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薄青の散る 11
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―ヘキサ―
「Bチームに開けてもらいます」
その言葉に六花が反応するよりも先にライースは捲し立てるようにして言葉を続ける。
「このホテルの裏にある山、銀山には太平洋へと注ぐ紗木川が流れています。その川の上流には国交省管轄の銀山ダムがあり、その地下が8キロほど離れた研究施設に通じていることがギプソフィラの調査で判明しています」
ライースの話によるとギプソフィラは既にその地下に作られたトンネルを使い、施設への侵入を数回行っているようだ。
六花もターゲットの家に侵入してデータを抜いたことがあるが、何度も同じ場所へと入り込んだ経験はない。一度で任務を終わらせてきたからではない。同じ場所へ複数回侵入を行うとその回数に応じてリスクは跳ね上がる。
ダムから伸びる地下トンネルを使って侵入するとライースは言ったが、それはつまり研究施設に直接入ることはあの“鍵屋”ですら不可能だったということだ。
(やっぱり、警備やセキュリティが厳しいんだ……国の極秘事業なら当たり前か)
六花には侵入ルートが地下に存在するトンネルであることしかわからないが、8キロも離れたところからの侵入でようやっと成果が出たと言うのだから警戒意識が相当高いのだろうと考えた。同時に、そんなところに何度も侵入し、生還しているギプソフィラの胆力とその能力に感嘆した。
「ダムの地下を通るルートでギプソフィラとヘキサの2名を施設に侵入させ、内側から扉を開けてもらって我々は施設に侵入。その後は……テトラに説明してもらいましょうか」
ライースはそこまで言うと目の前に座る子どもに視線を落とした。視線の先にいたのは六花が小学生にしか見えないと感じた女の子だ。
六花は二つの意味で呆気に取られた。
一つは彼女が数字のコードネームを持っているということ。
と言うのも、六花の所属する組織にはある噂があるのだ。
"数字のコードの名を持つ工作員は代えが効かない"
コードネームは大きく二種類。植物か数字が付けられているが、植物に関連するものは工作員の間で決められたものだ。しかし、数字のコードは「上」から正式な任務が初めて与えられる時、同時に与えられる。
そんな経緯を持つコードネームだったからか、いつしか数字のコードは代えが効かない特別製だと工作員の間で言われていた。
能力の高さはもちろんのことその特異性から数字のコードが与えられるのではないかとする噂もあり、それを六花も耳にしていた。
だからこそあんなに幼い女の子に数字のコードがつけられているとは思ってもいなかった。
そして二つ目。テトラというコードネームを六花は聞いたことがあった。
いや、聞いたことがあるなんて、よそよそしいものではない。
六花が扱うナイフやワイヤー仕込み靴などの武器類はテトラという名前の工作員が作ったものだ。
身に纏う衣服を調達する場合には、マルベリに依頼するのが通例となっている。しかし、六花はマルベリが仕立てた装備にナイフやワイヤーを仕込むため、そこからさらにテトラという名の工作員に預けていた。
六花のナイフだけではなく、オクタやラーレの扱う銃火器類や爆薬といったものもテトラの管轄だ。
(あんな小さな子が武器類を扱っているなんて……ナイフなんて一から作ってるなんて話もあるのに……一体どうやって?)
六花は今まで何度も何度もテトラの用意した武器を使ってきた。六花がヘキサとして任務をこなすためにテトラの作った武器は不可欠だった。
しかし、顔を見たのは今日が初めてだ。
ただ六花はさらにその少女に驚かされることになる。
「なんじゃ、童。お前、喋りたがりのくせしてそっからは人任せかい」
その少女は老婆のような話し方で、想像していたよりも低く落ち着いた声をしていた。
安心感すら覚える声。
だが、見た目とのギャップは凄まじい衝撃を六花に与えた。
「ま、良かろう。ほれ、そいつを寄越しな」
彼女はライースの手にあるリモコンを催促する。
「はいはい」
ライースからリモコンを受け取ると映像を切り替えた。
「この建物は二つの棟で出来ておる。右を東棟、左を西棟としておこうか」
話しながら映像を淡々と切り替える。
教授が講義をするかのように澱みなく、端的に。
「で、ギプソフィラの報告では地下一階のここ」
見取り図の端。東棟の一画にどこからか取り出したポインターを合わせた。
「ダムを経由して物資を輸送するトラックがある。中身はまあ、施設で作っておるポンコツの材料や、職員に回される嗜好品、食料の類じゃろ」
「そのトラックはここにある搬入口に止まる。Bチームの二人にはダムに向かうトラックが通る笹川サービスエリアでそのトラックに乗り込んでもらう」
「なっ!?」
六花は声を上げた。トンネルを歩いていくものと考えていたからだ。
「ギプソフィラが見つけたルートじゃ我慢せい」
「トンネルを歩いていくのは無理。ダル……じゃなくて何重にも掛かってるロック全てを解くには時間がかかる。この方法が無難」
六花はギプソフィラの得も言えぬ雰囲気に負け、その何重にも掛かってるロックとやらを解除するのが面倒なだけなんじゃ無いのかと言うことができなかった。
