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1章「はじまりの道編」

3話「魔法少女って言われても」

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「リリィ、大丈夫か!?」


静かな森に切羽詰まった声が響く。現れたのは女性で、見た目的には40手前だろうか?オバさ……いや、お姉さんとしておく。身長は150くらいで私より10大きいと思う。マントローブに身を包み(でも頭はローブから出している)いかにも魔法使いという感じだ。


「ソフィア先生!」



と、鼻歌少女はオバさ……お姉さんに駆け寄り、抱きしめ合う二人。
鼻歌少女はリリィちゃんという名前なのね。覚えておこう。
ちなみに彼女は紫のローブである。



「リリィ、怪我はないか?」



「私は大丈夫です。彼女が助けてくれたので」



と、私に視線が刺さる。
ソフィア先生と呼ばれたお姉さんは抱き合うのをやめ、私の前に出て一礼する。




「私はリリィの師匠のソフィア・アーネスト・ミルキーウェイだ。弟子を助けてくれたこと、感謝する」




「あ、いえいえ。当然のことをしただけなんで……」




「しかし、迂闊うかつだった。この森は魔法による結界が張られていて、魔物は来ないはずなのだが。君がいなけばリリィは……本当にありがとう。心より感謝する」



ソフィアさんは何度も頭を下げる。
いやあ、そんなにお礼を言われると照れるなぁ。



「ところで君の名前は?」



魚谷葵うおたにあおいです。アオイでいいですよ」




「では、アオイ。一体この森にどうやって入ったんだ?」



「え?」



きょとんとする。
どうやってと言われても……。




「さっきも言ったが、この森は結界が張ってある。一般人の目には視認できないようになっているんだ。元々、魔法の研究や実験をするための場所で危険を伴うからな。時代の流れでここを利用する魔女は激減したが……それでも普通の人間は入ってこれない」



「ええと、その……」



「そして、君がモンスターを倒したんだな。リリィ、何に襲われたんだ?」



「レッサーデーモンです」



あのゴリラ怪物はそういう名前だったのか。



「あのレッサーデーモンをここまで……これは相当な魔力が無ければできない芸当だ。奴らは冬のシーズンはクマと同じように冬眠するが、元は寒冷地の山で暮らすモンスターだ。猛吹雪に耐える分厚い毛皮で並みの炎魔法ではビクともしないはずだ。それを遺体も残さず、焼き尽くすとはな。君は何者だ?」


「あ、いや、その私はリリィちゃんを助けたくて必死でして……。こ、こんな鼻歌が可愛い優しい女の子をそのまま放っておけなくて……」



全然釈明になっていない気がする。




「あの、先生、続きは家でどうですか? 立ち話もなんですし、魚谷さんにお礼がしたいです」



「リリィちゃん、アオイでいいよ!」



「じゃあ、アオイちゃん。よろしくね」



「こちらこそ、よろ!」



と、がっしり彼女の手をつかむ私。
リリィちゃんは少し苦笑いしたけど、悪い気はしていないようだ。




「リリィの提案に賛成だ。美味いお茶を頼む」



「はい!」


リリィちゃんは嬉しそうに微笑んで頷く。
そして、私は二人の家に着いていくことにした。














森から歩くこと10分程度。
よく母親が見ていた家の雑誌にログハウスが載っていたのを覚えている。
母は現実逃避が趣味で「こういう家に住みたいわねぇ」とよく言っていた。
ソフィアさんの家を見たらきっとうらやましいと言うだろう。
という感じの二階建てのログハウスだ。
木の温かみが感じられていいなぁ。
家の中も広く、天井が高い。


テーブルを挟んで私の対面にソフィアさん、リリィちゃん。
ひとまず椅子に座り、リリィちゃんの淹れてくれたお茶を飲む。
紅茶に近いけど、ちょっと甘みが柔らかい感じ? 匂いもきつくない。
なかなか美味しい。



「リリィちゃん、このお茶なぁに? 美味しいね」



「ありがとう。イルカ・ルージョンってお茶よ。教会のボランティアの子達が作っているの。バザーの時によく売ってるの」



「へぇ~~」




「さて、アオイ。君は何しにこの森へ来たんだ?」



「いや~なんていうか、その、猫を追いかけてたらここに来たんです」



我ながらどうなんだと思う返答だが、事実だから仕方ない。



「猫?」



「そうです。タレ耳が可愛くて小柄な感じの」



「なぜ、猫を追いかけたんだ?」



「いや、なんか着いてこいって感じで。で、ついって行ったら魔法陣が出てきて。
で、気づいたら森にいて、リリィちゃんが世界一素敵な鼻歌で花を採取していたんです」


「わ、わたし、そこまで鼻歌上手じゃないよぅ……」


「いや、鼻歌コンテストがあったら優勝間違いなしだね!」


「アオイ、脱線しているぞ。しかし、そうか、猫か」



「すんません……」


ソフィアさんはふむと考えこみながら、茶を飲む。
しばらく間を置いたあと、再び話を始めた。



「単刀直入に訊くが、君は異世界の人間だな?」



「……ってことは、ここは地球じゃないんですね。イギリスとかフランスとかでもないと」



「チキュウ、イギリス、フランス……どれも知らない単語だな」



あ、これガチで異世界だ。



「アオイ、君はもしかしたらすごい人物かもしれないぞ」



「え? 私はただの子供ですけど……」



「夕食をご馳走しよう。詳しい話はそこでな。リリィ、手伝ってくれ」


「はい」


「あ、私も何か……」


「客人はゆっくりしているのがマナーだ。暇ならこれを読むといい」



と、渡されたのは雑誌だった。

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