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箸休め1「イソムラソヨギ、苦悩する」
ちょっと番外編・ソヨギはひとりで考えたい……
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ソヨギはノートを手にしていた。
なんの変哲もないキャンパスノートである。コンビニで手にいれたのだ。
ソヨギはコンビニの瓦礫にレジャーシートを敷いて、座りこんでいた。
ソヨギはただノートを観察する。開いて閉じて。ナナメからとか裏も見る。分からないのである。
なぜこれが大学ノートなんだ! なんなら中学生から使ったりもしていたのに、なぜこれはさも大学生が使いますよと言わんばかりなのだ!
ソヨギは世界がこんなになるまえは、普通の大学にかよう普通の大学生だった。ほんの二十四時間まえくらいには、事務室で単位の確認とかしてたのだ。
だがしかし、高校生活でも大学ノートの謎は解けなかった。じゃあ大学生になれば分かるよね? って大学生になったのに分からないままだ! どうしよう……ソヨギは焦っていた。
もしもこのまま歳を重ねて結婚したりして、子供ができたとしよう。お父さん、大学ノートってなんで大学ノートなの? ソヨギは答えられない。可愛い息子(娘)が泣きだしそうな顔で聞いてくる。ねえ……なんでぇ……なんで大学ノートなのお父さぁん……! ふえぇぇぇぇ……!
それはダメだ! 父の威厳などないではないか! ソヨギはちゃんとしたお父さんになりたいのだ。よし、頑張って大学ノートの謎を解き明かすのだ! そして立派なお父さんになるのだ……と、
「俺が護神だとぉ!?」
「さよう。一時的にだが我らに手を貸してはくれまいか。蒼き憤墨よ」
ソヨギは考えを中断して、そのやりとりをチラ見した。
ビデガンがボールペンの芯をくわえながら、発狂ぎみにびっくりしている。ゼファーがなにやら交渉しているらしい。デビロイドたちはその後ろでお菓子に群がる少年のようにボールペンを選んでいた。配給係はティアラ係長だ。話によると文具メーカーの営業さんらしい。しかも部長さん。でも見た目は係長なのだ!
「護神にゃなれねぇ。俺の意思がどうとかじゃねぇ。原初の神の決めごとじゃねぇのかぃ?」
「さよう。しかし人間が護神となった事例もある。そなたはいまや半人半神。すなわちデミゴッドと同等の存在である」
「……つってもなぁ。魔装銃は魔力と命の兵器なんだぜ? 魔力のほうが使えないとなると、俺は命を削らなきゃならねぇ。せっかく貰った命をよぉ、簡単に捨てちまうわけにゃあいかねぇだろ」
「ほう……なかなかにできた男よ。おぬしの誇り、我は気にいったぞ……魔装銃をだすがよい」
「ああ? なにするってんだ?」
ビデガンのだした右手に、ゼファーは両手をかざした。あれ? デスケテスさんにやられた腕はいつ生えたんだっけ? まあいいか……それよりも大学ノートおよびキャンパスノートの謎だ。
そもそもただのノートである。掛線が引いてあるものの白紙で、ようするに自由ノートなんだろう。
じゃあなんで『じゆうちょう』じゃないんだ! 小学生のときに使いみちが分からず、僕のヒーローを描いていた、本当に自由なじゆうちょう。あの白紙感。まさに自分の思い描く世界を記すべしみたいな自由なノート。つまり、大学ノートは自由ではない。なにせ、このスペースで書きましょう、と線が引いてあるのだ! 謎は深まるばかりである。
「おいおい……なんだこの力は……なにしやがったんだ? 護神王さんよぉ……」
「なに、魔装銃を造り変えただけのこと。魔装銃は魔力と命、どちらかをかけねばならぬ破滅の兵器である。これを造りデビロイドに与えたのはほかならぬ虚実の王じゃ。だがこれは虚実の王の嘆き、苦しみから生まれた悲痛の怨念である。そのため破滅に導くようなしかけとなっていたのだ。その不吉なる根幹を、我が源アニミスと同調させることで浄化した。もちろんおぬしのアニミスがなければ不可能なこと」
「てこたぁなにか? こいつの名前は神装銃になっちまったってかぃ……へっ、なんだか気持ち悪ぃぜ」
「じきに慣れる。これよりおぬしの兵器はアニミスを用いて放たれる、神の一撃となろう。大空には雷雲も浮かぶ……つまり三種のアニミスをおぬしは持つことになる。墨の祖である水、もとよりあったハイヴォルトの雷、我の持つ分アニミスである風……すなわちおぬしは複合神として存在することになる」
「風……? てこたぁ俺はあんたの部下になるってことだな?」
「さよう。神装銃は我の造りだした兵器ということだ。そして護神として定めるために、護神王に属さねばならぬ。異論ないか」
「ねぇぜ……と言いたいところだが、ひとつ条件つけてもいいかねぇ」
「こちらから願いでたことゆえ。もうしてみよ」
「救いてぇやつがいる。そいつを救うために命をかけてもかまわねぇか? そういう個人的な力の使いかたぁご法度じゃねぇかぃ?」
「よい……ただしその条件以外のことでは許さぬ。勇者らの護衛こそ本分と知れ」
「へっ……俺の誇りにかけてやるぜ」
「それ以上の信じられるだろう言葉はほかにない。では、我が定めよう……風雷のビデガンよ。蒼墨の護神として生きるがよい……」
「風来が風雷ねぇ……」
ビデガンはどこかあきれていた。でもまんざらでもなさそうだった。
そんなことより大学ノートである。なぜうえのほうの線は色が濃いのだろう。ここにはタイトルでもいれちゃうのだろうか。しかしだいたいの使用者は空欄なのではないか?
じゃあなんでわざわざ濃いのだ! しかもタイトルを書くのだとしたら、一番うえのなにもない白くて広いところだろう。このスペースはなんのためにあるのだ! 謎は深まるばかりである。
「……ソヨギよ。すこしいいか」
「シンディラさん……まあいっすよ」
ソヨギの手元に影が射したので見あげてみると、シンディラが立っていた。すっかり十歳前後の少女になったシンディラだが、声音はあまり変わっていない。ただアニミスの影響なのか、顔に生気が宿った気がする。グレーのゴスロリ少女の見た目で、朝礼で気絶しちゃう雰囲気である。あくまで見た目の話だが。
シンディラはソヨギの横に座った。どこか笑みをたたえているように、表情は明るい。
「ひと言……礼が言いたかったの。わたしを蘇らせてくれたこと。まさかわたしが本当の女神になれるなんて夢にも思わなかったから」
「……うっす。まあ俺もそういう結果になるとは思ってなかったんで。礼を言われるのは筋違いっすよ」
「ふふっ……ソフラの言う霊級とはそういうものなのよ。意図せずして結果を残すことのできる才覚なのよあなたは。シエルネットワークの情報からあなたがレアーズだと知っていたの。でもまさかバッドデビラスだとは思わなかったけどね」
「それもただの偶然――」
「それは謙遜というものよ。偶すらも我が物とする霊級があるのなら、否定する材料にはならない。それがフォーチュナーの特権なのよ……あなたは同時にエルアニミストでもある。神性転換なんてそうそうできるものではないの。護神王ですら――いいえ、すべての母である大地の女神ですら条件を必要とする。もちろんエルアニミストもだけど、あなたは条件など関係ないみたいね。霊級以上の存在なのかもしれない。そしてミールディアン。まさか小麦粉でわたしを捕らえるなんて、誰もが想像もしないし誰もがそれをできない。あなただからこそ可能にするのよ。もっと自信を……自覚を持ったほうがいいわねソヨギは」
「自信すか……」
自信はないのかあるのか分からない。なぜなら大学ノートは謎だらけなのだ! そんなにスゴい霊級とやらを持ちながら、大学ノートの謎は解けないのだ。もしかしたらこの謎を解くには霊級以上のなにかが必要なのかもしれない。霊級がなんなのかをまず知らないしね!