「Bチームが入ったら二人にはそれぞれ別行動を取ってもらおうかの。一度しか言わんから己の役目をしかと覚えるんじゃぞ」
「Bチームに開けてもらいます」
その言葉に六花が反応するよりも先にライースは捲し立てるようにして言葉を続ける。
「このホテルの裏にある山、銀山には太平洋へと注ぐ紗木川が流れています。その川の上流には国交省管轄の銀山ダムがあり、その地下が8キロほど離れた研究施設に通じていることがギプソフィラの調査で判明しています」
ライースの話によるとギプソフィラは既にその地下に作られたトンネルを使い、施設への侵入を数回行っているようだ。
六花もターゲットの家に侵入してデータを抜いたことがあるが、何度も同じ場所へと入り込んだ経験はない。一度で任務を終わらせてきたからではない。同じ場所へ複数回侵入を行うとその回数に応じてリスクは跳ね上がる。
ダムから伸びる地下トンネルを使って侵入するとライースは言ったが、それはつまり研究施設に直接入ることはあの“鍵屋”ですら不可能だったということだ。
(やっぱり、警備やセキュリティが厳しいんだ……国の極秘事業なら当たり前か)
六花には侵入ルートが地下に存在するトンネルであることしかわからないが、8キロも離れたところからの侵入でようやっと成果が出たと言うのだから警戒意識が相当高いのだろうと考えた。同時に、そんなところに何度も侵入し、生還しているギプソフィラの胆力とその能力に感嘆した。
「ダムの地下を通るルートでギプソフィラとヘキサの2名を施設に侵入させ、内側から扉を開けてもらって我々は施設に侵入。その後は……テトラに説明してもらいましょうか」
ライースはそこまで言うと目の前に座る子どもに視線を落とした。視線の先にいたのは六花が小学生にしか見えないと感じた女の子だ。
六花は二つの意味で呆気に取られた。
一つは彼女が数字のコードネームを持っているということ。
と言うのも、六花の所属する組織にはある噂があるのだ。
"数字のコードの名を持つ工作員は代えが効かない"
コードネームは大きく二種類。植物か数字が付けられているが、植物に関連するものは工作員の間で決められたものだ。しかし、数字のコードは「上」から正式な任務が初めて与えられる時、同時に与えられる。
そんな経緯を持つコードネームだったからか、いつしか数字のコードは代えが効かない特別製だと工作員の間で言われていた。
能力の高さはもちろんのことその特異性から数字のコードが与えられるのではないかとする噂もあり、それを六花も耳にしていた。
だからこそあんなに幼い女の子に数字のコードがつけられているとは思ってもいなかった。
そして二つ目。テトラというコードネームを六花は聞いたことがあった。
いや、聞いたことがあるなんて、よそよそしいものではない。
六花が扱うナイフやワイヤー仕込み靴などの武器類はテトラという名前の工作員が作ったものだ。
身に纏う衣服を調達する場合には、マルベリに依頼するのが通例となっている。しかし、六花はマルベリが仕立てた装備にナイフやワイヤーを仕込むため、そこからさらにテトラという名の工作員に預けていた。
六花のナイフだけではなく、オクタやラーレの扱う銃火器類や爆薬といったものもテトラの管轄だ。
(あんな小さな子が武器類を扱っているなんて……ナイフなんて一から作ってるなんて話もあるのに……一体どうやって?)
六花は今まで何度も何度もテトラの用意した武器を使ってきた。六花がヘキサとして任務をこなすためにテトラの作った武器は不可欠だった。
しかし、顔を見たのは今日が初めてだ。
ただ六花はさらにその少女に驚かされることになる。
「なんじゃ、童。お前、喋りたがりのくせしてそっからは人任せかい」
その少女は老婆のような話し方で、想像していたよりも低く落ち着いた声をしていた。
安心感すら覚える声。
だが、見た目とのギャップは凄まじい衝撃を六花に与えた。
「ま、良かろう。ほれ、そいつを寄越しな」
彼女はライースの手にあるリモコンを催促する。
「はいはい」
ライースからリモコンを受け取ると映像を切り替えた。
「この建物は二つの棟で出来ておる。右を東棟、左を西棟としておこうか」
話しながら映像を淡々と切り替える。
教授が講義をするかのように澱みなく、端的に。
「で、ギプソフィラの報告では地下一階のここ」
見取り図の端。東棟の一画にどこからか取り出したポインターを合わせた。
「ダムを経由して物資を輸送するトラックがある。中身はまあ、施設で作っておるポンコツの材料や、職員に回される嗜好品、食料の類じゃろ」
「そのトラックはここにある搬入口に止まる。Bチームの二人にはダムに向かうトラックが通る笹川サービスエリアでそのトラックに乗り込んでもらう」
「なっ!?」
六花は声を上げた。トンネルを歩いていくものと考えていたからだ。
「ギプソフィラが見つけたルートじゃ我慢せい」
「トンネルを歩いていくのは無理。ダル……じゃなくて何重にも掛かってるロック全てを解くには時間がかかる。この方法が無難」
六花はギプソフィラの得も言えぬ雰囲気に負け、その何重にも掛かってるロックとやらを解除するのが面倒なだけなんじゃ無いのかと言うことができなかった。
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