95 / 188
第92話 《リーネの視点》愛の奇跡〜ウイッシュ〜
しおりを挟む
なに?
何が起こったの?
気がつけば私はルウに突き飛ばされ、尻もちをついていた。そして、私の目の前にいるルウの首筋にドレカヴァクの生首が噛みついている。
膝をついていたルウは吐血し、苦しそうに両手を血につけた。息が荒い。傷はそれほど深くはない。大した血は出ていないのにルウはとても苦しそうだ。
「ルウ君を離しなさい! 審判!」
リオネッセさんの審判の光がルウと私を包む。
光の中はとても眩しい。思わず腕で目を覆い隠す。ドレカヴァクの悲鳴は聞こえない。
それでも光が収まるとドレカヴァクは完全に消えていた。
ルウは両手を地面につけ、四つん這いになったままだ。そしてまた血を吐く。
「ルウ!」
「いけません、蘇生!」
暖かい光がルウを包む。
これでルウは助かる。そう思っていた。
なのにどうして!?
光は弾けるように散り散りに飛ばされ、ルウの傷は全く治っていない。
「そんな……!」
「ど、どうして……!? も、もう一度!」
再度リオネッセさんが蘇生をかける。しかしやはり光は弾けるように飛ばされ、傷は治らない。
「いったいなにが? 鑑定」
アレイスターさんが鑑定魔法をかける。
次の瞬間アレイスターさんの目が大きく広がり、ワナワナと震える。
「こ、こんなことが……!? ド、ドレカヴァク化……だと!?」
「ドレカヴァク化だって!?」
え?
一瞬何を言っているのかわからなかった。
ルウがドレカヴァクに?
「ま、参ったよ……」
ルウが苦しそうに言葉を吐き出す。
「魔法が使えないんだ……。拡大解釈も封じられてる……。どうやったら、ここから、巻き返せるのか……、全く思いつかないや……」
嫌だ!
嫌だよルウ。ルウの口からそんな言葉聞きたくないよ!
諦めないでよ!
ルウは、ルウは私のヒーローなんだから!
そのときだった。虚空に憎たらしいあの声が響いたのは。
『ギャーッハッハッハッ! 俺様の勝ちだぜライミスぅっ! こいつの身体はすげぇぞぉっ! 魔力に満ち満ちている上にとんでもねぇスキルを持っていやがった! こいつの魂を喰らい、肉体を戴くぜ! この力があれば俺様も公爵級の仲間入りだぜ!』
「はっ……、僕の身体を奪うとか好き勝手言わないで欲しいな……」
ルウ、なにか閃いたの?
そうだよね、ルウがこのままやられっぱなしでいるわけないよね?
そう思っていたのに、どうして……。
次にルウの口から出て来た言葉は、私が1番聞きたくない言葉だった。
「ごめん、みんな……。早く、僕を殺して」
「いや……!」
やだやだやだやだやだやだ!
どうしてそんなこと言うの?
ずっと一緒だって言ってくれたのに……。
とめどなく涙が溢れる。サルヴァンもアレサも目に涙を溜めていた。誰も望んでいないのに。誰か、誰かルウを助けてよ!
「わかった……。この罪、クランのリーダーとして、僕が背負おう。僕のことを恨んでくれて構わない。ルウ、君のことは忘れない」
ライミスさんが剣を掲げた。全身の光が剣に集約されていく。
「いや、 嫌だよルウ……。 ずっと、ずっと一緒だって言ったのに……」
私はルウに縋り付く。一緒に斬られたっていい。私の命をあげたっていい。ルウが、それでルウが助かるなら。
「お願い神様、ルウを助けて!」
私は祈るように叫ぶ。
すると、私のパパラチアサファイアの指輪が光り輝き始めた。ルウに貰った大切な指輪だ。
そしてその指輪から光り輝く文字が出て来る。
『リ』『ー』『ネ』『い』『つ』『も』『あ』『り』『が』『と』『う』『な』『か』『な』『か』『い』『え』『な』『い』『け』『ど』『あ』『な』『た』『の』『こ』『と』『を』『あ』『い』『し』『て』『い』『ま』『す』
リーネいつもありがとう。なかなか言えないけど、あなたのことを愛しています。
そうか、ルウが言ってた気持ちを込めた、ってそういうことだったんだ……。
バカ……。こんなときに言われたらどんな顔していいかわからないよ……。
「こ、これは……?」
みんなが驚くなか、その文字のいくつかが動き始める。そしてそれは1つの文を作った。
『あ』『な』『た』『の』『ネ』『が』『い』『を』『か』『な』『え』『ま』『す』
あなたの願いを叶えます……?
