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25邪魔者は

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25 邪魔者は

兄が出て行った後からヒソヒソと何人かの使用人が俺の二重人格説について話していた。

二重人格なんてものではない。ただ、兄にとって可愛い、良い弟でいたいがために作り上げていただけである。
兄対してだけ良い顔をしていても、同じ家の中いつ兄に自分の本性が知られるかわかったものでは無い。だから、嫌いな両親、それに媚びる使用人に対しても同じように演じてきた。


部屋に一人ベッドの上に身体を広げながら、天井を見るように寝転がる。
そして、兄を連れていったヴァラドル=マルシャールの顔を思い出して、ちっと舌打ちをする。



実際、俺が兄に抱いているのは尊敬や兄弟の間にある愛だのとはまるで違っている。
兄を独占したい、ずっと傍にいたい。


……なんならば、身体の関係を俺以外と持って欲しくない。

兄弟だから、とそれなりに線引きはしていたし、兄に幻滅されぬようにしっかりと弟として、隠していた。

恋愛という綺麗な言葉でも片付けられないこの気持ちは何なのか、幼い頃から分からないままだ。


「……くそ」


連れていかれた兄。 しかし、父とともに玄関まで来たということは、父があの男との間に何らかの契約か交渉があり、兄を引き渡したことにな。 父は以前からΩの息子がいることを隠していた。 それがあの男にバレ、脅されたか……? それが1番可能性が高い。
だが、何故兄を持っていった……。 Ωについて公表しない代わりに、資金だの村だのを寄越せと言わずに…………。 考えたくはないが、性奴隷、裏での人身売買……どれを取っても最悪だな。
ただ、あの男が兄を無理やり犯すというふうには見えなかった。兄を見た瞬間に微笑み、名前を呼んだ……。



何にしろ兄と俺の間を割いたことには変わりない。憎む気持ちがなくなることはない。



コン……コン


いつもよりも遠慮がちに叩かれるドア。先程のこともあって、使用人たちが俺に怯えているのか。 さて、使用人は兎も角として、あの両親にはどうしようか。兄にはバレずとも、本性の俺を見てあの2人はどんな反応をするか……最悪、父はお前にも継がせないとか言ってきそうだな……。


「……ゆ、ユリウス……様、晩御飯のお準備が整いました……」


どんどんと小さくなっていくメイドらしき人の声。俺は「……わかった」と返事をして、すぐにドアを開けた。


まだドア前にいたメイドは「っ!」と顔を強ばらせていたが、いつものように「行こう」などと声は掛けずに、1人で靴のカツンカツン良い音を鳴らしながら、両親もいるであろう部屋に向かう。



「……ユリウス、どうした? 顔が怖いぞ」


父は静かに晩御飯を食べる俺にそう言った。使用人たちは顔を見合せながら、まるで「聞いて大丈夫なのか」と言う表情で、キョロキョロしている。


「……なんでもないよ、父さん」


いつものように、父には笑顔で返す。使用人たちは「あれ?」という表情に変わった。
先程までの俺を幻か何かだと思い始めたのか、数人がホッとした顔になる。

……それだけで腹が立つ。


早く父には俺に継いでもらう。あのヴァラドル=マルシャールに兄を連れて行かれてから気が気では無い。あいつは‪α‬だ。兄に何かあるのも時間の問題だ、早めに取り返さなければ……。しかし、王の椅子を受け継いでいない俺は、そう簡単に隣国に手を出せない。それに、なんらかの交渉をもとに兄を渡している……。 脅されただけならまだ良い。そんな、俺は兄の存在を隠す気は毛頭ない。バラすならバラせ、それが俺の考えだ。


「……ただ、兄が連れていかれたのが気がかりで……」


その話をすると両親は、手を止める。父ははぁと重いため息をつく。ため息をつきたいのは、こっちだと言うのに。


「……ユリウス、あんなのは兄では無い。 ジェイラード家の男では無い、すぐに忘れろ」


父の冷たい言葉が飛んだ。使用人も数人声には出来ないが、父の言葉を酷いものだと思っているだろう。そもそも、兄は使用人に対しても優しい人だった。ただただ、Ωなだけで、人に害を与えるようなことはしない。Ωというバースのことさえなければ、使用人も兄の味方をしただろう。


「……あの、マルシャール家の男との間に接点があったのですね」


「ああ、あのよく分からんマルシャールの息子、頭が良いと聞いていたから、警戒はしていたんだ。なのに、笑えることにあの、Ωのクロウスを欲しいと言ってきた! しかも1000万の資金と引き換えに! 秒で頷いたさ」





……………本当にこれが自分の血の繋がりのある父だと思うと……、反吐が出るな。
金か、1000万という大金をぶら下げたか。 しかし、父なら金なんて出さずとも頷いただろう……。なのに、なんで…………兄をそれだけ欲しがったということか。


ガタンと持っていたナイフとフォークを勢いよく机に置く。


「……今日はもう休みます、おやすみなさい」


同じ空気を吸うことも嫌になってきた。音を立てた俺に両親も使用人も驚いていた。最後まで隠せなかったな。
まぁ、もう時期この猫被りも終わりだな。


あーー、どうしよう。父から早く受け継ぐ準備を……もう、めんどくさいし……




ーーーーーーコロスカ



兄を失った俺は全てを失ったも同然だった。欲しがるのは兄だけだ。他人はどうでも良い。使用人も両親も、世界の誰もがどうでも良い。



「……ユリウス様」


「……なんだ、エドか……、俺はもう寝るぞ」


そんな物騒なことを考えていたのを見抜いていたのかいないのか、廊下を1人で歩く俺の前に現れたのは、唯一昔から俺の本性を知っている使用人、そして俺の従者であるエドワード=スコレッチだった。


「……はい、お湯の準備は」


「要らない、今日は……もう、疲れた」



兄への気持ちは誰にもバレないようにしていた。こいつ以外には。 基本無口で無愛想なくせに、やたら気は聞くし、俺の本性を知っても近くにいてくれる。


「……お前は、外に出ていたから、知らないと……いや、知っているか、お前なら」


「……クロウス様のことは他の使用人から聞いております」



5つも離れた年上の男を従える。いや、こいつも父の下についているから仕方なく俺の傍にいるだけだ。



「……ヴァラドル=マルシャールも、両親も……おまえだって俺の邪魔をするなら、許すつもりはない」



そう言ってエドワードを冷たく見つめる。それに動じずに相変わらず無口で無愛想でいるエドワードに少し笑いそうになった。
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