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第二章「新たな旅立ち」
第63話「妖夢 轟く」
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ミカちゃんの話をまとめてみる。まず、王様のいなくなったナイトゼナでは後継ぎである王子が逃亡していたが、市民団体によって見つかり、殺害されたとのこと。市民団体は城を占領したものの、政治を行うほど頭の良い市民は少ない。また、金銭面や役職面でも争いが起きている。話し合いは何度も平行線を辿り、折り合いがつかなかったそうだ。最終的に穏健派と強硬派の二つに別れたという。
そんな中、各地にいる貴族たちは自分たちが政治をやるべきだと動き出した。元々、ギルドの収入は依頼掲載料と補助金だが、それで難しい場合は他にも仕事を行う事が許可されている。私のいたギルド「マリア・ファング」はギルドをしつつ、飲食店としても経営していた。また、梨音さんに店の土地を貸していたので賃貸料も得ていたという。
だが、国の機能がストップした為に補助金は打ち切られた。ギルドの収入は国からの補助金がほとんど。副収入では二割にも満たない。金額はメンバーの多さで増減するが、一気に無くなったことで大手のギルドが次々と音を上げた。また治安の悪化に伴い、外出を控える者が激増。依頼掲載をする人も激減した。そういった事が次々と起こったという。
多くのギルドは解散届を出していくしかなかった。当然、「マリア・ファング」も解散届を出した。出した直後、マスターは行方不明になったという。貴族たちはそこに目をつけた。私財を投入し、ギルドをクビになった戦士や自警団達を大勢雇ったのだ。そして市民団体を無差別に狙い、殺害していったという。
ここまでを理沙と師匠に説明した。師匠は簡易的なお墓を作り弔いを終えていた。現在、私達は朝食を食べている最中だ。簡単な料理をサラ師匠が振舞ってくれた。
「なるほど、事態は深刻ッスね。それでミカ達は無事ッスか?」
「うん。今日、船でこっちに来るんだって。リュートや梨音さん、ジーナさんも」
「……」
サラ師匠は何も言わず、飲み物を口にしていた。コーヒーのような黒い色をした飲み物だ。理沙によるとブラック・アルファという飲み物らしい。私達はかける言葉がなかった。何を言っても意味が無いような気がした。
「……キャミィと私はね、孤児だったの。お互い親がいなくてね。いつも店から食べ物を万引きしたり、金持ちの家に入ってお金を盗んだこともあったわね」
唐突に語りだす師匠。
詳しく尋ねようとしたが、そのまま続ける。
「でも、そんな私を教会のシスターが拾ってくれてね。キャミィとも一緒に寄宿舎で暮らしたわ。あの子とは本当に仲良しでね。私は真面目にしてたけど、あの子は寄宿舎抜け出して男と遊んでたわ。それがバレてシスターに怒られることもよく目にしたわね。その後、私は剣の道を極めるために教会を辞めた。あの子も辞めたけど、どこへ仕事しても長続きしなかった。最終的に身体を売ることで食いつないでいくことを覚えたわ。貴族の金持ちとか、大富豪の老人とか、色々な男の所へ行ったり来たりを繰り返していた……それで流れ着いたのがガルオンだったなんてね。私は仕事しながらもアイツとはよく会ってた。相談にも乗ったし、酒を飲んで夜通し語り合うこともあった。最終的には彼女が選んだ人生だけど……もっと私にできることがあったんだと思う。こんな結末を迎える必要はなかった」
「師匠……」
「ちょっと寝るわ。しばらく一人にして」
サラ師匠はこちらの反応を伺うこともなく、言うだけ言って部屋に帰っていく。その背中にかける言葉が思いつかない。何を言っても気休めにもならない気がした。静寂だけが部屋の空気を重くする。
「私達も寝よう……」
と、言いかけた時だった。突然、異変が訪れる。世界がぐにゃぐにゃと歪みだしたのだ。まるで粘土細工のように、壁も、床も、天井も、何もかもがぐにゃぐにゃ変形していく。その中で私達だけがそのままだった。
