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Lv.8 歌姫と王子の恋物語
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私は歌姫マリン。
私の美しい歌声は多くの民を魅了し、唯一無二と言われております。
ですが、この国には私と一緒に歌える歌唱力を持つ者が誰も居ない……それだけが完全かつ完璧な私にとって唯一の悩み!
ああ、誰か私とデュエットをしてくださる方はおりませんのっ!!
~~
『今、映像に出ているのは、人魚の国のマリン姫ですな。美しい歌声は国民だけでなく、世界中の人々を魅了して止まないとか』
大臣の説明を聞いて、正直少しイラっとした。
『御嬢様言葉に高飛車、自画自賛か。こういうのを存在悪というのだな』
『魔王様はこういうタイプが苦手なんですね~』
キレ気味な私を見て、ライラ姫が苦笑しながらのんびりと呟く。
やはり姫というのは、こやつのように人畜無害な感じの方が良いな。
……いや、先の騒動で城を壊されたし、全然無害じゃないんだけど。
『大臣よ。この後の流れは?』
『はい。冒険の書を消失する前の勇者共は、歌姫の願いを叶えるべく、素性を隠して旅をしていた隣国のレオン王子を連れて、共に国民の前で歌声を披露し、そして二人は結ばれ……む? 魔王様、いかが致しましたかな』
『なんだろうな。経緯を聞くだけで胃液が逆流するというか、言葉で説明するのは難しいのだが、こう、イ゛ーーーーッ! ってなる』
私が身振り手振りで必死に説明すると、何故かライラに優しく抱き締められた。
『???』
『大丈夫です。どうせ連中の事ですし、王子の代わりに先の田舎村で採れた大根を持ってくるとか、ムッムッホァイ! とか言いながら、王子を連れたまま姫を放置して、次の街に向かったりするんです』
『経験者が言うと言葉の重みが違うなぁ』
◇◇
『何故だ……!!』
私は愕然としながら、玉座の間に投影された映像を眺めて叫んだ。
『私は二回目ですけど、客観的に見ると結構イラっと来ますねコレ』
というわけで、勇者達は大根で代用する事なく、宿で休んでいたレオン王子の部屋へ押し掛けて(ノックもせずに!)「な、なんだい君達はっ! えっ、マリン姫がパートナーを探してるだって!?」という三流寸劇みたいなセリフを聞き流しつつ、王子を連れてマリン姫の寝室に突撃していた。
……って、一国の姫の寝室がこのセキュリティって、本当にそれで良いのか!?
棒立ちの門番に至っては、話しかけられて開口一番が『やあ、ここは人魚の国のお城だよ』って、何考えてんのっ!!!
……と、二人の出会いの場面を思い出してイライラしていると、急に会場がしんと静まりかえり、入り口から男性の歌声が響いた。
『その美しい声は、レオン王子!』
『やあっ! 待たせたねマリン姫っ!!』
何この三文芝居っ!!
『さっき、舞台裏で凄く念入りにタイミング調整してたのに、まるで王子が遠方から突然現れたふうを装ってますね~。魔王様、いっそのこと城ごと爆破して二人とも連れ帰り、劇団員として魔王城で働かせます?』
『さらっと笑顔で恐ろしいコト言ってんじゃないよ……』
ライラ姫の提案をジト目で却下しつつ、私は大臣と共に、映像の中から勇者パーティの姿を探していた。
『む、あそこでございます魔王様!』
大臣が指差した先では、勇者がやたら挙動不審な動きをしているのが見えた。
『ムーンウォークしたり、壁を蹴って二段ジャンプしたかと思ったら、劇場の客席間をジグザグにスライディング……に続けて、突然スクワットか。いつもにも増して意味が分からんぞ……』
私が唖然としながら呟くと、大臣は何かに気づいたのか、猛スピードで反復横跳びをしている勇者を指差して叫んだ。
『あれは…紛れもなく、SIT……スーパーイライラタイムです!!』
『はい、説明よろしく』
私は早々と理解する事を諦め、大臣に説明を委ねた。
『この寸劇は強制イベント……つまり、勇者共は何をしようとも、マリン姫とレオン王子の小芝居を見届けるしか先に進む術が無いのです!』
はぁ、そうですか。
『それで、挙動不審の理由は?』
『手持ち無沙汰というヤツでしょうな。特に意味は無いでしょう』
『落ち着きのない子供か!!!』
堪えきれずに私がツッコミを入れていた最中、マリン姫とレオン王子がライトアップされながら歌い始めた。
どうやらミュージカルのような展開になるようだ。
『事前に入手した資料によると、ここから同じ内容を8回繰り返すとのことです。所要時間は2時間だそうで……』
『……こんなクソみたいな劇を8回? それも2時間!? 正気かっ!!!』
慌ててライラ姫に問いかけると、何かを懐かしむような顔で遠い目でコクリと頷いた。
『少しでも心と体を休めることができるのなら何でもいいやー……って、思って見てましたね。この時の私は』
『いや、なんかゴメンね……』
その日、玉座の間では、やたら美声な男女のデュエット曲をBGMに勇者がバタバタとヘンな動きをするだけの謎映像を2時間垂れ流し続け、通りすがりの家来達は有無を言わさず視聴を強要されたのであった。
< 本日の魔王城修繕報告書 >
1.魔王城内の排水設備の定期点検(問題無し)。
(追伸)
炎王フォトナ様より『通りすがりによく分からない曲をひたすら聞かされ、サビが頭から離れない』という苦情の投書が届いております。
以上。
『燃やしてしまえ』
私の美しい歌声は多くの民を魅了し、唯一無二と言われております。
ですが、この国には私と一緒に歌える歌唱力を持つ者が誰も居ない……それだけが完全かつ完璧な私にとって唯一の悩み!
