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『第2の街シドネス』

21.フツウ

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「知らない天井だ」

 どこかで聞いた事があるようなセリフを口にしながら、俺は目覚めた。

 ココはどこだろう?
 確か変なドーム状のナニカに触れたら、急に真っ逆さまに落ちた。どうしようかと思った瞬間、頭にとんでもない激痛が走った……そこからが思い出せないな……

 多分、地面と激突したんだろうな。それで気絶して誰かがここに運んでくれた…と、考察合ってるかな?

「あら、目が覚めたんですね」

 突如、女性の声がした。
 俺は声が聞こえた方を向く。すると、そこには――――――、


 空中に浮く人魚が居た。


「――――!!?」

 俺は驚きのあまり、寝ていたベッドから転げ落ちた。人魚だ。人魚がいるのだ。あの、下半身が魚のアレ。上半身を布が少ない水着みたいなヤツで隠しているあれだよ!気絶する前にも、一瞬だけ見たがてっきり見間違いかと思っていた。そして、もう一つ驚いた事――――、

「な、なんで、浮いてんの…」

 疑問をそのまま口にした。水の中を泳ぐなら良く分かるが、空気中をフワフワと浮きながら泳ぐのは聞いた事が無い。もしかして、ココ水の中なの?…いや、まず俺息出来てるしなぁ…

「なんでっていわれても……それなら貴方様は何故2本足で立っているのですか?」

「え、あ、そ、そりゃ当たり前だからだよ」

 一部例外はあるがな。俺は『ゆる獣』の戦闘シーンを思い浮かべながら、頭の中でそう付け足した。

「そう、当たり前。貴方様は2本足で立つことが当たり前の様に、私達はコレが当たり前なのです」

「んん…分かった…?まあ、当たり前は人それぞれだしな。変なこと聞いて悪かった」

 素直に謝り、俺はあたりを見回した。
 それにしても言ったここはどこなんだろうか。結構部屋はデカいっぽいし、後から「助けたんだから金払え」とか言われたりしたらどうしようか…お金は無いけど、アイテムが大量にあるからそれで許してもらえないかな…?

「それでもう、大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、すっかりだ」

「そう、良かったです。もうしばらくしたらもう一度来ますので、それまではゆっくりしていて下さい」

「あ、そうだココはどこかだけ教えてもらえないか?」

 俺は起きてからずっと疑問に思っていた事を、部屋から出ていこうとしている人魚に聞く。

「ここですか?ここは『アクアリウム』。そして、この場所は海王神ポセイドン様の宮殿です」

 そう言って、人魚はふよふよと空気中を泳ぎながら部屋を出ていった。ホントに泳げるんだな……一体どうなってるんだろうな、あれ。

 それにしても、ポセイドンか……随分と凄そうな奴が出てきたな。大丈夫か…?今回のボスはポセイドンですとか言わないよな…さすがに笑えないぞ。

 ん?メッセージボックスになんか入ってんな………………あー、なるほどね


≪深き海『アクアリウム』≫


≪特殊エリアの発見おめでとうございます。『ノア』様≫
≪この情報を全プレイヤーに公開しますか?≫
≪お選びください。 ▶Yes  No    ≫


 まあ、Yesだよな。それにしても、特殊エリアだったのか…


≪Yesが選択されました。全プレイヤーに発表します。≫

≪此度、特殊エリアがプレイヤーの手により発見されました。新特殊エリアの名は”深き海”『アクアリウム』。是非、皆様ご探索ください。≫

 よしこれでオッケー。もしかして、俺が気絶している間ずっと表示されてたのか?それであまりにも選択されないから、メッセージボックス送りになったと……そういう事かな。


≪特殊エリア発見報酬【変幻自在の飴玉】×2です。お受け取り下さい。≫


 おお!前回は無かったからなぁ!これは純粋に嬉しいな。さっそくどんなアイテムなのか見てみようっと。


【変幻自在の飴玉】
 自身の姿を自由に変えることが出来る飴玉。発動条件は、舐める事。舐め終わったら効果が切れる。姿を変えている間は、スキル・アーツ等は使用不可能。ただし、パッシブ系統は継続する。
【効果】変幻


「――――強くね?」

 使い道さえ誤らなければかなり強力なアイテムだ。しかもそれが2個も!大切に使っていこう。宝の持ち腐れにはならない様に……

 そういえば兎の仮面が外されて、ベッドのすぐ横にある小さな机の上に置かれていた。つけようと思ったがこれからポセイドンとやらに会うんだから顔を隠していちゃ悪いか。俺は仮面を持ち物欄にしまった。


 しばらくして、先程の人魚がまた来た。名前はリリアだそうだ。リリアさんは「準備が出来た」と言い、俺をポセイドンの元へと案内しだした。

 案内されている途中、ポセイドンとの接し方について教えられた。
 敬語、敬う態度、話す際は片膝立ちで頭を下げる、許しを得たら顔を上げる、等々非常に面倒臭そうなことだった。

 そんなことを教えてもらっているうちに、大きな扉の目の前に辿り着いた。

「それじゃ行きましょうか」

「ああ」

 どうやらこの扉の先がポセイドンとやらがいる部屋らしい。なんだか緊張してきたな…!


 ―――ギギギギィィィィィィィ…………!

 巨大な扉は重々しい音を立てながら、開いた。扉の先は大広間のような空間が広がっており、その先の王座の様な所に青い巨体の髭を蓄えたおっさんがいる。…っておっさんはまずいか…

「ポセイドン様、連れて参りました」

「うむ、下がれ」

「はっ!」

 あ、何?もしかして俺とこのおっさんの二人っきりにしちゃう系なの!?ちょっと無理だよぉ…!こんなむさくるしそうなおっさんと二人っきりとか気まずいにも程があるだろ!

 っていうか、おっさんの横に立てかけてある大きな槍は一体何だろう?絶対”伝説の~”的なアレだろ。良いなぁ~、ああいうのいつか欲しいなぁ~。

 そんなことを考えていると、おっさんが俺に向かって話し掛けてきた。ちなみに俺の今の体勢は先程リリアさんに教えてもらったばかりの、片膝立ちに頭を下げている状態だ。

「顔を上げよ。お客人」

「はっ!」

 俺は先程教えてもらった通りに、動く。こういうのはとんでもなく苦手なんだがな……どうしようもなくムズムズしてしまう。

「―――――」

「――――?」

 おっさんが急に喋らなくなった。どうしたと言うんだろう。
 もしかして俺、不敬に値する行動をとってしまった系か!?マジか!自分的にはしっかりしてたつもりなのに!!

「あ、普通にしていいぞ?」

「――――――ほぁ?」

 どういう意味だろう?普通にしていいぞ?何が?何を?ドユコト?

「いや、かしこまらなくていいよ。面倒臭いし」

「――んん?」

 あー、なんだかいろいろ分かってきた気がする。このおっさん、そういう系か。そういう事なら俺と気が合う可能性が高いな。

「それじゃ、普通で行こうか。おっさん」

 海王神ポセイドン、もといおっさんはニカッと笑った。


 * * * * * * * * * * * * * 


 私の名前はリリア。
 人魚たちを取り仕切るリーダー的な役職についている。

 今宵はルーを助けてくれた客人を招いての夕食のハズだった、のに夕食の時間になってもポセイドン様と客人のノア様が一向にお見えにならない。

 ある程度話をして褒美を渡したらノア様を連れて大食堂に来る、と言っていたはずなのに…もうお料理もほとんど冷めてしまって、《火魔法》が得意な者が温めなおしたり、《時空魔法》を使えるものが時間を巻き戻したりしている。

 てっきり話し合いが長引いているのだと思い、何度か部下に簡単な料理やお酒を持たせ、ポセイドン様達がいる王座の間へと行かせたのだが…その人魚が時折帰ってきては「もう少し話し合い続きそうです!」と言いながら、また料理とお酒を持って行く。

 私はここで残っている人魚たちに指示をしなくちゃいけないので、王座の間には行っていないのだが、流石に遅すぎる。これは、直々に見てくる必要があるかもしれない。

 というか、見てこよう。流石に遅すぎる。

「ココ任せるわ」

「承知しました」

 私は急ぎポセイドン様とノア様がいる王座の間へと向かう。

 そして、重々しい印象を与える扉を「リリア、入ります」と言いながら了承も得ずに開けた。

 すると、そこには――――――、



「「いっき!いっき!いっき!いっき!いっき!いっき!いっき!」」

「んぐっんぐっんぐっんぐっんぐっんぐ………ぷはぁぁぁ~!!」

「「FOOOOOOOOOOOOOO!!!!」」

 ――――大きな酒樽を一気飲みするポセイドン様と、それを促す様にしながら盛り上がっているノア様と、王座の間に料理を運ぶのを頼んだ人魚がいた。



【スキルレベルの上昇が無い為、ステータスは表示されません】



* * * * * * * * * * * * * 

《時空魔法》
『プライム・ワールド・オンライン』内で唯一NPCしか会得出来ない魔法スキル。理由は様々だが、単純な答えとしては”強すぎるため”であると言われている。
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