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第176話 ニーグリンドの王アマラとして
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「サルヴァン、強い気配が凄い速さで接近して来ている」
僕たちが街の宿屋の一室に集まり話し合っていると、アレサが何かを感じ取ったようだ。
「強い気配か。もしかしてアマラか?」
「どうだろうな。気配で言えば以前いたナーラだったか? ヤツのほうがよっぽど強い力を感じたが」
うーん、でもアマラは自分が来るって言ってたんだよね。メッセンジャーでも送りつけて来たのかな?
「でも魔神クラスなんだろ?」
「ああ、それは間違いない」
「よし、とにかく外へ出よう」
サルヴァンに促され僕らは宿屋を出て街中に出る。強い気配が街の方までやって来るとそれは空中で動きを止めた。辺りをキョロキョロしてるけど、もしかしてあれがアマラだろうか?
なんせ一度顔こそ合わせたけど3年も顔見てないからわかんないや。
そして僕らを見つけると、それは静かに大地に降り立ち、僕らの前に立った。するとそれを見ていた通行人達が一斉に地面に伏して距離を取る。
「ア、アマラ様だ、アマラ様が来てくださったぞ!」
「おお、ついに侵略者達に鉄槌が降るのですね」
街の人達の反応を見るにこの青年がアマラで間違いなさそうだ。
髪は以前より長く、前より精悍な顔つきになっている。そして確かにどこか王としての風格が感じられた。
「愛すべきニーグリンドの民よ。どうかこの愚かな王を許してほしい」
「……!?」
アマラの第一声があまりに意外だった。それに先ずは僕たちに向かって何かを言うと思ったのに、先に民に意識が向いていたことも意外だ。
「今、このニーグリンド。いや、ニーグリンドだけじゃない。この世界そのものが危機に瀕してしまった」
「え? どういうこと」
「しっ。とにかく最後まで聞こう」
アマラの意外な発言にリーネが口を挟もうとしたが阻止。アマラは民だけじゃなく僕たちにも伝えたいのだ。それになんかこうアマラからは悲痛な何かを感じる。多分彼は戦いに来たわけではないと思う。
「魔神ドレカヴァクは俺を裏切り、クリフォトの木を食い尽くしてしまった。そのせいでニーグリは魔王としての座を追われドレカヴァクの奴が魔王となっている。今、ニーグリはドレカヴァクと戦っているが勝てないだろうとあいつは言った」
アマラは歯を食いしばり僕たちに向かってハッキリと言った。その話に伏せていた民達が顔を上げる。皆信じられないという顔をしていた。
「その話は本当なのですか、アマラ様!」
そこへ駆けつけたニーグリの巫女マディンがアマラに聞き返す。
「本当だ。ニーグリは俺に逃げろと言った。だが俺はドレカヴァクを止めたい。だからお前らに頼みがある。この戦争は俺の負けでいい。どんな裁きでも甘んじて受けてやる。だから頼む。力を貸してくれ」
アマラはマディンに背を向けたまま僕たちを見据え、頭を下げた。その様子に街の人達がざわめく。僕らもあまりに予想していない展開だったが、アマラから感じる力はナーラにすら及ばない。恐らく、嘘は言っていないのだろう。ならば。
