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第一章 運命の出会い

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通話を終えた後、

「幹弥、あいつらはどうなった?」

低く冷たい声音で、晃は言った

そんな、晃に幹弥も冷たい淡々とした声で答える

「玲さんを襲っていた男は、既に捕らえています。組長自ら、されますか?」

「いや、お前に任せる。俺がしたいのは山々だが、」

「早く玲さんに会いたいですもんね?」

ムッとした表情で、幹弥を見る

「―――何が言いたい?」

そんな晃に、先程までの淡々とした声音で話していた幹弥が、穏やかな声で言った

「いえ。組長が嬉しそうで、私も嬉しいんですよ」

「ッチ」

晃の対応に、クスクスと笑う幹弥。晃に対して、こんな気安い態度がとれるのは、幹弥だけだ。それは、晃が幹弥を信頼していると言う証だ

組の者達は、皆一様に晃を慕っている者達ばかりだった。晃に対し、絶対の忠誠を誓い、あだなそうと考える者は皆無だ。裏の世界で、こんな事はまずない。だが、海藤組に至っては例外だった

故に、組員になるためには、難関を幾つもクリアしなければ、まず入ることすら叶わない

極悪非道、冷酷無慈悲と言われている晃だが、裏切りや卑怯な事を嫌い、極道であっても真っ当な事を好む、少し変わり者でもあった

裏の世界だけではなく、表の世界で立ち上げた企業も、真っ当な企業だ。そこに、裏世界のしがらみは一切持ち込んではいない。表の世界での成功は、裏に生きる者だから、得た物ではないと言う事だ

そんな晃を、裏でも表でも支えてきたのは、幹弥だった。幼い頃より晃の側近として、ずっと共に歩んできた幹弥だからこそ、晃は信頼を置いているのだ

そして、幹弥が言った事が図星だった為に、何も言い返せず

「組長、私は心配していたんです。海藤組には何故かアルファが多くいますが、その殆どに番がいます。私にもいますしね。アルファで、番のいない者は、二十代前半の、若い衆ばかり。三十代でいないのは、組長だけでした。別に、番がいないからどうこうなる訳ではないですが、組長の番に対しての思いは、知っているつもりです。だから、心配だったのですよ。でも、こうして玲さんと出会い、唯一の番を得る事が出来た」

玲の名前が出るだけで、優しげな顔をする晃

「ささ、早く仕事を済ませて、帰らないと。玲さんを待たせてしまいます」

「あぁ。そうだな」

そう言って、晃は迅速に書類の処理を始めた。全ては玲と過ごす時間の為だけに

暫く経って、仕事が終わりそそくさと帰って行った晃。帰る間際の晃は、玲の事を考えているのか、穏やかで嬉しそうな顔をしていた

「さて、私も仕事を終わらせるとしましょう」

真っ当なことが第一とは言え、極道である。極道には極道の、真っ当な事があるのだ

組の敷地内にある、建物へと入って行く幹弥。奥へ進むにつれて、男たちのうめき声が大きくなっていく

「幹弥さん。ご苦労様です」

「えぇ。彼等はどうですか?」

「根性の無い奴らですよ。あっさり吐きました」

「そうですか。偶然とは言え、舐められたものです」

「絞めますか?」

「いえ、バラせと言われています。ほら、回収出来なかったでしょ?」

「あぁ、成る程。分かりました、手配します」

「頼みました」

幹弥に一礼し、部屋から出て行く優秀な部下を見送り、幹弥は男たちの側へ歩いて行く。玲を襲った事だけで、捕らえていたのだが、偶然にも男たちが別の組の組員だったことが分かった。あの辺り一帯は、海藤組の縄張りだ。それを知ら無い筈はない

男たちは、海藤組の縄張りで、違法な取引を行っていた事も分かっている。分かった以上、落とし前はつけてもらわなければならない

幹弥の顔を見て、顔を真っ青にする男たち。曲がりなりにも、極道である。言葉の意味が分からない事はない。これから、自分たちがどうなるのか、それが分かった故の反応だ

「海藤組に手を出せば、どうなるのか。その身を持って知りなさい」

冷たく淡々とした声音で言う幹弥に、男たちは叫ぶでもなく、ただ涙を流すばかりだった
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