「それはそうとなんだが……ソヨギはソフラのことをどう思っているんだ?」
「……メガ美さんだと」
「呼称ではないのよ。そうじゃなくてその……あるだろう、感情でしか説明できないようなものが」
「……そうっすね。いい遊び相手ですかね」
「つまりは友だと?」
「いや、そういう遊び相手じゃなくて……」
「特別な感情はないのだな?」
「特別な? まあ面白いですかね」
「じゃあいいか……」
と、ソヨギはほっぺにキスをされていた。さすがにビックリしていると、シンディラはイタズラっぽく笑った。
「礼の言葉が浮かばなかった。気にさわったのなら洗ってくるといい」
「……いや別に」
「む……なんとも面白みのない男よ。わたしが言えた義理はないが、ソフラはなぜこのような男を……」
後半はブツブツと言っていたので聞き取れない。用事は終わりですかシンディラさん。では大学ノートだ! さっきはどこまで考えたっけ――と、
「シンディラアァァァ! わたしは見ていましたよシンディラ! いまあなたはソヨギさまにキ……キキキキキキキッ!」
「ブレーキ音?」
「猿真似かもしれないな」
なんか怒りながら豆腐がスゴい飛んでくる。地面すれすれではないのに砂ぼこりが舞うくらいだ。豆腐はギュアン! と加速してきて、シンディラの眼前で急停止した。
「いまなにをしたのですシンディラ!」
「礼だ。ソヨギのおかげで念願の女神になれたのだからな。ベアフロンティアから魔導師の輝石を奪う必要もなくなった……いや、今後のためにも魔導師の輝石は魔族に持たせぬほうがいいか……アルラさまに進言してみよう。すまないソフラ。用事ができみたいだわ」
「ごまかしは効きませんよシンディラ! すでにあなたのおこないは――どこへ行くのシンディラ! 待ちなさいシンディラ!」
「……仲よしこよし」
しかしこよしとはなんだ! 仲よしまでは分かるがなぜこよしなのだ! いや、それよりも大学ノートである。
シンディラがいなくなりソヨギはひとりになった。ほかのみんなは今後の動きを話あったりしている。デビロイドたちをどう活用するかが議題である。ダムンディアボロスの攪乱作戦により、だいぶ護神の数も減ったため、その補充要員にする予定なのだ。
……待てよ。あらためて大学ノートを使用してみるのはどうだろう。見ると触るは大違いとも言うしだ。よし、ここはシャーペンで書くのだ。ボールペンはデビロイドのマストアイテムになってしまったので在庫がない。ふむ。CMの構想でも練るか。一発あてることをもくろむソヨギ!
ソヨギはシャーペンを何本か持ってきた。ガサガサ。カチカチ。サラサラ~。うむ! メッシちゃんはマスターしている! 目的が定まらないソヨギ! ……と、
「ソヨギさま? なにしてるの?」
「……シーフさん」
「挨拶してなかったよ。初めましてソヨギさま。わたしはフィアだよ! ライスボール美味しかったよ」
「ソヨギっす。あざっす」
ふたりの勇者があらわれた。ふたりは大学ノートをのぞきこむ。興味しんしんな様子だ。
「ソヨギさまって絵がうまいんだね」
「わたしもお絵描きしたいよ」
「……あ、まだあるんでどうぞ」
ソヨギは四冊色が違うノートをわたした。そしてシャーペンもわたす。しかし勇者たちはシャーペンが分からないらしい。そうか……異世界のひとだった。
「これはこう……カチカチとする」
「わ! なんかでたよ!」
「なんだか炭みたいだね!」
「あんまりだすと折れちゃうのでちょっとにする。そして紙のうえをスベらせる。サラサラ~」
『わ~』
勇者は感激している! 見慣れたシャーペンでこんなに感激するとはなかなか新鮮だ。使いかたが分かった勇者たちはレジャーシートに転がって、あーだこーだとなにやら書きだした。
「ほら、見てよシーフ。ゼファーだよ」
「わたしはソヨギさまの魚介スープライス」
「なにそれだよ?」
「えへへ~フィアを助けに行くまえに、ソヨギさまに作ってもらったんだ。美味しいんだから」
「ずるいよ! ねえねえソヨギさま? わたしも食べてみたいよ?」
「……いつでも作りますが」
やったよ! とフィアが大喜びする。勇者とはいえまだまだ子供なのだ。そんなに若いのに世界を任されちゃうのって大変ですよね。ソヨギはちょっとお父さんな気分に――大学ノート!
忘れていたぁ……! いままさに勇者ふたりに質問されたらどうする!? やばいのだ。ソヨギは混乱している!
「ねえねえソヨギさま? この――」
「なんすか?」
ソヨギは食いぎみに聞き返す。内心はドキドキである。シーフはシャーペンをカチカチしながら芯を指さした。
「これはなあに? スゴく綺麗に書けるねっ」
「ああ……鉛筆みたいなものっすね。黒鉛です」
「こくえんてなに?」
「ええと……黒い鉛って書くんですけど……」
「な……鉛!?」
勇者ふたりは目を見開いた。おそるおそるシャーペンを置く。なにがなにやら分からない。
「鉛を筆の替わりにするなんて……異世界の民はなんというお金持ちなのでしょう……」
シーフが思わずお姫さまモードになったりする。ふむ……異世界で鉛は高価なのかな? でも昔は鉛で字を書いたりしたのである。大昔に外国ではだけど。でも芯に使うのは鉛ではなくて黒鉛なので、だいぶ違うものである。まあいいか!
「鉄とかないですか、異世界に」
「鉄はありふれてるんだよ。でも鉛なんてめったに見つからないからスゴく高いんだよ」
「だいたい鉛は儀礼用の長剣とか、王族のシンボルとかに使うかな。あとは神さまに捧げたりとか」
「へえ……」
ソヨギは生返事をした。世界が違えば価値観も変わるということか。話をしてみるとダイヤモンドとかの宝石に使うのは価値が低いらしい。鉄のほうが高いようだ。まあこちらの世界でもダイヤモンドはありふれてる。でも高い。そんな感覚のようだ。
とりあえず鉛と黒鉛の違いを説明するのはめんどいので、こっちではいっぱいあると伝えた。なんならシャーペンのケースも見せる。なんとか納得してくれたようで、子供らしい切り換えスイッチをオン。またお絵描きを楽しみ始めた。
危なかった……大学ノートには注意が行かなかった! いまのうちに真相にせまっておこう。まだメッシちゃんを描きたりないのだ。このページを埋めればきっと、そこに答えがあるはずだ! カキカキ。ソヨギはなにかが間違っている!
