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薄青の散る 23
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―ラーレ―
「――っし。」
スコープの先で男が倒れたことを確認する。ヘッドショットだ。ヘルメットを被り、頭を守っていたとしても狙撃されたらひとたまりもない。
7.62ミリの弾丸が貫通した跡は、ぽっかりと初めからそこには何もなかったかのように綺麗な穴になっていた。そしてようやっと思い出したかのように血を吹き出し、男は派手な音を立てて床に崩れ落ちた。
「命中を確認。次、ヘキサの逃走経路を確保。両サイドの陣形に穴を開けます。東、西の順でそれぞれ中央にいる警備を狙撃」
リエールは双眼鏡から目を離すことなく冷たく言い放つ。
(突然の狙撃に慌てて警備たちの指揮系統は無茶苦茶だ。このままでも六花ちゃんなら逃げられるだろうに。全く……過保護だねぇ)
2人は施設を囲む森の更に奥。小高い丘に車を止め、施設とそこにつながる道路を見張っていた。
ラーレは伏せたままライフルを構えスコープを覗き込んでいる。
彼の目には800ヤード離れた丘の上からでも動揺を浮かべる六花の顔がはっきりと写っている。そのまま観察しているとどうやら六花も二人に気づいたようだ。六花はスコープの向こうでむっとした表情を浮かべた。
「なあ、一発でちゃんと指示通りに当てたんだ。それもベストタイミングで。なにか、あってもいいんじゃない?」
言いつつラーレは次の標的に狙いを定め引き金を引く。
「まさか褒めてほしいと?年が2つも下の私に?それに狙撃手が一発で当てるのは当たり前のことでしょう。ふざけてないでちゃんと狙ってください」
「別にふざけてないって。俺は大真面目に君に褒めてほしいと思ってるさ」
3発撃ったところでマガジンが空になった。
相も変わらずリエールは一時も双眼鏡から目を離さない。イヤホンマイクを起動し次の指示を出す。
「ラーレは装填に専念。リラ、準備が出来次第渡り廊下を落としてください。ヘキサにはリコリスから退避指示、その後西棟に場を移します」
彼女は狙撃を担当するラーレのスポッターとして行動するのに加えて、現場の目視確認、そして爆破指示をライースから任されている。
本作戦の全体指揮を取るライースはリラたち情報支援を担当するチームについており、現場からは遠く離れている。
彼女が現場指揮を取っているのはそのための措置だが、リエールには役不足なくらいだ。
無線で連絡を取った直後、双眼鏡の先で巨大な橋にも見える渡り廊下から爆煙が上がる。東棟と渡り廊下の接続箇所から黒色の空へ重たい煙が立ち上る。
ラーレはそんな爆発には目もくれず、せっせとマガジンを交換しながら、仕事とは全く関係のないことをリエールに向かって話す。
「ライースだって君に褒められて悪い気はしないだろうにさ。もうちょっとくらい柔らかくても良いんじゃない?」
リエールは面倒くさそうに雑談に応える。
「はぁ……あの人がそんな単純な訳がないでしょうに。そんなことより、いつでも撃てるように装填を急いでください。貴方にはまだやってもらうことがあるんですから」
ため息混じりだが、ライースの話題にはしっかりと反応を示したところを見てラーレの口から笑みが溢れる。
「やっぱりライースのこと好きなんだろ?そういうの、素直になっとかないと、あとあと後悔するんじゃないの?……っと、よし終わった次は?」
―ヘキサ―
目の前で頭から血を吹いて警備員のリーダーと思しき男が崩れ落ちた。
弾丸が飛び込んできた窓の外、目を凝らすと視線の先に薄っすらと人影を見つけることができた。
(ラーレ……!アイツに助けられるなんて)
間髪入れず二発目、三発目が飛び込み、いずれも正確に警備の急所を撃ち抜いてゆく。
