトコにいきなり帰ってきて。それで一年越しの再会からドキドキの展開! ……と思った矢先に、相手から妹呼ばわりっすよ? そんなの一発で心折れるっす』

『う、う~ん……』

 ハルルがメチャクチャ冷静に状況を述べるせいで、自分がとんでもない極悪人に思えてくる。
 ……いや、でも実際レネットねーちゃんとマールは実の姉妹みたいだったし、オイラもそんな感じだったんだからしょうがないじゃんか!

「まあ、さすがにこのまま帰るのもアレだし。ここはあたしが一肌脱いで、せめて関係修復しておきますかね~」

『ここに来る前に、カタを付けるとか白黒はっきりさせるとか言ってなかったっけ? マールと関係修復したら余計ややこしくなっちゃうと思うんだけど』

 すると今度は、フルルがふわふわと顔の周りを飛びながら、眠そうな顔で鼻をつついてきた。

『君が……あの子とくっつくのも……選択肢のひとつ』

『それって、暗に旅やめろって言ってるようなもんじゃないか』

 フルルに少し苦言っぽく伝えたものの、当のサツキちゃんは我関せずといった様子でのほほんとしている。
 その姿を見ていると、なんだか心がモヤモヤする。
 どうしてか理由は分からないけれど、何故か脳裏に一つの言葉が浮かんだ。

『ねえ、サツキちゃんはオイラが村に残るって言っても、なんとも思わないわけ?』

 オイラは少し頬を膨らせつつサツキちゃんにジト目を向けて意地悪な質問をしてみた。
 が、当の本人はキョトンとした顔であっけらかんと答える。

「あたし的には、ユピテルとはずっと一緒に居たいと思ってるよ?」

『っ!?』

 まったく、油断していた。
 サツキちゃんって、こういう子だもんな。
 そういうとこ……ホントずるいよ。

『うひひひ、青春っすねぇ~、アオハルっすねぇ~~。イイ顔してるっすよ☆』

『うっさいな……』

 頭の周りで笑いながらクルクルと飛び回るハルルが憎ったらしい。
 自分がどんな顔をしているのか……そんなの、鏡を見なくたって分かるさ。
 ――と、そんなやり取りをしていたその時!


ドンドンドンッ!!!


『ひゃっ!?』

 いきなり小屋のドアを強く叩く音が室内に響いた。
 まるで蹴破るかのような乱暴な叩き方に、皆の顔にも緊張の色が浮かぶ。

「ひょっとして、あたし達を消しに来た刺客とか?」

『もしそうなら……この村まるごと……氷のオブジェにしていい?』

『ダメに決まってるだろっ!!』

 このままだと、ドアの向こうにいる奴に向かってフルルが攻撃魔法をぶっ放しかねない!
 オイラは被害者を出すまいと、慌てて声の主に向かって駆け寄る。

『もしもーし、どちら様ですかーっ!』

『……』

 しかしドアの向こうから返事はない。

『処す……処す?』

『ダメだってばっ』

 何故かやたら好戦的なフルルを羽交い締めにしつつ、ぎゃあぎゃあ騒いでいると……

『……ユピテルくん』

 ドア越しに聞こえてきた声に、思わず胸が跳ねた。
 慌ててドアを開けると、そこには目元を涙で赤く腫らしたマールが~……って、わわっ!?

『ユピテルくんっ!!』

『むぎゅー……』

 いきなりマールが抱きついてきたせいで、ちょうどタイミング悪くオイラの腕の中にいたフルルが挟まれてしまった。

『タスケテ……タスケテ……』

『きゃあっ、ごめんなさいっ!』

 マールの飛び退いた隙間から這い出たフルルは、無表情のままフラフラとサツキちゃんのフードに逃げ込み、恨めしそうにこっちを睨んできた。
 え、これオイラのせいなの???
 ……って、そうじゃなくて!

『もうすぐ日没だってのに、どうしたんだい?』

『むー……』

 人間の都と違って、エルフの村は夜空を照らす明かりを好まない。
 日没後はどこもかしこも真っ暗になるので、あんまり長く滞在するとマールは村長の屋敷まで真っ暗な中を帰ることになってしまう。

『……してきたの』

『へ?』

家出いえでしてきたのっ! もうおじいちゃんなんて知らないっ!!』

『え……ええええーーーーっ!!?』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...