176 / 188
第170話 メレーズの街へ
しおりを挟む
ナーラと魔神龍を退けた後、僕らエストガレス軍がメレーズの街の門に向かうと大勢の人々が門に押し寄せていた。
「歓迎、って雰囲気じゃなさそうだな」
街の人々は殺気立っており、僕たちを睨みつけている。普通こういうときって怖がって家の中に引っ込むもんだと思うんだけど。この反応はかなり意外だ。
「侵略者は帰れ!」
子供が石を拾って投げつける。しかもその狙いはエリオット殿下だ。
サルヴァンが殿下の前に立ち、その石を素手で受け止める。
「殿下、お下がりください」
「あ、ああ」
ただならぬ雰囲気に殿下が少し下がる。
「見ろ、下がったぞ! 俺達にびびっているんだ」
誰かが叫ぶ。
「よし、俺も投げつけてやる」
そしてまた他の誰かが石を投げた。それがきっかけになったのか、他の人々も石を投げ始める。さすがにそんなもの受ける気にはならないので防壁で防ぐけどさ。
広く張り巡らした魔法の壁に遮られ石は次々と弾かれ地面へと落ちていく。それでも投石は止まない。
「弱りましたな。武力行使をすれば我々は大義名分を失い、戦後に禍根を残すことになりますぞ」
「一体どうしたものか。ルウよ、何か良い知恵はないか?」
将軍が殿下に指示を仰ぐとその殿下が僕に話を振る。うーん、興奮状態を弱化でなんとかならんかな?
「俺が行きますよ。石くらい当たってもどうってことない。ルウ、ちょっと壁に穴開けるから頼むな」
「わかった」
ここはサルヴァンに任せよう。多分石をぶつけられても平気なところを見せて威圧するつもりだろう。
サルヴァンがおもむろに壁を殴りつけ、ひびを入れる。さらにもう2発殴ると人が通れるくらいの穴が空いた。サルヴァンがそこをくぐり抜けたところを狙い石が飛ぶ。
しかしサルヴァンは全く意に介さず穴をくぐり抜け、街の人達に向かって歩を進めた。僕はすぐさま防壁を重ねて穴を塞ぐ。
そしてサルヴァンはゆっくりと歩く。大量の石がサルヴァンにぶち当たるが、一滴の血を流すことなく街の人達に近づいた。
よし、興奮状態を弱化、威圧効果を強化だ。
その2つの効果も相まってサルヴァンにびびった街の人達の投石が止む。
「ひっ……!」
それどころか怯えた声を出す者も現れた。サルヴァンはただ黙って腕を組み、街の人達の前に立ちはだかる。
「お待ちなさい」
と、そこへ響く透った声。その声が届くと同時に人垣が割れ、一本の道となる。その奥から一人の女性が姿を現した。
「私の名はマディン。このメレーズの街のニーグリ様に仕える巫女です」
巫女様?
漆黒のゴスロリと猫耳ヘアバンドを付けていると話には聞いていたけど、ニーグリの巫女ってことは女装した男だよね?
ぱっと見女性にしか見えないよ……。
「俺は義勇兵代表のサルヴァンだ。巫女ってことはあんたがこの街の代表か?」
「領主ではありませんが、全権は私に委任されています。そう思っていただいてかまいません」
サルヴァンを前にしても全く怯えることなく対峙している。巫女はニーグリやアマラによって力を与えられるらしく、恐らくこの人も人魔というやつなのだろう。
「そうか、ならこちらの代表と話をしてもらいたい。かまわんな?」
「それには及びません。貴方がたにアマラ様からの言葉を伝えます」
「アマラから……?」
「様をつけなさい無礼者よ。いえ、侵略者ですものね、礼儀を守らないのは当然のことでしたか。失礼いたしました」
サルヴァンがアマラを呼び捨てにしたことが気に入らなかったらしい。巫女は微笑んで皮肉たっぷりに言葉を吐く。目が全く笑ってないわ。
「煽るなよ。話を進めてくれ」
「では伝えます。『メレーズの街占領おめでとう。金さえ払うなら補給くらいはさせてやる。ただし、略奪や虐殺は許さん。そのうち俺がこの街を取り返しに来てやるから首を洗って待っていろ』だそうです」
巫女がアマラからの言葉を伝えると、街の人々は顔を見合わせ万歳を始めた。
「おお、アマラ様がこの街を救いに来てくださるぞ!」
「さすがアマラ様!」
「アマラ様バンザーイ!」
なんかもう戦う前から戦勝ムードを出してるんですけど。それにしてもいくら善政を敷いているとはいえ、よくまぁ悪魔達の支配を受け入れてるよなぁ、って思う。話を聞いてみたいもんだけど。
「なるほど、ここで待っていれば大将自ら来てくれるわけか。手間が省けて助かる」
こうして僕らはメレーズの街に入ることができた。そういえばナターシャ様の話だと他にも公爵級悪魔がいるはずなんだけど、そいつらも連れてくるんだろうか。ニーグリまで一緒に来たらちょっと勝ち目薄いかもしんないなぁ……。
「歓迎、って雰囲気じゃなさそうだな」
街の人々は殺気立っており、僕たちを睨みつけている。普通こういうときって怖がって家の中に引っ込むもんだと思うんだけど。この反応はかなり意外だ。
「侵略者は帰れ!」
子供が石を拾って投げつける。しかもその狙いはエリオット殿下だ。
サルヴァンが殿下の前に立ち、その石を素手で受け止める。
「殿下、お下がりください」
「あ、ああ」
ただならぬ雰囲気に殿下が少し下がる。
「見ろ、下がったぞ! 俺達にびびっているんだ」
誰かが叫ぶ。
「よし、俺も投げつけてやる」
そしてまた他の誰かが石を投げた。それがきっかけになったのか、他の人々も石を投げ始める。さすがにそんなもの受ける気にはならないので防壁で防ぐけどさ。
広く張り巡らした魔法の壁に遮られ石は次々と弾かれ地面へと落ちていく。それでも投石は止まない。
「弱りましたな。武力行使をすれば我々は大義名分を失い、戦後に禍根を残すことになりますぞ」
「一体どうしたものか。ルウよ、何か良い知恵はないか?」
将軍が殿下に指示を仰ぐとその殿下が僕に話を振る。うーん、興奮状態を弱化でなんとかならんかな?
