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『…』

私を見る女性の目は、今にも泣きだしそうな程、悲しみに濡れていた。そして、私に手をかざし、何かを言うと、体が光に包まれていき、光が治まると、体は何事も無かったかのように、元気を取り戻していた

唖然とする私に、女性が唐突に言う

『…ごめんなさい』

え、なにが?それが正直な私の気持ちで、女性が何故、謝っているのか分からない

『私は、この世界の神。サディルナーバと言います。貴方が置かれている状況は、初めから知っていました。ですが、助ける事は出来なかったのです』

私の状況を、初めから知っていると聞いて、『何で助けてくれなかったのか』と思った。だけど、彼女は自分は『神』だと言った。人には理解できない事情が、あるのだろう

「その、体を治して?下さってありがとうございます。あの、その…理由を聞いても良いですか?」

『えぇ。私達、神は世界を創り、生命を創り出す。そうして生まれた生命の営みに、関与は出来ない様に、決められているのです。どんな事であっても、です』

「それで、世界が滅ぶとしても、ですか?」

『はい。神は、全能であるが故に、無能でもある。ですが、そんな私達でも、出来る事はあるのです』

「出来る事、ですか?」

『えぇ。力を授ける事、そして自身の加護を与える事です』

「だから、私の所に来てくれたんですか?」

力のない私に、力を与えに来てくれたのだと思った。だけど、サディルナーバ様は、ニッコリと微笑んで、静かに首を振った

『いいえ。私は、ただ教える為に来ました。本来なら、神は人の前に、姿を現してはいけない決まりがあるのです。一人だけを特別視してしまっては、公平とは言えませんから。ですが、此度の貴方の事、そしてこれまで起こった事。私達は、皆で相談し決めたのです。貴方に託すと』

「…託す?って何をですか?」

力を与えてくれる訳では無いと知って、半ばこれから、どうやって行くかで、不安な私に、何を託すと言うのか

『勝手な事を言っているのは、承知しています。貴方は、貴方の思う様にしていただいていいのです。ただ、この世界で、貴方の様に、理不尽に虐げられている人々が大勢います。彼らに会った時は、助けてあげて欲しいのです』

「私の様にって…召喚されて、私の様な扱いを受けた人が、他にもいるんですか?」

『…はい。ですが、彼らは一日と待たずして、ここを去って行きました。今もこの世界で、生きています』

生きていると聞いて、ホッとしてしまう

『ですが、召喚され投獄されてしまった人々以外にも、この世界には虐げられている人々は大勢いるのです』

たった数日。されど数日。嫌と言う程に味わった苦しみは、良く分かる。こんな苦しみを、何年も味わう事など、まさに地獄に生きている様なものだ

私は迷わずに言った

「私に何が出来るのか、正直分かりませんが、必ず力になります」

私の言葉を聞いたサディルナーバ様は、とても満足そうに微笑んだ

『感謝します』

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