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カナリアは丁寧に追い出され、少し強引に乗せられた馬車の中で悔しさを隠しもせず、顔を歪める
「どうしてあの女なの!先に出会ったのも私!美しいのも私よ!あんな女に劣る所なんて何一つないわ!」
押さえきれない怒りが口をついで出てしまう
「どうしてくれようかしら。私にこんな惨めな思いをさせたあの女…」
美しく整った顔は醜く歪んでいた
「あぁ…ふふ、いいことを思い付いたわ」
醜く歪められた顔は更に醜く、屋敷に着くまで続いた不気味な笑い声に従者は、どうか災いが己に降りかからぬよう祈るしかなかった
そしてカナリアが来訪して2ヶ月たった頃、セシルの懐妊が分かり、無事に双子を出産しアランそして二人の子供達と穏やかな時間を過ごしていた
あの時のカナリアがやってきた日が嘘のように静かだったのだ
だから失念していたのだ。カナリアの性格を。そして諦めの悪さと、その気持ちが向く方向も、それは決して可愛い焼きもち等ではすまない程に身勝手で自分の事しか考えない事も
カナリアの来訪から三年が経とうとしていた頃、丁度その日はアランも休みで家族団らんしていたときだった
玄関から使用人と男の争う様な声が聞こえる
「何かしら…」
「…見てこよう」
そう言ってアランが席を立とうとした時だった
「困ります!」
使用人の声と共に男が慌てた様子でテラスに駆け込んできた
「はぁ…はぁ…どうか私の話を聞いてください…!」
男のあまりに必死な形相に、アランは無礼を働いている事は百も承知なのだろうと理解する。と同時にそれでも伝えなければならない事があるのだろうと悟る
「…君は誰かな?」
アランの問いに男はハッとし頭を下げた
「もっ申し訳ありません!私はゴールディン家の従者でございます」
ゴールディンと聞き、アランとセシルが眉をよせる
「それで、その従者の君が私たちに何の話があるのかな?」
「…私も詳しくは知らないんです、だけどお嬢様が奥方様に思い知らせてやると…」
相当に焦っているのが伝えたい事が伝わらない言い方になってしまう
「落ち着きなさい。話はちゃんと聞くから、ゆっくり君の知っていることを分かりやすくつたえてくれるかい?」
アランはゆっくり、落ち着いた声音で従者を促す
落ち着きを取り戻し従者は自分が知っていることを全て話した
三年前のあの日から、カナリアは何かに取りつかれたようだったと
そしてカナリアは男とよく会うようになり、一度見た男はカナリアと同じように何かに取りつかれたようだったそうだ
そして数ヵ月前に呟いた言葉が忘れられず、昨日男と密会するカナリアを尾行し会話を聞いた従者の耳に入ってきた言葉は、『キャロルと言う女性を与える代わりにアランを私に、セシルを殺して頂戴。あぁ、子供も要らないわ』だった
このままでは取り返しのつかない事になる。そして自分が行動を起こす時が遅すぎたこと。そしてまだ死にたくはない事
従者は従者であって、英雄思考が有るわけでもない。『死にたくない』その思いだけでこの屋敷まで来たのだ
アランは従者の思いも理解し、そしてこのような行動を起こしたこの従者に感心さえしていた
自分では善人ではないと思っているのであろう事も分かっていたが、やはりこの従者は善人なのだと思うのだ
弱い立場にいる者は、強い立場に立つ者に逆らおうとはしないものだ。どんなに悪い事をしていても従うしかないのだ
それが弱い立場の者が出来る『自分を守る』事に繋がると信じているからだ。付き従った先にあることを考えないのだ。たとえ、考えられたとしても『逆らえないから』と諦めてしまう
しかしこの従者は違った。たった一人、信じてもらえるかもわからないと言うのにやって来た
「ありがとう。君はここに居なさい」
アランの言葉に従者は力がぬけたように座り込む
