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給仕は薄青 9
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――2日目 夜――
―リコリス―
「うわぁ!?!?」
和人はゲームを放り出して驚いた。
ゲームが落下する前にリコリスはキャッチする。
「ほいっと」
「だ、誰だ!人を呼ぶぞ!」
「え?もう忘れちゃった?秋風椛だよ。新しく入ったメイドの」
和人は窓から差す月明かりの中、リコリスの顔をじっくりと観察する。
「あぁ、お前か……」
「お前ってのは失礼じゃない?」
和人はリコリスからゲームを引ったくると矢継ぎ早に質問した。
「何しに来た、っていうかどこから来たんだよ」
リコリスは得意げに言う。
「窓から」
「嘘だろ……ここ三階だぞ。普通にドアから入ってくればいいのに」
「あそこ鍵かけてあるじゃん。鍵は教育係長がいつも持ってるし」
鍵は教育係長が就寝時間にかけていくのだ。これもリコリスが窓からの侵入を考えた理由の一つだ。
和人は信じられないと言った様子でリコリスを見た。
「実は私もゲームが好きなんだよね。どうせ夜更かしするならお姉さんと遊ばない?」
「お前ゲーム出来るのか?児童養護施設にいたのに?」
和人はリコリスに驚いていたが既にゲームの方に意識は移っていた。興味津々というべきか飢えた獣の如くゲームの話題に食いついた。
(なんで私が児童養護施設に居たことになってるんだろ?)
リコリスは組織からこの邸宅へ来た。
組織に入る前は児童養護施設にいたが、それを和人が知っているとは思えず、疑問に思ったが、施設にいたこと自体は間違っていないため、話を合わせることにした。
「児童養護施設って言っても色々あるんだよ。ゲームくらい出来るって」
「ふーん?で、何が得意?」
和人はリコリスを品定めするように観察する。
リコリスは屋敷に来てから二日だが、和人が友達とゲームをするという話を聞いたことがなかった。
「何でも大丈夫だよ。対戦でも受けて立つよ?」
ゲームは勝てるから面白い。それは相手が人であるかコンピュータであるかに限らずだ。
敵モンスターであっても工夫やギミックを利用するなど、今ある手段の中から試行錯誤して一つ一つ勝ちを積み重ねて行く。
リコリスはそこがゲームの魅力の一つであると考えていた。
だからこそ、和人もゲームが好きであれば、こう言えば乗ってくると踏んだのだ。
「……まぁ良いよ。じゃあ、これ」
和人が選んだゲームは複数のゲームから主要なキャラを集めて出来た対戦ゲームだった。
「あー!これか」
リコリスも発売日にダウンロード版を購入したゲームだ。人気シリーズの最新作ということもあり、発売日前からとても注目されていて、ゲーム界隈を大きく盛り上がったことをリコリスも覚えている。
アジトにいる六花を含めたチームメンバーの3人に無理を言って対戦してもらったことがあるが、リコリスほどゲームに強いメンバーがおらず、早々にネット環境に対戦の場を移したことを思い出した。
(六花ちゃんコンボ決めるとすぐ慌てちゃって待って待って!って……可愛かったなぁ)
そんなことを考えるリコリスの顔は少し緩んでいた。
「椛って言ったっけ?このゲームでも良いんだな?俺はネットで対戦もしてるし結構強いんだぞ?」
リコリスは意識をこちらへ引き戻す。和人からはどことなく敵対視というべきか嫌悪感とも違う何かを抱かれていることをリコリスは感じていたが今は誘いに乗ってくれたことに感謝しつつゲームをすることにした。
「もちろん!私も負けるつもりはないよ」
リコリスは和人から差し出されたコントローラーを握った。
――3日目 昼――
―ヘキサ―
「氷室さんはやっぱり物覚えが早いわね~」
「ありがとうございます」
六花は正式に清掃業務を始めて二日目だったが、一日目に言われたことはほぼほぼ完璧と言っていい状態だった。手順から留意するポイントに至るまで既に教育係についてもらう必要のないほどだ。
「佐々木さん、そこは違うって前にも教えたでしょう?そこはもう良いから次のところに行って」
「は、はい」
佐々木がしゅんとして片付けを始めたのを六花は横目に見ていた。
「氷室さんは凄いねまだ二日目なのに……」
