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第二章「新たな旅立ち」
第47話「メイとセレナさんとノノ」
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それから数十分後。一通りの説明は終わった。流石のセレナさんも驚きを隠せないようだった。少し、きょとんとした顔をしている。
「……なるほどね。そういう理由があったのかい」
驚きはしたものの、セレナさんはすぐに納得という表情をした。もっと驚かれるかなと思ったけど、彼女は極めて冷静な態度だ。
「あんたも色々苦労してきたんだね」
「ええ、まあ……」
といったところで腹の虫が鳴る。は、はずかしい……。
「ふふ、お腹空いたんだねぇ。続きは食べながらでもいいだろう」
今日は話を聞いたり、喋ったりしたからなぁ。緊張したのもあって、いつもより少し精神的に疲れたかも。ここで食事にできるなら有り難い。
「といっても、食料が……」
「妖精なら家を持っているはずだ、食料もそこにあるだろう。私はフェアリー・ティーだけでいい」
「それだと、お腹空きません?」
私の質問に首を横に振るセレナさん。こういう仕草、私のお婆ちゃんとよく似ている。異世界でもお婆ちゃんはお婆ちゃんなのね。
「もう年寄りだからね。あんまりたくさん食べれないし、空腹も感じないのさ。もうそこまで身体が栄養を必要としていないんだよ」
私が目ぶせをして、ノノは妖精の家を出してくれた。ひとまずゴハンということで家に入ることにした。
「じゃあ、簡単な料理を作るわ。二人共、少し待ってて」
ノノはエプロンを着用し、キッチンで手際よく作業を始める。私とセレナさんは一緒にフェアリー・ティーを飲み、喉を潤す。相変わらず、温かくて美味しい。心が何だかホッとする。
「……ふふ、懐かしい味だ。もう何年ぶりだろうね、この味は」
「妖精にお知り合いがいるんですか?」
「ああ、もう随分会っていないがね。その子もお前みたいに人のいい奴だった。世話好きというか、お節介というか。妖精にしては珍しいタイプだったね」
「……あの、人のいいじゃなくて、いい人って言ってほしいんですが」
人がいいってのはちょっと引っかかる。私がぶーたれているとセレナさんは豪快に笑った。
「はっはっはっ、そりゃ悪かったね。そうだね、いい人って言わなくちゃ腹が立つだろうね」
「さ、できたわ。鶏もも肉と山盛りきのこを炒めてみたわ。私の好物だけど、メイもきっと気に入ってくれると思う。どうぞ、召し上がれ」
皿に出されたのは鶏もも肉、しめじ、しいたけなどが盛り付けられた炒め物だ。とても美味しそうで思わず、見ただけでヨダレが出てくる。
「美味しそう!いただきまーす!!」
「ごちそうさん、そろそろ寝させてもらう。ノノ、ベッドを借りるよ」
「どうぞ」
と、さっそく食べる私とは裏腹にそのままベッドに行くセレナさん。まだ日は落ち切ってないが、お年寄りは寝るのが速いからなぁ。というか、これ、思ったよりあっさりしてて美味しい。しめじ、しいたけも美味しいわ。いくらでも食べれちゃうな。
「おかわりもあるから遠慮せず食べてね」
食べながらノノの表情をちらっと盗み見る。ニコニコしているようだが、その表情は少しアンニュイだ。気分が晴れず、つまらなそうな感じがする。
「ノノ、なんか機嫌悪い?」
「ううん、別にメイは何も悪くないわ。ただ、ちょっとね……」
「そのちょっとを教えてよ。そんな暗い顔してると心配だよ」
ノノは少し苦笑しつつ、フェアリーティーを一口飲んだ。カップを置き、一息をついてから「そうね」と頷いた。
「セレナさんとの話題で愛だの、旦那さんとの出会いだのってあったでしょ? その会話で姉を思い出してね」
「ノノにもお姉ちゃんがいるの?」
それは初耳だ。だが、彼女の声のトーンは重い。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。それとも仲が悪いとか?ノノはそのまま続ける。
「ええ。姉は優秀な人でね、女王様のお城で昼夜を問わず働いていたわ。本当に自慢の姉でね。私はそんな姉に近づきたくて勉強も実務も頑張ったわ。仲もよかったし、みんな姉を尊敬していた。けれど……」
