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番外編 アーサー
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夜が明ける前から行軍がはじまる。
山での野外訓練も3度目なので難なくこなせるようになった。
今日も日が落ちる前までに次のポイントまで移動しなくてはならない。
夜更けに降った雨で足下が悪い。
王国の東隣りの帝国とは友好国で人の往来も活発だ。
今いる西の隣国とは停戦中だが国境のあちこちで小競り合いが続いている。
いつ大規模な戦闘になってもおかしくない状況だ。
卒業したら兄をサポートし、兄が王位についたら叙爵し臣籍降下することになっていた。
幼い頃から、気付けばダリアが婚約者として側にいた。
可愛いが、物静かで声をあげて笑うこともない、人形みたいだった。
政略的にもあまり意味のない婚約が不満だった。
辺境に経つまえ母と面会が叶った。
母は泣いていた、王妃としていつも毅然としている母が泣く姿に、どれだけ心労をかけたんだと後悔する。
何をやっても兄には届かない自分をいつも支えてくれた優しい母だった。
母は、ぽつりぽつりダリアについて話し始めた。5歳の誕生会で自分がダリアを見染め婚約者に望んだと、聞かされた。
公爵家にも歳の近い令嬢がいたが、ダリアがいいと駄々をこねたという。
なんでまったく覚えてないんだ・・・。
6歳から剣術の師がつき、身体を動かすことが好きだったのですぐ夢中になった。
勉強では兄に勝てないが、剣術では勝ちたかった。
月に一度のお茶会が苦痛で仕方なかった。
なんでこんな軟弱なことをしなくてはいけないんだ・・・もっと剣術の稽古がしたいのに、ダリアがいるから悪いんだ!幼い自分はすっかり婚約の成り立ちなど忘れどんどんダリアに冷淡な態度をとった。
学園でリリーと出会った。
最初の出会いは入学式、遅刻して慌てて講堂に駆け込む姿が可愛らしくて、笑いが漏れた。
その後、新入生から選抜されたメンバーが生徒会に入ってきてた。
書記担当になった伯爵子息に付き添ってリリーがやってきた。
雑用も嫌な顔ひとつせず手伝ってくれた。
貴族令嬢とは違い距離が近いことに、最初は戸惑ったが、ふれる肌の柔らかさに胸が高鳴った。
気付けばいつも5人でいた。
陽だまりのようなリリーにみんなが夢中だった。
ある日リリーがダリアに虐められたと相談してきた。いつも笑顔を絶やさないリリーが目に涙を浮かべ、震える声で話してくれた。
ダリアは巧妙に周りの取り巻きを使ってリリーを孤立させたり、平民だと蔑み陰で悪口を言っているという。
ダリアの澄ました顔を思い出して怒りを感じたい。
何度も戒めだが、否定するばかりで全く反省してる素振りもない。
なぜかみんな何かに扇動されるようにダリアを糾弾した、まるでそれが正義だというかのように。
そしてダリアを卒業パーティーで断罪し婚約破棄を突きつけた。
ダリアはもういない……
疎ましくは思っていたが、憎んでいたわけでなかった。
なぜリリーの言葉を疑いもしなかったのだろう・・・?
冷静になって考えればありえない行動、熱病にかかったようにリリーに夢中になった日々。
今となってはもう答えを見つけることもできない。
辺境にきて一年、徐々に心の平穏を取り戻しつつある。5年の期限だが、このままこの地に骨を埋めるのもいいかと思っている。
夜も明けぬ野営地で思い出すのはリリーの花のような笑顔ではなく、遠い記憶にある幼いダリアの儚い微笑みだった。
==========================
最後までお付き合い頂きありがとうごさいました。
【転生女王は政務に励みます!】を
投稿しました!よろしくお願いします!
山での野外訓練も3度目なので難なくこなせるようになった。
今日も日が落ちる前までに次のポイントまで移動しなくてはならない。
夜更けに降った雨で足下が悪い。
王国の東隣りの帝国とは友好国で人の往来も活発だ。
今いる西の隣国とは停戦中だが国境のあちこちで小競り合いが続いている。
いつ大規模な戦闘になってもおかしくない状況だ。
卒業したら兄をサポートし、兄が王位についたら叙爵し臣籍降下することになっていた。
幼い頃から、気付けばダリアが婚約者として側にいた。
可愛いが、物静かで声をあげて笑うこともない、人形みたいだった。
政略的にもあまり意味のない婚約が不満だった。
辺境に経つまえ母と面会が叶った。
母は泣いていた、王妃としていつも毅然としている母が泣く姿に、どれだけ心労をかけたんだと後悔する。
何をやっても兄には届かない自分をいつも支えてくれた優しい母だった。
母は、ぽつりぽつりダリアについて話し始めた。5歳の誕生会で自分がダリアを見染め婚約者に望んだと、聞かされた。
公爵家にも歳の近い令嬢がいたが、ダリアがいいと駄々をこねたという。
なんでまったく覚えてないんだ・・・。
6歳から剣術の師がつき、身体を動かすことが好きだったのですぐ夢中になった。
勉強では兄に勝てないが、剣術では勝ちたかった。
月に一度のお茶会が苦痛で仕方なかった。
なんでこんな軟弱なことをしなくてはいけないんだ・・・もっと剣術の稽古がしたいのに、ダリアがいるから悪いんだ!幼い自分はすっかり婚約の成り立ちなど忘れどんどんダリアに冷淡な態度をとった。
学園でリリーと出会った。
最初の出会いは入学式、遅刻して慌てて講堂に駆け込む姿が可愛らしくて、笑いが漏れた。
その後、新入生から選抜されたメンバーが生徒会に入ってきてた。
書記担当になった伯爵子息に付き添ってリリーがやってきた。
雑用も嫌な顔ひとつせず手伝ってくれた。
貴族令嬢とは違い距離が近いことに、最初は戸惑ったが、ふれる肌の柔らかさに胸が高鳴った。
気付けばいつも5人でいた。
陽だまりのようなリリーにみんなが夢中だった。
ある日リリーがダリアに虐められたと相談してきた。いつも笑顔を絶やさないリリーが目に涙を浮かべ、震える声で話してくれた。
ダリアは巧妙に周りの取り巻きを使ってリリーを孤立させたり、平民だと蔑み陰で悪口を言っているという。
ダリアの澄ました顔を思い出して怒りを感じたい。
何度も戒めだが、否定するばかりで全く反省してる素振りもない。
なぜかみんな何かに扇動されるようにダリアを糾弾した、まるでそれが正義だというかのように。
そしてダリアを卒業パーティーで断罪し婚約破棄を突きつけた。
ダリアはもういない……
疎ましくは思っていたが、憎んでいたわけでなかった。
なぜリリーの言葉を疑いもしなかったのだろう・・・?
冷静になって考えればありえない行動、熱病にかかったようにリリーに夢中になった日々。
今となってはもう答えを見つけることもできない。
辺境にきて一年、徐々に心の平穏を取り戻しつつある。5年の期限だが、このままこの地に骨を埋めるのもいいかと思っている。
夜も明けぬ野営地で思い出すのはリリーの花のような笑顔ではなく、遠い記憶にある幼いダリアの儚い微笑みだった。
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