警備たちは一瞬の硬直ののち、叫び声をあげて混乱に陥った。
〈――飛んで!〉
不意にイヤホンから声が飛び込む。
その言葉の意味を考えることなく言われるがまま咄嗟に天井へワイヤーを放つ。ワイヤーを放つのとほぼ同時。凄まじい爆音が施設を駆け抜けた。
その衝撃は一度では終わらず、二度、三度大きな振動とともにけたたましい爆発音を鳴り響かせ、余波は施設を激しく揺らす。
警備たちはその揺れに耐えるべく慌てて身を屈めた。
東棟に接している箇所に亀裂が入り、渡り廊下が大きく傾いた。煙を上げ、ガラスの壁にヒビが走る。警備は突然の揺れに驚き身を屈めていたため渡り廊下が傾き崩れ始めると雪崩のように次々と東棟側へ転がり落ちていく。
やがて渡り廊下は自重を支えられなくなり東棟側が墜落。大きな土煙を上げた。ヒビが入っていた窓や天井に嵌められていたガラスも次々に砕け、雨のように降り注ぐ。
「――ッ!」
六花はワイヤーを巧みに操りガラスの雨を避ける。
目を開けた時、そこはうめき声をあげる警備の山と、キラキラと光を放つガラスの海が広がっていた。
(うわっ、あんな装備着た人間が降ってきて下敷きになんて……)
警備は防刃ベストなどの防護装備に身を包んでいる。坂を転がり落ちるようにして地面に叩き落とされた警備たちは次から次へと降ってくる同胞に潰され無様に声をあげている。
(今しかない!)
六花は2本のワイヤーを操り、渡り廊下の上に出た。
〈ん?エッ!?もうっなにやってんの?〉
イヤホンからリコリスの驚きと焦りにも似た声が聞こえてきた。
「どうしたんですか!?」
六花は自分が何かやってしまったのかと焦ったが、そうではないらしい。西棟に渡ったところで足を止めた。
〈こっちが攻撃されてる〉
攻撃と言われても、六花は即座に理解できなかったが、少し考えてからある仮説を立てた。
「――クラッキングってやつですか?」
〈よく知ってるじゃん……!正解だよ。今、こっちが逆にハッキングを受けてる〉
リコリスがここまで焦ったような声を出すことは珍しく、その動揺は六花にも伝わってきた。
〈施設のカメラはまだなんとかこっちが抑えてるけど、西棟のシャッターなんかの電子制御は取り戻されつつある。もう、あいつは何やってんのさ。早くルートを考え直さなきゃ〉
「m.a.p.l.e.は?まだ私のスマホにいます。ルートはリコリスが大まかな指示だけ出してくれればm.a.p.l.e.でもナビ出来るはずです」
〈出来なくはないけど……〉
渋るリコリスに六花は捲し立てる。
「あのステレコスとかって司令部の人間が不測の事態に対処する予定だったけど、それが出来なかった。だからクラッキングを受けている。違いますか?」
〈……〉
「リコリスもそっちに参加して下さい。私なら大丈夫ですから。ナビ出来なくなることを少しでも気にしてるなら早く制御を取り返してきてください。そっちの方が私も安全です」
リコリスは悩んでいたようだったが、六花の言葉で決意を固めたようだ。
〈15分で戻る。制御を取り返してステレコスも殴る。設置もあと1割を切ってる。あの子たちが脱出したらヘキサも脱出。もう少しだから待ってて……!〉
「お願いします。行くよm.a.p.l.e.」
〈ハイハーイ!六花サンモ遅レナイデヨ?〉
西棟に入ってすぐ、先ほどから鳴っている警報は未だに鳴り続けていたが、もう一つ。なにか別種のサイレンが鳴っていることに気づいた。西棟は殆どが研究室で構成されている。何がもとで事故が起きるか分からない。火災や有害なガスの発生など、それぞれの事態に合わせた警報音があるのかもしれないと六花は考えた。
「いたぞ!この先には通すな!」
目の前に立ちはだかる警備は大きな声で六花を威嚇する。西棟は姿を隠す障害物こそあれど、殆どが一本道。両サイドの壁は一部がガラス張りで研究室内を眺めることができるほど見通しが良い。