「けれど?」
「姉は人間の男を好きになったの。恋愛に溺れ、仕事を辞め、妖精の国を出ていった。私に何も言わずにね。それ以降、姉には一度も会ったことがないの」
「ノノ……」
ノノは俯き、複雑な表情をしている。嫌悪しているようにも憎悪しているようにも見て取れる。大好きなお姉ちゃんが急にいなくなったのだ。私だったらきっと寂しくて泣き出してしまうだろう。うちのお姉ちゃんは元気にしているだろうか。ニルヴァーナでの大会以降会っていないけれど。
「私にはわからないわ。愛って何なのか。変態紳士の所でさんざん男の一方的な性的願望を見たから尚更ね。男も女も最終的に子供を作りたい。人間だって動物だから、種を残すという考えは当然よね。でも、他の動物と違って、性的欲求や快楽を得たいが為に愛や恋を唄うんでしょう?セレナさんには悪いけどね、私にはどうもそういうのって信じられないわ」
「……」
こういう時、なんと声をかければいいのだろうか。私は異性を好きになったこともないし、誰かを本気で愛したこともない。愛や恋を語るにはあまりにも未熟で経験不足だ。素敵な恋には憧れるけど、現実はきっとドラマのようには上手くいかない。わかっているのはそれだけで、それ以外は何も知らない。第一、たかが16歳の私が愛だの恋だのわかるはずがない。それらが理解できるほど、濃厚な人生は送っていない。
「ごめん、メイ。あなたに言っても仕方のない事だったわね。まあ、メイは男よりも女が好きらしいし。理沙もそうだし、ミカもあなたに気がありそうだしね」
「な、何言い出すのノノ! 別に二人とはそんなんじゃ……!」
いきなりの発言に赤面する。まあ、確かに理沙は好きだ好きだ言ってくるけど。気持ちは本気なのは嬉しいのだが反応に困る。ミカちゃんとはだいぶ仲良くなれて嬉しい。これからもずっと仲良くしたいと思っている。けど、女の子同士で恋とかそういうのって……。
「照れない、照れない。別にご主人様がどんな性癖でも私は気にしないわ。それよりたまには私と寝ましょうよ。いつも理沙やミカと寝てばっかりでいい加減、寂しいのよ。ねね、お願い」
「いいよ。じゃ、そろそろ寝よっか。まだ早い気もするけど」
「睡眠不足はお肌の大敵よ、メイ」
「よし、寝よう。ノノ、電気消して」
「はーい」
「おやすみ、ノノ」
「おやすみ、メイ」
実はさっきからとても眠かった。ノノと話している時は平気だったけど……本気でぶつかって相手に想いを込めて言葉を伝えたこと。緊張していたのもあるし、拒絶されたらと思うと怖い所もあった。そのせいで物凄く疲労を感じていた。けど、心の中では充実感も感じていた。セレナさんと仲良くなれてとても嬉しい。だから、疲れていたけど、いい疲れだなと思えた。瞼を開く力も残っておらず、そのまま眠りに落ちた。
それから五日間ほどセレナさんと森で暮らした。色々話したり、食事をしたり、思い出話を聞いたりした。ノノも少しずつだが、セレナさんに心を開いていき、私と彼女は本当に祖母と孫のような関係をきずいていた。しかし、セレナさんは何故、この島に来たのかは話してくれない。聞いたとしてもはぐらかされるか、別の話題に変えてしまう。
多分、何かしら理由があると思うのだけれど……。
「おはよ、ノノ」
「おはよ、メイ。料理の準備するから、先にお風呂入っちゃって」
「はーい」
ともかく、まずはシャワーを浴びよう。ぽいぽいと服と下着を捨て、浴槽へと入る。朝シャワーを浴び、鼻歌をしながらリラックス。それからささっと着替えを済ませた。セレナさんは家の中にはおらず、私一人だけだ。恐らく、外にいるんじゃないかな。お年寄りは朝が早いし、何より旦那さんとの思い出の地。ゆったり自然でも眺めているんじゃないかな。それぐらいには彼女の事は理解している。外に出ると、大きな木にもたれているセレナさんがいた。朝の森は少し肌寒い。
「セレナさん、やっぱりここにいた」
「おはよう、メイ。いい朝だね」
「おはようございます。いい朝ですね」
