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第85話 惨劇の後に

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「いえ、あそこでアマラを捕縛しに行った場合、ドレカヴァクの動きが早まるだけです。アマラを見捨てて他の街を襲うでしょう」

 つまりどっちに転んでもドレカヴァクを捕らえることは出来なかった。少なくともあの時点ではベターな選択だったと思う。アレクさんが責任を感じる必要はないと思う。

「私もそう思います。今はとにかくすぐに村の様子を見に行くべきでしょう」
「リーネを連れて行けばすぐに村に着くはずだ。襲われている可能性もある。それなりの戦力は必要だろ」

 リオネッセさんも村の様子が気になるのだろう。すぐに行くことを主張する。サルヴァンもその意見には賛成のようだ。

「よし、なら勇猛と神撃、龍炎光牙全員で行こう。ルウ君の作業も大事だが、リオネッセを連れて行かないわけにはいかない。すまないが中断だ。残りはここで待機!」
「わかった」

 ライミスさんが指示を出し、僕達はあの村へ急行することになった。




 そして村へと戻って来たんだけど、酷いものだった。あちこちからする死臭、血の跡、壊れた家屋。今の時刻は昼の3時。しかし人っ子一人見当たらない。

「アレイスター、どうだ?」
「ダメだな、生命反応は……、ん?    微かだが小さい反応があるな」

 アレイスター師匠の捜索サーチに一つだけ反応があったようだ。

「すぐに向かいましょう。案内を」
「ああ、こっちだ」

 アレイスター師匠が先導する。その後を僕達が追う。人の死体が全然見当たらない。しかし死臭は酷い。なんなんだろうね、全く。

 ようやく辿り着いたのは壊れた家屋。壁は破壊されて穴が空いており、そこかしこに血がこびりついている。

「反応はこの下からだな」

 木の床の中に下に続く通路はなさそうだ。でも反応は下だという。なら穴を空けよう。

破壊ディストラクション

 魔法で木の床を破壊する。するとその下は空洞だ。覗くとその空洞の隅っこに女の子が1人倒れていた。見るとこの空洞にどうやって降りたのか、階段がない。これは一体どういうことだろう。

「人がいるね。防壁プロテクション

 防壁プロテクションで階段を作りながら数人で降りる。一応鑑定。念の為ちょっと詳しめにするか。

 ルカ    14歳     148cm     人間    女性
 レベル1   魔力85    スロット3
 ※※※村の少女。
 状態:衰弱。胃も弱っている。

 うん、危険な状態だね。それにしてもレベル1なのに凄い魔力だ。彼女には魔法の才能があると思う。

「衰弱しているけど生きてる」

 僕は駆け寄って彼女に回復ヒールをかける。拡大解釈で体力の回復だ。後は何か飲食させるべきか。胃の調子と意識も回復ヒールしておこう。

「ん……」

 ルカが目を覚ます。そして僕と目が合った。よくよく見ると結構可愛いかも。紫の長い髪と紫の瞳がどこか神秘的だ。

「あなたは誰……?    そうだ、ママは?   パパは?     ねぇ、村のみんなはどうなったの?」

 ルカは目を覚ますなり、周りを見ながら叫ぶ。少し錯乱気味だな。無理もない。

「落ち着いて。自分の名前は言える?」
「ル、ルカ……」
「じゃあルカちゃん。まずは外へ出よう。話はそれからかな」
「はい」

 少し落ち着いたのを確認し、アレクさんがお姫様抱っこで防壁の階段を登る。そして登り切って地に下ろすと、ルカは呆然となって周りの景色を眺めていた。
 そして涙が溢れ出す。

「そんな……!    どうして……!    パパ、ママ、みんな……!    えぐっ、えぐっ……!」

 ルカは声をあげて泣き始めた。もう村に彼女を知る人はいない。親しかった人も、両親もいない。そして彼女の住んでいた村はもう廃墟と化していた。



 やがて彼女は泣き疲れて眠ってしまったようだ。話は戻って落ち着いてからじゃないと無理だろう。少なくとも、最低限知るべき情報は無情にも目の前にあるのだから、それで十分な気もする。

「とりあえず彼女は保護しよう。孤児院に預けることになるが、それでいいかな?」

    少し考え、ライミスさんが口を開く。

 さすがにクランハウスで面倒を見ることはできないからね。ハウスキーパーしかいない時もあるし、彼女には新しい人間関係が必要だから孤児院の方がいいと思う。ただ1つ気になるのは、どうやって彼女があそこにいたかだ。とはいえ、僕たちを罠にはめるためにあそこに入れました、なんてこと普通に考えてあるわけがないよね。うん、僕の考えすぎだよこれは。

「異議なし」

 口を揃えてそう答える。とにかくこのことを一刻も早くギルドに伝える必要がある。この惨劇には恐らくアマラも関わっているはずだ。

 つい先日までアマラのコミュニティの子達は生きていた。それなのにその2日後には食われていた。アマラがあの子たちを差し出したのか、それともドレカヴァクの独断なのかはわからない。奴の人間性というものを1度確認しておくべきだろうか。

「じゃあ戻ろうか。リーネ君。すまないがまた頼む」
「はい」

 リーネが再び屋形を取り出し、僕らはアプールの街へ戻ることになった。



 アプールの街に戻りライミスさんとアレイスター師匠は王城へ報告に、アレーテさんとアレクさんがギルドに報告へ行くことになった。教会へは僕たち龍炎光牙とリオネッセさんが行く。リオネッセさんは狙われている可能性が高いからね。サルヴァン達にも来てもらうよう頼んだのだ。




 そして全ての報告が終わり、僕は再び魔道具の制作に戻ることになった。うん、頑張ったよ僕は。

 そして準備はできた。後は宝石をそれぞれの装備に埋め込むことで対ドレカヴァクの切り札となる武器が出来上がる。さすがに埋め込むには鍛治技術が必要なので、急ぎで工房に依頼して来た。夜だったので文句を言われたけど、事情を話して引き受けて貰えたから良かった。割り増し料金は仕方がないよね。

    そして次の日にはルカちゃんに話を聞くことができた。なんでも悪い魔導士が悪魔を引き連れてみんなを殺して回っていたそうだ。間違いなくアマラだろう。あいつはもう堕ちる所まで堕ちたようだ。救えない。

 そうして着々と準備は整っていったんだけど、次の日ギルドに差し出し人不明の手紙が届いたんだ。

 届けたのは闇属性の使い魔だったらしい。そして手紙にはこう書かれていたそうだ。



 聖女へ。

 ドレカヴァクはオルベスタにいる。早く来ないとみんな死ぬ。早く何とかしろ。



 随分上から目線な文で、書いてある文字も汚かった。もしかしてこれはアマラが書いたのではないだろうか……?
     あいつがよくわからなくなってきたな……。
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