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番外編 リリー

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王都の外れの貧民街に生まれ育った。
父親は傭兵だったが怪我で稼げなくなってからは家で酒浸りの日々だ。
母親は小さな商店の娘だったが、父と出会ったことで人生が狂い始めた。
傭兵時代は女に溺れ、やめてからは酒に溺れるクズ野郎・・・だがそんな最低な男を母は切り捨てることができなかった。「お父さんは弱い人だから・・・」
母の口癖だった。

周りの大人からよく「りりーちゃんは可愛いね~」とか「将来楽しみだねー」などと言われたけど、こんな貧困層で将来に希望なんて持てるはずもない。

見栄えのする外見だから幼いころから危ない目によくあった、強かでなくては生きていけなかった。
女であるメリットを最大限利用した。
街の不良のリーダーを色仕掛けで篭絡して、手っ取り早く身の安全を図った。

ある日裏路地で街のチンピラに絡まれている子供を助けた。
多分すこし年下の小柄な男の子だった。なんて綺麗なんだろう、クルクル巻毛は艶々してるし、お肌もすべすべだ、翡翠色の瞳は涙に濡れ本物の宝石のようだ。こんな綺麗な子見たことない、きっとお貴族様なんだろう。

地面に座り込んでいるその子に手を貸し立ち上がらせた。その子は泣きながら「ありがとう」を繰り返した。

駆け寄る足音に振り返りると男が二人、怖い顔でこちらを睨んでいた。
彼等はその子の護衛だと名乗った。
貴族の坊ちゃんが好奇心で護衛を巻いて街を探検でもしてたんだろう。

その子は私の両手をしっかり掴み、お礼をしたいから家にきて、と言った。
こんなみすぼらしい格好では行けるはずもなく、断ると、なんでも願いを叶えてあげると言って握った手をぶんぶん振った。

「本当になんでもいいの?」「うん!」
後ろの護衛は訝しい表情でこちらを伺っている。

その時ふと頭をよぎった願いを口にした。
「教会に連れてって」

貴族の子等は教会の精霊の儀で属性の合う精霊と契約を結ぶことができる。
もちろん魔力があっても全員ではない。
教会は表向きお金は受け取らないが、裏で高額な寄付金を要求する。
決して平民に払える額ではない。

そんなの簡単だよ、と誇らしげに胸を張る。
「僕はジョシュア、君は?」「リリー」

次の日曜日に迎えに行くと約束して護衛に連れられ帰って行った。

期待はしていない、でも、もし魔法が使えるようになればこんな底辺の生活から這い出すことができる・・・。

日曜日、約束の時間にぼんやりこの前の路地の入り口で待っていると、立派な馬車が目の前に止まった。

教会に着くとジョシュアは先に馬車を降りて、笑顔でエスコートしてくれた。
王子様みたい…ドキドキした。
街の男は粗暴でエスコートなんてされたことがない。

日曜日の教会は大勢の人で賑わっていた。
貴族や裕福な家の子供達が蔑むような視線を不躾に送ってくるので、にっこり微笑み返してやった。
男の子は目元を染め視線を逸らし、女の子は敵意を含んだ目で睨んできた。

儀式は順番に別室で行われるようだ。
順番がきて名前を呼ばれたが、不安で一歩を踏み出せずにいると「大丈夫だよ」と右手をぎゅぅと握ってくれた。

その後、教会は大騒ぎとなった。
平民なのに魔力量が多く、希少な光の下級精霊と契約を結べたからだ。
ジョシュアはまるで自分のことのように喜んでくれた。 

教会をでて連れて行かれた店は王都でも人気のレストランだった。
マナーなどわからず困惑する私の口に「好きに食べて」と、切り分けたお肉を押し込む。

「美味しい!」素直な感想にジョシュアはうれしそうに微笑んだ。

ジョシュア14歳、1歳年下だった。
ごめん12歳ぐらいだと思ってた…。
薄茶色の巻毛にパッチリした翡翠色の瞳で女の子みたいにかわいい。
来年から王立の貴族学園の高等科に進学するそうだ。
貴族の子供はみんな15~17歳の2年間必ず学園に通うことが義務付けられてるらしい。
その前は、家庭教師だったり、学園の中等部に通ったり自由に選択できるが、男の子は中等部に通うのが一般的…そんなに長い期間勉強するなんてお貴族様も楽じゃないんだな~なんてぼんやり考えているとジョシュアも何か考え込んでる様子だ。
それから後ろに控える青年を呼び、耳元で何やらコソコソはなしていると、突然パッと表情が明るくなった。

「リリー、とっておきの話しがあるんだ」ジョシュアは悪戯っぽく笑って話しはじめた。

魔法が使えれば平民でも王立学園に特待生で入学でき、特待生は入学時の年齢は問わないこと、試験はあるが入学できれば学費免除、寮にも入れる等々・・・。
こんなチャンスは二度とない、期待で胸が膨らんだ。

早くあの家を出たかった、3年前に弟が生まれ母は弟にかかりっきり、ますます居場所がなかった。

それから半年ジョシュアの助けもあり無事学園に入学できた。

学園に入って1番驚いたのは本物の王子様がいた事だ。

ジョシュアが生徒会に入ることになり、お手伝いをしてくれないかと頼まれた。友達もいないし、授業が終われば寮に戻るだけなので二つ返事で引き受けた。

生徒会室には会長の王子と、入学式の時壇上にいた副会長、その他数名の生徒会役員たちが書類仕事に追われていた。
みんなに紹介され、週に2~3回生徒会の簡単な仕事を手伝うことになった。

それからすぐに一番高位の第二王子をはじめ貴族の子息たちは面白いように好意を寄せてきた。 
にっこり微笑み甘い声で囁き、相手の自尊心をくすぐり、腕に胸を押し当てるだけ、特別な手管などなにも必要としなかった。

女子生徒はみんな綺麗に着飾り、すましてて遠巻きに軽蔑の視線を送ってくるが、男に相手にされない負け犬達には興味はなかった。

ただ一人、私を苛立たせる女がいた。
アーサーの婚約者のダリアだ。
いつも一人で優雅に本を読んでいて、負け犬女達とも群れない。
儚げだけど凛とした美少女。
なぜか私を不快にさせるその女をねじ伏せてやりたかった。

元々、婚約者に不満を持っていたアーサーの耳元に嘘を並べ立てる。
みんな私の涙に簡単に騙される。
みんながダリアを糾弾する、あ~気持ちが高揚する…。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

あの日全てを失った…。
なんで、毒なんてのんだの?
なんで、なんでも持ってるじゃない?
貴族の令嬢、王子の婚約者、大きなお屋敷だって、お金だって、困らないぐらい持ってるでしょ?
一つぐらい失ったってなんだっていうの?
アーサーなんて愛してる素振りもみせなかったじゃない?

どこで間違えた??何を間違えた??
あの家から、あの街から抜け出したかっただけだった…別に王子や貴族と結婚したいわけじゃなかった…。

もう二度と会えない、両親、小さな弟・・・初めて家族を思い、涙した。

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ショタ=ジョシュア
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