「いえ、私は言われたことをしてるだけですから」
今日も護衛対象の和人に遭遇することはなく、一日の仕事を終えた。 宿舎に向かう途中、先輩たちは先に行ってしまったため六花と佐々木は二人きりになった。
佐々木は六花を誉めているが六花は言葉の通り割り振られた仕事をこなしているだけだ。
どうすれば手際良く進められるか考えているが、仕事を積極的に見つけようとしたり、率先して仕事を貰いに行ったりはしていない。貰いに行くまでもなく次から次へと流れ込んでくるが。
「私はいつまで経ってもダメダメでさ」
「そんなことないですよ。佐々木さんから教えてもらったことは役に立ってますし」
六花は教わったことを並べながらフォローするが佐々木は俯きながら続ける。
「施設に居た時もそう。私全然ダメでよく意地悪されてた」
「そうですか……施設?」
六花は流そうとしたがその言葉に引っかかった。
「どこかの施設に居たんですか?」
「……氷室さんは違うの?」
「いや、私は……」
言葉に詰まった六花だったが、児童養護施設に居たことがあるのは間違いない。
「私も施設から来ました」
「だと思った。ここのメイドってみんなどこかの児童養護施設から拾ってもらってるから」
六花は絶句した。
それと同時に昨日、六花の過去について誰も尋ねてこなかった事に合点がいった。
佐々木が言うには、ここの主人である熊谷は児童養護施設にいる孤児を引き取ってはメイドとして雇用、育成し、独り立ちするまで面倒を見てくれるそうだ。
メイドが独り立ちできるようになると、その後は派遣の家政婦を始めとする様々な職を斡旋してくれるらしい。
一人の人間として自由に生きるか、そのまま熊谷邸に仕えるメイドとして生きるか選択させてもらえるようだった。
ここを出る選択をした元メイドにも甲斐甲斐しく世話を焼いているようで、何かあるたびに連絡を取り合うほど良好な関係を続けているらしかった。たまにこの邸宅を訪ねてくることすらあるようだった。
「……ちなみになんですけど」
六花は何の気なしに尋ねる。
「佐々木さんはなんて名前の施設に居たんですか?」
「なんて言ったかな。redressとかって言うあまり聞かない名前の児童養護施設だったよ。氷室さんは聞いたことないと思うけど」
その名前を六花が忘れることはない。六花が組織に入る前にいた施設。
六花は驚きながらも精一杯平静を装って応える。
「そう……ですね。聞いたこともないところでした」
六花はそう言いながら、かすかに思い出していた。
いつも部屋の隅に座り込んでいた自分よりも年上の女の子がいたこと、そしてその子がある日を境に引き取られ、それ以来姿を見ることがなかったことを。
言われてみれば佐々木にどこかうっすらと、記憶にある顔の面影が浮かんだ。
(あの時の子が佐々木さん……?まさかここに引き取られてたなんて)
六花たちの居たredressという児童養護施設は学校へ通わせる代わりに独自で教育をおこなっており、学校でいうところの体育のような体を動かす訓練の時間が座学よりも多く設けられていた。
そこでの訓練は、今思えば基礎トレーニングに近いものだったが、10歳未満の孤児たちには過酷なものだった。
指定された水準に達していない者がいれば連帯責任として罰走が課せられるなどのペナルティが度々発生していたのだ。
しかし、六花は目の前で両親を失ったばかりで何かに没頭していなければ自分を保つことが出来なかった。故に、逆にその訓練にのめり込んだ。
その結果、常に最上位の成績を納めるようになりペナルティについても特に厳しいと思うことはなかった。
六花のいう「あの時の子」は運動が苦手で頻繁にペナルティを全員に課しており、施設内の孤児たちの中にはその子を嫌う者も多かった。
「私は施設にいた時も迷惑かけてばかりだったけどこっちでもうまく出来なくて。氷室さんが入って私ももう先輩になって。しっかりしないといけないのにね」
「……」
六花は何と声をかけて良いかわからず、口を閉じた。
――3日目 夜――
―ヘキサ―
六花は佐々木の告白に動揺しながらも、宿舎に戻ってきた。リコリスもそろそろ疲れがでてきているだろうと思ってドアを開けると予想とは裏腹にリコリスは元気な姿を見せた。
「お、お疲れ様です」
「お疲れ!六花ちゃん」
(もしかして教育係って暇なの?)
