3 / 9
Lv.3 よくぞ戻った勇者よ
しおりを挟む
『以上。王座の間の壁面全体への即死トラップ設置により、勇者共が壁を抜けて襲撃してくるリスクは無くなりました』
『うむ、御苦労』
魔王オーカこと私は、ますます物々しくなっていく我が城を見て、ハァ……とため息を吐く。
玉座の背もたれの後ろに視線を向けると、真新しくなったばかりの床が見えた。
『それにしても、勇者がこの落とし穴にまんまと落ちていったのは良いのだが、ヤツの仲間達も追従して一緒に落ちていったのは意味が分からん……。金髪の女だけは抵抗していたようにも見えたが』
『理由は存じませんが、勇者一行は落とし穴だけでなく毒の沼やダメージ床なども隊列を組んで踏み入っており、まるで勇者と同じ痛みを仲間達にも与えるような奇行が目立ちますな』
『何それ怖いっ!!』
さらに大臣は、映像に映る勇者達の隊列の最後尾に居る金髪の女を指差し、気まずそうに口を開いた。
『そして……この小娘は勇者の仲間ではありませぬ』
『???』
確かに装備品は質素な弓だけで、勇者や他の女二人のように戦闘が得意そうには見えない。
私を背後から襲った時は一人だけ涙目だったし、落とし穴に落ちる時だって、最後まで抵抗していたところを僧侶女に突き落とされていた。
『エルフ王国のライラ姫でございます……』
『は?』
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
『え、なんで? エルフの姫が勇者と共に魔王城へ???』
『どうやら、勇者一行はドラゴンに捕らえられていた姫を助けた後、そのままエルフ王国に戻らぬまま旅を続けたようで……』
『あいつらマジで何やってんのっ!!?』
『どうやら最短攻略ルートのようですな』
ホント何言ってるのか意味が分からない。
ずっとドラゴンに幽閉されていて心細かったであろうに……。
いざ解放されるや否や連れ回されたうえ、毒の沼やら落とし穴に突き落とされる姫の立場を思うと、他人事ながら気の毒すぎて胸が締め付けられそうになる。
『む、勇者共がまたおかしな動きを……!』
大臣の言葉に嫌な意味で心臓が跳ねつつ、私は水面に映し出された勇者に目を向けた。
『……これは一体何をしておる?』
私の目に映ったのは、国王に対してひたすら旅の記録と読み上げを繰り返し要求する勇者の姿だった。
国王がグッタリと疲れ果てた顔で『冒険の書に記録するかね?』『よくぞ戻った勇者よ』と同じ言葉を反復していて、やっぱり他人事ながら気の毒すぎて見てられない。
『ハッ! これはまさか……!』
『何か思い当たる事があるのか!?』
『禁断魔法、サブフレームリセットです!!』
そろそろ慣れてきたけどホント意味わかんない。
『何それ……』
大臣は悍ましい化け物を見るかのような顔で、国王の手元を指差した。
『国王が旅の記録を記している途中に勇者が冒険の書を引き抜き、その記述を破綻させているのです……』
『意味わかんない』
思わず本音をこぼしてしまった私を見て、大臣は慌てた様子で首を横に振る。
『ヤツは旅の再開地点のマップ座標を偽装し、直接この玉座の間に乗り込むつもりですぞ!!』
『なああああーーーーーっ!!?』
『バルトラント王国のマップ番号下位8ビットをゼロクリアすると、魔王城の座標ですからなぁ』
『しみじみボヤいてないで、さっさと準備しなさいよぉっ!!』
私はバタバタと慌てながら使者達を呼びつけ、急いで戦闘の準備を整える。
やっとの事で装備を調えると、再び勇者の動向を見守る為に水面の前に立った。
<現在地:バルトラント王国>
・
・
<現在地:バルトラント王国>
・
・
<現在地:はじまりの村>
『あれ!?』
水面に映る映像がいきなり辺鄙な田舎村に変わったかと思いきや、勇者が悔しそうにニワトリをキックする姿が映し出された。
それを見て、大臣はホッと安堵のため息を吐いて笑みを浮かべる。
『……勇者はリセットのタイミングを誤り、チェックサムエラーで冒険の書を消失してしまったようですな』
『言葉の意味は分からないけど、助かったの!?』
『はいっ!!!』
『うわああああーーー! よかったああああーーーっ!!!』
泣きながら喜ぶ私と大臣の姿に、通りすがりの炎王フォトナは不思議そうに首を傾げるばかりだったとさ……。
