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第96話 龍炎光牙の方針
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その日、僕たち龍炎光牙はこの先のことを話し合った。場所はサルヴァンと僕が間借りしている部屋だ。それぞれがベッドに座りながらの会議である。
「まず貴族になるのは却下だな。はっきり言って俺たちが貴族社会で生きていくのは無理だろう。ルウが貴族になって俺らが家臣になる、ってんならいいけどな」
「僕が嫌なんだけど」
今までの関係性が壊れるのは嫌だな。サルヴァンをリーダーに据えることでバランスが取れているのに。
「あ、あのさ、私学校を作りたい。それは貴族じゃないと難しいんだよね?」
「うーん、どうだろう。そりゃ確かに政治の話になるだろうからね。でもリーネがやりたいことの根幹はさ、ストリートチルドレンを救うことだよね?」
仮に僕が教えるとなると、当然僕の技術を教えるよう国は求めるだろう。そうなると集まるのは結局エリートばかりになると思う。ましてや僕らはこの後英雄として祭り上げられることになる。周りは過剰な期待を寄せるのが目に見えているんだよね。
「う、うん。私たちは運良く生き残って力もお金も手に入れた。でも救われていない子はたくさんいるし、私たちだからこそ手を差し伸べる意味があると思うの」
「うん、それなら貴族にならない方が現実的だと思うよ? 何も一気に大きなことに挑戦しなくていいんじゃないかな?」
「どういうことだ?」
サルヴァンが身を乗り出す。ストリートチルドレンの星になる。それがサルヴァンの夢なのを僕は知っている。興味を寄せるのは当然かもしれない。
「まずは僕たちのいたコミュニティから始めるんだよ。つまりそのコミュニティを丸ごとクランにしてしまうんだ。冒険者になりたい子には冒険者になるための勉強を。商人になりたい子には商人になるための勉強をさせればいい。幸い僕らはベルナール商会との繋がりを持つことも可能だからね」
まだベルナール商会の依頼は1回しか受けていないから、大した繋がりはまだ出来ていないだろう。だからこれから深い関係を築けばいいし、それは決して絵空事でもない。
「なるほど……。自分たちのコミュニティから新しい冒険者を世に送り出すわけか。しっかりと知識と技術を教えてからなら安心して冒険者になれるな」
これは成功した僕らだからこそできることでもある。僕らが教えることで大きな成功を収める冒険者が増えれば、意志を継いでくれる人も生まれると思う。
「そっか、私たちの規模でも近隣のコミュニティに声をかければ20人以上にはなる。でもそうなると教える側の人数足りなくない?」
「ルード達にも声をかけようと思う。他にもストリートチルドレンあがりの冒険者は少なくないし、賛同は得られると思うよ。最初は凄く苦労すると思うけどね」
まずは同じストリートチルドレンのパーティに声をかけ、仲間を増やす必要がある。とにかく教える側の人数を確保するために賛同者を募らないといけないよね。
「だがやってみたくはあるな。そうなるとまずはやはり自分たちのコミュニティから人材を育て上げて徐々に、だな。ヘタイロスなら読み書きも教えられるし、魔法の才能があればルウが伸ばしてやれるもんな」
「最初は人員が足りないからね。メイドさんとかハウスキーパーやってくれる人も探さないといけないし、広い土地も欲しい。お金はかかるけどなんとかなると思う」
メイドさんは今クランで働いている人にお願いしてもいいと思う。当面の問題はお金だよねやっぱり。ドレカヴァク討伐で報奨金出ると嬉しいけど。
「よし、なら決を取ろう。俺たちは新しいクランを作る。メンバーはまずは俺たちのいたコミュニティメンバー全員。そしてメンバーに教育を施し、人材を育てる。それでやってみたい者は手を挙げろ」
サルヴァンが決を取ると、アレサもリーネも僕も肘を真っ直ぐ伸ばして手を挙げた。この先の道は困難かもしれない。でもこの先に僕らの理想があるのなら。
「……決まりだな。新しいクランの名前を決めないとな。そうだな……、生命を育む家だからな。セフィロトの家なんてどうだ?」
セフィロトは伝承にある生命の樹だ。創世神話に出てくる樹で、その身から人間が生まれたとされている。そのセフィロトの樹を植えたのがアルテア様だそうだ。
その反対にクリフォトの樹、っていうのがあって、その実から生まれたのが悪魔だという神話がある。
「さすがに不敬ではないか……?」
アルテア様の植えた聖なる生命の樹を名前に使うなんて大胆だなと思う。
「リーネがいるし大丈夫だろ」
「え? なんで?」
なんでそこでリーネ?