心なしかリコリスの肌艶がよく見えた。復活したというべきか、リコリスらしさが戻ったというべきか。
六花はリコリスがしっかりと働いているのか一抹の不安を覚えたがそれは要らぬ心配だった。
「いやぁ、あの子ゲームはそこそこだね~」
自慢げにリコリスは語る。
「は?ゲーム?」
「そそ、昨日の夜会いに行った時に軽く揉んでやったんだけどボロ勝ちしちゃってね。そしたら今日の勉強の時間にリベンジしたいって聞かなくてさ」
リコリスは更に得意げに話す。
どうやら勉強の時間を使って二人きりで和人とゲームをしていたらしい。
宿題を殆ど学校で終わらせてきたらしい和人は、残りを早めに済ませると、リコリスに再戦を申し込んだのだという。
リコリスは一応、仕事もこなしていたために六花は怒るに怒れなかった。
「秋花さんゲーム強いですもんね……」
「六花ちゃん弱いもんね~」
「ゲームは!まぁ……強くない……かも……しれないですけど」
六花は普段個人的にゲームを触らない。リコリスに呼ばれて少しプレイする程度。 常日頃からゲームを触っているリコリスに勝てないのも無理はない。
「なんていうか、あの子ってさ。学校終わったらすぐ迎えが来ちゃうから、友達と遊ぶみたいなことって少ないと思うんだよ」
「友達と……」
六花はふと高校で知り合った涼子を思い出した。
「最近のゲームはネットで対戦できるのが多いけど、やっぱり会って遊ぶのって違うよ」
「そういうものなんですか」
六花にはよく分からない感覚だった。
幼くして施設に入り組織に引き取られた六花には年の近い友人はいなかった。
ただなんとなく。リコリスが言うのならそうなのだろうと感じた。
「私も一人でやってるより六花ちゃんやオクタさん誘って遊ぶ方が楽しいもん」
そう言って笑うリコリスは照れ臭そうだった。
「……ラーレは?」
―リコリス―
「うわぁ!?!?」
和人はゲームを放り出して驚いた。
ゲームが落下する前にリコリスはキャッチする。
「ほいっと」
「だ、誰だ!人を呼ぶぞ!」
「え?もう忘れちゃった?秋風椛だよ。新しく入ったメイドの」
和人は窓から差す月明かりの中、リコリスの顔をじっくりと観察する。
「あぁ、お前か……」
「お前ってのは失礼じゃない?」
和人はリコリスからゲームを引ったくると矢継ぎ早に質問した。
「何しに来た、っていうかどこから来たんだよ」
リコリスは得意げに言う。
「窓から」
「嘘だろ……ここ三階だぞ。普通にドアから入ってくればいいのに」
「あそこ鍵かけてあるじゃん。鍵は教育係長がいつも持ってるし」
鍵は教育係長が就寝時間にかけていくのだ。これもリコリスが窓からの侵入を考えた理由の一つだ。
和人は信じられないと言った様子でリコリスを見た。
「実は私もゲームが好きなんだよね。どうせ夜更かしするならお姉さんと遊ばない?」
「お前ゲーム出来るのか?児童養護施設にいたのに?」
和人はリコリスに驚いていたが既にゲームの方に意識は移っていた。興味津々というべきか飢えた獣の如くゲームの話題に食いついた。
(なんで私が児童養護施設に居たことになってるんだろ?)
リコリスは組織からこの邸宅へ来た。
組織に入る前は児童養護施設にいたが、それを和人が知っているとは思えず、疑問に思ったが、施設にいたこと自体は間違っていないため、話を合わせることにした。
「児童養護施設って言っても色々あるんだよ。ゲームくらい出来るって」
「ふーん?で、何が得意?」
和人はリコリスを品定めするように観察する。
リコリスは屋敷に来てから二日だが、和人が友達とゲームをするという話を聞いたことがなかった。
「何でも大丈夫だよ。対戦でも受けて立つよ?」
ゲームは勝てるから面白い。それは相手が人であるかコンピュータであるかに限らずだ。
敵モンスターであっても工夫やギミックを利用するなど、今ある手段の中から試行錯誤して一つ一つ勝ちを積み重ねて行く。
リコリスはそこがゲームの魅力の一つであると考えていた。
だからこそ、和人もゲームが好きであれば、こう言えば乗ってくると踏んだのだ。
「……まぁ良いよ。じゃあ、これ」
和人が選んだゲームは複数のゲームから主要なキャラを集めて出来た対戦ゲームだった。
「あー!これか」
リコリスも発売日にダウンロード版を購入したゲームだ。人気シリーズの最新作ということもあり、発売日前からとても注目されていて、ゲーム界隈を大きく盛り上がったことをリコリスも覚えている。
アジトにいる六花を含めたチームメンバーの3人に無理を言って対戦してもらったことがあるが、リコリスほどゲームに強いメンバーがおらず、早々にネット環境に対戦の場を移したことを思い出した。
(六花ちゃんコンボ決めるとすぐ慌てちゃって待って待って!って……可愛かったなぁ)
そんなことを考えるリコリスの顔は少し緩んでいた。
「椛って言ったっけ?このゲームでも良いんだな?俺はネットで対戦もしてるし結構強いんだぞ?」
リコリスは意識をこちらへ引き戻す。和人からはどことなく敵対視というべきか嫌悪感とも違う何かを抱かれていることをリコリスは感じていたが今は誘いに乗ってくれたことに感謝しつつゲームをすることにした。
「もちろん!私も負けるつもりはないよ」
リコリスは和人から差し出されたコントローラーを握った。
――3日目 昼――
―ヘキサ―
「氷室さんはやっぱり物覚えが早いわね~」
「ありがとうございます」
六花は正式に清掃業務を始めて二日目だったが、一日目に言われたことはほぼほぼ完璧と言っていい状態だった。手順から留意するポイントに至るまで既に教育係についてもらう必要のないほどだ。
「佐々木さん、そこは違うって前にも教えたでしょう?そこはもう良いから次のところに行って」
「は、はい」
佐々木がしゅんとして片付けを始めたのを六花は横目に見ていた。
「氷室さんは凄いねまだ二日目なのに……」
「いえ、私は言われたことをしてるだけですから」
今日も護衛対象の和人に遭遇することはなく、一日の仕事を終えた。 宿舎に向かう途中、先輩たちは先に行ってしまったため六花と佐々木は二人きりになった。
佐々木は六花を誉めているが六花は言葉の通り割り振られた仕事をこなしているだけだ。
どうすれば手際良く進められるか考えているが、仕事を積極的に見つけようとしたり、率先して仕事を貰いに行ったりはしていない。貰いに行くまでもなく次から次へと流れ込んでくるが。
「私はいつまで経ってもダメダメでさ」
「そんなことないですよ。佐々木さんから教えてもらったことは役に立ってますし」
六花は教わったことを並べながらフォローするが佐々木は俯きながら続ける。
「施設に居た時もそう。私全然ダメでよく意地悪されてた」
「そうですか……施設?」
六花は流そうとしたがその言葉に引っかかった。
「どこかの施設に居たんですか?」
「……氷室さんは違うの?」
「いや、私は……」
言葉に詰まった六花だったが、児童養護施設に居たことがあるのは間違いない。
「私も施設から来ました」
「だと思った。ここのメイドってみんなどこかの児童養護施設から拾ってもらってるから」
六花は絶句した。
それと同時に昨日、六花の過去について誰も尋ねてこなかった事に合点がいった。
佐々木が言うには、ここの主人である熊谷は児童養護施設にいる孤児を引き取ってはメイドとして雇用、育成し、独り立ちするまで面倒を見てくれるそうだ。
メイドが独り立ちできるようになると、その後は派遣の家政婦を始めとする様々な職を斡旋してくれるらしい。
一人の人間として自由に生きるか、そのまま熊谷邸に仕えるメイドとして生きるか選択させてもらえるようだった。