時刻は午前10時を過ぎた頃。森は平和で、いつも通り静音だ。日本だとこうはいかない。セールの掛け声だの、車やらバイク、工事やら……もう本当、五月蝿くて仕方がない。だが、ここではそういった人工的な音は一切聞こえない。自然の音だけが耳に入ってくる。風に木の葉が舞い、心地よい音色を奏でる。都会では決して味わえない雰囲気だ。今度、理沙やミカちゃん達とお弁当を持ってピクニックに来たいな。サラさんや梨音さんも誘おう。きっと楽しくなりそうだ。
「うっ……」
セレナさんが急に口元を抑え、地面にうずくまった。何度も咳をし、苦痛に顔を歪めていた。我に帰った私はすぐさま駆け寄った。
「セレナさん!大丈夫ですか!?」
背中を擦る。雑草に赤いものがべったりとついている。ポスターカラーよりもクリアで目に痛い印象を受ける。そして、それは少なからず神経を強張らせる。言うまでもなく、血だからだ。
「セレナさん、病気なんですか? ノノ、ノノ!」
こんな辺境の地では医者はおろか、人なんかいやしない。ノノの魔法なら完治は無理でも身体を楽にできるはず。ノノはキッチンからすぐに駆けつけてくれた。けれど、セレナさんは首を横に降った。
「……いいんだ、メイ。もう身体が長くないのはわかっていたからね。そろそろ寿命なのさ」
「そんな……」
「やっぱり、そうなんですね」
「ノノ、どういう事!?」
「呻き声がセレナさんだとしたら、彼女はここを死に場所に選んだのよ」
私は二の句が継げない。呆然とする私にセレナさんは頷く。
「ここは旦那が私を初めて見た場所なんだ。私が長の使いの後、休憩場としてここを使っていたんだが……それからも一目を偲んでここで愛を語り、抱き合った。あの人を感じられる場所で死ぬためにこの島に来たんだ」
セレナさんは顔こそ苦痛だが、どこか悟った顔をしていた。けど、すぐに咳をし、血を吐いている。せっかく仲良くなったのに死なせてなるものか!
「ほう、死にかけとは嬉しいね。手間が省けるぜ」
「誰!?」
急に聞いたことのない男の声が聞こえてきた。心をざわつかせる不快感。同時に複数の足音が聞こえてくる。振り向くと、そこには大勢の男たちがいた。どいつもこいつも薄汚れた服に身を包んだ若い連中だ。顔には傷があったり、中には腕に入れ墨をしている者もいる。贔屓目に見てもまともな連中ではなさそうだ。奴らは変な笑みを浮かべながらナイフを手にしている。だが、そのナイフは以前の船夫達と持ち方が違う。彼らはナイフを横向けにして持っているのだ。
”油断するな。あの者たちはまともではないぞ。
全員、人を殺した経験を持つ者達だ”
「どういうこと、セグンダディオ?っていうか、随分久しぶりね」
”うむ。実はナイフをそのまま人体に刺しても、骨が邪魔をして致命傷を与えられないのだ。だが、横向きにすることで骨をすり抜け、相手に致命傷を負わせることができる。その状態で刺された場合、死に至る可能性が極めて高くなる”
「物騒な豆知識、どうもありがとう」
心臓がきゅっと縮む感じがする。つまり、相手はそれぐらい知っている手練って事ね。だけど、別に怖くないし。敵はざっと見た感じ30人前後。リーダー格の男は中央のハゲ頭だと思われる。奴だけ着ている服が小奇麗だから間違いない。
「へへへ、ジェットさん、この女やっちゃっていいっすか?チビとやるのは初めてなんすよ。一週間前から溜め込んですぜ。今にも溢れそうで我慢できないんすよ~」
ギャハハハハハと馬鹿笑いが響く。その声に驚き、鳥たちはその場を去ってしまった。車以上に聞きたくない雑音はこういう連中の笑い声だ。
「まだ止めとけ。仕事が済んでからだ。そん時は好きにしていい」
「やりぃ!」
「兄貴、俺も俺も!!」
男たちは私をいやらしい目で品定めしている。けど、そんな視線は無視だ。私はセレナさんを後方の茂みへと連れていく。
「セレナさん、大人しくしててくださいね。すぐに片付けてきます。ノノ、セレナさんをお願い」
「わかったわ」
「メイ、大丈夫なのかい?」
「こう見えてもそれなりに場数も踏んでいます。あんな奴らに負けませんよ」
私はそう言い残すと、更に前と出た。男たちがナイフを構え直す。戦闘態勢の準備はできているようだ。
「あんた達、いったいここに何しに来たの!?」
「お前が七瀬メイだな?俺はジェット・アルダー。金になることなら何でもやる、何でも屋さんさ」
「今すぐ森から出ていって!」
私がそう言うと男たちはムッと怒気を強めてきた。殺気がキツくなったのが肌でわかる。だが、涼しい顔をしているのはジェットだった。