これは……。
「これはいったい……?」
「な、何が起こっているんだ?」
みんなも何が起こっているのかわからないようだった。
そして私の心の中に何か言葉が届けられた。
──呼びなさい、私の名を。至高の神聖魔法を貴方に。
とても優しく、それでいて厳かな声。その声の主が誰なのか、何となくわかる。そして私の心に1つの魔法が浮かびあがるのを感じた。
それはどんな魔法の書にもない、伝承にすら残っていない魔法だった。
「お願いしますアルテア様。ルウを、私のルウをお助けください。願い……」
全ての文字がクルクル回り始め、それはやがて光の粒子となって人の形を象る。
やがてその人の形は1人の美しく長い黒髪を結わえ、白い荘厳な衣装を身にまとった女性へと姿を変えた。目は閉じているけど、なんというか、神々しいとしか表現のしようがないほどの高みを感じる。
「ま、まさかアルテア様……?」
リオネッセさんが何かを感じたのかそう呟いた。そして涙を流し、両手を組んで跪く。
皆も感化された、というよりはその女性の持つ威光の前に跪いた。ただ私だけはちょっと呆然としていた。
「あなたの心の願い、確かに聞き届けました。魔神ドレカヴァク。我が愛し子に働く狼藉、これ以上は見過ごせません。愛と調和の神たるアルテアの名の元に貴方に裁きを」
アルテア様がそう宣言すると、その目が見開かれた。
何が起こったの?
気がつけば私はルウに突き飛ばされ、尻もちをついていた。そして、私の目の前にいるルウの首筋にドレカヴァクの生首が噛みついている。
膝をついていたルウは吐血し、苦しそうに両手を血につけた。息が荒い。傷はそれほど深くはない。大した血は出ていないのにルウはとても苦しそうだ。
「ルウ君を離しなさい! 審判!」
リオネッセさんの審判の光がルウと私を包む。
光の中はとても眩しい。思わず腕で目を覆い隠す。ドレカヴァクの悲鳴は聞こえない。
それでも光が収まるとドレカヴァクは完全に消えていた。
ルウは両手を地面につけ、四つん這いになったままだ。そしてまた血を吐く。
「ルウ!」
「いけません、蘇生!」
暖かい光がルウを包む。
これでルウは助かる。そう思っていた。
なのにどうして!?
光は弾けるように散り散りに飛ばされ、ルウの傷は全く治っていない。
「そんな……!」
「ど、どうして……!? も、もう一度!」
再度リオネッセさんが蘇生をかける。しかしやはり光は弾けるように飛ばされ、傷は治らない。
「いったいなにが? 鑑定」
アレイスターさんが鑑定魔法をかける。
次の瞬間アレイスターさんの目が大きく広がり、ワナワナと震える。
「こ、こんなことが……!? ド、ドレカヴァク化……だと!?」
「ドレカヴァク化だって!?」
え?
一瞬何を言っているのかわからなかった。
ルウがドレカヴァクに?
「ま、参ったよ……」
ルウが苦しそうに言葉を吐き出す。
「魔法が使えないんだ……。拡大解釈も封じられてる……。どうやったら、ここから、巻き返せるのか……、全く思いつかないや……」
嫌だ!
嫌だよルウ。ルウの口からそんな言葉聞きたくないよ!
諦めないでよ!
ルウは、ルウは私のヒーローなんだから!