「サルヴァン。僕はアマラに力を貸したいと思ってる。もしドレカヴァクが本当に魔王として君臨してしまったのなら事はニーグリンドの話に収まらないよね」
「そうだな。あいつはライミスさんを恨んでいたし、以前討伐した俺達も恨んでいるはずだ。ニーグリンドの次はエストガレスに侵攻するだろうな」
「そうだねー。あいつはとにかく殺しまくるから放っておくなんてできないもんね」
「一点の曇りもない悪だからな。やはり人と戦うよりは悪魔と戦う方が気を使わなくていいから楽でいい」
どうやらみんな同じ考えらしい。ま、正直ちゃんと王様してるアマラよりは戦いやすい相手ではあるかな。それにしてもアマラってもっと自己中な奴だと思ってたけど、民を気遣える王様になったんだね。
「……恩に着る。今から向かいたい。行けるか?」
「時間はなさそうだな。それに居場所がハッキリしてるなら行ってやるさ。ルウ、飛翔魔法で一気に行くぞ」
「うん、みんな準備はいいよね?」
僕は収納から強化した飛翔の魔晶石を4つ取り出す。アマラは自分で飛べるだろうからいらないよね。
「待って! 私も連れて行って」
と、そこへ同行を望む声が。ルカだった。走ってきたのだろう、額に汗が滲んでいる。そしてアマラに近づくといきなり平手打ちをかました。その光景に辺りが凍りついた。
「……誰だっけ?」
アマラはその平手打ちを甘んじて受けたようだった。ルカは眉を釣り上げ頬を膨らませたまま怒りをぶつける。
「私はあんたとドレカヴァクが滅ぼした村の生き残りよ。あんたの気まぐれか何かは知らないけど、何故か私だけ生き残ってた。パパもママもあんたらのせいで死んだのよ。私はあなたを許さない!」
ルカが捲し立てるとアマラは驚いていたようだ。そして軽く自らの頬をさする。
「……すまなかった」
アマラは目を閉じてそう答えた。
「もうこれ以上私のような人を増やしたくないの。だから私も手伝ってあげる。だから私も連れていきなさいよ」
「……すまない」
すると今度は頭を下げる。ルカとしては複雑なのだろうが、自分のような人を増やしたくないというのは本心だろう。
僕はもう一つ飛翔の魔晶石を取り出し、そっとルカに手渡した。ルカはそれを受け取ると、力強く頷く。
「よし、アマラ。道案内を頼む。全員飛翔展開。目標は魔王ドレカヴァク。全身全霊をもって滅ぼすぞ!」
「「「「おう!」」」」
そしてアマラを先頭に空を飛び、僕らは魔王となったドレカヴァクに挑むのだった。
僕たちが街の宿屋の一室に集まり話し合っていると、アレサが何かを感じ取ったようだ。
「強い気配か。もしかしてアマラか?」
「どうだろうな。気配で言えば以前いたナーラだったか? ヤツのほうがよっぽど強い力を感じたが」
うーん、でもアマラは自分が来るって言ってたんだよね。メッセンジャーでも送りつけて来たのかな?
「でも魔神クラスなんだろ?」
「ああ、それは間違いない」
「よし、とにかく外へ出よう」
サルヴァンに促され僕らは宿屋を出て街中に出る。強い気配が街の方までやって来るとそれは空中で動きを止めた。辺りをキョロキョロしてるけど、もしかしてあれがアマラだろうか?
なんせ一度顔こそ合わせたけど3年も顔見てないからわかんないや。
そして僕らを見つけると、それは静かに大地に降り立ち、僕らの前に立った。するとそれを見ていた通行人達が一斉に地面に伏して距離を取る。
「ア、アマラ様だ、アマラ様が来てくださったぞ!」
「おお、ついに侵略者達に鉄槌が降るのですね」
街の人達の反応を見るにこの青年がアマラで間違いなさそうだ。
髪は以前より長く、前より精悍な顔つきになっている。そして確かにどこか王としての風格が感じられた。
「愛すべきニーグリンドの民よ。どうかこの愚かな王を許してほしい」
「……!?」
アマラの第一声があまりに意外だった。それに先ずは僕たちに向かって何かを言うと思ったのに、先に民に意識が向いていたことも意外だ。
「今、このニーグリンド。いや、ニーグリンドだけじゃない。この世界そのものが危機に瀕してしまった」
「え? どういうこと」
「しっ。とにかく最後まで聞こう」
アマラの意外な発言にリーネが口を挟もうとしたが阻止。アマラは民だけじゃなく僕たちにも伝えたいのだ。それになんかこうアマラからは悲痛な何かを感じる。多分彼は戦いに来たわけではないと思う。
「魔神ドレカヴァクは俺を裏切り、クリフォトの木を食い尽くしてしまった。そのせいでニーグリは魔王としての座を追われドレカヴァクの奴が魔王となっている。今、ニーグリはドレカヴァクと戦っているが勝てないだろうとあいつは言った」
アマラは歯を食いしばり僕たちに向かってハッキリと言った。その話に伏せていた民達が顔を上げる。皆信じられないという顔をしていた。
「その話は本当なのですか、アマラ様!」
そこへ駆けつけたニーグリの巫女マディンがアマラに聞き返す。
「本当だ。ニーグリは俺に逃げろと言った。だが俺はドレカヴァクを止めたい。だからお前らに頼みがある。この戦争は俺の負けでいい。どんな裁きでも甘んじて受けてやる。だから頼む。力を貸してくれ」
アマラはマディンに背を向けたまま僕たちを見据え、頭を下げた。その様子に街の人達がざわめく。僕らもあまりに予想していない展開だったが、アマラから感じる力はナーラにすら及ばない。恐らく、嘘は言っていないのだろう。ならば。
「サルヴァン。僕はアマラに力を貸したいと思ってる。もしドレカヴァクが本当に魔王として君臨してしまったのなら事はニーグリンドの話に収まらないよね」
「そうだな。あいつはライミスさんを恨んでいたし、以前討伐した俺達も恨んでいるはずだ。ニーグリンドの次はエストガレスに侵攻するだろうな」
「そうだねー。あいつはとにかく殺しまくるから放っておくなんてできないもんね」
「一点の曇りもない悪だからな。やはり人と戦うよりは悪魔と戦う方が気を使わなくていいから楽でいい」
どうやらみんな同じ考えらしい。ま、正直ちゃんと王様してるアマラよりは戦いやすい相手ではあるかな。それにしてもアマラってもっと自己中な奴だと思ってたけど、民を気遣える王様になったんだね。
「……恩に着る。今から向かいたい。行けるか?」
「時間はなさそうだな。それに居場所がハッキリしてるなら行ってやるさ。ルウ、飛翔魔法で一気に行くぞ」
「うん、みんな準備はいいよね?」
僕は収納から強化した飛翔の魔晶石を4つ取り出す。アマラは自分で飛べるだろうからいらないよね。
「待って! 私も連れて行って」
と、そこへ同行を望む声が。ルカだった。走ってきたのだろう、額に汗が滲んでいる。そしてアマラに近づくといきなり平手打ちをかました。その光景に辺りが凍りついた。
「……誰だっけ?」
アマラはその平手打ちを甘んじて受けたようだった。ルカは眉を釣り上げ頬を膨らませたまま怒りをぶつける。
「私はあんたとドレカヴァクが滅ぼした村の生き残りよ。あんたの気まぐれか何かは知らないけど、何故か私だけ生き残ってた。パパもママもあんたらのせいで死んだのよ。私はあなたを許さない!」
ルカが捲し立てるとアマラは驚いていたようだ。そして軽く自らの頬をさする。
「……すまなかった」
アマラは目を閉じてそう答えた。
「もうこれ以上私のような人を増やしたくないの。だから私も手伝ってあげる。だから私も連れていきなさいよ」
「……すまない」
すると今度は頭を下げる。ルカとしては複雑なのだろうが、自分のような人を増やしたくないというのは本心だろう。
僕はもう一つ飛翔の魔晶石を取り出し、そっとルカに手渡した。ルカはそれを受け取ると、力強く頷く。
「よし、アマラ。道案内を頼む。全員飛翔展開。目標は魔王ドレカヴァク。全身全霊をもって滅ぼすぞ!」
「「「「おう!」」」」
そしてアマラを先頭に空を飛び、僕らは魔王となったドレカヴァクに挑むのだった。
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