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青出 風太

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学校に薄青 1

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―ヘキサ―

AM5:00


 目覚ましの音で目を覚ます。

 朝の5時ちょうどだ。アジトは窓が小さく日があまり差し込んでこない構造をしているため、目覚ましをセットしないと朝早くは起きられない。

 六花は目覚まし時計を止め、体を起こす。少しボーッとしてからベッドを出る。一人一部屋もらえているから他のメンバーと話すならリビングに出る必要がある。

「ん。歯磨こ」

 眠い目を擦ってリビングのドアを開けると木製のテーブルにラーレがいた。

(師匠は部屋に戻ったんだ)

 と思いながら、ラーレにおはようございますと挨拶をする。

「おう、おはよう六花ちゃん」

 彼はニコニコしながら返事をした。微かに香水のような匂いがする。思ったよりも悪い匂いではなかったけど口には出さない。

 歯を磨いてから、朝食を食べる前にリコリスを呼びに行く。

 リコリスの部屋の前に立ってドアをノックする。何か話があるようだったが、明日の朝に来てと言われたということは急ぎでないと判断し、六花は朝食を食べながら話を聞くことにした。

「秋花さん。六花です。来ましたよ」

「六花ちゃん早かったね」

 朝とは言ったけど何もこんな早くにとぼやく声が聞こえた後、何やらバタバタとし始めた。

(大丈夫かな、ドアから離れとこ)

 しばらくして勢いよくドアが開いた。部屋から大量の書類と段ボール箱が雪崩の様に出てきた。

「秋花さん、何やってるの……」

 手を出して埋れているリコリスを引き上げる。

「あはは、ごめん。先生と話してたら資料まとめ切れてなくてさ。今急いでまとめてた」

 リコリスの言う「先生」とは六花にとってのオクタのようにリコリスを育て上げた工作員エージェントリラのことだ。

 少し前から工作員が別の工作員を育て上げる制度が導入され始め、育てられる側は育て親の工作員を「先生」と呼ぶのが基本だ。

 六花も初めはオクタを「先生」と呼ぼうとしたがオクタ自身によって却下され代わりに「師匠」と呼ぶようになったのだ。

 朝に来てといったのに用意が出来ていないなんてと六花は呆れた。リコリスは起き上がりながら書類の束とタブレットを拾い上げ、そのまま六花に渡した。

「何ですか?これ」

 リコリスはホコリを払いながら答える。

「次の仕事だよ。maple、関連資料を開いて」

その声に反応してmapleと呼ばれたリコリス自作のサポートAIが
「ハイハーイ!」
と大きな声で返事をした。

 次の瞬間、画面に二頭身くらいにディフォルメされた女の子が現れた。いくつかのファイルを開いていく。

 六花は昨日仕事をしたばかりだというのにすぐ次の仕事を命令されることが分かって嫌気がさしていた。

「とりあえず、テーブルに行こっか。仕事の説明をするよ」
「スルヨ!」

 mapleがリコリスの言葉尻を復唱する。

「わかりました……」

(仕事の話なら朝ごはん食べてから声かければよかった)

 六花は肩を落としてうなだれた。




 テーブルには朝食を取った後なのか、食器をそのままにしてテレビを見ているラーレがいた。食器から離れているわけではないし、食べたあとそのまま休んでいたのだろう。

 テーブルはチームの4人全員で使っても余裕がある程のサイズなため一人で一画だけを使っているのを見て六花は少しさびしさのようなものを感じた。

「これから仕事の話をするので、ここ使ってもいいですか?」

「わかった。すぐ退くよ、仕事頑張ってな」

 ラーレは食器を持って席を立った。

「ありがとうございます」

「普段からそのくらい素直なら、可愛いんだけどなぁ」

「うるさいです。別にあなたに可愛いと思われなくて結構です!」

「はは。まあ気を付けてな~」




 キッチンでお湯をセットしてからリコリスと向かい合うように座る。

 リコリスがタブレットを六花の方に向けてきた。都立高校のホームページが開かれている。

 ホームページに大きく書かれている都立新技羅高等学校が正式な名前なのだろう。

「学校?あの、これなんて読むんですか?」

「これで都立新技羅高等学校とりつしんぎらこうとうがっこうって読むんだよ。変な名前だよね」

「まぁ……そうですね」

 リコリスはへらへらと笑っていった。

「六花ちゃんには、しばらくここに通ってもらう。予定では三か月くらい」

「私がですか?私、勉強出来ないですよ」

 ムスッとしながら答える。

 六花は暗殺のことしか教わっていない。だから勉強なんて出来ない。六花自身、学がないことはコンプレックスの一つだった。

「大丈夫だよ。ここには仕事で行ってもらうんだから」

「仕事って……殺しですか?」

「そう。今のところ殺し。ターゲットは教師。なんだけどちょっと事情が複雑みたいで、まだターゲットの特定には至っていないみたい」

「は?特定できてないってどういうことですか」

 タブレットの画面を横にスライドさせて名簿のようなものを見せられる。

「この中に組織の探している人物がいるはずなんだけど、急な仕事で数も多くて本部も手が回らないんだってさ」
「ダッテサ~」

 mapleはよくリコリスの言葉尻をマネする。それが補助。サポートのつもりなのか分からない。初めは六花もうっとおしいと思っていたが、もう慣れた。

 六花に見せられた画面には三名の情報しかない。

「これで多いんですか?」

 詳しくは教えてもらえてないんだけどと前置きしてからリコリスは続ける。

「本部はこの学校以外にも何箇所か同時に調べるみたいで人手が足りないんだって。うちのチームにはちょうど十五歳で学生になりすませる六花ちゃんがいるっていうんで仕事が回ってきた訳」
「キタワケ~」

「つまり、私は何をすれば良いんでしょう?」

 六花はこのチームに自分がいるから面倒事を押し付けられたのであろうと理解した。

「この人達の周辺を調べたい。家宅捜索とかね。オクタさんとラーレにはそっちをお願いするとして、六花ちゃんにはその間教師らを引き止めておいて欲しいんだよ。学校内での仕事は生徒でないとできないしね」

「うわぁ……人によってはキツいですね。あまりにも不潔な人とか体臭キツイとかだったら嫌なんですけど」

「そうだねぇ。教師だからそこまで酷いのはいないと思うよ?まぁ放課後に補習でもして貰えばいいかなと思ってる。……頑張って?」

「ガンバッテ~」

 リコリスの顔には苦笑いが浮かんでいた。

「はい……」

 とりあえず変な人がいないことを祈ろう。こういうことは演技が得意なリコリスの方が適任な気もするが、解析やバックアップを考えると六花しかいない。六花はまたも肩を落としたが承諾した。

「仕事はいつからなんですか?」

「言ってなかったね。教科書類がまだ届いてないから届いてからになるのかな。制服はもう用意が終わってるから……そうだなぁ。再来週の月曜日だから……5月入ってすぐかな。頑張ってね!」

「ガンバッテネ!」

「週明けですか?えっと、10日もないじゃないですか!?また、急なんだから……」

 愚痴を言っていても仕方ないとわかっているのでこれ以上は言わない。

「わかりました。制服ってもうあるんですか?あるなら一回合わせてみたいんですけど。モノによってはいろいろ仕込めるかもしれませんし」

「物騒だねぇ」

 六花を茶化しつつも、待っててといってバタバタと部屋の方に戻っていった。

 そのタイミングでセットしていたお湯が沸いた。ココアを作りに席を立つ。急いでココアを入れて戻って来てもリコリスの姿はない。飲んで待つこと数分。小さい机板サイズのケースを持ってきた。

「はい!これね!」

 リコリスはケースをテーブルに置いた。それを受け取って中身を確認する。制服はセーラー服だった。

(これテレビで見たことがある。着たことはなかったけど)

 白のセーラー服、青いリボン、薄黄色のカーディガン。それと紺色のソックスに、靴が四種類。ローファーと運動靴と上履きと室内用の運動靴。体育用の運動着上下にジャージ。通学用の鞄。

(結構多いなぁ)

 六花は幼稚園をそろそろ出るかというくらいの年齢で孤児になり、組織に拾われた。もともと学校には行けなかった。そのため学校生活や制服に少し憧れがあった。

(これが仕事じゃなければ素直に楽しいんだろうな……)

「ありがとうございます」

 ケースを持って席を立つ。

 話は終わったみたいだし、日課の素振りをしに行こうとした時、どこいくのさとリコリスに呼び止められた。

「私の部屋ですけど?」
 質問の意図がわからずキョトンとする。

「試着、してみないの?」



「あの……」

 気づけば六花は部屋着を脱がされセーラー服を着せられていた。

(一体どういうことなの?髪の毛のリボンまで結われてるし。私は着せ替え人形じゃないよ)

「うん!やっぱり六花ちゃん似合うね!ね、maple?」
「ウンウン。カワイイヨ!六花サン!」

「はあ、ありがとうございます……」

(何これ、すごく恥ずかしいんだけど。確かに制服は可愛いかもしれないけどね?なんか慣れないなぁ。コスプレってやつみたい。顔から火が出るってこういうことなのかな。顔が凄く熱い。こんなところをラーレや師匠に見られたくないな)

 そんなことを考えた途端、ガチャっという音とともに頭をかきながらオクタがリビングにやってきた。はだけ気味のシャツ。ボサボサの髪がいかにも寝起きといった感じだ。シャツはいつもだらしないのだが。

「あっオクタさん。おはよ~。ねね、見てよ見てよ!」

 リコリスが手招きしながら声をかける。

「ん?」

「し、師匠!?」

 顔がさらに熱くなる。隠れようとしたのがばれてリコリスに肩を掴まれる。

「オクタさん。今ね、今度の仕事用の服を試着してもらってるんだけどさ。ぶっちゃけどうよ?可愛くない?」
「カワイクナイ~?」

「あぁ、うん?いいんじゃないか?普通の中学生に見えるぞ」

「いやいや、そうじゃないし。ここはもっと褒めるところだよ?」
 とリコリスがツッコミを入れているが、

(出来ればあんまり見ないでほしい……)

 六花は早くこの時間が終わればいいなということだけを考えていた。

 結局オクタは似合ってるとか、可愛いとか六花を褒めることはなかった。仕事用の服だし別にいいというかそれで合ってはいるのだが。

(っていうか、私高校生役なんですけど?)
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