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「どうした?」
「なんでも、ない」

 そんな日はきっと来ない。来るはずが、ない。
 だって、こんなに、私たちは通じ合ってる。
 私が彼を見れば、彼も私を見る。心配そうな、目。頭を撫でる手はずっと優しい。
 おだやかで平らかな日常。
 特別なことなんて、いらない。
 私は目を閉じた。しとしと降る雨の音。甘い歌声と混ざってひとつになって私の耳に届く。

 私は雨の日がとても好き。頭が痛くなるのはつらくても、雨の日の彼はいっとう優しいから。
 
 ゆっくりと、目を、開けた。
 真っ先に飛び込んできた―――青。
 雨なんて、降っていない。
 夢を見ていたのだ。私達の関係がまだしあわせ色に澄んでいたころの夢を。

「……いい天気」

 頭は、ちっとも痛くない。
 でも、とげとげ、ちくちく、胸が痛い。
 ローテーブルの上のスマホが光ってる。横になったまま、手を伸ばしてそれを取り上げた。スマホの画面を開く。

 ふと、気になった。  

 雨の日は一年のうちどれくらいあるんだろ、って。

 Google先生に聞いてみよう。ぽちぽち文字を打つ。便利な世の中。調べればなんでも分かる。分からないのは人の気持ちくらいのものだろう。
 【一年 雨の日 割合】
 検索を、押した。すぐに表示される結果。13%だって。1割ちょっと。10回に一回程度。彼が優しかった日はそんなものだったろうか。

 そんなことは、ない。もっと多かった。

 スマホをラグに投げ捨てる。寝起きでのどがからからだ。キッチンに行って水を、飲む。
 あぁ、こんなとこにもあった。彼の残骸。
 水切りかごの中にずっと置きっぱなしにしていた水色のマグカップ。お揃いの。Francfrancフランフランで一緒に買ったやつ。
 
 彼は、そういうのを嫌がる人だった。

「ペアとか……」

 はしゃいでピンクと水色のカップを持つ私を見て、彼は苦笑いを浮かべていた。でも、そこから苦いが消えて、最後に笑顔だけが残る。

「まぁ、いいんじゃない?」

 その瞬間がとても好きだった。
 私の甘えたな提案に渋い顔をしながらも、最後はいいよって言って、笑う。
 彼の優しさだと思っていた“いいよ”が、“どうでもいいよ”に変わったのはいつからなんだろう。
 もしかしたら最初からだったのか。
 そうであっては、ほしくない。
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