そのときだった。虚空に憎たらしいあの声が響いたのは。
『ギャーッハッハッハッ! 俺様の勝ちだぜライミスぅっ! こいつの身体はすげぇぞぉっ! 魔力に満ち満ちている上にとんでもねぇスキルを持っていやがった! こいつの魂を喰らい、肉体を戴くぜ! この力があれば俺様も公爵級の仲間入りだぜ!』
「はっ……、僕の身体を奪うとか好き勝手言わないで欲しいな……」
ルウ、なにか閃いたの?
そうだよね、ルウがこのままやられっぱなしでいるわけないよね?
そう思っていたのに、どうして……。
次にルウの口から出て来た言葉は、私が1番聞きたくない言葉だった。
「ごめん、みんな……。早く、僕を殺して」
「いや……!」
やだやだやだやだやだやだ!
どうしてそんなこと言うの?
ずっと一緒だって言ってくれたのに……。
とめどなく涙が溢れる。サルヴァンもアレサも目に涙を溜めていた。誰も望んでいないのに。誰か、誰かルウを助けてよ!
「わかった……。この罪、クランのリーダーとして、僕が背負おう。僕のことを恨んでくれて構わない。ルウ、君のことは忘れない」
ライミスさんが剣を掲げた。全身の光が剣に集約されていく。
「いや、 嫌だよルウ……。 ずっと、ずっと一緒だって言ったのに……」
私はルウに縋り付く。一緒に斬られたっていい。私の命をあげたっていい。ルウが、それでルウが助かるなら。
「お願い神様、ルウを助けて!」
私は祈るように叫ぶ。
すると、私のパパラチアサファイアの指輪が光り輝き始めた。ルウに貰った大切な指輪だ。
そしてその指輪から光り輝く文字が出て来る。
『リ』『ー』『ネ』『い』『つ』『も』『あ』『り』『が』『と』『う』『な』『か』『な』『か』『い』『え』『な』『い』『け』『ど』『あ』『な』『た』『の』『こ』『と』『を』『あ』『い』『し』『て』『い』『ま』『す』
リーネいつもありがとう。なかなか言えないけど、あなたのことを愛しています。
そうか、ルウが言ってた気持ちを込めた、ってそういうことだったんだ……。
バカ……。こんなときに言われたらどんな顔していいかわからないよ……。
「こ、これは……?」
みんなが驚くなか、その文字のいくつかが動き始める。そしてそれは1つの文を作った。
『あ』『な』『た』『の』『ネ』『が』『い』『を』『か』『な』『え』『ま』『す』
あなたの願いを叶えます……?
これは……。
「これはいったい……?」
「な、何が起こっているんだ?」
みんなも何が起こっているのかわからないようだった。
そして私の心の中に何か言葉が届けられた。
──呼びなさい、私の名を。至高の神聖魔法を貴方に。
とても優しく、それでいて厳かな声。その声の主が誰なのか、何となくわかる。そして私の心に1つの魔法が浮かびあがるのを感じた。
それはどんな魔法の書にもない、伝承にすら残っていない魔法だった。
「お願いしますアルテア様。ルウを、私のルウをお助けください。願い……」
全ての文字がクルクル回り始め、それはやがて光の粒子となって人の形を象る。
やがてその人の形は1人の美しく長い黒髪を結わえ、白い荘厳な衣装を身にまとった女性へと姿を変えた。目は閉じているけど、なんというか、神々しいとしか表現のしようがないほどの高みを感じる。
「ま、まさかアルテア様……?」
リオネッセさんが何かを感じたのかそう呟いた。そして涙を流し、両手を組んで跪く。
皆も感化された、というよりはその女性の持つ威光の前に跪いた。ただ私だけはちょっと呆然としていた。
「あなたの心の願い、確かに聞き届けました。魔神ドレカヴァク。我が愛し子に働く狼藉、これ以上は見過ごせません。愛と調和の神たるアルテアの名の元に貴方に裁きを」
アルテア様がそう宣言すると、その目が見開かれた。
21
お気に入りに追加
763
あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる