心からの愛してる

マツユキ

文字の大きさ
上 下
13 / 45

13

しおりを挟む
 邪王を討伐してからは、それなりに穏やかな日々が続いた。
 もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
 聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
 ……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。

 そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。

 月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
 最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。


「ユーカ、呼び出して悪かった」

「ごめんね、ユーカ」

「いえ、大丈夫です」


 ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。


「ジークさん? ハミルさん?」


 何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。


「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」

「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」


 まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。


「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」

「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」


 『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。


「俺達と」

「僕達と」

「「結婚してくださいっ」」


 しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
 私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。


「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」


 ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。








皇魔歴九千六十四年のある日。


「母さんっ! これ見て!」

「なぁに? ルーク?」


 ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
 彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。


「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」


 そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。

 邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。


(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)


 今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。

 その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。


「見ーつけたっ」

「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」

「うん」


 クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。


「ふふっ」

「? どうしたの? ユーカ?」

「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」


 もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。


「そうだったな」

「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」

「そうは見えなかったよ?」


 実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。


「ユーカ、愛してる」

「大好き。愛してるよ。ユーカ」


 同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。


「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」

「さぁ、部屋へ戻ろう」

「続きはベッドでゆっくり、ね?」


 最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。


「えっと、お、お手柔らかに?」


 深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。


(完)
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...