< 本日の魔王城修繕報告書 >
1.マップ番号をユニーク値に変更し、座標改ざんで魔王城に到達できないよう修正。
2.玉座を改造し、足下からすぐに対勇者用装備を取り出せるように保管庫を増設。
(追伸)
各国に密使を送り、記録中の冒険の書を勇者に奪われないよう注意を促しました。
以上。
『うむ、御苦労』
魔王オーカこと私は、ますます物々しくなっていく我が城を見て、ハァ……とため息を吐く。
玉座の背もたれの後ろに視線を向けると、真新しくなったばかりの床が見えた。
『それにしても、勇者がこの落とし穴にまんまと落ちていったのは良いのだが、ヤツの仲間達も追従して一緒に落ちていったのは意味が分からん……。金髪の女だけは抵抗していたようにも見えたが』
『理由は存じませんが、勇者一行は落とし穴だけでなく毒の沼やダメージ床なども隊列を組んで踏み入っており、まるで勇者と同じ痛みを仲間達にも与えるような奇行が目立ちますな』
『何それ怖いっ!!』
さらに大臣は、映像に映る勇者達の隊列の最後尾に居る金髪の女を指差し、気まずそうに口を開いた。
『そして……この小娘は勇者の仲間ではありませぬ』
『???』
確かに装備品は質素な弓だけで、勇者や他の女二人のように戦闘が得意そうには見えない。
私を背後から襲った時は一人だけ涙目だったし、落とし穴に落ちる時だって、最後まで抵抗していたところを僧侶女に突き落とされていた。
『エルフ王国のライラ姫でございます……』
『は?』
思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
『え、なんで? エルフの姫が勇者と共に魔王城へ???』
『どうやら、勇者一行はドラゴンに捕らえられていた姫を助けた後、そのままエルフ王国に戻らぬまま旅を続けたようで……』
『あいつらマジで何やってんのっ!!?』
『どうやら最短攻略ルートのようですな』
ホント何言ってるのか意味が分からない。
ずっとドラゴンに幽閉されていて心細かったであろうに……。
いざ解放されるや否や連れ回されたうえ、毒の沼やら落とし穴に突き落とされる姫の立場を思うと、他人事ながら気の毒すぎて胸が締め付けられそうになる。
『む、勇者共がまたおかしな動きを……!』
大臣の言葉に嫌な意味で心臓が跳ねつつ、私は水面に映し出された勇者に目を向けた。
『……これは一体何をしておる?』
私の目に映ったのは、国王に対してひたすら旅の記録と読み上げを繰り返し要求する勇者の姿だった。
国王がグッタリと疲れ果てた顔で『冒険の書に記録するかね?』『よくぞ戻った勇者よ』と同じ言葉を反復していて、やっぱり他人事ながら気の毒すぎて見てられない。
『ハッ! これはまさか……!』
『何か思い当たる事があるのか!?』
『禁断魔法、サブフレームリセットです!!』
そろそろ慣れてきたけどホント意味わかんない。
『何それ……』
大臣は悍ましい化け物を見るかのような顔で、国王の手元を指差した。
『国王が旅の記録を記している途中に勇者が冒険の書を引き抜き、その記述を破綻させているのです……』
『意味わかんない』
思わず本音をこぼしてしまった私を見て、大臣は慌てた様子で首を横に振る。
『ヤツは旅の再開地点のマップ座標を偽装し、直接この玉座の間に乗り込むつもりですぞ!!』
『なああああーーーーーっ!!?』
『バルトラント王国のマップ番号下位8ビットをゼロクリアすると、魔王城の座標ですからなぁ』
『しみじみボヤいてないで、さっさと準備しなさいよぉっ!!』
私はバタバタと慌てながら使者達を呼びつけ、急いで戦闘の準備を整える。
やっとの事で装備を調えると、再び勇者の動向を見守る為に水面の前に立った。
<現在地:バルトラント王国>
・
・
<現在地:バルトラント王国>
・
・
<現在地:はじまりの村>
『あれ!?』
水面に映る映像がいきなり辺鄙な田舎村に変わったかと思いきや、勇者が悔しそうにニワトリをキックする姿が映し出された。
それを見て、大臣はホッと安堵のため息を吐いて笑みを浮かべる。
『……勇者はリセットのタイミングを誤り、チェックサムエラーで冒険の書を消失してしまったようですな』
『言葉の意味は分からないけど、助かったの!?』
