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第6章 赤い羽根で舞い降りる

第42話 ジータ

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「どうだ、何かわかったかね?」
「いえ、残念ながら何も」
「そうか、それは残念だ」

 辺境伯の所へ戻ると質問されたがここでは濁しておこう。魔神に聞かれるのはなんとなく嫌だ。それに話せない内容の方が多いのもある。私が魔神の適合者で魔神になる可能性があるだなんて言えるわけがない。下手すりゃ処刑されちゃうよ。

「さ、参りましょう。これからまた会議なんですよね?」
「そうだな。あの魔人はあれ以降姿を見せていないが、襲撃に上位種が混じるようになってきたからな」

 サーラが姿を見せてから三ヶ月が経った。それまでにあった襲撃は2回。襲撃は毎月一回ずつあるからもうじきだろう。先月は28人死んだ。スタンピードの死者としては少ないが、毎月死者が出ては精神的に辛いものがある。いくら私にチート能力があっても全てを守れるわけじゃないからね。


      *   *   *


「ではこれより会議を始める。先ずは前回の襲撃の結果報告を頼む」

 会議室では私とレオン様を含む11人が集められていた。先ずは前回の襲撃による死者数や手に入った魔物の素材と予想される収入の報告である。それを報告するのはこの街の財務を取り仕切る財務官だ。

「はい、資料にある通り死者数は28人。いずれも一般兵です。戦力低下への懸念は軽微と言えましょう。そして手に入った素材もワイバーン2体とデモンエレファントか3体もいたこともあり、総額金貨4500枚は軽く超えるでしょう。街への被害はありませんでしたので大きな収入と言えます」
「金貨4500枚か。亡くなった兵士の遺族に少しは慰労金を出してやれますな」

 金貨4500枚というと大きな収入に聞こえるけど、金貨1枚2万円で換算すれば9000万円しかない。街が破壊されれば軽く吹き飛ぶ金額なんだよね。魔物の素材は大量に入るけど、それを売りさばいても損失の方が大きいのが普通なのだ。

「今回被害が少なかったのはテアの存在が大きいでしょう。ワイバーンもデモンエレファントも全てテアが始末しました。今やテアは我らの欠かせない戦力ですな」

 ヘルクス子爵が上機嫌に私を持ち上げる。私を辺境伯に引き合わせてくれたのは彼だし、しかも直属の上司だ。私の活躍はヘルクス子爵の手柄にもなる。

「そうだな。デモンエレファントに街が襲われれば城壁など容易く破壊され、多くの死者が出ただろう。お前には本当に感謝しているぞ」
「恐悦至極にございます」

 デモンエレファントは文字通り象の魔物でとてもデカい。動物園で見る象よりも大きくしかも凶暴という悪夢みたいな存在でワイバーンを超える危険度だ。こんなん相手に手加減はできないので即破滅の爪牙で切り裂いてやりましたとも。

「しかしいつまでも襲撃を受け続ける訳にはいかんでしょう。何か方法はないものか」
「あの、発言してもいいでしょうか」

 確かに襲撃は激化している。このままでは街が壊滅するか魔神が復活するかの二択になってしまいそうだ。ゲームでは襲撃が激化したような話はなかったし、私の存在が何らかの変化を及ぼしている可能性があるんだよね。

「テアか。発言を許す」
「はい。実はですね、この街に来るときに魔物達の群れを目撃したことがあります。それがどうもマルカウっていう山の方から来たみたいですので、一度調査してみようと思うのですが」

 嘘も方便。いや、マルカウっていう山にゾーア教団の基地みたいなものがあるのは本当だ。見つけるのは本当は2年後くらいなんだけど、知っててそれを黙っているのは違うと思うのだ。

「マルカウか。確かあそこは魔の山と恐れられてきたところだ。人の立ち寄らない山だからゾーア教団の秘密基地があってもおかしくないかもしれませんな」
「閣下。ここはテアの提案に乗ってみる価値があるでしょう。テアは空を飛べます。単独であれば1週間で往復できるでしょう」

 幹部達が私の提案を吟味する。どうやら賛成のようで私の意見を後押ししてくれた。

「なるほど、それはいい。ならばこの月の襲撃の後に行ってくれるか? 調査期間は2週間で足りるか?」
「ええ、それで足りると思います」

 それを受け、辺境伯が私に調査を依頼する。2週間か。普通なら足りないんだろうけどゲームのおかげでマルカウの中腹辺りにあることはわかっているのだ。きっと見つけられる、いや見つけてみせますとも。

「いやいや、お待ち下さい。テアは貴重な戦力です。彼女に何かあれば次の襲撃を持ち堪えることは難しいでしょう。調査でしたら私の配下にやらせます」

 うぉい。せっかく決まると思ったのに横槍入れないでほしいな。

「ジータよ、その調査はどれだけかかるのだ? このままではジリ貧なのは目に見えているし、空を飛べるテアの方が確実だろう」

 そうだそうだー。と心のなかで辺境伯を応援する。周りもなに言ってんだコイツって顔してるし。

「いや、しかしですね。そうだ、もしテアが尻尾を巻いて逃げ出したらどうするおつもりか。それに強い力は危険です。やらせるなら支配の契約で奴隷に身を落とすべきではないですか? 私が主人になりましょう。私でしたらテアを上手く使ってご覧にいれますとも」

 はぁっ!?
 せっかく奴隷になる運命を退けたというのに何言い出すかなこいつ。しかも自分が主人になるだと?
 でっぷり太った中年オヤジのくせして幼女趣味でもあるのかおまいは。

 私は不機嫌をあらわにしてジータを睨みつけた。

「お前、自分が何を言っているのか理解しているか? この街のために尽くしてくれている恩人を奴隷に落とせだと? バカも休み休み言いたまえ。調査はテアに任せる。これは決定事項だ!」
「ひっ!」

 辺境伯がジータを叱責し、机をドン、と思い切り叩く。その様子にジータはビクッ、と身体を震わせると情けなく呻く。

 なんなんこいつ?
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