「あ、ルウには言ってなかったな。リーネがアルテア様を喚び出したのは王子殿下が証人だからな。リーネはアルテア様の御使いだと思われててな。それでリーネも聖女として克肖女の称号が与えられるそうだ」
あー、そりゃアルテア様召喚とか普通に考えて御使い様だわ。教会としても全力で祭り上げて囲い込みたいよね。
「リーネ、おめでとう?」
「……なんで疑問形? そりゃ複雑だけど」
「しかもその時の話を聞いた吟遊詩人が痛く感動してな。もう詩になること必至だぞ」
「なにぃぃぃぃっっっ!?」
は、は、恥ずかし過ぎる……。吟遊詩人が詩にしたら脚色しまくりなのは当たり前。一体どんな熱いラブストーリーを語るつもりなんですかね……?
っていうか、なんでそんな話を吟遊詩人が聞いているのさ!
「愛のメモリーだね。恥ずかしいけど。吟遊詩人の人達に是非話を、と言われてちょっと盛っちゃった」
「ああ、嬉々として話してたな。この愛の奇跡という部分を強調するように要求までしていたぞ。完成したら聞かせてくれるそうだ。あと超龍炎光牙剣も詩になるぞ」
アレサが笑いを必死に堪えながら話してくれた。しかも超龍炎光牙剣もかい。
リーネはリーネで両手を頬に当て、キャーキャー言いながら照れ笑いをしつつ首を振っている。
後で一緒に羞恥の波に飲まれようね?
「まず貴族になるのは却下だな。はっきり言って俺たちが貴族社会で生きていくのは無理だろう。ルウが貴族になって俺らが家臣になる、ってんならいいけどな」
「僕が嫌なんだけど」
今までの関係性が壊れるのは嫌だな。サルヴァンをリーダーに据えることでバランスが取れているのに。
「あ、あのさ、私学校を作りたい。それは貴族じゃないと難しいんだよね?」
「うーん、どうだろう。そりゃ確かに政治の話になるだろうからね。でもリーネがやりたいことの根幹はさ、ストリートチルドレンを救うことだよね?」
仮に僕が教えるとなると、当然僕の技術を教えるよう国は求めるだろう。そうなると集まるのは結局エリートばかりになると思う。ましてや僕らはこの後英雄として祭り上げられることになる。周りは過剰な期待を寄せるのが目に見えているんだよね。
「う、うん。私たちは運良く生き残って力もお金も手に入れた。でも救われていない子はたくさんいるし、私たちだからこそ手を差し伸べる意味があると思うの」
「うん、それなら貴族にならない方が現実的だと思うよ? 何も一気に大きなことに挑戦しなくていいんじゃないかな?」
「どういうことだ?」
サルヴァンが身を乗り出す。ストリートチルドレンの星になる。それがサルヴァンの夢なのを僕は知っている。興味を寄せるのは当然かもしれない。
「まずは僕たちのいたコミュニティから始めるんだよ。つまりそのコミュニティを丸ごとクランにしてしまうんだ。冒険者になりたい子には冒険者になるための勉強を。商人になりたい子には商人になるための勉強をさせればいい。幸い僕らはベルナール商会との繋がりを持つことも可能だからね」
まだベルナール商会の依頼は1回しか受けていないから、大した繋がりはまだ出来ていないだろう。だからこれから深い関係を築けばいいし、それは決して絵空事でもない。
「なるほど……。自分たちのコミュニティから新しい冒険者を世に送り出すわけか。しっかりと知識と技術を教えてからなら安心して冒険者になれるな」
これは成功した僕らだからこそできることでもある。僕らが教えることで大きな成功を収める冒険者が増えれば、意志を継いでくれる人も生まれると思う。