「俺が行きますよ。石くらい当たってもどうってことない。ルウ、ちょっと壁に穴開けるから頼むな」
「わかった」
ここはサルヴァンに任せよう。多分石をぶつけられても平気なところを見せて威圧するつもりだろう。
サルヴァンがおもむろに壁を殴りつけ、ひびを入れる。さらにもう2発殴ると人が通れるくらいの穴が空いた。サルヴァンがそこをくぐり抜けたところを狙い石が飛ぶ。
しかしサルヴァンは全く意に介さず穴をくぐり抜け、街の人達に向かって歩を進めた。僕はすぐさま防壁を重ねて穴を塞ぐ。
そしてサルヴァンはゆっくりと歩く。大量の石がサルヴァンにぶち当たるが、一滴の血を流すことなく街の人達に近づいた。
よし、興奮状態を弱化、威圧効果を強化だ。
その2つの効果も相まってサルヴァンにびびった街の人達の投石が止む。
「ひっ……!」
それどころか怯えた声を出す者も現れた。サルヴァンはただ黙って腕を組み、街の人達の前に立ちはだかる。
「お待ちなさい」
と、そこへ響く透った声。その声が届くと同時に人垣が割れ、一本の道となる。その奥から一人の女性が姿を現した。
「私の名はマディン。このメレーズの街のニーグリ様に仕える巫女です」
巫女様?
漆黒のゴスロリと猫耳ヘアバンドを付けていると話には聞いていたけど、ニーグリの巫女ってことは女装した男だよね?
ぱっと見女性にしか見えないよ……。
「俺は義勇兵代表のサルヴァンだ。巫女ってことはあんたがこの街の代表か?」
「領主ではありませんが、全権は私に委任されています。そう思っていただいてかまいません」
サルヴァンを前にしても全く怯えることなく対峙している。巫女はニーグリやアマラによって力を与えられるらしく、恐らくこの人も人魔というやつなのだろう。
「そうか、ならこちらの代表と話をしてもらいたい。かまわんな?」
「それには及びません。貴方がたにアマラ様からの言葉を伝えます」
「アマラから……?」
「様をつけなさい無礼者よ。いえ、侵略者ですものね、礼儀を守らないのは当然のことでしたか。失礼いたしました」
サルヴァンがアマラを呼び捨てにしたことが気に入らなかったらしい。巫女は微笑んで皮肉たっぷりに言葉を吐く。目が全く笑ってないわ。
「煽るなよ。話を進めてくれ」
「では伝えます。『メレーズの街占領おめでとう。金さえ払うなら補給くらいはさせてやる。ただし、略奪や虐殺は許さん。そのうち俺がこの街を取り返しに来てやるから首を洗って待っていろ』だそうです」
巫女がアマラからの言葉を伝えると、街の人々は顔を見合わせ万歳を始めた。
「おお、アマラ様がこの街を救いに来てくださるぞ!」
「さすがアマラ様!」
「アマラ様バンザーイ!」
なんかもう戦う前から戦勝ムードを出してるんですけど。それにしてもいくら善政を敷いているとはいえ、よくまぁ悪魔達の支配を受け入れてるよなぁ、って思う。話を聞いてみたいもんだけど。
「なるほど、ここで待っていれば大将自ら来てくれるわけか。手間が省けて助かる」
こうして僕らはメレーズの街に入ることができた。そういえばナターシャ様の話だと他にも公爵級悪魔がいるはずなんだけど、そいつらも連れてくるんだろうか。ニーグリまで一緒に来たらちょっと勝ち目薄いかもしんないなぁ……。
6
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
異世界転移は分解で作成チート
キセル
ファンタジー
黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。
そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。
※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。
1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。
よろしければお気に入り登録お願いします。
あ、小説用のTwitter垢作りました。
@W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。
………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。
ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる