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第47話 交渉

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 朝になり、僕らはマルタンさんにことの成り行きを説明した。この依頼での書類上のリーダーは最高位ランクのアレーテさんだ。でも今後僕らは龍炎光牙として売り出すため、今後の交渉はサルヴァンが行うことになった。相手は海千山千のやり手の商人なのでいい経験になるだろう、ということだ。

「なるほど、つまり目をつけられており襲撃される危険性が高いと。確かに放った手下が戻らないのなら何かあったのかと仕掛けて来る可能性はありますな」

 マルタンさんはそう答えると食卓に並べられたパンを掴みほおばった。
 用意したテーブルと椅子は雑貨屋で仕入れたもので4人掛け用だ。僕とサルヴァンとマルタンとお付きの人が座っている。女性陣は別卓だ。

「ええ、そうです。それならいっそこちらから出向いて制圧してやろうかなと思いまして」
「場所はわかりますかな?」
「吐かせます。ルウ、やれるよな?」
「うん、やってみるよ」

 心は折れているだろうから素直に話すでしょ。なんなら精神を弱化させて素直になってもらえばいいわけだし。

「しかし人数は大丈夫なのですかな?    あなた方が強いのはわかりましたが、さすがにリスクも高いですし、私どもも護衛が減るのは心許ない」
「うーん、その間はアレーテさんとリオネッセさんに護衛してもらえれば大丈夫ではないでしょうか?」

 サルヴァンが提案すると、マルタンさんがチラリとアレーテさんとリオネッセさんを見る。マルタンとしても今後のことを考えれば不安は払拭しておきたいと思う。盗賊がこいつらだけとは限らないけど、大規模は盗賊が壊滅すれば少しはこの道の治安も良くなるんじゃないかな?

「私なら構わないわよ。その程度はして見せて欲しいもの」
「私も大丈夫ですよぉ。変なのが来ても指1本触れさせませんから」

 2人は色良い返事をする。しかし問題はそれだけじゃないんだよなぁ……。

「なるほど、あなた方の仰りたいことは理解致しました。しかし私どもも商売です。日程の遅れは多大な損害を生みますが、そのあたりはどのようにお考えで?」

 そこなんだよね。出発した場合、合流がそう簡単にいくとは限らない。なら留まるのか、という話になる。そうなると遅れが生じてしまう。どれだけの時間がかかるかわからない。そんな不安もあるし、マルタンさんにそこまでメリットのある話じゃあない。役人に突き出して領主に任せれば済む話なのだから。

 つまりは僕らのわがままなのだ。ぶっちゃけ貢献度と名声とお金が手に入る盗賊退治は美味しいそうに見えるんだよね。

「ルウ、あれ使えないか?    防壁プロテクションで空飛ぶやつ」
「どうかな。リーネの負担が大きいかもしれないからリーネ次第かな?」

 僕はリーネに視線を送る。どれだけの重さを持てるのかという問題になるんだよね。

「やってみる。強化無しであの家持ち上げられたら大丈夫だと思う」

 パンを水で流し込んで答える。そして闇の手ダークハンドにより生まれた腕は20本。それらがゴーレムハウスの底の部分を掴む。あの家は箱の形なのでそのまま持ち上げても人が入れてしまうんだよね。

「それ!」

 リーネの掛け声でゴーレムハウスがゆっくりと持ち上がった。全部石だからかなり重いはずなんだけどなぁ。

 家はどんどん高く持ち上げられ、それこそ森の上を通過できそうな程の高さがあった。
 これにはマルタンさんもめちゃくちゃ驚いて椅子から落っこちる。

「んな……!?」
「あははは。闇の手ダークハンドでこんなことできるの多分リーネちゃんだけですねぇ」

 そりゃそうだ。普通闇の手ダークハンドで生み出せる腕は1本だけ。これもスキル多重発動のなせる技だ。しかも親和性がSなんてほとんどいない属性なんだよね。

 リーネは更に石のゴーレムハウスを横に動かして見せた。その動きはどう見ても馬車より早い。これなら遅れを取り戻せそうだよね。

 そしてデモンストレーション終了と家を全く同じ位置に戻して見せた。制御は完璧だ。

「ちょこちょこ魔力の回復ヒールもらえればいけると思う。でも2時間毎に休憩は欲しいかなぁ」

 馬車だとだいたい1日40kmかそこらかな?
 それに比べ、これならかなりの速度で進めるので1日で着くんじゃないかな。

「いやはや、驚きました……。それならこの方法で行けば盗賊の襲撃を考慮する必要もないのではないでしょうか……?」
「しまったぁぁぁっ!」

 サルヴァンが思わず声をあげる。うーん、依頼人の意向は絶対だ。マルタンさんも慈善事業じゃないんだからわざわざ盗賊の討伐に関わろうなんて思わないよね。

「しかし私と致しましては今後もあなた方と懇意に付き合いたいと考えています。ですので今回はあなた方の要望を聞いて差し上げても良いと考えております」
「ホントですか!」

 色良い返事にサルヴァンの顔がパーッと明るくなる。マルタンさんもニコニコとしているが、許可を出すことでマルタンさんも理があると判断したに過ぎないんだと思う。

「ええ。盗賊を壊滅させられる自信がおありのようですし、それだけの実力を持っていて巨大な容量の収納魔法を使い、果ては短時間で目的地まで到達できる手段まで持つのです。今後のお付き合いを良好にするためにも今回は目を瞑ることに致しましょう」

 マルタンさんはニコニコと笑顔を浮かべながら僕たちを持ち上げる。形としては「私が許可を出したから行けるんですよ?」ということだね。自分が上である、ということを示しつつも僕らを有用であると認めたのなら十分な成果だと思う。

 元々依頼人の方が立場が上だからね。僕らとしては自分たちの有用性を認めて貰えた事実の方が大きいと思う。とはいえ、このままだと安く見られる可能性もあるかもしれない。

「ありがとうございます!」

 サルヴァンは嬉しそうに頭を下げる。でも僕はちょっとだけ意地悪をすることにした。安く見られないためにね。

「ありがとうございます。マルタンさんにそう言っていただければ僕たちも自信に繋がります。これからも色々な依頼を受けて名前を売るつもりですが、マルタンさんとでしたら大きな仕事でも喜んで引き受けたいと思います。ね、サルヴァン」

 丁寧な言い方だけど「これから名前を売って有名になるのでお金になる仕事回してね。僕たちは安くないよ」と暗に言っているのだ。

「ああ、もちろんだ。今後とも懇意にお願いします」

 しっかりサルヴァンに振って同調させる。ちょっとだけマルタンさんの眉が動いたね。
 上手く1目置いてくれるといいな。

 僕は頭を下げながらも、見えないようにちょっとだけ舌をチロリと出すのだった。
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