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4.萌え立ち、芽吹く

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 ちいさな子が「あーそびましょー」ってお友達のおうちに行く感じ。

 日捺子にはそういう経験がなかったから、ピンポンを鳴らして待つという行為が純粋に楽しかった。

 なんの反応もないまま数秒が過ぎ、もう一度インターホンを鳴らした。日捺子はインターホンを押すのは二回までというルールを決めていた。虎汰ときちんとした約束はしていなかったから。いつも帰るときに『またね』と言うだけ。二回目のピンポンのあと、すぐにばたばたとドアの向こうが騒がしくなった。がちゃがちゃともどかし気にチェーンを外す音が聞こえる。ばたんと勢いよくドアが開いた。日捺子は笑顔を作る。会いたかった。ちゃんとそう見えるように。
   




 初めて虎汰に会いに行った日。倒れて助けてもらった日の数日後だから、だいたい一か月くらい前。その日は二度目のインターホンを鳴らしたあとも虎汰が帰ってくるのを待っていた。

 日捺子は決めていた。今日会えなかったら、二度とここにはこないでおこうと。この選択がもし間違っているのなら、神様はきっと彼には会わせないはずだと、そう思ったから。

 日捺子は彼を待ちながらいろんなことを考えた。会えたら最初になんて言おうかなとか、彼の『またね』が社交辞令だったらどうしようとか、やっぱり迷惑かも、帰ろうかな……とか。そんな浮き沈みする思考をじっくりと味わった。ぱたぱたぱた。誰かが近付いてくる足音が聞こえてくるたび、顔を向けた。でもそれは彼とは違う人で、日捺子は毎回小さな挨拶をして、下を向いた。

 会えるかな。帰ろかな………あと一回だけ、誰かが来るのを待とう。それが彼じゃなかったら、これは正しくないことだと飲み込んで、帰ろう。そう日捺子は決めた。

 目を閉じて壁に寄りかかる。深呼吸10回分くらいの時間が過ぎたころ、とんとんとんと、最後の足音がした。日捺子は、すうっと深く息を吸って、吐いた。ゆっくりと目を開いて顔を向ける。ふわりと揺れる金髪が見えた。虎汰は日捺子を見つけて驚いた顔をしたあと、とても嬉しそうに笑った。
 日捺子は思う。神様は、ずるい。わたしの本当に欲しいものはくれないくせに、中途半端に願いを叶えて無駄に希望を持たせる。わたしは神様なんて嫌いだし、そんなわたしを神様だって嫌いなんだろう、な。
 


 その日にしたことは虎汰の部屋の掃除だった。

「え?掃除すんの?」
「うん、掃除したいんだけど……だめかな?」

 いいけど、と言いながらも、なんで? という気持ちが虎汰の顔に出ていた。

「お礼を、させてほしくて。こないだの。お部屋きれいになったら嬉しくない、かな?」

 日捺子は虎汰の家に来たことに対して大義名分が欲しかった。

「嬉しいけど……俺んち、汚い?」
「…………きれいでは、ないと思う」

 このあいだと変わらないごちゃごちゃとした部屋。ペットボトルとか、漫画とか、雑誌とか、DVDがそこかしこに置かれてて、むしろ、前より散らかっていた。日捺子が辺りを見ていると、虎汰も一緒になって部屋を見渡して、言った。

「確かに、きれいではないね」
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