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第1品「始まりはいつも勘違い」

メガ美さんが……怒ってます?

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  豆腐が怒声を放つと、一緒に光線が放たれる。

「バカぁ!」
「ぎゃあぁぁぁ!」
「わたしだって!」
「ぐはあぁぁぁ……!」
「りっぱな食べ物なのにぃっ!」
「ごふぅ……」

  どがぼがぴしゃんどーん!

  豆腐の放つ技が、周囲のアスファルトや電柱、コンビニの駐車場ごとモンスターを破壊した。コンビニまえには倒れ伏したモンスターが山積みになっていく。その奇襲攻撃により、七割のモンスターが大きなクモごと討伐された。

  ソヨギはふわぁ……と欠伸をしながら、てくてくとそこに向かっていった。 ごそごそとダウンジャケットのポケットを探り、タバコの箱を取りだして一本――だそうとして、ソヨギはそこで愕然とした。

「グヒュヒュ……人間……旨そう……」
「……あざっす」

  どこにいたのかは分からないが、人型の馬のモンスターがすぐ横に立っていた。肌の感じなども馬そのものだったが、ゲームやファンタジーで見るような、鉄素材の胸当てとスカートみたいな鎧を着用している。手も人間のようであり、右手には大きな剣を携えていた。

「食うぞ!  腹が減ってるんだ!」
「……なるほど」

  汚いヨダレなどを垂らしながら馬が剣を振りかぶった。なんで人間なんか食べるんすか?  と質問している場合ではなかった。ソヨギはただ剣が振りおろされるのを見ていた……ビュンッ!

「グヒュヒュ……あれ?」

  剣はソヨギにはあたらずに、真横のアスファルトを切りつけていた。剣はガヅンッ!  とアスファルトを割り、さらに刀身が食いこんでいた。

「ぐぐ……抜けない……!」
「……低脳っすね」

  ソヨギはまっすぐ正確に振りおろされた剣を、横にぴょんとよけたのである。軌道が分かればドッヂボールの球をよけるのと大差ない。しかしそんなことよりも、事態は深刻なのだ。

「タバコ切れてた……」

  それは驚愕の事実だった。公園で吸ったタバコ――あれがラスイチだったのである。気持ち悪さのせいで中身を確認していなかったのだ。

  ソヨギはだが、無性に食後の一服がしたかった。さきほどは子供(シーフ)がいたために、受動喫煙による致命的な肉体への損傷を――幼い未発達の体が副流煙により侵されるのではないかと、そればかりが気がかりで吸えなかったのだ!  あのときせめて中身の確認くらいしておけば、ちょっと横道にそれてタバコを買いに行けたのだ。そうすればいまごろ、ここ一番の旨さを味わえていたのに……!

  ソヨギは焦りから汗を流し始めていた。ゴミとなったタバコの箱をぐしゃりと潰し、その手は小刻みに震える。吸いたい――どうしても食後の一服がしたい!

「……コンビニ行こ」

  ソヨギは馬モン(略した)を完璧に無視してコンビニに向かった。コンビニまえは『こんがりとしたモンスターり』みたいな状況である。豆腐はコンビニからちょっと離れて、逃げだそうとしているモンスターの追撃に向かっていた。

「わたしだって美味しいんだからぁ!」
「げはあぁぁぁぁぁ!」

  豆腐の八つ当たりで昇天したモンスターたちを横目に、ソヨギはコソコソとコンビニに向かう。なんかこっちにまで豆腐の怒りが向いてきそうだったからだ。

  コンビニの自動ドアのまえに立つ。しかし、ウィン……とはいかなかった。ここらへん一帯は停電しているのかもしれない。しかたなく開く部分をガッ!  と持ち、ギリギリと力をこめて無理矢理に開いた。左にはカウンター、右と正面の壁がわにはドリンクと冷蔵食品が並ぶ。その中間は棚であり、普通のコンビニだ

「……いらっしゃいませー」

  誰も言ってくれないので代わりに言う。しかし最近のコンビニは時間帯によっては言わないところもある。まったく教育がなっていないコンビニだ……あ、いまは無人なのか。

「七十番ふたつ……あ、違います。右のやつです……」

  そう注文しながらカウンターのなかにはいる。ここまで来るとコンビニごっこである。だがなんだか、いつもの言葉がないと寂しいのだ。

「ピッ……年齢確認ボタンをタッチしてください……ありがとうございまーす」

  二十歳を越えた大人がすることではない。だがその言葉がないと、なんか財布をだしたくない。店員さんの言葉はいわゆる一連動作シーケンスであり、客もその言葉が耳にはいり、初めて心の準備が完了するのである。ソヨギはフィリップモリスふたつ分の料金をレジに置き、ひとつの箱のビニールを取った。

  ソヨギはカウンターからでて自動ドアに歩いていると、重大なことを思いだした。

「……ありがとうございましたー……あ、飲み物……」

  ソヨギはコンビニでタバコを買うときは、たいていほかにもなんか買う。こんなことをしてるあいだにも世界は破滅に近づいているが、習慣どおりにしないと気持ち悪い。

  ソヨギは自動ドアの直前でカクッと曲がると、飲み物を取りにいった。なにがいいかな……二日酔いにコーヒーはお腹を壊す原因である。よし、コー○にしよう。冷蔵庫が動いてなくても、真冬なのでシロクマがいそうなヒンヤリ具合で飲めるだろう。それ以前にゲップがしたい。胃が荒れているところで食事をしたので、なんか違和感があるからだ。

  ソヨギはコー○をゲットし、カウンターに行こうとした。だがソヨギはここで衝撃的な事実に直面し、くわっと目を見開きながら足をとめた。

「動くな人間……それとも撃ち抜かれたいか?」
「……うっす」

  後頭部になにかを突きつけられている感触がしたかと思うと、低い声が囁かれた。コー○を持ちながら両手をゆっくりとあげる。だがそれよりも、この衝撃のほうが勝る。

  ――ポテチだ!  お腹いっぱいなのにちょっとかじりたくなるポテチがある! 

  さきほどはあっさりした雑炊だったので、ちょっと油ものが食べたかった。お腹を壊すかもしれないからちょっとでいいのだ。胃酸でのムカつきにより生じるガスは、コー○で対処できる……しかしあと三十センチが遥か彼方に感じられた。

「ゆっくりとこちらを振り向け。ゆっくりだぞ」
「……うっす」

  視線をポテチに固定したままゆっくりと振り返る。ソヨギはポテチが見切れると、そのモンスターを観察した。

  目のまえにあったのは銃口だった。異世界の武器ではなく、こちらの世界で使用されているライフルだ。その向こうには人間モドキと言っていい姿のモンスター?  みたいなやつが立っている。

  顔の正面は肌色だが、耳からあごのラインと、首からしたは真っ青だ。その真っ青な肌には、なんか幾何学模様きかがくもようみたいな刺青いれずみっぽい線がはいっていて、おデコからは二本の短い角が生えている。

  頭には黒いテンガロンハットをかぶり、襟を立てたロングコートとなかのシャツも黒い。足にはやっぱりブーツである。

「……モンスターさん?」
「あんな下品な奴らと一緒にしてくれるなよ。俺はビデガン……ビデガン・マッドマン。人間と魔物の混血種……デビロイドさ」
「……おしいっすね」

  途中まではカッコ良かったのに。ソヨギはちょっと最後が残念に思った。それよりもこの状況をどうするべきだろうと考えるべきなのだが、ポテチが頭を離れない。

「……殺すなら早くしません?」
「殺す?  馬鹿言っちゃいけねえよ小僧。あの豆腐の女神をなんとかしてくれ」
「……女神って認識できるのがすごい」

  どのみちそのお願いを聞かなかったら殺される。ソヨギはふぅと溜め息をはいて、まわれ右をした。

「お願い聞いたら殺しません?」
「いや?  聞いてくれたら殺すぜ?」
「……うっす。じゃあそこのポテチ食べたいっす」
「ポテチ?  なんだそりゃ……ああ、くそ不味いポテトフライか。好きにしな……だが急げよ。女神が邪魔で移動ができねえ」
「……あざっす」