ああ、誰か私とデュエットをしてくださる方はおりませんのっ!!
~~
『今、映像に出ているのは、人魚の国のマリン姫ですな。美しい歌声は国民だけでなく、世界中の人々を魅了して止まないとか』
大臣の説明を聞いて、正直少しイラっとした。
『御嬢様言葉に高飛車、自画自賛か。こういうのを存在悪というのだな』
『魔王様はこういうタイプが苦手なんですね~』
キレ気味な私を見て、ライラ姫が苦笑しながらのんびりと呟く。
やはり姫というのは、こやつのように人畜無害な感じの方が良いな。
……いや、先の騒動で城を壊されたし、全然無害じゃないんだけど。
『大臣よ。この後の流れは?』
『はい。冒険の書を消失する前の勇者共は、歌姫の願いを叶えるべく、素性を隠して旅をしていた隣国のレオン王子を連れて、共に国民の前で歌声を披露し、そして二人は結ばれ……む? 魔王様、いかが致しましたかな』
『なんだろうな。経緯を聞くだけで胃液が逆流するというか、言葉で説明するのは難しいのだが、こう、イ゛ーーーーッ! ってなる』
私が身振り手振りで必死に説明すると、何故かライラに優しく抱き締められた。
『???』
『大丈夫です。どうせ連中の事ですし、王子の代わりに先の田舎村で採れた大根を持ってくるとか、ムッムッホァイ! とか言いながら、王子を連れたまま姫を放置して、次の街に向かったりするんです』
『経験者が言うと言葉の重みが違うなぁ』
◇◇
『何故だ……!!』
私は愕然としながら、玉座の間に投影された映像を眺めて叫んだ。
『私は二回目ですけど、客観的に見ると結構イラっと来ますねコレ』
というわけで、勇者達は大根で代用する事なく、宿で休んでいたレオン王子の部屋へ押し掛けて(ノックもせずに!)「な、なんだい君達はっ! えっ、マリン姫がパートナーを探してるだって!?」という三流寸劇みたいなセリフを聞き流しつつ、王子を連れてマリン姫の寝室に突撃していた。
……って、一国の姫の寝室がこのセキュリティって、本当にそれで良いのか!?
棒立ちの門番に至っては、話しかけられて開口一番が『やあ、ここは人魚の国のお城だよ』って、何考えてんのっ!!!
……と、二人の出会いの場面を思い出してイライラしていると、急に会場がしんと静まりかえり、入り口から男性の歌声が響いた。
『その美しい声は、レオン王子!』
『やあっ! 待たせたねマリン姫っ!!』
何この三文芝居っ!!
『さっき、舞台裏で凄く念入りにタイミング調整してたのに、まるで王子が遠方から突然現れたふうを装ってますね~。魔王様、いっそのこと城ごと爆破して二人とも連れ帰り、劇団員として魔王城で働かせます?』
『さらっと笑顔で恐ろしいコト言ってんじゃないよ……』
ライラ姫の提案をジト目で却下しつつ、私は大臣と共に、映像の中から勇者パーティの姿を探していた。
『む、あそこでございます魔王様!』
大臣が指差した先では、勇者がやたら挙動不審な動きをしているのが見えた。
『ムーンウォークしたり、壁を蹴って二段ジャンプしたかと思ったら、劇場の客席間をジグザグにスライディング……に続けて、突然スクワットか。いつもにも増して意味が分からんぞ……』
私が唖然としながら呟くと、大臣は何かに気づいたのか、猛スピードで反復横跳びをしている勇者を指差して叫んだ。
『あれは…紛れもなく、SIT……スーパーイライラタイムです!!』
『はい、説明よろしく』
私は早々と理解する事を諦め、大臣に説明を委ねた。
『この寸劇は強制イベント……つまり、勇者共は何をしようとも、マリン姫とレオン王子の小芝居を見届けるしか先に進む術が無いのです!』
はぁ、そうですか。
『それで、挙動不審の理由は?』
『手持ち無沙汰というヤツでしょうな。特に意味は無いでしょう』
『落ち着きのない子供か!!!』
堪えきれずに私がツッコミを入れていた最中、マリン姫とレオン王子がライトアップされながら歌い始めた。
どうやらミュージカルのような展開になるようだ。
『事前に入手した資料によると、ここから同じ内容を8回繰り返すとのことです。所要時間は2時間だそうで……』
『……こんなクソみたいな劇を8回? それも2時間!? 正気かっ!!!』
慌ててライラ姫に問いかけると、何かを懐かしむような顔で遠い目でコクリと頷いた。
『少しでも心と体を休めることができるのなら何でもいいやー……って、思って見てましたね。この時の私は』
『いや、なんかゴメンね……』
その日、玉座の間では、やたら美声な男女のデュエット曲をBGMに勇者がバタバタとヘンな動きをするだけの謎映像を2時間垂れ流し続け、通りすがりの家来達は有無を言わさず視聴を強要されたのであった。
< 本日の魔王城修繕報告書 >
1.魔王城内の排水設備の定期点検(問題無し)。
(追伸)
炎王フォトナ様より『通りすがりによく分からない曲をひたすら聞かされ、サビが頭から離れない』という苦情の投書が届いております。
以上。
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