「そっか、私たちの規模でも近隣のコミュニティに声をかければ20人以上にはなる。でもそうなると教える側の人数足りなくない?」
「ルード達にも声をかけようと思う。他にもストリートチルドレンあがりの冒険者は少なくないし、賛同は得られると思うよ。最初は凄く苦労すると思うけどね」
まずは同じストリートチルドレンのパーティに声をかけ、仲間を増やす必要がある。とにかく教える側の人数を確保するために賛同者を募らないといけないよね。
「だがやってみたくはあるな。そうなるとまずはやはり自分たちのコミュニティから人材を育て上げて徐々に、だな。ヘタイロスなら読み書きも教えられるし、魔法の才能があればルウが伸ばしてやれるもんな」
「最初は人員が足りないからね。メイドさんとかハウスキーパーやってくれる人も探さないといけないし、広い土地も欲しい。お金はかかるけどなんとかなると思う」
メイドさんは今クランで働いている人にお願いしてもいいと思う。当面の問題はお金だよねやっぱり。ドレカヴァク討伐で報奨金出ると嬉しいけど。
「よし、なら決を取ろう。俺たちは新しいクランを作る。メンバーはまずは俺たちのいたコミュニティメンバー全員。そしてメンバーに教育を施し、人材を育てる。それでやってみたい者は手を挙げろ」
サルヴァンが決を取ると、アレサもリーネも僕も肘を真っ直ぐ伸ばして手を挙げた。この先の道は困難かもしれない。でもこの先に僕らの理想があるのなら。
「……決まりだな。新しいクランの名前を決めないとな。そうだな……、生命を育む家だからな。セフィロトの家なんてどうだ?」
セフィロトは伝承にある生命の樹だ。創世神話に出てくる樹で、その身から人間が生まれたとされている。そのセフィロトの樹を植えたのがアルテア様だそうだ。
その反対にクリフォトの樹、っていうのがあって、その実から生まれたのが悪魔だという神話がある。
「さすがに不敬ではないか……?」
アルテア様の植えた聖なる生命の樹を名前に使うなんて大胆だなと思う。
「リーネがいるし大丈夫だろ」
「え? なんで?」
なんでそこでリーネ?
「あ、ルウには言ってなかったな。リーネがアルテア様を喚び出したのは王子殿下が証人だからな。リーネはアルテア様の御使いだと思われててな。それでリーネも聖女として克肖女の称号が与えられるそうだ」
あー、そりゃアルテア様召喚とか普通に考えて御使い様だわ。教会としても全力で祭り上げて囲い込みたいよね。
「リーネ、おめでとう?」
「……なんで疑問形? そりゃ複雑だけど」
「しかもその時の話を聞いた吟遊詩人が痛く感動してな。もう詩になること必至だぞ」
「なにぃぃぃぃっっっ!?」
は、は、恥ずかし過ぎる……。吟遊詩人が詩にしたら脚色しまくりなのは当たり前。一体どんな熱いラブストーリーを語るつもりなんですかね……?
っていうか、なんでそんな話を吟遊詩人が聞いているのさ!
「愛のメモリーだね。恥ずかしいけど。吟遊詩人の人達に是非話を、と言われてちょっと盛っちゃった」
「ああ、嬉々として話してたな。この愛の奇跡という部分を強調するように要求までしていたぞ。完成したら聞かせてくれるそうだ。あと超龍炎光牙剣も詩になるぞ」
アレサが笑いを必死に堪えながら話してくれた。しかも超龍炎光牙剣もかい。
リーネはリーネで両手を頬に当て、キャーキャー言いながら照れ笑いをしつつ首を振っている。
後で一緒に羞恥の波に飲まれようね?
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