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『第2の街シドネス』

35.第3回マップボス・シャンブルシャーク戦

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 「へぇ……なるほど。孤島にボスにアホ…ね」

 「え…ねぇ、この人今アホって言った?アホって言ったよね?」

  事情をモブルに話すと、大体の事は納得してくれたようだった。まあ、事情を話す前に散々こっぴどく叱られたが……

「それで?どうするんですか」

 「――――?何が?」

  モブルが俺にそう聞いてくる。

 「いや、ボスですよ、ボス。僕もどうせ協力させられるんでしょう?良いですよ。やってやりますよ。ノアの馬鹿げた行動にはもう慣れつつあるんですよ」

  さり気なく俺をディスりながら、持ち物から戦闘用の装備を取り出し着替えだすモブル。前の装備に比べ、少し見た目が変わっている。どうやら強化したらしい。

  そんな強化装備を身に纏ったモブルはポーション系統を腰につけ、いつでも回復が出来る準備をしている。その姿はどうしてかハムスターを連想させる。あの、あれだよ。頬袋いっぱいになんか詰めてる感じ。あれみたい。

  自分が見られている事に気が付いたのか此方を向いてモブルは「早く準備をしろ」とでも言う様な表情を浮かべ、視線を強く向けてくる。

 「はいはい…」

  と言っても、確認するのはポーションや攻撃アイテムの数くらいだ。モブルみたいにあんなに準備するのもあまりいないだろう。

 「あ、そういやお前最近二つ名つけられたらしいな。なんて名前?」

  ふと、思い出した事を聞く。するとモブルはこちらに向き直り、素直に教えてくれた。

 「………『飼い主』」

  …?『飼い主』?随分と珍妙な二つ名をつけられたものだな。俺みたいな二つ名だったら分かりやすいんだが、どういう意図でつけられたのかがモブルの場合全く分からん。

 「チッ……死ね」

 「えぇ…理不尽の極みだぁ……」

  なぜか突然そんな事を言われてしまった。意味不明である。まあ、気にし過ぎてもどうにもならないし気にしない方向で良いか。

  そうして戦闘準備が整った俺たちはボスゲートの前に立つ。
  すぐ傍にボスルーレットがある。やはりこの設備はすべてのボスゲートの前にあるらしいな。出来るだけ…!出来るだけ良いの来てくれよ…!

  そんな思いを込めながらボスルーレットを稼働させる。
  くるくるくるくるとルーレットが回る。こういう何かを待つ時間と言うものが一番緊張するってもんだ。

  そうして止まったルーレットの内容は『PT全員1つランダム能力値1.5倍』というモノだった。これはかなりいいモノが出たようだ。つまり俺とモブルの能力値がどれか一つ1.5倍状態になるらしい。

 「お…運良いですね!」

 「ああ、幸先良いな」

  ルーレットを回したことにより、ボスへと道が開かれる。
  ゲート内が突如として時空を歪ませ始め、青色の歪んだ空間を生成した。中は捻じれた様な見た目をしており、青色が相まって非常に気味が悪い。

  俺とモブルは一度互いの顔を見合って、ゲート内へと足を踏み入れた。


  * * * * * * * * * * * * * 


≪《遊泳》スキルが必須です。所持していない方は2500セルトで今回のボス戦のみ使用可能です≫

「俺持ってる」

 「僕もですよ」

  アナウンスが聞こえてくる。
  どうやら《遊泳》スキルが必須のボスステージの様だ。しかし、俺たちはどちらも《遊泳》スキルを所持しているので問題ない。

 「なるほど…」

 「辺りは警戒してくださいね…多分ボス来たらここから落とされますよ……」

  ボスステージの景色を見回すと《遊泳》スキルがどうして必要なのかが良く分かる。今は陸に足を着いて立っているが、その陸は酷く小さく今にも崩れそうだ。モブルの言う通りボスが来たら―――――

「―――――ぁがぁぁぁぁぁァァァァァァッッ!!!」

  ―――そんな事、冷静に思考している時間はくれないらしい。

 「来ますよ!準備!」

 「そっちが!子供みたいに息思いっきり吸い込んでろ!」

  何者かの咆哮が聞こえて数秒後、立っていた陸が崩壊した。ドボン!と俺たちは海へと着水する。ゲームのシステム上、ゴーグルなどはしなくても辺りははっきりと見渡せる。そこには――――

「―――ぁがぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


  ――――――全身が真っ赤で黒い斑が入った巨大な鮫がいた。


 「――――ッ!」

  流石の大きさに目を見開く。
  血塗られたようなボディ、不気味な漆黒の斑、雄々しくも恐ろしい大きな牙。何もかもが恐怖を与える。しかし、怯えている場合じゃない。

 「〈ダークカッター〉!」「〈ウィンドボム〉!」

  二人の声が水の中で重なり、響く。
  こちらもシステムの関係上、水の中は喋れる。最初に潜ったときに含んだ空気量によって一度に潜れる時間が変わるのだ。

  紅紫と不可視の連撃が鮫……『シャンブルシャーク』に向けて真っ直ぐ突き進む。そして、シャンブルシャークは避けることなくその攻撃を喰らう。


  ――――ドゴォォォン……!