「ソヨちゃん……なにしてんの?」
「……謎の解明」
「またよく分からないことを……ちょっととなりいいかな?」
「いっすよ」
ウィッグノリさんが横に座る。もちろん勇者たちとは反対がわである。ウィッグノリさんはお姉座りで落ち着くと、
「ごくろうさまでした。正直なところ、飾神はあんまり活躍できなかったよね……別動隊はって意味で」
「そっすか?」
「うん。なんて言うか飾神たちにも迷いがあったみたいなの。食神を取りこんだダムンディアボロスを消すのかどうかってね。食神は死んだわけじゃないから、そのセラフ化した状態のデビロイドを殺すことに迷っていた。仲間をいっしょに消しちゃうのと同じだからね」
「なるほど」
「ソヨちゃんのおかげで誰も死ななかったんだよ……聖戦は過酷なのにね」
「……え? メガ美さんが吹っ飛ばしたデビロイドさんがいましたが?」
「ああ、そのふたりならいるよ、ほら」
ウィッグノリさんがデビロイドたちを指差す。ソヨギはめんどいが数えてみる。ビデガンは抜いて、一、二、三――十三、十四、十五……
「……十六人。ひとり分裂した?」
「ティアラ神もいれちゃってるよ! 十五よ十五人。ふたりが生きていたのはおそらく、メガ美ちゃんが手加減したのね」
「そっすね……」
思いっきり周辺家屋が消滅していた気がする……まあいい。きっと異世界的な手加減だったのだろう。ああそうか。食神バリアーでしのいだのかもしれない。まあなんでもいい。
「ソヨちゃんはさ、じつは戦う気とかないよね」
「分かりますか……」
「うん。とにかく自分がやりたいことをやってる感じ。異世界のひとたちじゃなくても理解不能だよ。そのへんは昔からだけどね」
「……はあ」
「でも凄いの。なんでかメチャクチャやってるのに、事なきを得ちゃうの。それ以上にいい感じになっちゃう。ソヨギマジックって感じかな……わたしにはそれが魅力的だった。でもソヨちゃんはどんなときでもソヨちゃんだった。こんな世界でもソヨちゃんなんだから、地球が破滅してもソヨちゃんなんだよきっと。それって凄いよね……」
「……覇気がないの間違いじゃ?」
「それもソヨちゃん。本当に変わらない……ソヨちゃんはあのころのまま。わたしが――だったソヨちゃんのまま……」
ウィッグノリさんはどこか哀しそうでいて、どこか嬉しそうである。ソヨギはなにが言いたいのか分からず、カキカキを続けた。途中で声を発しなかったところも気にはなったが、大学ノートは待ってくれないのである。
「相変わらず上手だよね」
「そっすか?」
「見たところメッシちゃんだね。面白いよねっ、可愛いし! ゆうすけくんが死んじゃったのはショックだよね。メッシちゃんが生き返らせるために閻魔大王の試練に挑むところで終わっちゃうしさ~。でもソヨちゃん、左向きが苦手なのも変わらないんだね……と! さて、休憩は終わり! もうすこし時間はかかると思うから、勇者さまたちを見ててね」
ウィッグノリさんが立ち去っていく。ソヨギは自分の手が震えているのが分かった。ゆうすけくんが死ぬの!? さりげにネタバレとかやめてくださいよー……あーもー……ちょっとさきが分かったこの……もー。なんとも言えぬ絶望感に脱力感に虚無感とか……もー。ソヨギにネタバレがクリティカルヒット!
「ひどいわシンディラお姉さま……ソヨギさまにあんなことを……あんな……キ、キキキキキキキ……なんて! ソヨギさまも悪いのですよ! 隙だらけではありませんか!」
「うっす……」
言わずと知れた豆腐である。
そしてようやくソヨギは気づいた。代わるがわるあらわれては消えていくキャラクターたち。
刺客……? まさか大学ノートの秘密を異世界から守りに来た刺客か? いや、試練? 大学ノートの秘密を探るためにはこの試練を乗りこえるのか? んなわけないでしょ。頼むからひとりで考えさせてくださいよ……ノリツッコミが正確なソヨギ!
「ソヨギさま。さきほどシンディラから受けた行為をどのように考えていますか」
「いや、べつに」
「べつに!? なんですかスケコマシですか!」
「その表現は古いです。死語」
「そんなことは関係ないのです! そもそもソヨギさまはわたしのことをどう思っているのですか!」
「豆腐野メガ美さん……?」
「呼称ではなくて! しかもわたしはソフラです! 豆腐野メガ美という名ではないのですよ!?」
「メガ美さんて好きです」
「え? そうですか……ソヨギさまがお好きであるなら……うぅ……ダメよソフラ……泣いてはいけません……」
「……お疲れっす」
よく分からない豆腐の葛藤は無視して、ソヨギは埋まった最初のページを見た。
メッシちゃんで埋まっている。ちょっと精神的にヤバそうな感じで埋まりまくっている。特に線の濃いスペースには、連続メッシちゃんを描いてみた。切り絵のようなメッシちゃんが並んでいるのである。
だからどうしたんだ! 大学ノートとメッシちゃんに関連性などないのだ! なんで描いたんだ……しかも描くたびにムダに上達している。これはあれだ。二次創作ノートになっている。しかもこの使いかたは、じゆうちょうとなんら変化がないではないか。これでは大学ノートをじゆうちょうと見なしたことになってしまう! 謎は深まるばかりである。
「ソヨギさまはさきほどからなにを?」
「実態調査的な」
「……なるほど。そちらに没頭するあまり、キキキキキキキ……! を許してしまわれたのですね? わたしとしたことが取り乱してしまいました!」
なんかだいたい取り乱してるような気もするが……と、ソヨギはそこでふと思う。
「メガ美さん」
「なんでしょう」
「なんで怒ったんすかね」
「……え?」
「いや、子供ならよくやる行動だし……ほっぺにチュになんで怒ったんです?」
「そそそそそそれはですね……い、言えません!」
「……なんでだ?」
よく分からん。豆腐は皿のうえでワタワタとし始めたりする。横では勇者ふたりがキシシシ……とか笑っている。そんな面白トークしてましたか?
「ソヨギさま? はぐらかすのはやめにしていただけますか。わたしのことをどう思っているのです!」
「絹ごし豆腐」
「こ……こらっ! 子供のまえでそのような!」
「……え?」
絹ごしはR指定なのか……さっぱり分からん! いかんいかん……とにかく大学ノートに戻ろう。そして勇者たちが聞いてくるまえに説明できるようにしておこう。しかし、いかんいかんてなんだ! 日常的にまったく使わないのに、定着しているいかんいかんてなんなんだ! まあいけないと同じ意味だが、なんで普通におじいちゃんキャラとかは使うのだろう。いけないいけないじゃダメなのか? 語呂か?
む……大学ノートはそのへんの関係で名づけられたのかもしれない。つまりは語呂だ。小学生も使うじゆうちょうでは、ティーンズ後半が口にするには抵抗がある。なのでこれはじゆうちょうであるのに、わざわざ大人な表現をするために大学ノートと名づけられた。そして言いやすい。なるほど……謎は解けた! それでいいのかソヨギ!
「メガ美さん」
「は……はい!」
「動かないでください」
「……え?」
ソヨギは二ページ目にサササっと絵を描いた。皿に乗った豆腐。ちょっと右上を見あげているような角度で。ふむ……なんという簡素な絵なのだ。これではつまらないのだ。ソヨギは三ページ目にシャーペンを移動させる。
よし、擬人化豆腐でも描くか! 頭は豆腐なのに体は人間なのだ。そしてシンディラっぽいドレスを着ている。こ……怖い! なんだこのブキミな生物は! 俺が勇者ならまっさきに倒します。ていや。
ソヨギは擬人化豆腐に剣を刺す絵を描いた。経験値は四。これはさすがに怒られるか? 見せるのはやめておこう……ソヨギは擬人化豆腐のページを破った。
「ソヨギさま? 終わりましたか?」
「うっす。お疲れっす」
「あ……これはわたしですか? なんと凛々しい姿……ありがとうございますソヨギさま……」
豆腐はつまらない絵に感激しているようだった。なんでか絵を欲しがったのでそのページを破る。ソヨギはぺらっと渡してみた。そして豆腐は角の部分をちょっと伸ばして持つ……持つ? 持てるの? どういうことだ……この生物はなんなんだ! ソヨギは怯えている!
「みんなに見せちゃおっと♪」
豆腐は嬉しそうにへよよーんと飛んでいった。飾神たちとシンディラ、アルラのいるグループのほうに飛んでいく。いや、そんなつまらない絵を見せても、あらそって感じでしょう。しかしあらそってなんな――!
「ソヨギさまー。わたしもソヨギさま描いたよ!」
「あ! わたしがさきに見せるって言ったじゃん!」
「……あざっす」
勇者ふたりがノートを開いて見せてくれた。なんだか見知らぬ生物たち――異世界の動物やらモンスターだろう――のなかに、黒髪の男が描いてある。目は点だったり口が輪郭を飛びだしたりしているが、ちょっとソヨギは嬉しかったりする。嫌いじゃないのだ!
「じゃあ……勇者さんたち動かないでください」
「描いてくれるの? フィア」
「手をつなぐよ!」
まあキャラっぽくするからあんまり気合いはいれないでください。写実的なのは苦手なのだ。てゆーか嫌い。ソヨギは漫画のような雰囲気でふたりを描く。遊び心でふたりの背後には護神王がいたりする。時間的に全身は描けない。というか小学生くらいの集中力は短い……完成。ふむ……面白い!
「どーぞ」
「きゃ♪ ソヨギさまじょーずだね!」
「可愛いよ! ゼファーとアルラもいるんだよ!」
「あげますよ」
ソヨギは綺麗にページを切って渡す。勇者ふたりは大喜びでダッシュ! そしてこれがソヨギの悪夢の始まりだった。
「ソヨギ……わたしも描いてくれ」
「いつのまに?」
シンディラである。いつのまにか横にいたのだ。と――
「ソヨちゃんわたしもね!」
「え?」
ウィッグノリさんがシンディラの後ろにいた。てゆーかよく見るとなんかズラズラと行列ができている。いやいやちょっと、そんな暇ないでしょう。
「みなさん破滅軍はどうします……」
「へっ! 作戦は立てたぜ。だがちぃとばかし時を選ぶんでなぁ」
「……嘘でしょ」
ビデガンがウィッグノリさんの背後にいる。
ちょっと待ってくれ。そもそもなんでそんなに絵を描いてほしいんだ? なんなら鏡を持ち歩けばいいじゃない。いつでもリアルな自画像が見れるじゃない。それはナルシストみたいでイヤですか? そーですか。
「いまのわたしがどのように見えているか描いてくれ」
「十歳くらいの少女です。はい、次のかたー」
「一般論に興味はない。お……おまえから見てだ」
「……十歳の少女――うっす、描きます」
アッシュエッザーをだすシンディラ。ソヨギは痛いのが嫌いだ! サラサラっとは描けない。だって痛いのはイヤです。でも上半身だけ。なるべく綺麗に描く。ていうか影をつけるのが上手なら、なんとなくうまく見える。ていうか陰影を理解してるなら、絵は描かけるとソヨギは思っている。それはなぜなら立体を把握することが重要なわけで……あくまでもソヨギ流。ていうか美術教師の受け売り。
「……できました」
「……なるほど……か……可愛い感じか」
子供をキャラっぽくすればだいたい可愛い感じですが? シンディラはまんざらでもなさそうに列をはずれた。
「ソヨちゃん描いて~」
「どっちを? ウィッグさんを? ノリさんを?」
「いや、見たまんま描けばどっちも描けるよね!?」
「……っす」
ソヨギはなんだかんだとちゃんと描く。リテイクされるのが一番めんどい。でもあと何人描けばいいんだ? デビロイドなんてもう、ひとり描けば全員描いたようなもんだ。完成。
「あ、いいねこの髪をアップにしてるの。なかなかに趣があるではないか!」
「うっす。次のかたー」
じつはアップの描写のほうが簡単だったのだ。次はビデガン。
「顔は描かなくていいぜ。この感じだ。分かるかトリックスター」
「うっす」
ビデガンはテンガロンハットを持ち、ややした向きになる。絵にしてみればだいたい耳や口元あたりしか顔の部分が見えない。ちゃんとくわえたボールペンも描く。そのこだわり助かります。これはサササーっと終わる。
「……どっすか?」
「おう。いいじゃねぇか。ふっ……絵描きなんざ高くてかなわねぇからなぁ」
「……高い?」
「ああ。人間界じゃ王族の特権。魔界じゃ悪魔どもの特権。俺たちみてぇなしたっぱにゃあ逆立ちしても得られねぇもんなのさ」
「……絵が?」
異世界はフシギだ。でもなーるほど。だからみんな描いてほしくて並んでるのか。しかし絵ひとつにすら制限があったら大変だ。つまらない授業中にパラパラ漫画とか描けないのである。なんということだ! この世界より、むしろ異世界のそこらへんの事情を救いたいですが?
……とまあちょっと同情したソヨギは一生懸命に描いた。とか言いながらかなり手抜きで描いた。デビロイドは集合写真みたいにした。でもみんな満足。しかし本当にこんなことしてていいの? と、最後はティアラ係長部長。なんかコンビ名みたいだ!
「……描きますか?」
「ええ、お願いしますよ」
普通のサラリーマンだ! びっくりするくらい普通だ! いまの会話もお弁当のほう温めますか? に対する切り返しみたいだ! ソヨギの手が震えている……本当にびっくりしちゃったソヨギ!
――全員を描き終わった……ソヨギは腕が疲れていた。一番ツケマが簡単だった。あえてその理由は説明しない。
しかし、だいぶ大学ノートの枚数が減った。まるでキャンバスのように使用したので――キャンバスノート! そうかそうだったのか! キャンパスノートはキャンバスの意味も内包していたのだ。だからこんなにラクガキ帳みたいにされちゃうのだ! そんなことをブツブツ言っていると、
「ソヨギさん。大学ノートはまだノートが主流でなかった時代に、大学生向けに作られたんですよ。だから大学ノートなんです。そういう名前で売りだされたから大学ノートと言います。つまりは商品名なので、深い意味はありません」
……まじですか?
ソヨギの手からシャーペンがコロコロと転がった。そうだティアラ係長部長は文具メーカーのひとだった。最初から聞きに行けばよかった。なんてムダな時間と労力だ!
――とまあソヨギ的には意味不明な話だったわけだが、じつは恋愛イベントだったことにはけして気づかないのだった。
ジゴロソヨギは伊達じゃない!
番外編――完。
なんの変哲もないキャンパスノートである。コンビニで手にいれたのだ。
ソヨギはコンビニの瓦礫にレジャーシートを敷いて、座りこんでいた。
ソヨギはただノートを観察する。開いて閉じて。ナナメからとか裏も見る。分からないのである。
なぜこれが大学ノートなんだ! なんなら中学生から使ったりもしていたのに、なぜこれはさも大学生が使いますよと言わんばかりなのだ!
ソヨギは世界がこんなになるまえは、普通の大学にかよう普通の大学生だった。ほんの二十四時間まえくらいには、事務室で単位の確認とかしてたのだ。
だがしかし、高校生活でも大学ノートの謎は解けなかった。じゃあ大学生になれば分かるよね? って大学生になったのに分からないままだ! どうしよう……ソヨギは焦っていた。
もしもこのまま歳を重ねて結婚したりして、子供ができたとしよう。お父さん、大学ノートってなんで大学ノートなの? ソヨギは答えられない。可愛い息子(娘)が泣きだしそうな顔で聞いてくる。ねえ……なんでぇ……なんで大学ノートなのお父さぁん……! ふえぇぇぇぇ……!
それはダメだ! 父の威厳などないではないか! ソヨギはちゃんとしたお父さんになりたいのだ。よし、頑張って大学ノートの謎を解き明かすのだ! そして立派なお父さんになるのだ……と、
「俺が護神だとぉ!?」
「さよう。一時的にだが我らに手を貸してはくれまいか。蒼き憤墨よ」
ソヨギは考えを中断して、そのやりとりをチラ見した。
ビデガンがボールペンの芯をくわえながら、発狂ぎみにびっくりしている。ゼファーがなにやら交渉しているらしい。デビロイドたちはその後ろでお菓子に群がる少年のようにボールペンを選んでいた。配給係はティアラ係長だ。話によると文具メーカーの営業さんらしい。しかも部長さん。でも見た目は係長なのだ!
「護神にゃなれねぇ。俺の意思がどうとかじゃねぇ。原初の神の決めごとじゃねぇのかぃ?」
「さよう。しかし人間が護神となった事例もある。そなたはいまや半人半神。すなわちデミゴッドと同等の存在である」
「……つってもなぁ。魔装銃は魔力と命の兵器なんだぜ? 魔力のほうが使えないとなると、俺は命を削らなきゃならねぇ。せっかく貰った命をよぉ、簡単に捨てちまうわけにゃあいかねぇだろ」
「ほう……なかなかにできた男よ。おぬしの誇り、我は気にいったぞ……魔装銃をだすがよい」
「ああ? なにするってんだ?」
ビデガンのだした右手に、ゼファーは両手をかざした。あれ? デスケテスさんにやられた腕はいつ生えたんだっけ? まあいいか……それよりも大学ノートおよびキャンパスノートの謎だ。
そもそもただのノートである。掛線が引いてあるものの白紙で、ようするに自由ノートなんだろう。
じゃあなんで『じゆうちょう』じゃないんだ! 小学生のときに使いみちが分からず、僕のヒーローを描いていた、本当に自由なじゆうちょう。あの白紙感。まさに自分の思い描く世界を記すべしみたいな自由なノート。つまり、大学ノートは自由ではない。なにせ、このスペースで書きましょう、と線が引いてあるのだ! 謎は深まるばかりである。
「おいおい……なんだこの力は……なにしやがったんだ? 護神王さんよぉ……」
「なに、魔装銃を造り変えただけのこと。魔装銃は魔力と命、どちらかをかけねばならぬ破滅の兵器である。これを造りデビロイドに与えたのはほかならぬ虚実の王じゃ。だがこれは虚実の王の嘆き、苦しみから生まれた悲痛の怨念である。そのため破滅に導くようなしかけとなっていたのだ。その不吉なる根幹を、我が源アニミスと同調させることで浄化した。もちろんおぬしのアニミスがなければ不可能なこと」
「てこたぁなにか? こいつの名前は神装銃になっちまったってかぃ……へっ、なんだか気持ち悪ぃぜ」
「じきに慣れる。これよりおぬしの兵器はアニミスを用いて放たれる、神の一撃となろう。大空には雷雲も浮かぶ……つまり三種のアニミスをおぬしは持つことになる。墨の祖である水、もとよりあったハイヴォルトの雷、我の持つ分アニミスである風……すなわちおぬしは複合神として存在することになる」
「風……? てこたぁ俺はあんたの部下になるってことだな?」
「さよう。神装銃は我の造りだした兵器ということだ。そして護神として定めるために、護神王に属さねばならぬ。異論ないか」
「ねぇぜ……と言いたいところだが、ひとつ条件つけてもいいかねぇ」
「こちらから願いでたことゆえ。もうしてみよ」
「救いてぇやつがいる。そいつを救うために命をかけてもかまわねぇか? そういう個人的な力の使いかたぁご法度じゃねぇかぃ?」
「よい……ただしその条件以外のことでは許さぬ。勇者らの護衛こそ本分と知れ」
「へっ……俺の誇りにかけてやるぜ」
「それ以上の信じられるだろう言葉はほかにない。では、我が定めよう……風雷のビデガンよ。蒼墨の護神として生きるがよい……」
「風来が風雷ねぇ……」
ビデガンはどこかあきれていた。でもまんざらでもなさそうだった。
そんなことより大学ノートである。なぜうえのほうの線は色が濃いのだろう。ここにはタイトルでもいれちゃうのだろうか。しかしだいたいの使用者は空欄なのではないか?
じゃあなんでわざわざ濃いのだ! しかもタイトルを書くのだとしたら、一番うえのなにもない白くて広いところだろう。このスペースはなんのためにあるのだ! 謎は深まるばかりである。
「……ソヨギよ。すこしいいか」
「シンディラさん……まあいっすよ」
ソヨギの手元に影が射したので見あげてみると、シンディラが立っていた。すっかり十歳前後の少女になったシンディラだが、声音はあまり変わっていない。ただアニミスの影響なのか、顔に生気が宿った気がする。グレーのゴスロリ少女の見た目で、朝礼で気絶しちゃう雰囲気である。あくまで見た目の話だが。
シンディラはソヨギの横に座った。どこか笑みをたたえているように、表情は明るい。
「ひと言……礼が言いたかったの。わたしを蘇らせてくれたこと。まさかわたしが本当の女神になれるなんて夢にも思わなかったから」
「……うっす。まあ俺もそういう結果になるとは思ってなかったんで。礼を言われるのは筋違いっすよ」
「ふふっ……ソフラの言う霊級とはそういうものなのよ。意図せずして結果を残すことのできる才覚なのよあなたは。シエルネットワークの情報からあなたがレアーズだと知っていたの。でもまさかバッドデビラスだとは思わなかったけどね」
「それもただの偶然――」
「それは謙遜というものよ。偶すらも我が物とする霊級があるのなら、否定する材料にはならない。それがフォーチュナーの特権なのよ……あなたは同時にエルアニミストでもある。神性転換なんてそうそうできるものではないの。護神王ですら――いいえ、すべての母である大地の女神ですら条件を必要とする。もちろんエルアニミストもだけど、あなたは条件など関係ないみたいね。霊級以上の存在なのかもしれない。そしてミールディアン。まさか小麦粉でわたしを捕らえるなんて、誰もが想像もしないし誰もがそれをできない。あなただからこそ可能にするのよ。もっと自信を……自覚を持ったほうがいいわねソヨギは」
「自信すか……」
自信はないのかあるのか分からない。なぜなら大学ノートは謎だらけなのだ! そんなにスゴい霊級とやらを持ちながら、大学ノートの謎は解けないのだ。もしかしたらこの謎を解くには霊級以上のなにかが必要なのかもしれない。霊級がなんなのかをまず知らないしね!
「それはそうとなんだが……ソヨギはソフラのことをどう思っているんだ?」
「……メガ美さんだと」
「呼称ではないのよ。そうじゃなくてその……あるだろう、感情でしか説明できないようなものが」
「……そうっすね。いい遊び相手ですかね」
「つまりは友だと?」
「いや、そういう遊び相手じゃなくて……」
「特別な感情はないのだな?」
「特別な? まあ面白いですかね」
「じゃあいいか……」
と、ソヨギはほっぺにキスをされていた。さすがにビックリしていると、シンディラはイタズラっぽく笑った。
「礼の言葉が浮かばなかった。気にさわったのなら洗ってくるといい」
「……いや別に」
「む……なんとも面白みのない男よ。わたしが言えた義理はないが、ソフラはなぜこのような男を……」
後半はブツブツと言っていたので聞き取れない。用事は終わりですかシンディラさん。では大学ノートだ! さっきはどこまで考えたっけ――と、
「シンディラアァァァ! わたしは見ていましたよシンディラ! いまあなたはソヨギさまにキ……キキキキキキキッ!」
「ブレーキ音?」
「猿真似かもしれないな」
なんか怒りながら豆腐がスゴい飛んでくる。地面すれすれではないのに砂ぼこりが舞うくらいだ。豆腐はギュアン! と加速してきて、シンディラの眼前で急停止した。
「いまなにをしたのですシンディラ!」
「礼だ。ソヨギのおかげで念願の女神になれたのだからな。ベアフロンティアから魔導師の輝石を奪う必要もなくなった……いや、今後のためにも魔導師の輝石は魔族に持たせぬほうがいいか……アルラさまに進言してみよう。すまないソフラ。用事ができみたいだわ」
「ごまかしは効きませんよシンディラ! すでにあなたのおこないは――どこへ行くのシンディラ! 待ちなさいシンディラ!」
「……仲よしこよし」
しかしこよしとはなんだ! 仲よしまでは分かるがなぜこよしなのだ! いや、それよりも大学ノートである。
シンディラがいなくなりソヨギはひとりになった。ほかのみんなは今後の動きを話あったりしている。デビロイドたちをどう活用するかが議題である。ダムンディアボロスの攪乱作戦により、だいぶ護神の数も減ったため、その補充要員にする予定なのだ。
……待てよ。あらためて大学ノートを使用してみるのはどうだろう。見ると触るは大違いとも言うしだ。よし、ここはシャーペンで書くのだ。ボールペンはデビロイドのマストアイテムになってしまったので在庫がない。ふむ。CMの構想でも練るか。一発あてることをもくろむソヨギ!
ソヨギはシャーペンを何本か持ってきた。ガサガサ。カチカチ。サラサラ~。うむ! メッシちゃんはマスターしている! 目的が定まらないソヨギ! ……と、
「ソヨギさま? なにしてるの?」
「……シーフさん」
「挨拶してなかったよ。初めましてソヨギさま。わたしはフィアだよ! ライスボール美味しかったよ」
「ソヨギっす。あざっす」
ふたりの勇者があらわれた。ふたりは大学ノートをのぞきこむ。興味しんしんな様子だ。
「ソヨギさまって絵がうまいんだね」
「わたしもお絵描きしたいよ」
「……あ、まだあるんでどうぞ」
ソヨギは四冊色が違うノートをわたした。そしてシャーペンもわたす。しかし勇者たちはシャーペンが分からないらしい。そうか……異世界のひとだった。
「これはこう……カチカチとする」
「わ! なんかでたよ!」
「なんだか炭みたいだね!」
「あんまりだすと折れちゃうのでちょっとにする。そして紙のうえをスベらせる。サラサラ~」
『わ~』
勇者は感激している! 見慣れたシャーペンでこんなに感激するとはなかなか新鮮だ。使いかたが分かった勇者たちはレジャーシートに転がって、あーだこーだとなにやら書きだした。
「ほら、見てよシーフ。ゼファーだよ」
「わたしはソヨギさまの魚介スープライス」
「なにそれだよ?」
「えへへ~フィアを助けに行くまえに、ソヨギさまに作ってもらったんだ。美味しいんだから」
「ずるいよ! ねえねえソヨギさま? わたしも食べてみたいよ?」
「……いつでも作りますが」
やったよ! とフィアが大喜びする。勇者とはいえまだまだ子供なのだ。そんなに若いのに世界を任されちゃうのって大変ですよね。ソヨギはちょっとお父さんな気分に――大学ノート!
忘れていたぁ……! いままさに勇者ふたりに質問されたらどうする!? やばいのだ。ソヨギは混乱している!
「ねえねえソヨギさま? この――」
「なんすか?」
ソヨギは食いぎみに聞き返す。内心はドキドキである。シーフはシャーペンをカチカチしながら芯を指さした。
「これはなあに? スゴく綺麗に書けるねっ」
「ああ……鉛筆みたいなものっすね。黒鉛です」
「こくえんてなに?」
「ええと……黒い鉛って書くんですけど……」
「な……鉛!?」
勇者ふたりは目を見開いた。おそるおそるシャーペンを置く。なにがなにやら分からない。
「鉛を筆の替わりにするなんて……異世界の民はなんというお金持ちなのでしょう……」
シーフが思わずお姫さまモードになったりする。ふむ……異世界で鉛は高価なのかな? でも昔は鉛で字を書いたりしたのである。大昔に外国ではだけど。でも芯に使うのは鉛ではなくて黒鉛なので、だいぶ違うものである。まあいいか!
「鉄とかないですか、異世界に」
「鉄はありふれてるんだよ。でも鉛なんてめったに見つからないからスゴく高いんだよ」
「だいたい鉛は儀礼用の長剣とか、王族のシンボルとかに使うかな。あとは神さまに捧げたりとか」
「へえ……」
ソヨギは生返事をした。世界が違えば価値観も変わるということか。話をしてみるとダイヤモンドとかの宝石に使うのは価値が低いらしい。鉄のほうが高いようだ。まあこちらの世界でもダイヤモンドはありふれてる。でも高い。そんな感覚のようだ。
とりあえず鉛と黒鉛の違いを説明するのはめんどいので、こっちではいっぱいあると伝えた。なんならシャーペンのケースも見せる。なんとか納得してくれたようで、子供らしい切り換えスイッチをオン。またお絵描きを楽しみ始めた。
危なかった……大学ノートには注意が行かなかった! いまのうちに真相にせまっておこう。まだメッシちゃんを描きたりないのだ。このページを埋めればきっと、そこに答えがあるはずだ! カキカキ。ソヨギはなにかが間違っている!