『はいっ!!!』
『うわああああーーー! よかったああああーーーっ!!!』
泣きながら喜ぶ私と大臣の姿に、通りすがりの炎王フォトナは不思議そうに首を傾げるばかりだったとさ……。
< 本日の魔王城修繕報告書 >
1.マップ番号をユニーク値に変更し、座標改ざんで魔王城に到達できないよう修正。
2.玉座を改造し、足下からすぐに対勇者用装備を取り出せるように保管庫を増設。
(追伸)
各国に密使を送り、記録中の冒険の書を勇者に奪われないよう注意を促しました。
以上。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ロンクの冒険
shinko
ファンタジー
絵描きのおじいさんに拾われて二人で世界を歩きながら生活していたロンクだったが、拾ったどんぐりを食べておじいさんが急死。十三歳にして一人で生活していく事になった。
おじいさんから死ぬ間際に渡された【ギフトの指輪】なんとこの指輪。一日に一度ささやかなプレゼントの入った宝箱をくれるのだ。
宝箱の恩恵により何とか生活していくロンク。
幼い頃、自分に稽古をつけてくれて、ショートソードを与えてくれた剣の達人。師匠ゼブラン探すため、
冒険者として腕を磨きながら色んな事に巻き込まれていく物語です。
少年ドラッグ
トトヒ
ライト文芸
※ドラッグを題材にした物語ですが、完全にフィクションです! 危険ドラッグダメ絶対!
ネオ・ドラッグ条約により、ドラッグを使用し個体の性能を高めることを推奨されるようになった時代。
ドラッグビジネスが拡大し、欧米諸国と同様に日本もドラッグ大国となっていた。
千葉県に住んでいる高校二年生の八重藤薬人は、順風満帆な高校生活を送っていた。
薬人には母親と暮らしていた小学四年までの記憶が無いが、母親の弟である叔父との二人暮らしはそれなりに幸せだった。
しかし薬人の記憶がよみがえる時、平穏な日常は蝕まれる。
自身の過去と記憶の闇にあらがおうとした少年の物語。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
異世界グルメ紀行~魔王城のレストラン~商品開発部
ペンギン饅頭
ファンタジー
予算使い放題、自由出勤、ノルマ無し、命の危険多少あり。魔界最強を誇り、闘う事にしか生きる意義を見出せない 『堕天使ロキエル』 現代日本からやって来た、料理を作る事しかできない、ちょっとアホっ娘な 『天才料理人マリ』 ふたりのポンコツが織りなす、美味しい異世界ファンタジー。
魔王様は日本からの稀人である、マリの才能をいち早く見抜き、その守護者として、ロキエルに白羽の矢を立てた。魔界統一を目前にした血塗れの最前線から、急遽、呼び戻されたロキエルに、まるで畑違いのレストラン商品開発部への異動辞令が下される。と或る事情があって、日本通のロキエルは、戸惑いながらも、すぐにマリと心を通わせ合う事ができたのだが、マリの謎の言動に振り回されてばかり。どうなる事やらと、ため息混じりの日々を送っていた。
挨拶代わりに人を殴りつける『勇者様』 やたらと爽やかな、心優しき好青年『魔王様』 魔界の至宝と讃えられる、冷静沈着なダークエルフ『給仕長』 とにかく可愛い、メイドの兎っ娘『ラビ』 元気一杯、メイドの狼っ娘『ウル』 マリに反感を持つ『総料理長』 魔王様の座を虎視眈々と狙う『謎の人物』 入り乱れての、大騒ぎ、大乱闘!?
【R18】絶望の枷〜壊される少女〜
サディスティックヘヴン
ファンタジー
★Caution★
この作品は暴力的な性行為が描写されています。胸糞悪い結末を許せる方向け。
“災厄”の魔女と呼ばれる千年を生きる少女が、変態王子に捕えられ弟子の少年の前で強姦、救われない結末に至るまでの話。三分割。最後の★がついている部分が本番行為です。
オルタナティブバース
曇天
ファンタジー
高校生、堂上 早苗《どうがみ さなえ》は夏休みに、MT《マインドトランスファー》型MMORPGのテストプレイヤーとして選ばれる。 そのゲームプレイ中、テストプレイヤーたちはゲームからでられなくなってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる