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第172話 ビルドVSアニキータ 後編

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「おいおい、まさか一発でおねんねか?」

 ビルドはニヤつきながら壁に埋まったままのアニキータを見やる。首をコキコキと鳴らし余裕さえ見せていた。

 そしてアニキータの指がピクリと動く。
 それを見たビルドはニィ、と白い歯を剥き出しにして笑った。

「ふっ、かなり効いたぞ……」

 アニキータはゆっくりと声を絞り出すと、むくりと立ち上がる。そしてビルドに向かって歩を進めた。

「フフン、そうこなくてはな。さぁ、次は貴様の番だ。見せてもらおうか。なんなら魔法で筋力を上げてもいいぞ?」
「そうか、なら遠慮なく使わせてもらうとしよう。だが俺が使うのは筋肉の増強などというものではない」
「ほう……?」
「見せてやろう、我が友より授かりし究極の筋肉魔法、燃焼ヒート! 燃え上がれ俺の筋肉愛!」

 アニキータの使った燃焼ヒートはルウが拡大解釈で変質させた筋肉愛を燃え上がらせる魔法である(※第70話参照)。アニキータはこの魔法を気に入り、ルウに頼んで契約文言を教えてもらっていたのであった。

「き、筋肉愛の増強魔法だと!?」
「フハハハハ、昂るぞ筋肉! 燃え上がれ俺の筋肉愛!」

 アニキータがサイドチェストのポーズをとると、アニキータを赤いオーラが包みこんだ。

「あ、あれはアニキータのスキル、火事場の筋肉愛!」
「か、火事場の筋肉愛……?」

 その様子にゴリマがそのスキル名を口にすると、ライミスがオウム返しに聞いてくる。

「そうだ。筋肉愛が頂点に達したときにしか使えないスキルのため滅多に発動しないが、一度発動すればそれはまさに怪力無双の超人となるだろう」
「き、筋肉愛……? 言葉の意味は良くわからないけど、とにかく凄そうなスキルだね」

 ライミスには筋肉愛というものが理解できなかったが、とにかく怪力無双になることだけは理解したのだった。

「うぬぬぬぬ、お、漢に二言はない。来いアニキータァァァッ!」

 アニキータの放つオーラに気圧されながらもその拳を受けるために気合を入れる。そして全力の覚悟を持って拳を待った。

「受けてみよ、俺の筋肉愛。真ギャラクティカマッスル!」

 アニキータの全てを込めた拳がビルドのみぞおちに食い込む。その破壊力に身体が浮きくの字に折れると、そのまま地面に叩きつけられ後方へと滑っていった。

 地面にはビルドの滑った跡が一本の線となって残っており、大地を穿っている。その様子に後ろで見ていたライミス達も言葉を失っていた。

 ドレカヴァクは立ち上がるとビルドの方へと歩み寄る。ビルドは白目をむいてピクピクと痙攣していた。

「まだ死んでないのか。じゃあトドメを刺しておくか。屍喰咬牙デスバイト

 ドレカヴァクの影が伸びる。それは巨大な黒い蛇のようなものに変化した。ただ蛇と違い目も鼻もなく、あるのは巨大な口だけである。その黒い影は口を開くとビルドの頭にかぶりついた。

 しかしビルドの首は硬く、なかなか噛みちぎれないようである。そうこうしているうちにビルドが目を覚ました。

「ぬうっ!? ドレカヴァク、貴様どういうつもりだぁっ!!」
「ちっ、目が覚めやがったか。さっさと死ねよテメーは」

 ビルドは首に食い込む牙を退けようと影に手をかける。しかしダメージが大きかったせいか力が入らなかった。そしてついに。

 グチャッ。

 ビルドの首が影によって食いちぎられた。

「な、仲間割れ……?」
「これはどういう状況なんだ?」

 ドレカヴァクのまさかの行動にライミス達もアニキータもただ見ているしかできなかった。

「どういうつもりか知らんが次は貴様ということでいいな?」

 赤いオーラをその身に宿らせたままアニキータが一歩を踏み出す。ビルドとの勝負を穢されたようで腹立たしかったのだ。

「悪いがテメーらとなんかやってられるか。俺の目的はこいつの死体の回収さ。協力ありがとさん」
「逃げるか!」
「その通り。あばよ!」

 ドレカヴァクは首のなくなったビルドを抱え空に舞い上がる。そしてひらひらと手を振ると本体の待つ聖都に向かって飛び立っていった。

「一体何が起こっているというんだ?」
「恐らくですが、ドレカヴァクがアマラに反旗を翻したということかもしれませんね」

 ライミスの問いにリオネッセが答える。

「そういえば飛んで行った方向は聖都の方角じゃないか? まだ何か起こるのかもしれんな」

 アニキータはドレカヴァクが飛んで行った方向を眺め腕を組んだ。何かが起こる。そんな予感がしてならなかったのだ。







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