「そうはいかねえ、こっちも商売でな。おチビちゃん、痛い目に逢いたくなければお前こそ森を出て行け。そうすれば妖精共々命を助けてやる。ただババアは置いていけ」
「悪いけど、そんな訳にはいかないわ。お年寄りがお金になるなんて思わないけど?」
ハハハとジェットと呼ばれた男は笑う。いやらしい笑みを浮かべながら今度はお婆さんを品定めする。
「お前も聞いてるだろうが、そのババアはドラゴニストだ。ナイトゼナはおろか、他の大陸でも例がない貴重なサンプル。学者どもに売れば良い金になる。それにドラゴンに戻して解体すりゃ、より金になるんだ。龍は金になるのさ、羽も腕も鱗も歯も全てな。昔からドラゴンは負と金の象徴だ。富と名誉を得るためにドラゴンスレイヤーになった奴も多い」
「戻す……?」
これだよとジェットが取り出したのは金色の鈴だ。見たところ、普通の鈴にしか見えないが。
「これは龍の鈴だ。ドラゴニストにこれを使えば、一時的にドラゴンの姿に戻せるのさ。ババアを捕まえ、ドラゴン研究者に売っぱらい、その後でドラゴンに戻して毟り取る。俺の計算じゃ、少なくとも30000万ガルドはするだろう。それが筋書きだ」
「龍の鈴は長の持つ物だ、何故、お前たちが!!」
セレナさんは堪らず叫んだ。だが、ジェットは当然だろという顔で
「殺して奪ったからに決まってるだろう。そうか、お前の元いた集落なのか。安心しな、お前を追い出した奴は全員殺してやったよ。長も含め、龍たちはバラバラにして売っぱらい、一部は武器や防具に加工させて商品にして売り飛ばした。それが飛ぶように売れてな、お陰で良い稼ぎになったぜ」
男達は馬鹿笑いし、思い出話に花を咲かせた。その金で連日連夜、大樽で酒を飲んだこと、高級な風俗で女と何日も寝たこと。それ以外にも男達のくだらない欲求を解消する話が飛び交う。ハッキリ言ってそんな話など聞きたくなかった。女の私には理解できないし、したくもない。だが、耳は戯言の一つ一つを全部拾い取ってしまう。この時だけは耳が良いということを呪いたくなる。
「集落の者を殺したと言うのか!? 誇り高き龍族を殺したというのか!」
「何が誇り高き龍族だ! お前も知っているだろう、龍族が犯した罪を!この世界をこんな風にしたのは龍族にも責任があるんだぜ?」
ジェットは話をしつつ、私達と間合いを詰めていく。殺気が辺りから煙のように充満しているのが感じられる。声は耳が拾うが、神経は殺気を警戒している。いつ襲いかかっても良いよう、頭を最大限に危機的上にセットする。セグンダディオを静かに解除しておく。
「マルディス・ゴアは8つあった大陸を4つにしたと言うが、奴一人で大陸を焼いたわけじゃねえ。その中には裏切り者の龍族が数多くいた。そいつらも大陸焼きに参加したのさ。龍は古代より畏怖される存在とされ、一部の人間は神として崇めていた。だが、その件で人々は龍に憎悪し、今も嫌悪している。だが、龍が人間に化ける姿は極めて美人だと言う。ドラゴニストは特にな……お前の旦那は大富豪だが、どうせ身体目当てだったんだろうよ!!」
ギャハハハハと笑い飛ばすジェット達。剣を握る手に力が入る。怒りを歯で食いしばり、暴走しないように理性を働かせる。それでも怒りや憎悪が胸の中に激しく渦巻いた。セレナさんは俯くことしかできず、男達の笑いに必死に堪えていた。
「もっと教えてやる……そのクソババアを含め、長や仲間たちも全てマルディス・ゴアの大陸焼きに付き合った連中の末裔だ。100万年前の話だが、龍に関する資料は数多く残っている。俺はそれを全部読んだ、それだけ人々の恨みは深かったんだろう。マルディス・ゴアは復活するなんて噂があるが、そうなったらきっと今いる龍達も勇んで参加するはずだ。つまり、俺達は竜殺しの英雄だ!!」
「五月蝿いわね……グダグダと」
私は歩を進める。もう我慢ならない。冷静と暴走を脳に叩き込む。血圧が上昇し、アドレナリンが沸騰する。八つ当たり気味にセグンダディオを振るう。大木が音を立てて崩れ落ちた。男達の笑い声はピタリと止んだ。彼らは皆、驚愕して顔色を変えていた。セグンダディオによると高さ112メートル、幹周り58メートルだそうだ。高さはタワーマンション25階ぐらいだと考えるとわかりやすい。幹周りは大人30人が手を繋いでやっと囲める太さだという。そんな木を切り裂く剣など誰も知らない。
「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと来なさいよ。それとも怖いの?」
「へっ、ガキが。いっちょまえに舐めた口叩くじゃねぇか。七瀬メイ、お前はなんでこんなババアを守る? 仕事なんて適当に報告すりゃいい。守った所でどうせババアはその内くだばる。ドラゴニストの寿命は人間よりも短いんだぞ。世間は龍を心底、憎んでいる。殺す理由はあるが、生かしておく理由はない」
「私はこの世界の歴史なんか知らないし、100万年前の事なんて興味ない。世間がどう思っていようと関係ない。けどね、私とセレナさんは友達なの。友達を守るのに理由は必要ない!!」
私が叫ぶと同時に男が跳躍し、襲い掛かってきた。それを真っ二つに切り裂く。アジの開きのように頭から股までバッサリだ。返り血がかかり、私を赤く汚していく。いつもなら自責の念が湧くが、そんなものはもう無い。龍だの人だの世間だの、そんなのどうだっていい。
「後悔するわよ、全員まとめて地獄行きだ!!」
そんな私に野盗達は怯えた。私がどんな顔をしていたのか、私は知らない。鬼なのか、夜叉なのか、それすらもわからない。私はもう、頭の中には全員を皆殺しにすることにしか考えていなかった。そして、セレナさんを罵倒したジェットを許す訳にはいかない。彼女を追い出したとはいえ、家族だった龍まで自分の私利私欲の為に殺す。そんな人間を生かしておけば、きっとまた誰かが涙することになる。怒りと憎しみと悲しさを剣に。友達の為に利他の心を胸に。私は駆け出した。
「……なるほどね。そういう理由があったのかい」
驚きはしたものの、セレナさんはすぐに納得という表情をした。もっと驚かれるかなと思ったけど、彼女は極めて冷静な態度だ。
「あんたも色々苦労してきたんだね」
「ええ、まあ……」
といったところで腹の虫が鳴る。は、はずかしい……。
「ふふ、お腹空いたんだねぇ。続きは食べながらでもいいだろう」
今日は話を聞いたり、喋ったりしたからなぁ。緊張したのもあって、いつもより少し精神的に疲れたかも。ここで食事にできるなら有り難い。
「といっても、食料が……」
「妖精なら家を持っているはずだ、食料もそこにあるだろう。私はフェアリー・ティーだけでいい」
「それだと、お腹空きません?」
私の質問に首を横に振るセレナさん。こういう仕草、私のお婆ちゃんとよく似ている。異世界でもお婆ちゃんはお婆ちゃんなのね。
「もう年寄りだからね。あんまりたくさん食べれないし、空腹も感じないのさ。もうそこまで身体が栄養を必要としていないんだよ」
私が目ぶせをして、ノノは妖精の家を出してくれた。ひとまずゴハンということで家に入ることにした。
「じゃあ、簡単な料理を作るわ。二人共、少し待ってて」
ノノはエプロンを着用し、キッチンで手際よく作業を始める。私とセレナさんは一緒にフェアリー・ティーを飲み、喉を潤す。相変わらず、温かくて美味しい。心が何だかホッとする。
「……ふふ、懐かしい味だ。もう何年ぶりだろうね、この味は」
「妖精にお知り合いがいるんですか?」
「ああ、もう随分会っていないがね。その子もお前みたいに人のいい奴だった。世話好きというか、お節介というか。妖精にしては珍しいタイプだったね」
「……あの、人のいいじゃなくて、いい人って言ってほしいんですが」
人がいいってのはちょっと引っかかる。私がぶーたれているとセレナさんは豪快に笑った。
「はっはっはっ、そりゃ悪かったね。そうだね、いい人って言わなくちゃ腹が立つだろうね」
「さ、できたわ。鶏もも肉と山盛りきのこを炒めてみたわ。私の好物だけど、メイもきっと気に入ってくれると思う。どうぞ、召し上がれ」
皿に出されたのは鶏もも肉、しめじ、しいたけなどが盛り付けられた炒め物だ。とても美味しそうで思わず、見ただけでヨダレが出てくる。
「美味しそう!いただきまーす!!」
「ごちそうさん、そろそろ寝させてもらう。ノノ、ベッドを借りるよ」
「どうぞ」
と、さっそく食べる私とは裏腹にそのままベッドに行くセレナさん。まだ日は落ち切ってないが、お年寄りは寝るのが速いからなぁ。というか、これ、思ったよりあっさりしてて美味しい。しめじ、しいたけも美味しいわ。いくらでも食べれちゃうな。
「おかわりもあるから遠慮せず食べてね」
食べながらノノの表情をちらっと盗み見る。ニコニコしているようだが、その表情は少しアンニュイだ。気分が晴れず、つまらなそうな感じがする。
「ノノ、なんか機嫌悪い?」
「ううん、別にメイは何も悪くないわ。ただ、ちょっとね……」
「そのちょっとを教えてよ。そんな暗い顔してると心配だよ」
ノノは少し苦笑しつつ、フェアリーティーを一口飲んだ。カップを置き、一息をついてから「そうね」と頷いた。
「セレナさんとの話題で愛だの、旦那さんとの出会いだのってあったでしょ? その会話で姉を思い出してね」
「ノノにもお姉ちゃんがいるの?」
それは初耳だ。だが、彼女の声のトーンは重い。何か嫌な思い出でもあるのだろうか。それとも仲が悪いとか?ノノはそのまま続ける。
「ええ。姉は優秀な人でね、女王様のお城で昼夜を問わず働いていたわ。本当に自慢の姉でね。私はそんな姉に近づきたくて勉強も実務も頑張ったわ。仲もよかったし、みんな姉を尊敬していた。けれど……」
「けれど?」
「姉は人間の男を好きになったの。恋愛に溺れ、仕事を辞め、妖精の国を出ていった。私に何も言わずにね。それ以降、姉には一度も会ったことがないの」
「ノノ……」
ノノは俯き、複雑な表情をしている。嫌悪しているようにも憎悪しているようにも見て取れる。大好きなお姉ちゃんが急にいなくなったのだ。私だったらきっと寂しくて泣き出してしまうだろう。うちのお姉ちゃんは元気にしているだろうか。ニルヴァーナでの大会以降会っていないけれど。
「私にはわからないわ。愛って何なのか。変態紳士の所でさんざん男の一方的な性的願望を見たから尚更ね。男も女も最終的に子供を作りたい。人間だって動物だから、種を残すという考えは当然よね。でも、他の動物と違って、性的欲求や快楽を得たいが為に愛や恋を唄うんでしょう?セレナさんには悪いけどね、私にはどうもそういうのって信じられないわ」
「……」
こういう時、なんと声をかければいいのだろうか。私は異性を好きになったこともないし、誰かを本気で愛したこともない。愛や恋を語るにはあまりにも未熟で経験不足だ。素敵な恋には憧れるけど、現実はきっとドラマのようには上手くいかない。わかっているのはそれだけで、それ以外は何も知らない。第一、たかが16歳の私が愛だの恋だのわかるはずがない。それらが理解できるほど、濃厚な人生は送っていない。
「ごめん、メイ。あなたに言っても仕方のない事だったわね。まあ、メイは男よりも女が好きらしいし。理沙もそうだし、ミカもあなたに気がありそうだしね」
「な、何言い出すのノノ! 別に二人とはそんなんじゃ……!」
いきなりの発言に赤面する。まあ、確かに理沙は好きだ好きだ言ってくるけど。気持ちは本気なのは嬉しいのだが反応に困る。ミカちゃんとはだいぶ仲良くなれて嬉しい。これからもずっと仲良くしたいと思っている。けど、女の子同士で恋とかそういうのって……。
「照れない、照れない。別にご主人様がどんな性癖でも私は気にしないわ。それよりたまには私と寝ましょうよ。いつも理沙やミカと寝てばっかりでいい加減、寂しいのよ。ねね、お願い」
「いいよ。じゃ、そろそろ寝よっか。まだ早い気もするけど」
「睡眠不足はお肌の大敵よ、メイ」
「よし、寝よう。ノノ、電気消して」
「はーい」
「おやすみ、ノノ」
「おやすみ、メイ」
実はさっきからとても眠かった。ノノと話している時は平気だったけど……本気でぶつかって相手に想いを込めて言葉を伝えたこと。緊張していたのもあるし、拒絶されたらと思うと怖い所もあった。そのせいで物凄く疲労を感じていた。けど、心の中では充実感も感じていた。セレナさんと仲良くなれてとても嬉しい。だから、疲れていたけど、いい疲れだなと思えた。瞼を開く力も残っておらず、そのまま眠りに落ちた。
それから五日間ほどセレナさんと森で暮らした。色々話したり、食事をしたり、思い出話を聞いたりした。ノノも少しずつだが、セレナさんに心を開いていき、私と彼女は本当に祖母と孫のような関係をきずいていた。しかし、セレナさんは何故、この島に来たのかは話してくれない。聞いたとしてもはぐらかされるか、別の話題に変えてしまう。
