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青出 風太

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File 3

薄青の散る 10

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―ヘキサ―

 六花はリエールの指示に従い部屋の端へやってきた。ここはBのチームの集合場所だ。

 AからFまで分けられたそれぞれのチームに一体どんな意味があるのかはまだ分からない。

 部屋の端で待つこと数分。皆、元の班ごとでバラバラに呼ばれているせいか、Bチームは最後になってようやっと二人目がやってきた。

「うすー」

 フードの彼女だ。コードネームはギプソフィラ。

「よろしくお願いします。ギプソフィラさん」

 六花とそう体格は変わらないが20は超えているだろう。そうでなくとも自分よりも年下の工作員がいるとは思えなかったため、六花は敬称をつけて呼んだ。

「さんは付け無くていい。普段そんな風に呼ばれてないからむず痒い。うちの人は大体カスミちゃんて呼ぶ」

 ギプソフィラは親指で後ろを指刺す。後からナンパされていた女性、セレッソがやってきた。彼女が三人目のようだ。

「貴女がヘキサさんだったのね。たまにこっちにまで噂が流れてくるから貴女のことは知っていたわ。凄く強いんだって。……思っていたよりも小さくてかわいいからさっきは全然分からなかったよ」

「……それはどうも」

 六花は複雑な心境だった。組織に評価されているのは殺しの上手さだ。他にもいくつかの仕事をこなしてはいるが基本的に今までに斬ってきた人数やその状況で評価されている。

 15歳の少女の評価基準としてはあまりにも常軌を逸している。

「昼間は助けてくれてありがとう。あぁいうの苦手だから困ってたんだよ」

 ナンパしていたラーレを無理矢理引き摺って行ったことを言っているのだろう。六花は苦笑いで返した。

「これからよろしくです」



 セレッソがやって来てすぐ、リエールが以上ですと言い放った。

 六花は耳を疑った。Bチームは六花を入れて3人。

(これだけ……?これだけで何をさせるつもりなの)

 リコリスはCチーム。ラーレはDチーム。オクタは窓際にいた男女と同じFのチームにいた。

 見事なまでに六花の実行部隊はバラバラにされている。

 六花はそれぞれのチームを見渡しているときAチームに六花から見ても小学生にしか見えない女の子がいた。

(あんな子いるんだ……あの子も司令部の人間?こんな作戦について来られるのかな……コードネームを聞けば知ってる人だったり?)

 六花はコードネームも知らない工作員に対してそんなことを思っていたが、六花もおそらくはそう思われる側の工作員だ。

 組織の中でオクタとヘキサはその戦績から噂されやすい。今回のセレッソのように実際に会ってみて驚かれることは多い。



 リエールが振り分けられたFのチームから順に大きめのキャリーケースを持って回る。中からそれぞれに荷物を配る。小さなバッグや長方形の木箱などサイズや形は様々だ。

(あれは……弾薬箱?ラーレはライフルを持ってくるよう言われてたし、狙撃かな)

 ラーレに渡されたものについて六花が考えているうちにいつの間にかリエールはBチームにやって来ていた。

 リエールはキャリーケースの中から六花に小さめのウェストポーチを、ギプソフィラにもベルトポーチを渡した。

「これは?」

「作戦を遂行する上で、役に立つかと思いまして」

 リエールはそれだけ言ってライースの元に戻っていった。

 六花はポーチの中身を確認する。中にはゴーグルと変な形の鉤爪、カプセルトイで出てくるようなカプセルなどが入っていた。

(なにこれ釣り針?アームみたいにカチャカチャ動くけど、どう使うのさ)

 六花はポーチから出てきたそれら“役に立つ”道具をいじっていたが、鉤爪はどう使えばよいのかわからなかった。諦めて聞こうと思ったとき、ギプソフィラも似たようなポーチを渡されていたことを思い出した。

 ギプソフィラに視線を向けると彼女もまたポーチの中身を取り出していた。
「おぉー頼めば意外と作ってくれるもんだねー」

 彼女の手には極細のアンプルが握られていた。ボールペンの芯程のそれには緑や赤の液体が入っていた。色がわざとらしくついていてどう贔屓目に見ても人体に有害であることは隠しきれていない。

「……気になる?ヘキサ」

「それは……まぁ」

 ニッと彼女は八重歯を覗かせる。自分が戦闘メインの工作員ではないことを六花に告げたうえでアンプルの説明をする。

「毒だよ。つっても別に死ぬようなもんじゃない。意識が飛んだり、激痛に襲われるだけで、命を奪うよりはよっぽど人道的でしょ?」

「……」

 彼女は続けてポーチからアイスピックのようなものを取り出した。
「ここにセットすれば、刺したときに流れる。少し効果は落ちるけど注射器みたいにも使えるんだよ。本当はこんなの使わないに越したことないんだけどね」

「全くですね」

 六花は見るからに痛そうな彼女の武器をみて、それが使われないことを願った。



「皆様別れたところで、本作戦の流れを説明致しましょう」

 ライースはいつの間にか持っていたスイッチでプロジェクターの画像を切り替えた。

 施設の見取り図だ。最近になってようやく発見した施設だというのに組織はすでに見取り図を用意していた。

(この施設は国が極秘裏に開始したプロジェクトで建てられたもののはず……一体どうやって)

 六花の疑問に答えるように、ライースがギプソフィラを示した。

「彼女は本作戦のキーパーソン。この見取り図も、そして侵入の鍵も『鍵屋』である彼女が手に入れてくれました」

 六花はその言葉を聞いてギプソフィラに向き直った。『鍵屋』という名前に聞き覚えがあったからだ。

 どれほど難解な鍵でも『鍵屋』ならば完全な合鍵を作ることができると言われていた。その評判は物理的な鍵に限らず、電子ロックや会員制サイトのパスワードなど多岐にわたる。直近では高校教師の高村と細機の家に侵入するときにお世話になっていた。

 『鍵屋』の名前は聞いていたが、六花もまさか自分と同じくらいの背丈の女の子がそうだとは考えたこともなかった。

 彼女が戦闘メインではないと言っていた時、六花は疑問に思っていた。工作員はたいていの場合、一つの技能が突出している。彼女も名前を持つ工作員ならば『上』が違っていても何か突出した技術を持っているはずだ。

 その正体が『鍵』を作ることであるとは考えてもみなかった。

「でも評判通りにはいかないね。今回はさすがに時間がなさすぎ。鍵を作るにもお国の警備は厳重で全然作れなかったよ。直接入るのは無理だ」

「そう。残念なことに『鍵屋』の力をもってしても直接施設への侵入は不可能でした。そこで」
 ライースが六花に視線を向けた。

「彼女たちBチームに開けてもらいます」
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