  二つの挨拶がシャンブルシャークの腹に入った。しかし、HPは……

「そりゃ……簡単には削れないよな…!」

  ほぼ減っていなかった。
  モブルはそんなこと気にする様子も無く、自分に強化付与を掛けている。出来る限りの戦闘準備だろう。

 「〈同化〉、〈隠れ蓑〉」

  俺も自分が出来る限りのことはする。《熟練盗賊》で手に入れた気配隠蔽系のアーツである。少しは役に立つと良いのだが…

 そんな事を考えていると遂にシャンブルシャークが動き出した。
  ゆっくり、ゆっくりと狙いを定めるように俺とモブルがいる方向へと身体を向ける。そして―――

「ぁがああッ!!」

  先程までののっそりとした動きが嘘の様にとんでもないスピードで泳ぎだした。その速度は俺の〈瞬発Ⅲ〉にさえも届きうる程だ。しかし、まだシャンブルシャークの狙いがハッキリしない。俺とモブルがいる丁度中心付近に向かって、泳いでいるのだ。これではどの方向に避ければ良いのかすら分からない。

 「ぐっ……」

  酸素メーターもそろそろ地上で一度補給しなくてはダメージを負ってしまう。だが…!

  そう考えた瞬間、遂にシャンブルシャークが方向転換をした。狙いは――――、

 「お、れ、かよッ!!!」

  限界まで力を脚に込め、右に泳ぐがシャンブルシャークの巨体を避ける事なんて出来ず、左腕に齧り付かれる。鋭く大きな牙が腕に突き刺さるのが見える。シャンブルシャークはそのまま旋回し、また速度を上げる。

  どうやらモブルは酸素を補給して、此方に戻ってきている途中の様だ。これは…案外ピンチな状況の様だぞ……!

 「うぅぅぅ……!〈豪腕〉ッッッ!!!」

  右手で噛まれている左腕を抑え、衝撃に耐える用意をする。そして一気に〈豪腕Ⅲ〉を繰り出した。俺は左腕全体の筋肉を無理矢理に肥大化させ、膨張させる。
  前に戦った竜髪少女の時に使った戦法だ。

  シャンブルシャークの深々と突き刺さった牙は〈豪腕Ⅲ〉の筋肉膨張により、ほんの僅かだが浮き上がる。しかしそれでもまだシャンブルシャークはがっちりと俺の腕に噛みついて離れない。

 「〈低級精霊召喚〉!ノアを救え!」

  すると、頭上からモブルの声が聞こえてくる。そちらを向くと2体の不思議な形をしたクリオネの様なモンスターがこちらに猛スピードで迫り、シャンブルシャークに体当たりをした。

  しかし、その程度では全く歯が立たない。シャンブルシャークは背びれから謎の攻撃を放ち、モブルが召喚した精霊を一撃で撃沈させた。クリオネのような精霊は真っ二つに2体ともされて、粒子となって消滅していった。

 「冗談……!」

  モブルの悲痛なつぶやきがこちらにまで聞こえてくる。
  しかし、なにも変化が無かった訳じゃない。また少し噛む力が弱まった。これなら一気にやれば……よし!

  酸素ゲージだってもう数秒で切れる。深呼吸をして、覚悟を決める。
  そして――――

「〈影縫い〉ッ!」

  シャンブルシャークに映っている俺の影が薄気味悪く蠢く。その影は俺の意思に従い、シャンブルシャークのある場所へと一直線に向かっていき、そのまま―――


 ―――――シャンブルシャークの片目に入り込んだ。


 「ぁがらぁぁぁぁぁぁアアアアアッ!!!!??」

  シャンブルシャークが突然の眼の痛みに叫ぶ。しかしそんなことお構いなしに俺は眼球の裏で大いに暴れる。幸いなことに叫んだ時に腕は解放された。少しダメージは受けたがどうにかHPが全損する前には酸素を補給することが出来た。

 「ノア!何したんですか!?」

  モブルが泳ぎながら、シャンブルシャークの方向を向きつつも俺にそう質問する。まあ、他の奴から見たら突然シャンブルシャークが苦しみだした様にも見えなくはないか。

  にやりと俺は悪い笑顔を顔全面に浮かべながら答えた。

 「眼球抉り潰したァ……」

  我ながらかなりの極悪な表情が出来たのではないかと自負している。まず、言っていることがぶっ飛んでいるのだから、それなりの反応が欲しいところ…と思ったのだが…

「さっすがぁ!やる事が違いますね!アホは!」

 「え……」

  いや、そんな反応は全く持って求めてなかった……


【戦闘が終了していないため、スキルレベル上昇は非公開です】



 * * * * * * * * * * * * * 

 《水魔法》
 〈低級精霊召喚〉Lv60時取得可能
APの使用量に応じ、数体の低級精霊を召喚する。低級精霊は魔法等も何も使えないが相手を攪乱したり、視界を封じるのに使う等の使用方法がある。しかしあまりにも倨傲な態度で使用しようものならペナルティを喰らう事になるだろう。精霊たちも生きているのだ。
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