  ソヨギはすべての動作を緩慢かんまんにおこなう。手をさげ……まわれ右……かがんで……ポテチに触れる。そして持ちあげようと……

「おい!  余計なことは考えるなよ?」
「あ……」

  べよん、ごろごろ……コー○が転がった。いきなりの声に驚いたのだ。

「……いいっすか?」
「拾いな。トリガーに指はかかってるぜ?」

  どっかで聞いたような台詞……それは置いといて、ソヨギはコー○を拾うために中腰で進む。
しかし――こつん、ごろごろ……爪先があたり、コー○はさらに転がった。

「おい……わざとじゃねえよな?」
「……いや、すんません」

  ソヨギはコー○を拾う。だが普通には拾わない。手に取った瞬間に、ちょっとシャカシャカッてする。ソヨギ式C4の完成である。

「なんで振ったんだ、答えろ!」
「……ばれましたか。起爆装置を発動させたんすよ」
「なんだと……このストアーは食料品店じゃないのか?  まさか……おまえたちの武器庫!」

  なんで異世界の方々は勘違いするんだろう……まあ初見のものが多いだろうから、簡単に騙せちゃうんだろうな。

「……このままじゃ爆発です」
「くっ!  解除しろ!」
「……脅されてもできません。やるならご自分でどうぞ」
「よこせっ!  解除方法は!」
「その赤いふたを勢いよく開ける……」

  ビデガンはライフルを放り投げ、コー○に手を伸ばした。さすがにデビロイドとは言え、爆発物に対しては慎重になるようだった。まあでも、デビロイドってなんすか?

「どうやって開けるんだ」
「……フタを持って左にまわしてください。じゃ、お疲れっす」
「待て小僧!  どこに行くんだ!」

  ビデガンは両手でコー○を持ったまま必死な形相で叫んだ。ソヨギはポテチを片手に思う。早くタバコが吸いたい。

「……ちなみに解除に失敗したら中身があふれます。そしたらこれを大量に放りこんでください。メ○トスっていう威力抑制装置っす」
「……おまえ、名は?」
「……ソヨギっす」
「覚えたぜソヨギ。たいした策士だ……!」

  ビデガンはニヤリと笑いながらコー○のフタを開けた。ソヨギは早めな足どりで自動ドアに向かう。コー○は道中の自販機で手にいれよう。ビデガンの声「くそ失敗か!」を聞きながら外にでる。外にでるとメ○トスをいれたのか、「まずい爆発が起きた!」が聞こえてくる。タネがばれてしまうまえに豆腐と合流しなくては。

「……いない」

  豆腐の姿はおろか、モンスターもいない。山積みになっていたモンスターが消えてしまっていたのだ。ソヨギはしかたなくコンビニの影に隠れた。しかもそこは喫煙所になっていた。そのとき、

「どこだクソガキィッ!」

  ドクンッ――と心臓が力強く脈動した。ここなら吸える!  ここならたとえ子供が近くにいても吸っていられるのだ。スタンド灰皿の半径二メートルは喫煙者の領域――つまりは聖域だ。喫煙反対派のひとでも灰皿があるなら……と、ちょっと許してくれる、まさに非紛争地帯なのである。

  ドバゴゥッ!  とコンビニの正面が吹き飛ばされた。ビデガンが怒りの咆哮をあげる。

「俺をだし抜きやがってぇ!  この魔装駆逐銃ハイヴォルトで炭にしてやる!」

  ソヨギはこそっとタバコを一本くわえて火をつけた。旨い。喉が渇いたのでしかたなく水を飲む。不味い。タバコと水の相性が好きではない。

「ち……逃げやがった。しかもあの女神、俺の部隊を殲滅しやがった!  ソヨギ……てめえは俺が探しだしてぶっ殺す!」

  ビデガンはタバコの煙には気づかずに、跳躍してどこかへ消えていった。まあ豆腐とビデガンの破壊行動により、粉塵やら匂いやらが充満しているのだから当然か。

  メガ美さんと合流しないとまずいかな?  と思いつつ、タバコは最後まで吸う派である。

  まあとにかく、ソヨギはついに追われる身になったのであった。

                                                  続く
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