ラスボス廃棄少女は幸せになりたい

まにゅまにゅ

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第1章 廃棄少女テア

第8話 壊れゆく日常1

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    今日は午前中もいい天気だった。今は5月頃らしく陽射しがポカポカと温かい。まさに農作業びよりである。田んぼに張られた水が光を反射し、キラキラ輝いていた。今日は田植えなのだ。

    稲作用の機械なんてあるわけがないので1つ1つ手で苗を植えていく。この姿勢は腰をやられそうだけど、「田植え」って感じがするよね。

「そうそう、そうやって一列に植えていくんだよ」
「はい、マエルさん」

    田んぼには当然裸足で入っている。ゴムの長靴なんてないからね。川から水を引いていることからもわかるように、後から川で洗うのでいいのだ。
    まぁ、小さい虫が結構いるんだけどね。そんなもの気にしていたら農作業なんてできないから。

「うん、なかなかスジがいいじゃないか。さぁ、次の列も植えていくよ」
「はい」

    田植えもやってみると結構楽しい。神と悪魔の手を使えば楽が出来そうだけど、こんなん見せたら果たしてどんな顔をされるやら。そう考えるとやはり使うのは躊躇われた。




     一通り植え終わり、今は休憩中だ。もう日も高くなって来た。そろそろお昼ご飯を作る時間かな。

「よし、じゃあそろそろお昼ご飯にしようかね。川へ行って足を洗ってこようか」
「はい」

   靴と布巾を持ち、マエルさんと川へ向かう。ジルも向こうの田んぼで田植え中だ。

「おーいジルー、そろそろお昼ご飯にしよー」

   少し遠目の位置から大声を出す。するとジルがこちらに気づき手を振った。そして田植えのペースを上げ始める。うんうん、頑張っているねぇ。私たちは先に行くけどすぐ追いついてくるだろう。

    川は村の中を流れており、渡れるよう橋もかかっている。この川はそれほど深くないそうで、一応魚も取れるそうだ。そういやジルが魚を取ってきてくれたことあったな。魚はいい。こう、少しだけ塩をかけて焼くのだ。醤油がないのは残念だね。開発陣もそこはご都合主義で醤油があることにしてくれたらいいのに。

「あはっ」

    川の中に足をつける。流れる水がひんやりとして気持ちいい。さすがに全身だと寒いかな。人が見てることも多いのでさすがに身体を洗う人は……、たまにいたな。ええ、ジルが前に全裸になって入ってましたよ。女子が見てる前で……。

    川底は少しヌメるので注意をして歩く。流れは急じゃないのでそうそう転ぶこともないけどね。そうこうしているうちにジルがやって来た。

「ひゃっほーい!」

    元気よく足に付いた泥を撒き散らしながら走って来た。これ、近くにいたら顔にかかるやつだね。そしてわざわざジャンプして川底に両足をつけて着地する。水が勢いよく飛び跳ねた。

「キャア!」

    冷たっ!
    ジルめ、わざとだな。

「きんもちいーっ!」

  足でバシャッと水を蹴り上げる。その先にいるのはもちろん私だ。ケンカ売ってんのかごるぁっ!

「こらジル!    やったな!」

    とお!
     お返しとばかりに水を蹴り上げる。すると底のヌメりに足を取られ……。

    ずばしゃあああっん!

    派手に後ろにすっ転んでしまった。お尻冷たい。びしゃびしゃだよ……。

「ぶはははははっ!   だっせー」

    ジルが私の無様な姿を見て泣くほど笑う。
    なんかムカつくー!

「もう!    ジルのバカ!」

   ぶすーっ、と頬を膨らませ、あらん限りの声でバカと言ってやる。我ながらなんともボキャブラリー貧困な悪口だなと思う。すっかり童心に返っているのかもしれない。

    そう、なんだかんだで楽しいのだ。こんな他愛のないやり取りも。ちょっとした日常も。多分心のどこかでこんな日々が続けばいいのに、と思っているからだろう。



    でも私はすっかり忘れていた。
    ジルもまたこのゲームの中で名前を持つキャラの1人であったこと。
    そして、テアを追いかけ、テアが涙を流しながらその手にかけた人物であったことを。

     そう、この日常が壊されることは、ゲームの中では予定されたことだったのだ。



    私達は田んぼの片隅でお昼のおにぎりを食べていたときのことだ。私たちのいる場所は村の入り口からは比較的近い位置にあるんだけど、その入り口付近から喧騒が聞こえて来たのだ。

     突然柵が壊され、火がつき、入り口の扉も叩き割られる音が響き、大きな穴が空く。
     村の入り口で番をしていた若い村人の首が飛ぶ。そして笑い声をあげながら賊どもが入って来た。

「よーし野郎ども。男は殺せ!    女は奪え!    だがババアは殺していいぞ!」 

    目つきの悪い大男が大声をあげると、他の賊どもがどんどん集まってくる。そしてその目つきの悪い大男と運悪く目が合ってしまった。

「……!    みんな、逃げるんだよ!」
「テア、こっちだ!」

   マエルさんが私たちを逃がそうと先に行かせる。そしてジルが私の手を引いた。私はどうしたらいいのかわからず、少し呆けていた。

「幼女は高く売れる!    捕まえろ!」
「こ、ここは通さないよ!」
「マエルさんダメ!」

   マエルさんが私達を逃がそうと前に出る。だめ!
   お願い、逃げて……!

「ババアどけ!」

    まるでスローモーションを見ているような感覚。賊の振り下ろした刃がマエルさんの右の鎖骨に食い込む。そして身体を斬り裂くと、血が噴き出した。

    この光景……。テアの記憶にもある……。

    テアとしての記憶がフラッシュバックする。目の前で両親が斬り殺され、赤い血がほとばしる。その血を見て笑う賊ども。もう死んでいる両親を脚を踏みにじり、私に手を伸ばす。
    恐怖で叫ぶ私。そうだ、私はテア……。
    この恐怖も悲しみも私のモノ。

    メノマエ二アル現実モマタ私のモノ……。
    コノ怒リモ私ノモノ……。

    コノ殺意モ、ワ     タ     シ     ノ     モ      ノ。

 コ イ ツ ラ サ エ イ ナ ケ レ バ ……!

「アアアアアアア!」

    私は涙を流しながら叫ぶ。悲しみ、怒り、色んな感情がごっちゃになる中、ドクン、と私の心臓が大きく跳ねる感覚があった。

(ニクイナラコロセ)

    私の脳裏に声が響く。血が昂るのを感じる。委ねよう。この怒りに、殺意に、そして悲しみに……。

「お前ら全員殺してやるぅぅっ!!」

    感情を爆発させ、久しぶりに出した神と悪魔の手は10本にも及んでいた。私の殺意に反応し、マエルさんを殺した賊の頭に手が触れる。

「爆ぜろ」

    蚊の鳴くような声で告げる。
    その瞬間、賊の頭は四散した。
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