「ソヨちゃん……なにしてんの?」
「……謎の解明」
「またよく分からないことを……ちょっととなりいいかな?」
「いっすよ」
ウィッグノリさんが横に座る。もちろん勇者たちとは反対がわである。ウィッグノリさんはお姉座りで落ち着くと、
「ごくろうさまでした。正直なところ、飾神はあんまり活躍できなかったよね……別動隊はって意味で」
「そっすか?」
「うん。なんて言うか飾神たちにも迷いがあったみたいなの。食神を取りこんだダムンディアボロスを消すのかどうかってね。食神は死んだわけじゃないから、そのセラフ化した状態のデビロイドを殺すことに迷っていた。仲間をいっしょに消しちゃうのと同じだからね」
「なるほど」
「ソヨちゃんのおかげで誰も死ななかったんだよ……聖戦は過酷なのにね」
「……え? メガ美さんが吹っ飛ばしたデビロイドさんがいましたが?」
「ああ、そのふたりならいるよ、ほら」
ウィッグノリさんがデビロイドたちを指差す。ソヨギはめんどいが数えてみる。ビデガンは抜いて、一、二、三――十三、十四、十五……
「……十六人。ひとり分裂した?」
「ティアラ神もいれちゃってるよ! 十五よ十五人。ふたりが生きていたのはおそらく、メガ美ちゃんが手加減したのね」
「そっすね……」
思いっきり周辺家屋が消滅していた気がする……まあいい。きっと異世界的な手加減だったのだろう。ああそうか。食神バリアーでしのいだのかもしれない。まあなんでもいい。
「ソヨちゃんはさ、じつは戦う気とかないよね」
「分かりますか……」
「うん。とにかく自分がやりたいことをやってる感じ。異世界のひとたちじゃなくても理解不能だよ。そのへんは昔からだけどね」
「……はあ」
「でも凄いの。なんでかメチャクチャやってるのに、事なきを得ちゃうの。それ以上にいい感じになっちゃう。ソヨギマジックって感じかな……わたしにはそれが魅力的だった。でもソヨちゃんはどんなときでもソヨちゃんだった。こんな世界でもソヨちゃんなんだから、地球が破滅してもソヨちゃんなんだよきっと。それって凄いよね……」
「……覇気がないの間違いじゃ?」
「それもソヨちゃん。本当に変わらない……ソヨちゃんはあのころのまま。わたしが――だったソヨちゃんのまま……」
ウィッグノリさんはどこか哀しそうでいて、どこか嬉しそうである。ソヨギはなにが言いたいのか分からず、カキカキを続けた。途中で声を発しなかったところも気にはなったが、大学ノートは待ってくれないのである。
「相変わらず上手だよね」
「そっすか?」
「見たところメッシちゃんだね。面白いよねっ、可愛いし! ゆうすけくんが死んじゃったのはショックだよね。メッシちゃんが生き返らせるために閻魔大王の試練に挑むところで終わっちゃうしさ~。でもソヨちゃん、左向きが苦手なのも変わらないんだね……と! さて、休憩は終わり! もうすこし時間はかかると思うから、勇者さまたちを見ててね」
ウィッグノリさんが立ち去っていく。ソヨギは自分の手が震えているのが分かった。ゆうすけくんが死ぬの!? さりげにネタバレとかやめてくださいよー……あーもー……ちょっとさきが分かったこの……もー。なんとも言えぬ絶望感に脱力感に虚無感とか……もー。ソヨギにネタバレがクリティカルヒット!
「ひどいわシンディラお姉さま……ソヨギさまにあんなことを……あんな……キ、キキキキキキキ……なんて! ソヨギさまも悪いのですよ! 隙だらけではありませんか!」
「うっす……」
言わずと知れた豆腐である。
そしてようやくソヨギは気づいた。代わるがわるあらわれては消えていくキャラクターたち。
刺客……? まさか大学ノートの秘密を異世界から守りに来た刺客か? いや、試練? 大学ノートの秘密を探るためにはこの試練を乗りこえるのか? んなわけないでしょ。頼むからひとりで考えさせてくださいよ……ノリツッコミが正確なソヨギ!
「ソヨギさま。さきほどシンディラから受けた行為をどのように考えていますか」
「いや、べつに」
「べつに!? なんですかスケコマシですか!」
「その表現は古いです。死語」
「そんなことは関係ないのです! そもそもソヨギさまはわたしのことをどう思っているのですか!」
「豆腐野メガ美さん……?」
「呼称ではなくて! しかもわたしはソフラです! 豆腐野メガ美という名ではないのですよ!?」
「メガ美さんて好きです」
「え? そうですか……ソヨギさまがお好きであるなら……うぅ……ダメよソフラ……泣いてはいけません……」
「……お疲れっす」
よく分からない豆腐の葛藤は無視して、ソヨギは埋まった最初のページを見た。
メッシちゃんで埋まっている。ちょっと精神的にヤバそうな感じで埋まりまくっている。特に線の濃いスペースには、連続メッシちゃんを描いてみた。切り絵のようなメッシちゃんが並んでいるのである。
だからどうしたんだ! 大学ノートとメッシちゃんに関連性などないのだ! なんで描いたんだ……しかも描くたびにムダに上達している。これはあれだ。二次創作ノートになっている。しかもこの使いかたは、じゆうちょうとなんら変化がないではないか。これでは大学ノートをじゆうちょうと見なしたことになってしまう! 謎は深まるばかりである。
「ソヨギさまはさきほどからなにを?」
「実態調査的な」
「……なるほど。そちらに没頭するあまり、キキキキキキキ……! を許してしまわれたのですね? わたしとしたことが取り乱してしまいました!」
なんかだいたい取り乱してるような気もするが……と、ソヨギはそこでふと思う。
「メガ美さん」
「なんでしょう」
「なんで怒ったんすかね」
「……え?」
「いや、子供ならよくやる行動だし……ほっぺにチュになんで怒ったんです?」
「そそそそそそれはですね……い、言えません!」
「……なんでだ?」
よく分からん。豆腐は皿のうえでワタワタとし始めたりする。横では勇者ふたりがキシシシ……とか笑っている。そんな面白トークしてましたか?
「ソヨギさま? はぐらかすのはやめにしていただけますか。わたしのことをどう思っているのです!」
「絹ごし豆腐」
「こ……こらっ! 子供のまえでそのような!」
「……え?」
絹ごしはR指定なのか……さっぱり分からん! いかんいかん……とにかく大学ノートに戻ろう。そして勇者たちが聞いてくるまえに説明できるようにしておこう。しかし、いかんいかんてなんだ! 日常的にまったく使わないのに、定着しているいかんいかんてなんなんだ! まあいけないと同じ意味だが、なんで普通におじいちゃんキャラとかは使うのだろう。いけないいけないじゃダメなのか? 語呂か?
む……大学ノートはそのへんの関係で名づけられたのかもしれない。つまりは語呂だ。小学生も使うじゆうちょうでは、ティーンズ後半が口にするには抵抗がある。なのでこれはじゆうちょうであるのに、わざわざ大人な表現をするために大学ノートと名づけられた。そして言いやすい。なるほど……謎は解けた! それでいいのかソヨギ!
「メガ美さん」
「は……はい!」
「動かないでください」
「……え?」
ソヨギは二ページ目にサササっと絵を描いた。皿に乗った豆腐。ちょっと右上を見あげているような角度で。ふむ……なんという簡素な絵なのだ。これではつまらないのだ。ソヨギは三ページ目にシャーペンを移動させる。
よし、擬人化豆腐でも描くか! 頭は豆腐なのに体は人間なのだ。そしてシンディラっぽいドレスを着ている。こ……怖い! なんだこのブキミな生物は! 俺が勇者ならまっさきに倒します。ていや。
ソヨギは擬人化豆腐に剣を刺す絵を描いた。経験値は四。これはさすがに怒られるか? 見せるのはやめておこう……ソヨギは擬人化豆腐のページを破った。
「ソヨギさま? 終わりましたか?」
「うっす。お疲れっす」
「あ……これはわたしですか? なんと凛々しい姿……ありがとうございますソヨギさま……」
豆腐はつまらない絵に感激しているようだった。なんでか絵を欲しがったのでそのページを破る。ソヨギはぺらっと渡してみた。そして豆腐は角の部分をちょっと伸ばして持つ……持つ? 持てるの? どういうことだ……この生物はなんなんだ! ソヨギは怯えている!
「みんなに見せちゃおっと♪」
豆腐は嬉しそうにへよよーんと飛んでいった。飾神たちとシンディラ、アルラのいるグループのほうに飛んでいく。いや、そんなつまらない絵を見せても、あらそって感じでしょう。しかしあらそってなんな――!
「ソヨギさまー。わたしもソヨギさま描いたよ!」
「あ! わたしがさきに見せるって言ったじゃん!」
「……あざっす」
勇者ふたりがノートを開いて見せてくれた。なんだか見知らぬ生物たち――異世界の動物やらモンスターだろう――のなかに、黒髪の男が描いてある。目は点だったり口が輪郭を飛びだしたりしているが、ちょっとソヨギは嬉しかったりする。嫌いじゃないのだ!
「じゃあ……勇者さんたち動かないでください」
「描いてくれるの? フィア」
「手をつなぐよ!」
まあキャラっぽくするからあんまり気合いはいれないでください。写実的なのは苦手なのだ。てゆーか嫌い。ソヨギは漫画のような雰囲気でふたりを描く。遊び心でふたりの背後には護神王がいたりする。時間的に全身は描けない。というか小学生くらいの集中力は短い……完成。ふむ……面白い!
「どーぞ」
「きゃ♪ ソヨギさまじょーずだね!」
「可愛いよ! ゼファーとアルラもいるんだよ!」
「あげますよ」
ソヨギは綺麗にページを切って渡す。勇者ふたりは大喜びでダッシュ! そしてこれがソヨギの悪夢の始まりだった。
「ソヨギ……わたしも描いてくれ」
「いつのまに?」
シンディラである。いつのまにか横にいたのだ。と――
「ソヨちゃんわたしもね!」
「え?」
ウィッグノリさんがシンディラの後ろにいた。てゆーかよく見るとなんかズラズラと行列ができている。いやいやちょっと、そんな暇ないでしょう。
「みなさん破滅軍はどうします……」
「へっ! 作戦は立てたぜ。だがちぃとばかし時を選ぶんでなぁ」
「……嘘でしょ」
ビデガンがウィッグノリさんの背後にいる。
ちょっと待ってくれ。そもそもなんでそんなに絵を描いてほしいんだ? なんなら鏡を持ち歩けばいいじゃない。いつでもリアルな自画像が見れるじゃない。それはナルシストみたいでイヤですか? そーですか。
「いまのわたしがどのように見えているか描いてくれ」
「十歳くらいの少女です。はい、次のかたー」
「一般論に興味はない。お……おまえから見てだ」
「……十歳の少女――うっす、描きます」
アッシュエッザーをだすシンディラ。ソヨギは痛いのが嫌いだ! サラサラっとは描けない。だって痛いのはイヤです。でも上半身だけ。なるべく綺麗に描く。ていうか影をつけるのが上手なら、なんとなくうまく見える。ていうか陰影を理解してるなら、絵は描かけるとソヨギは思っている。それはなぜなら立体を把握することが重要なわけで……あくまでもソヨギ流。ていうか美術教師の受け売り。
「……できました」
「……なるほど……か……可愛い感じか」
子供をキャラっぽくすればだいたい可愛い感じですが? シンディラはまんざらでもなさそうに列をはずれた。
「ソヨちゃん描いて~」
「どっちを? ウィッグさんを? ノリさんを?」
「いや、見たまんま描けばどっちも描けるよね!?」
「……っす」
ソヨギはなんだかんだとちゃんと描く。リテイクされるのが一番めんどい。でもあと何人描けばいいんだ? デビロイドなんてもう、ひとり描けば全員描いたようなもんだ。完成。
「あ、いいねこの髪をアップにしてるの。なかなかに趣があるではないか!」
「うっす。次のかたー」
じつはアップの描写のほうが簡単だったのだ。次はビデガン。
「顔は描かなくていいぜ。この感じだ。分かるかトリックスター」
「うっす」
ビデガンはテンガロンハットを持ち、ややした向きになる。絵にしてみればだいたい耳や口元あたりしか顔の部分が見えない。ちゃんとくわえたボールペンも描く。そのこだわり助かります。これはサササーっと終わる。
「……どっすか?」
「おう。いいじゃねぇか。ふっ……絵描きなんざ高くてかなわねぇからなぁ」
「……高い?」
「ああ。人間界じゃ王族の特権。魔界じゃ悪魔どもの特権。俺たちみてぇなしたっぱにゃあ逆立ちしても得られねぇもんなのさ」
「……絵が?」
異世界はフシギだ。でもなーるほど。だからみんな描いてほしくて並んでるのか。しかし絵ひとつにすら制限があったら大変だ。つまらない授業中にパラパラ漫画とか描けないのである。なんということだ! この世界より、むしろ異世界のそこらへんの事情を救いたいですが?
……とまあちょっと同情したソヨギは一生懸命に描いた。とか言いながらかなり手抜きで描いた。デビロイドは集合写真みたいにした。でもみんな満足。しかし本当にこんなことしてていいの? と、最後はティアラ係長部長。なんかコンビ名みたいだ!
「……描きますか?」
「ええ、お願いしますよ」
普通のサラリーマンだ! びっくりするくらい普通だ! いまの会話もお弁当のほう温めますか? に対する切り返しみたいだ! ソヨギの手が震えている……本当にびっくりしちゃったソヨギ!
――全員を描き終わった……ソヨギは腕が疲れていた。一番ツケマが簡単だった。あえてその理由は説明しない。
しかし、だいぶ大学ノートの枚数が減った。まるでキャンバスのように使用したので――キャンバスノート! そうかそうだったのか! キャンパスノートはキャンバスの意味も内包していたのだ。だからこんなにラクガキ帳みたいにされちゃうのだ! そんなことをブツブツ言っていると、
「ソヨギさん。大学ノートはまだノートが主流でなかった時代に、大学生向けに作られたんですよ。だから大学ノートなんです。そういう名前で売りだされたから大学ノートと言います。つまりは商品名なので、深い意味はありません」
……まじですか?
ソヨギの手からシャーペンがコロコロと転がった。そうだティアラ係長部長は文具メーカーのひとだった。最初から聞きに行けばよかった。なんてムダな時間と労力だ!
――とまあソヨギ的には意味不明な話だったわけだが、じつは恋愛イベントだったことにはけして気づかないのだった。
ジゴロソヨギは伊達じゃない!
番外編――完。
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