ここを出る選択をした元メイドにも甲斐甲斐しく世話を焼いているようで、何かあるたびに連絡を取り合うほど良好な関係を続けているらしかった。たまにこの邸宅を訪ねてくることすらあるようだった。
「……ちなみになんですけど」
六花は何の気なしに尋ねる。
「佐々木さんはなんて名前の施設に居たんですか?」
「なんて言ったかな。redressとかって言うあまり聞かない名前の児童養護施設だったよ。氷室さんは聞いたことないと思うけど」
その名前を六花が忘れることはない。六花が組織に入る前にいた施設。
六花は驚きながらも精一杯平静を装って応える。
「そう……ですね。聞いたこともないところでした」
六花はそう言いながら、かすかに思い出していた。
いつも部屋の隅に座り込んでいた自分よりも年上の女の子がいたこと、そしてその子がある日を境に引き取られ、それ以来姿を見ることがなかったことを。
言われてみれば佐々木にどこかうっすらと、記憶にある顔の面影が浮かんだ。
(あの時の子が佐々木さん……?まさかここに引き取られてたなんて)
六花たちの居たredressという児童養護施設は学校へ通わせる代わりに独自で教育をおこなっており、学校でいうところの体育のような体を動かす訓練の時間が座学よりも多く設けられていた。
そこでの訓練は、今思えば基礎トレーニングに近いものだったが、10歳未満の孤児たちには過酷なものだった。
指定された水準に達していない者がいれば連帯責任として罰走が課せられるなどのペナルティが度々発生していたのだ。
しかし、六花は目の前で両親を失ったばかりで何かに没頭していなければ自分を保つことが出来なかった。故に、逆にその訓練にのめり込んだ。
その結果、常に最上位の成績を納めるようになりペナルティについても特に厳しいと思うことはなかった。
六花のいう「あの時の子」は運動が苦手で頻繁にペナルティを全員に課しており、施設内の孤児たちの中にはその子を嫌う者も多かった。
「私は施設にいた時も迷惑かけてばかりだったけどこっちでもうまく出来なくて。氷室さんが入って私ももう先輩になって。しっかりしないといけないのにね」
「……」
六花は何と声をかけて良いかわからず、口を閉じた。
――3日目 夜――
―ヘキサ―
六花は佐々木の告白に動揺しながらも、宿舎に戻ってきた。リコリスもそろそろ疲れがでてきているだろうと思ってドアを開けると予想とは裏腹にリコリスは元気な姿を見せた。
「お、お疲れ様です」
「お疲れ!六花ちゃん」
(もしかして教育係って暇なの?)
心なしかリコリスの肌艶がよく見えた。復活したというべきか、リコリスらしさが戻ったというべきか。
六花はリコリスがしっかりと働いているのか一抹の不安を覚えたがそれは要らぬ心配だった。
「いやぁ、あの子ゲームはそこそこだね~」
自慢げにリコリスは語る。
「は?ゲーム?」
「そそ、昨日の夜会いに行った時に軽く揉んでやったんだけどボロ勝ちしちゃってね。そしたら今日の勉強の時間にリベンジしたいって聞かなくてさ」
リコリスは更に得意げに話す。
どうやら勉強の時間を使って二人きりで和人とゲームをしていたらしい。
宿題を殆ど学校で終わらせてきたらしい和人は、残りを早めに済ませると、リコリスに再戦を申し込んだのだという。
リコリスは一応、仕事もこなしていたために六花は怒るに怒れなかった。
「秋花さんゲーム強いですもんね……」
「六花ちゃん弱いもんね~」
「ゲームは!まぁ……強くない……かも……しれないですけど」
六花は普段個人的にゲームを触らない。リコリスに呼ばれて少しプレイする程度。 常日頃からゲームを触っているリコリスに勝てないのも無理はない。
「なんていうか、あの子ってさ。学校終わったらすぐ迎えが来ちゃうから、友達と遊ぶみたいなことって少ないと思うんだよ」
「友達と……」
六花はふと高校で知り合った涼子を思い出した。
「最近のゲームはネットで対戦できるのが多いけど、やっぱり会って遊ぶのって違うよ」
「そういうものなんですか」
六花にはよく分からない感覚だった。
幼くして施設に入り組織に引き取られた六花には年の近い友人はいなかった。
ただなんとなく。リコリスが言うのならそうなのだろうと感じた。
「私も一人でやってるより六花ちゃんやオクタさん誘って遊ぶ方が楽しいもん」
そう言って笑うリコリスは照れ臭そうだった。
「……ラーレは?」
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