「…セシル、事態は急を要するようだ」
「どうしてあの女なの!先に出会ったのも私!美しいのも私よ!あんな女に劣る所なんて何一つないわ!」
押さえきれない怒りが口をついで出てしまう
「どうしてくれようかしら。私にこんな惨めな思いをさせたあの女…」
美しく整った顔は醜く歪んでいた
「あぁ…ふふ、いいことを思い付いたわ」
醜く歪められた顔は更に醜く、屋敷に着くまで続いた不気味な笑い声に従者は、どうか災いが己に降りかからぬよう祈るしかなかった
そしてカナリアが来訪して2ヶ月たった頃、セシルの懐妊が分かり、無事に双子を出産しアランそして二人の子供達と穏やかな時間を過ごしていた
あの時のカナリアがやってきた日が嘘のように静かだったのだ
だから失念していたのだ。カナリアの性格を。そして諦めの悪さと、その気持ちが向く方向も、それは決して可愛い焼きもち等ではすまない程に身勝手で自分の事しか考えない事も
カナリアの来訪から三年が経とうとしていた頃、丁度その日はアランも休みで家族団らんしていたときだった
玄関から使用人と男の争う様な声が聞こえる
「何かしら…」
「…見てこよう」
そう言ってアランが席を立とうとした時だった
「困ります!」
使用人の声と共に男が慌てた様子でテラスに駆け込んできた
「はぁ…はぁ…どうか私の話を聞いてください…!」
男のあまりに必死な形相に、アランは無礼を働いている事は百も承知なのだろうと理解する。と同時にそれでも伝えなければならない事があるのだろうと悟る
「…君は誰かな?」
アランの問いに男はハッとし頭を下げた
「もっ申し訳ありません!私はゴールディン家の従者でございます」
ゴールディンと聞き、アランとセシルが眉をよせる
「それで、その従者の君が私たちに何の話があるのかな?」
「…私も詳しくは知らないんです、だけどお嬢様が奥方様に思い知らせてやると…」
相当に焦っているのが伝えたい事が伝わらない言い方になってしまう
「落ち着きなさい。話はちゃんと聞くから、ゆっくり君の知っていることを分かりやすくつたえてくれるかい?」
アランはゆっくり、落ち着いた声音で従者を促す
落ち着きを取り戻し従者は自分が知っていることを全て話した
三年前のあの日から、カナリアは何かに取りつかれたようだったと
そしてカナリアは男とよく会うようになり、一度見た男はカナリアと同じように何かに取りつかれたようだったそうだ
そして数ヵ月前に呟いた言葉が忘れられず、昨日男と密会するカナリアを尾行し会話を聞いた従者の耳に入ってきた言葉は、『キャロルと言う女性を与える代わりにアランを私に、セシルを殺して頂戴。あぁ、子供も要らないわ』だった
このままでは取り返しのつかない事になる。そして自分が行動を起こす時が遅すぎたこと。そしてまだ死にたくはない事
従者は従者であって、英雄思考が有るわけでもない。『死にたくない』その思いだけでこの屋敷まで来たのだ
アランは従者の思いも理解し、そしてこのような行動を起こしたこの従者に感心さえしていた
自分では善人ではないと思っているのであろう事も分かっていたが、やはりこの従者は善人なのだと思うのだ
弱い立場にいる者は、強い立場に立つ者に逆らおうとはしないものだ。どんなに悪い事をしていても従うしかないのだ
それが弱い立場の者が出来る『自分を守る』事に繋がると信じているからだ。付き従った先にあることを考えないのだ。たとえ、考えられたとしても『逆らえないから』と諦めてしまう
しかしこの従者は違った。たった一人、信じてもらえるかもわからないと言うのにやって来た
「ありがとう。君はここに居なさい」
アランの言葉に従者は力がぬけたように座り込む
「…セシル、事態は急を要するようだ」
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