「ええええ、な、何、これは……」
「きょ、強制転移魔法ッス! こんな大規模な物をどうやって!!」
理沙に声をかけようとしたが、もう理沙の姿はなかった。先ほどまで声を出していた師匠の姿もない。転移という事はどこかに飛ばされてしまうのだろうか?しかし、そう考えるのも束の間。
私の意識は闇に飲まれた……。
無機質な電子音が聞こえる。反社的に手がそれを探し、探り当て、自動的にスマホをポチポチと押す。そのまま意識が自動的に闇に沈む。だが、また無機質な電子音が私を現実に引き戻す。どうやら、スヌーズ設定になっているようだ。仕方なく寝ぼけ眼でスヌーズを解除する。
「ふああああ……良く寝た」
「メイ! やっと起きたのね」
「ミカちゃん。ってゆうか、ここって……」
そこは見知った場所だった。机の上には読みかけの小説と勉強道具。小2の頃に編んだぬいぐるみも鎮座している。本棚にはお気に入りの少女漫画やほとんど使ってない参考書、理沙と一緒に買ったグルメ雑誌。壁にはビジュアル系ロックバンド・クリスナイフのポスター。疑う余地はない、ここは紛れもなく私の部屋である。日本の大阪の、私とお姉ちゃんが住む家である。
「嘘……ここ私の家じゃん。なんで?」
「やっぱりそうなのね。アンタに前見せてもらったような本がたくさんあるし、こんな場所ナイトゼナにはないから。で、ここがメイの家なのね」
「うん、そうなんだけど……」
色々驚くことばかりだが、することは決まっている。
「ミカちゃん久しぶり。会いたかったよ」
と、彼女を抱きしめてキスをした。いつもならびっくりするはずだが、今日の彼女は落ち着いていた。そして私が唇から離れると、名残惜しかったのか、彼女からキスしてくれた。
「私も会いたかったわ。なんか久しぶりね、こういうの」
「うん。話したいことがたくさんあるけど、ちょっと着替えるから、下で待ってもらってもいい?」
「ええ。ちょっと見学してるわ」
ミカちゃんが階段を下りていく音が聞こえる。うちは部屋が二階で居間が一階にあるのだ。と思い出しつつ、急いで普段着に着替える。スマホを見ると理沙から何十回も着信が来ていた。日付は2019年04月12日となっている。私がナイトゼナに来たのは始業式の日だから4月1日。そこから少し日が進んでいるようだ。しかし、スマホを少し弄って違和感に気づいた。だが、今はまず下に降りることを優先。
「ごめん、お待たせ」
「いいわよ。別に」
ミカちゃんは雑誌を読んでいた。
それは以前母親が買ってそのままにしている「デロワッサン」という健康雑誌だ。
「ああ、それお母さんが読んでた本よ」
「お母さんってあの……いや、ナイトゼナのお母さんではないのね。メイの産みの親ってことね」
お母さん→私を生んで育ててくれた日本のお母さん。お義母さん→ナイトゼナで養子縁組してくれた優しいお義母さん。となっているので間違えないように。
「そうそう。ミカちゃん、理沙から電話があったの。少し待ってて」
「わかったわ」
すっかり電話の意味を理解してくれたミカちゃん。再び雑誌に目を落としている。日本語は読めないはずだけど、興味があるのだろうか。絵や写真も多いから、文字がわからなくても楽しめるのかな。安堵しつつ、スマホで理沙に電話をかける。
プルガチャ。
「メイ、大丈夫ッスか!?」
開幕大声で耳がキーンとする。
傍にいるミカちゃんにまで声が聞こえるほど大きかった。
「り、理沙、そんな大声で言わなくても聞こえてるから……こっちは大丈夫。ミカちゃんと一緒だよ。そっちは?」
「こっちはノノ、サラさん、リュートと一緒です。起きたらデパートの寝具売り場で驚いたッス。でも、妙ッス。誰も存在に気づいていないっていうか……」
「理沙、疑問を話し合うのは合流してからにしよう。みんなでゆっくりと腰を据えて話し合いましょう。今どこにいるの?」
「そうッスね。いつもの公園に来ていますので、そこで落ち合いましょうッス」
「OK、すぐ向かうわ。また後でね」
と、電話を切る。
「あの公園って?」
「近所に小さい公園があるの。そこは私と理沙がよく待ち合わせに使ってた場所なんだ」
