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第四集 伍ノ巻

川姫と癒良

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  川姫が川の中を歩く度、同族の冷たい視線が突き刺さる。川姫はその視線に目を合わせたくなくて俯きながら歩いた。



................




 川姫がやってきたのは、代々の川姫の長が眠る墓。川姫は川の精霊なのだが、死ぬ直前は魚の姿になって亡くなる。そしてその魚になった川姫を埋葬する墓がいつくかあり、墓の中心には長の墓があるのだ。





 日中は同族が墓に参りに来る為、川姫はいつも日が暮れてから母の墓参りをすることにしていた。が、今日は夕方まで墓参りをする者がおり、川姫はそのものに鉢合わせてしまったのだ。




   川姫は墓の前の岩に腰を下ろすと、今日あった出来事を話しはじめた。





  川姫「母様。今日、人間の男の子に声をかけられたわ。仲間にならないかって。」





  川姫「母様、私はどうすれば良いの?あの子について行きたい気持ちはあるの。でも...私は母様のいる場所から離れたくないわ」 






  墓は、長達の力を封印する為のものでもある。それ故に力を封じられた母が言葉を返してくれるはずもなく、辺りはしんと静まり返っていた。





  川姫は墓の前に横になると、そのまま眠りに就いた。

 川姫は家に居場所がない。さらに力が弱い為、貴船の社にも居場所がないのだ。 本当は、他の民間信仰の水神を祭る社からは神使にならないかと誘われているのだが、外聞を気にする家族や親族は川姫を外に出したがらないのだ。 だから川姫は、いつも母の墓の前で眠り、皆が墓参りに来るより早く起きて同族に会わないようにひっそりとひとりで暮らしている。







川姫「ん....」



『うわ、まだいるわよ。あの出来損ないの姫サマ。』

 『ほんとだわ。いくら親子だからって長のお墓の前で眠るなんて図々しい。』





川の水に反射する光の眩しさに目を開けた川姫は、川姫の長の館に仕えている侍女の冷ややかな言葉を聞き、慌てて寝たふりをした。



「早くすませて戻りましょ。」 


 「そうね。」



侍女は長の墓の前に供えてある古くなった花を新しい花に変えると、墓に手を合わせ館に帰っていった。








その日の夕方。川姫は静かに沢山の涙を流す。川姫の涙はそのまま川の水に溶け込み、消えていった。




  川姫(解っていた...解っていたわ、この川のどこにも私の居場所がない事くらい...) 




と、そのとき....




  パアッ!




長の墓が、眩い光を放つ。 そして、墓の中からなにかが飛びだし川姫のもとに飛んできた。



  川姫「え....?」


川姫は、自分の目を疑った。自分の足元に落ちていたのは、なんと、川姫の先代長....つまり、川姫の母のつけていたまが玉のネックレスだった。


川姫「母様....」


  川姫の涙は、もう止まっていた。川姫はネックレスを首から下げると、癒良からもらった紙に自分の力を込め、川の外に出た。


川のほとりには、あの少年がいた。


川姫「私を貴方の式神にして。」



  川姫は強い意思の篭った迷いの無い瞳を癒良に向け、そう言い放った。




  川姫(私はもう、貴船の川には戻らない。この人と新しい生を生きるわ。)




 こうして、川姫は癒良の式神になった。
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