多分、何かしら理由があると思うのだけれど……。
「おはよ、ノノ」
「おはよ、メイ。料理の準備するから、先にお風呂入っちゃって」
「はーい」
ともかく、まずはシャワーを浴びよう。ぽいぽいと服と下着を捨て、浴槽へと入る。朝シャワーを浴び、鼻歌をしながらリラックス。それからささっと着替えを済ませた。セレナさんは家の中にはおらず、私一人だけだ。恐らく、外にいるんじゃないかな。お年寄りは朝が早いし、何より旦那さんとの思い出の地。ゆったり自然でも眺めているんじゃないかな。それぐらいには彼女の事は理解している。外に出ると、大きな木にもたれているセレナさんがいた。朝の森は少し肌寒い。
「セレナさん、やっぱりここにいた」
「おはよう、メイ。いい朝だね」
「おはようございます。いい朝ですね」
時刻は午前10時を過ぎた頃。森は平和で、いつも通り静音だ。日本だとこうはいかない。セールの掛け声だの、車やらバイク、工事やら……もう本当、五月蝿くて仕方がない。だが、ここではそういった人工的な音は一切聞こえない。自然の音だけが耳に入ってくる。風に木の葉が舞い、心地よい音色を奏でる。都会では決して味わえない雰囲気だ。今度、理沙やミカちゃん達とお弁当を持ってピクニックに来たいな。サラさんや梨音さんも誘おう。きっと楽しくなりそうだ。
「うっ……」
セレナさんが急に口元を抑え、地面にうずくまった。何度も咳をし、苦痛に顔を歪めていた。我に帰った私はすぐさま駆け寄った。
「セレナさん!大丈夫ですか!?」
背中を擦る。雑草に赤いものがべったりとついている。ポスターカラーよりもクリアで目に痛い印象を受ける。そして、それは少なからず神経を強張らせる。言うまでもなく、血だからだ。
「セレナさん、病気なんですか? ノノ、ノノ!」
こんな辺境の地では医者はおろか、人なんかいやしない。ノノの魔法なら完治は無理でも身体を楽にできるはず。ノノはキッチンからすぐに駆けつけてくれた。けれど、セレナさんは首を横に降った。
「……いいんだ、メイ。もう身体が長くないのはわかっていたからね。そろそろ寿命なのさ」
「そんな……」
「やっぱり、そうなんですね」
「ノノ、どういう事!?」
「呻き声がセレナさんだとしたら、彼女はここを死に場所に選んだのよ」
私は二の句が継げない。呆然とする私にセレナさんは頷く。
「ここは旦那が私を初めて見た場所なんだ。私が長の使いの後、休憩場としてここを使っていたんだが……それからも一目を偲んでここで愛を語り、抱き合った。あの人を感じられる場所で死ぬためにこの島に来たんだ」
セレナさんは顔こそ苦痛だが、どこか悟った顔をしていた。けど、すぐに咳をし、血を吐いている。せっかく仲良くなったのに死なせてなるものか!
「ほう、死にかけとは嬉しいね。手間が省けるぜ」
「誰!?」
急に聞いたことのない男の声が聞こえてきた。心をざわつかせる不快感。同時に複数の足音が聞こえてくる。振り向くと、そこには大勢の男たちがいた。どいつもこいつも薄汚れた服に身を包んだ若い連中だ。顔には傷があったり、中には腕に入れ墨をしている者もいる。贔屓目に見てもまともな連中ではなさそうだ。奴らは変な笑みを浮かべながらナイフを手にしている。だが、そのナイフは以前の船夫達と持ち方が違う。彼らはナイフを横向けにして持っているのだ。
”油断するな。あの者たちはまともではないぞ。
全員、人を殺した経験を持つ者達だ”
「どういうこと、セグンダディオ?っていうか、随分久しぶりね」
”うむ。実はナイフをそのまま人体に刺しても、骨が邪魔をして致命傷を与えられないのだ。だが、横向きにすることで骨をすり抜け、相手に致命傷を負わせることができる。その状態で刺された場合、死に至る可能性が極めて高くなる”
「物騒な豆知識、どうもありがとう」
心臓がきゅっと縮む感じがする。つまり、相手はそれぐらい知っている手練って事ね。だけど、別に怖くないし。敵はざっと見た感じ30人前後。リーダー格の男は中央のハゲ頭だと思われる。奴だけ着ている服が小奇麗だから間違いない。
「へへへ、ジェットさん、この女やっちゃっていいっすか?チビとやるのは初めてなんすよ。一週間前から溜め込んですぜ。今にも溢れそうで我慢できないんすよ~」