それゆえに隠れる場所は少なく迂回するルートはない。
〈六花サン……!〉
「わかってる。ここを通るなら……やるしかない!」
「――っし。」
スコープの先で男が倒れたことを確認する。ヘッドショットだ。ヘルメットを被り、頭を守っていたとしても狙撃されたらひとたまりもない。
7.62ミリの弾丸が貫通した跡は、ぽっかりと初めからそこには何もなかったかのように綺麗な穴になっていた。そしてようやっと思い出したかのように血を吹き出し、男は派手な音を立てて床に崩れ落ちた。
「命中を確認。次、ヘキサの逃走経路を確保。両サイドの陣形に穴を開けます。東、西の順でそれぞれ中央にいる警備を狙撃」
リエールは双眼鏡から目を離すことなく冷たく言い放つ。
(突然の狙撃に慌てて警備たちの指揮系統は無茶苦茶だ。このままでも六花ちゃんなら逃げられるだろうに。全く……過保護だねぇ)
2人は施設を囲む森の更に奥。小高い丘に車を止め、施設とそこにつながる道路を見張っていた。
ラーレは伏せたままライフルを構えスコープを覗き込んでいる。
彼の目には800ヤード離れた丘の上からでも動揺を浮かべる六花の顔がはっきりと写っている。そのまま観察しているとどうやら六花も二人に気づいたようだ。六花はスコープの向こうでむっとした表情を浮かべた。
「なあ、一発でちゃんと指示通りに当てたんだ。それもベストタイミングで。なにか、あってもいいんじゃない?」
言いつつラーレは次の標的に狙いを定め引き金を引く。
「まさか褒めてほしいと?年が2つも下の私に?それに狙撃手が一発で当てるのは当たり前のことでしょう。ふざけてないでちゃんと狙ってください」
「別にふざけてないって。俺は大真面目に君に褒めてほしいと思ってるさ」
3発撃ったところでマガジンが空になった。
相も変わらずリエールは一時も双眼鏡から目を離さない。イヤホンマイクを起動し次の指示を出す。
「ラーレは装填に専念。リラ、準備が出来次第渡り廊下を落としてください。ヘキサにはリコリスから退避指示、その後西棟に場を移します」
彼女は狙撃を担当するラーレのスポッターとして行動するのに加えて、現場の目視確認、そして爆破指示をライースから任されている。
本作戦の全体指揮を取るライースはリラたち情報支援を担当するチームについており、現場からは遠く離れている。
彼女が現場指揮を取っているのはそのための措置だが、リエールには役不足なくらいだ。
無線で連絡を取った直後、双眼鏡の先で巨大な橋にも見える渡り廊下から爆煙が上がる。東棟と渡り廊下の接続箇所から黒色の空へ重たい煙が立ち上る。
ラーレはそんな爆発には目もくれず、せっせとマガジンを交換しながら、仕事とは全く関係のないことをリエールに向かって話す。
「ライースだって君に褒められて悪い気はしないだろうにさ。もうちょっとくらい柔らかくても良いんじゃない?」
リエールは面倒くさそうに雑談に応える。
「はぁ……あの人がそんな単純な訳がないでしょうに。そんなことより、いつでも撃てるように装填を急いでください。貴方にはまだやってもらうことがあるんですから」
ため息混じりだが、ライースの話題にはしっかりと反応を示したところを見てラーレの口から笑みが溢れる。
「やっぱりライースのこと好きなんだろ?そういうの、素直になっとかないと、あとあと後悔するんじゃないの?……っと、よし終わった次は?」
―ヘキサ―
目の前で頭から血を吹いて警備員のリーダーと思しき男が崩れ落ちた。
弾丸が飛び込んできた窓の外、目を凝らすと視線の先に薄っすらと人影を見つけることができた。
(ラーレ……!アイツに助けられるなんて)
間髪入れず二発目、三発目が飛び込み、いずれも正確に警備の急所を撃ち抜いてゆく。
警備たちは一瞬の硬直ののち、叫び声をあげて混乱に陥った。
〈――飛んで!〉
不意にイヤホンから声が飛び込む。