「……そう。じゃ、行きましょ。案内してくれる?」
「うん」
ミカちゃんの手にそっと自分の手を重ねる。
少し嫉妬した感じだったので。
「私、ミカちゃんの事大好きだから。親友だからね」
「……ありがと」
小さく呟いて顔を赤くするミカちゃん。できればずっと家でお話していたいが、そうもいかない。
早速向かうことにした。
そんな中、各地にいる貴族たちは自分たちが政治をやるべきだと動き出した。元々、ギルドの収入は依頼掲載料と補助金だが、それで難しい場合は他にも仕事を行う事が許可されている。私のいたギルド「マリア・ファング」はギルドをしつつ、飲食店としても経営していた。また、梨音さんに店の土地を貸していたので賃貸料も得ていたという。
だが、国の機能がストップした為に補助金は打ち切られた。ギルドの収入は国からの補助金がほとんど。副収入では二割にも満たない。金額はメンバーの多さで増減するが、一気に無くなったことで大手のギルドが次々と音を上げた。また治安の悪化に伴い、外出を控える者が激増。依頼掲載をする人も激減した。そういった事が次々と起こったという。
多くのギルドは解散届を出していくしかなかった。当然、「マリア・ファング」も解散届を出した。出した直後、マスターは行方不明になったという。貴族たちはそこに目をつけた。私財を投入し、ギルドをクビになった戦士や自警団達を大勢雇ったのだ。そして市民団体を無差別に狙い、殺害していったという。
ここまでを理沙と師匠に説明した。師匠は簡易的なお墓を作り弔いを終えていた。現在、私達は朝食を食べている最中だ。簡単な料理をサラ師匠が振舞ってくれた。
「なるほど、事態は深刻ッスね。それでミカ達は無事ッスか?」
「うん。今日、船でこっちに来るんだって。リュートや梨音さん、ジーナさんも」
「……」
サラ師匠は何も言わず、飲み物を口にしていた。コーヒーのような黒い色をした飲み物だ。理沙によるとブラック・アルファという飲み物らしい。私達はかける言葉がなかった。何を言っても意味が無いような気がした。
「……キャミィと私はね、孤児だったの。お互い親がいなくてね。いつも店から食べ物を万引きしたり、金持ちの家に入ってお金を盗んだこともあったわね」
唐突に語りだす師匠。
詳しく尋ねようとしたが、そのまま続ける。
「でも、そんな私を教会のシスターが拾ってくれてね。キャミィとも一緒に寄宿舎で暮らしたわ。あの子とは本当に仲良しでね。私は真面目にしてたけど、あの子は寄宿舎抜け出して男と遊んでたわ。それがバレてシスターに怒られることもよく目にしたわね。その後、私は剣の道を極めるために教会を辞めた。あの子も辞めたけど、どこへ仕事しても長続きしなかった。最終的に身体を売ることで食いつないでいくことを覚えたわ。貴族の金持ちとか、大富豪の老人とか、色々な男の所へ行ったり来たりを繰り返していた……それで流れ着いたのがガルオンだったなんてね。私は仕事しながらもアイツとはよく会ってた。相談にも乗ったし、酒を飲んで夜通し語り合うこともあった。最終的には彼女が選んだ人生だけど……もっと私にできることがあったんだと思う。こんな結末を迎える必要はなかった」
「師匠……」
「ちょっと寝るわ。しばらく一人にして」
サラ師匠はこちらの反応を伺うこともなく、言うだけ言って部屋に帰っていく。その背中にかける言葉が思いつかない。何を言っても気休めにもならない気がした。静寂だけが部屋の空気を重くする。
「私達も寝よう……」
と、言いかけた時だった。突然、異変が訪れる。世界がぐにゃぐにゃと歪みだしたのだ。まるで粘土細工のように、壁も、床も、天井も、何もかもがぐにゃぐにゃ変形していく。その中で私達だけがそのままだった。
「ええええ、な、何、これは……」
「きょ、強制転移魔法ッス! こんな大規模な物をどうやって!!」
理沙に声をかけようとしたが、もう理沙の姿はなかった。先ほどまで声を出していた師匠の姿もない。転移という事はどこかに飛ばされてしまうのだろうか?しかし、そう考えるのも束の間。
私の意識は闇に飲まれた……。
無機質な電子音が聞こえる。反社的に手がそれを探し、探り当て、自動的にスマホをポチポチと押す。そのまま意識が自動的に闇に沈む。だが、また無機質な電子音が私を現実に引き戻す。どうやら、スヌーズ設定になっているようだ。仕方なく寝ぼけ眼でスヌーズを解除する。
「ふああああ……良く寝た」
「メイ! やっと起きたのね」
「ミカちゃん。ってゆうか、ここって……」
そこは見知った場所だった。机の上には読みかけの小説と勉強道具。小2の頃に編んだぬいぐるみも鎮座している。本棚にはお気に入りの少女漫画やほとんど使ってない参考書、理沙と一緒に買ったグルメ雑誌。壁にはビジュアル系ロックバンド・クリスナイフのポスター。疑う余地はない、ここは紛れもなく私の部屋である。日本の大阪の、私とお姉ちゃんが住む家である。
「嘘……ここ私の家じゃん。なんで?」
「やっぱりそうなのね。アンタに前見せてもらったような本がたくさんあるし、こんな場所ナイトゼナにはないから。で、ここがメイの家なのね」
「うん、そうなんだけど……」
色々驚くことばかりだが、することは決まっている。
「ミカちゃん久しぶり。会いたかったよ」
と、彼女を抱きしめてキスをした。いつもならびっくりするはずだが、今日の彼女は落ち着いていた。そして私が唇から離れると、名残惜しかったのか、彼女からキスしてくれた。
「私も会いたかったわ。なんか久しぶりね、こういうの」
「うん。話したいことがたくさんあるけど、ちょっと着替えるから、下で待ってもらってもいい?」
「ええ。ちょっと見学してるわ」
ミカちゃんが階段を下りていく音が聞こえる。うちは部屋が二階で居間が一階にあるのだ。と思い出しつつ、急いで普段着に着替える。スマホを見ると理沙から何十回も着信が来ていた。日付は2019年04月12日となっている。私がナイトゼナに来たのは始業式の日だから4月1日。そこから少し日が進んでいるようだ。しかし、スマホを少し弄って違和感に気づいた。だが、今はまず下に降りることを優先。
「ごめん、お待たせ」
「いいわよ。別に」
ミカちゃんは雑誌を読んでいた。
それは以前母親が買ってそのままにしている「デロワッサン」という健康雑誌だ。
「ああ、それお母さんが読んでた本よ」
「お母さんってあの……いや、ナイトゼナのお母さんではないのね。メイの産みの親ってことね」
お母さん→私を生んで育ててくれた日本のお母さん。お義母さん→ナイトゼナで養子縁組してくれた優しいお義母さん。となっているので間違えないように。
「そうそう。ミカちゃん、理沙から電話があったの。少し待ってて」
「わかったわ」
すっかり電話の意味を理解してくれたミカちゃん。再び雑誌に目を落としている。日本語は読めないはずだけど、興味があるのだろうか。絵や写真も多いから、文字がわからなくても楽しめるのかな。安堵しつつ、スマホで理沙に電話をかける。
プルガチャ。
「メイ、大丈夫ッスか!?」
開幕大声で耳がキーンとする。
傍にいるミカちゃんにまで声が聞こえるほど大きかった。
「り、理沙、そんな大声で言わなくても聞こえてるから……こっちは大丈夫。ミカちゃんと一緒だよ。そっちは?」
「こっちはノノ、サラさん、リュートと一緒です。起きたらデパートの寝具売り場で驚いたッス。でも、妙ッス。誰も存在に気づいていないっていうか……」
「理沙、疑問を話し合うのは合流してからにしよう。みんなでゆっくりと腰を据えて話し合いましょう。今どこにいるの?」
「そうッスね。いつもの公園に来ていますので、そこで落ち合いましょうッス」
「OK、すぐ向かうわ。また後でね」
と、電話を切る。
「あの公園って?」
「近所に小さい公園があるの。そこは私と理沙がよく待ち合わせに使ってた場所なんだ」
「……そう。じゃ、行きましょ。案内してくれる?」
「うん」
ミカちゃんの手にそっと自分の手を重ねる。
少し嫉妬した感じだったので。
「私、ミカちゃんの事大好きだから。親友だからね」
「……ありがと」
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