上 下
2 / 36
第一章  始まり

第一話

しおりを挟む
ガバッ


「ッ……!」

「はぁはぁ……」

胸元を震える手で握りしめ固く目を閉じる

「また、あの時の夢…」

少し落ち着いてきたのか、段々と震えが治まってくるのを感じた

登り始めた太陽の光が、辺りを照らし始める。差し込んでくる、暖かな光を感じ、ざわついていた心が、落ち着きを取り戻す

顔を洗うため、家から少しの距離にある泉に向かっていた時

「シェリ!」

少し離れた場所から女の子の声が聞こえてくる。
声がした方に視線を移すと、成人男性の握りこぶし大程の小さな女の子が目に映りシェリは自然と笑顔になるのを感じた。

「私のシェリ!ごきげんいかが?」

女の子がとても嬉しそうに問いかけてくる。

「とてもいいよ。君は?」

宙に浮く女の子の小さな頭を優しく撫でながら聞き返す。答えたことに興奮したのか女の子はシェリの周りを飛び回る。

「いいよ!とてもごきげん!」

キャッキャと背中の羽をピクピクとさせ、とても嬉しそうだ。

彼女は精霊と呼ばれている存在だ。精霊にもランクがあり彼女は下位の風の精霊シルフでとても好奇心旺盛だ。空の青と木々の緑が混じり合ったとても綺麗な髪が風に合わせ踊っている。

ニコニコとしているシルフを見ているうちに朝見た夢の事を忘れる事が出来た。

母に捨てられ死に際に光に包まれた時、シェリに意識はなかった。目覚めた時シェリの体は赤子から4~5才程になっており傍には精霊がいた。赤子だったが記憶は残っていて、目覚めた時から毎日の様に母に捨てられた時の夢を見るのだ。精霊はシェリを慰めるようにいつも笑顔でいてくれる。


生まれそして捨てられた場所から離れられず、心の何処かで`迎えに来てくれるかもしれない‘という思いを捨てきれなかった。日が経つにつれ、その場所がシェリにとっての家になっていった

初めは一本の大きな木があるだけの場所だったが、シルフや他の精霊たちが色々な物を運んで来てくれて決して「家」と呼べる様な物ではなかったが、シェリは心が温かくなるのを感じる事が出来てとても幸せだった。

家に戻ると森の精霊エントがいた。エントの側には木の実や果物が沢山おかれている。

「シェリ!食べ物持って来た!」

何処か誇らしげに持って来た食べ物を見せる。

「ふふっ。いつもありがとう。」

エントを抱き上げ優しく頭を撫でる。

赤子程の大きさのエントは恥ずかしがり屋で甘えん坊だ。だけど、しっかり者で思いやりがある。とても可愛らしくシェリにとって弟のような存在だった。

「今日は何処で取って来てくれたの?」

微笑みながらエントに問いかける。

「東の森まで行ってきたんだ!東の森は僕の住む森よりも大きくて色んな果物や木の実があるって聞いたんだ!シェリおいしい?」

少し興奮気味に答える。段々とシェリの反応が気になりだしたのか不安げに問いかけた。

「んっ…うん!とってもおいしい!いつもありがとうエント。」

小さな木の実を口に含みエントに美味しいと伝えると`また取ってくる‘と嬉しそうに、でも何処か恥ずかしそうに言う。

「そうだ!東の森に行った時人間がいたんだ!」

思い出したようにエントが言った。

「人間?」

シェリは不思議そうに聞き返す。

「そう!人間だよ!お馬さんが大きな箱を運んでたんだけど、その箱の中に人間がいたんだよ!」

エントは身振り手振りで伝える。エントは馬車の中に人が乗っていたと言いたいのだが、あいにくシェリは馬車の存在を知らなかった為エントの言葉そのままに受け止めるしかなく、不思議な人もいるんだなとのんきに思っていた。

「そういえば僕、人に会った事ないなぁ。会ってみたいなぁ……」

家のある森から出たことが無かった為、自分と精霊以外には会ったことが無いのだ。

「……エント。僕を東の森に連れて行ってくれない?僕も人に会ってみたい!」

ワクワクした表情でシェリにお願いをされてしまったエント

「うっ…でもっ…」

断りたいがとても断れそうにない

「お願い?」

エントには効きすぎるほどのお願いだ

「……分かった。でも!見るだけだよ!近づいちゃだめだよ!」

とても心配そうにシェリに同意を求めた。

「分かった!ありがとうエント!」

腕に抱いていたエントを強く抱きしめる

シェリはもともと好奇心旺盛で色んな事に興味を示しては実際に見にいってみたり触れてみたりと活発である。この森から出なかったのは、単に母が戻って来てくれる。この希望があったからだ。

明日の早朝に東の森へ出発する約束を交わし、早々にシェリは床に就いた
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】落ちこぼれ聖女だけど黄金の精霊に誘惑されてます〜Sランク聖女と黄金の精霊〜

白崎りか
恋愛
異世界に聖女として召喚されたカナデは、精霊と契約できない落ちこぼれ。 ある日、出会ったのは、金色の美貌を持つ貴族の精霊。 「カナデ、僕の太陽、僕の運命。僕と契約して」 金色の精霊の誘惑に振り回されながら、聖女として成長する物語。 他のサイトにも掲載しています。

公爵令嬢のRe.START

鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。 自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。 捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。 契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。 ※ファンタジーがメインの作品です

死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと

Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...