その言葉の意味を考えることなく言われるがまま咄嗟に天井へワイヤーを放つ。ワイヤーを放つのとほぼ同時。凄まじい爆音が施設を駆け抜けた。
その衝撃は一度では終わらず、二度、三度大きな振動とともにけたたましい爆発音を鳴り響かせ、余波は施設を激しく揺らす。
警備たちはその揺れに耐えるべく慌てて身を屈めた。
東棟に接している箇所に亀裂が入り、渡り廊下が大きく傾いた。煙を上げ、ガラスの壁にヒビが走る。警備は突然の揺れに驚き身を屈めていたため渡り廊下が傾き崩れ始めると雪崩のように次々と東棟側へ転がり落ちていく。
やがて渡り廊下は自重を支えられなくなり東棟側が墜落。大きな土煙を上げた。ヒビが入っていた窓や天井に嵌められていたガラスも次々に砕け、雨のように降り注ぐ。
「――ッ!」
六花はワイヤーを巧みに操りガラスの雨を避ける。
目を開けた時、そこはうめき声をあげる警備の山と、キラキラと光を放つガラスの海が広がっていた。
(うわっ、あんな装備着た人間が降ってきて下敷きになんて……)
警備は防刃ベストなどの防護装備に身を包んでいる。坂を転がり落ちるようにして地面に叩き落とされた警備たちは次から次へと降ってくる同胞に潰され無様に声をあげている。
(今しかない!)
六花は2本のワイヤーを操り、渡り廊下の上に出た。
〈ん?エッ!?もうっなにやってんの?〉
イヤホンからリコリスの驚きと焦りにも似た声が聞こえてきた。
「どうしたんですか!?」
六花は自分が何かやってしまったのかと焦ったが、そうではないらしい。西棟に渡ったところで足を止めた。
〈こっちが攻撃されてる〉
攻撃と言われても、六花は即座に理解できなかったが、少し考えてからある仮説を立てた。
「――クラッキングってやつですか?」
〈よく知ってるじゃん……!正解だよ。今、こっちが逆にハッキングを受けてる〉
リコリスがここまで焦ったような声を出すことは珍しく、その動揺は六花にも伝わってきた。
〈施設のカメラはまだなんとかこっちが抑えてるけど、西棟のシャッターなんかの電子制御は取り戻されつつある。もう、あいつは何やってんのさ。早くルートを考え直さなきゃ〉
「m.a.p.l.e.は?まだ私のスマホにいます。ルートはリコリスが大まかな指示だけ出してくれればm.a.p.l.e.でもナビ出来るはずです」
〈出来なくはないけど……〉
渋るリコリスに六花は捲し立てる。
「あのステレコスとかって司令部の人間が不測の事態に対処する予定だったけど、それが出来なかった。だからクラッキングを受けている。違いますか?」
〈……〉
「リコリスもそっちに参加して下さい。私なら大丈夫ですから。ナビ出来なくなることを少しでも気にしてるなら早く制御を取り返してきてください。そっちの方が私も安全です」
リコリスは悩んでいたようだったが、六花の言葉で決意を固めたようだ。
〈15分で戻る。制御を取り返してステレコスも殴る。設置もあと1割を切ってる。あの子たちが脱出したらヘキサも脱出。もう少しだから待ってて……!〉
「お願いします。行くよm.a.p.l.e.」
〈ハイハーイ!六花サンモ遅レナイデヨ?〉
西棟に入ってすぐ、先ほどから鳴っている警報は未だに鳴り続けていたが、もう一つ。なにか別種のサイレンが鳴っていることに気づいた。西棟は殆どが研究室で構成されている。何がもとで事故が起きるか分からない。火災や有害なガスの発生など、それぞれの事態に合わせた警報音があるのかもしれないと六花は考えた。
「いたぞ!この先には通すな!」
目の前に立ちはだかる警備は大きな声で六花を威嚇する。西棟は姿を隠す障害物こそあれど、殆どが一本道。両サイドの壁は一部がガラス張りで研究室内を眺めることができるほど見通しが良い。
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