ギャハハハハハと馬鹿笑いが響く。その声に驚き、鳥たちはその場を去ってしまった。車以上に聞きたくない雑音はこういう連中の笑い声だ。
「まだ止めとけ。仕事が済んでからだ。そん時は好きにしていい」
「やりぃ!」
「兄貴、俺も俺も!!」
男たちは私をいやらしい目で品定めしている。けど、そんな視線は無視だ。私はセレナさんを後方の茂みへと連れていく。
「セレナさん、大人しくしててくださいね。すぐに片付けてきます。ノノ、セレナさんをお願い」
「わかったわ」
「メイ、大丈夫なのかい?」
「こう見えてもそれなりに場数も踏んでいます。あんな奴らに負けませんよ」
私はそう言い残すと、更に前と出た。男たちがナイフを構え直す。戦闘態勢の準備はできているようだ。
「あんた達、いったいここに何しに来たの!?」
「お前が七瀬メイだな?俺はジェット・アルダー。金になることなら何でもやる、何でも屋さんさ」
「今すぐ森から出ていって!」
私がそう言うと男たちはムッと怒気を強めてきた。殺気がキツくなったのが肌でわかる。だが、涼しい顔をしているのはジェットだった。
「そうはいかねえ、こっちも商売でな。おチビちゃん、痛い目に逢いたくなければお前こそ森を出て行け。そうすれば妖精共々命を助けてやる。ただババアは置いていけ」
「悪いけど、そんな訳にはいかないわ。お年寄りがお金になるなんて思わないけど?」
ハハハとジェットと呼ばれた男は笑う。いやらしい笑みを浮かべながら今度はお婆さんを品定めする。
「お前も聞いてるだろうが、そのババアはドラゴニストだ。ナイトゼナはおろか、他の大陸でも例がない貴重なサンプル。学者どもに売れば良い金になる。それにドラゴンに戻して解体すりゃ、より金になるんだ。龍は金になるのさ、羽も腕も鱗も歯も全てな。昔からドラゴンは負と金の象徴だ。富と名誉を得るためにドラゴンスレイヤーになった奴も多い」
「戻す……?」
これだよとジェットが取り出したのは金色の鈴だ。見たところ、普通の鈴にしか見えないが。
「これは龍の鈴だ。ドラゴニストにこれを使えば、一時的にドラゴンの姿に戻せるのさ。ババアを捕まえ、ドラゴン研究者に売っぱらい、その後でドラゴンに戻して毟り取る。俺の計算じゃ、少なくとも30000万ガルドはするだろう。それが筋書きだ」
「龍の鈴は長の持つ物だ、何故、お前たちが!!」
セレナさんは堪らず叫んだ。だが、ジェットは当然だろという顔で
「殺して奪ったからに決まってるだろう。そうか、お前の元いた集落なのか。安心しな、お前を追い出した奴は全員殺してやったよ。長も含め、龍たちはバラバラにして売っぱらい、一部は武器や防具に加工させて商品にして売り飛ばした。それが飛ぶように売れてな、お陰で良い稼ぎになったぜ」
男達は馬鹿笑いし、思い出話に花を咲かせた。その金で連日連夜、大樽で酒を飲んだこと、高級な風俗で女と何日も寝たこと。それ以外にも男達のくだらない欲求を解消する話が飛び交う。ハッキリ言ってそんな話など聞きたくなかった。女の私には理解できないし、したくもない。だが、耳は戯言の一つ一つを全部拾い取ってしまう。この時だけは耳が良いということを呪いたくなる。
「集落の者を殺したと言うのか!? 誇り高き龍族を殺したというのか!」
「何が誇り高き龍族だ! お前も知っているだろう、龍族が犯した罪を!この世界をこんな風にしたのは龍族にも責任があるんだぜ?」
ジェットは話をしつつ、私達と間合いを詰めていく。殺気が辺りから煙のように充満しているのが感じられる。声は耳が拾うが、神経は殺気を警戒している。いつ襲いかかっても良いよう、頭を最大限に危機的上にセットする。セグンダディオを静かに解除しておく。
「マルディス・ゴアは8つあった大陸を4つにしたと言うが、奴一人で大陸を焼いたわけじゃねえ。その中には裏切り者の龍族が数多くいた。そいつらも大陸焼きに参加したのさ。龍は古代より畏怖される存在とされ、一部の人間は神として崇めていた。だが、その件で人々は龍に憎悪し、今も嫌悪している。だが、龍が人間に化ける姿は極めて美人だと言う。ドラゴニストは特にな……お前の旦那は大富豪だが、どうせ身体目当てだったんだろうよ!!」
ギャハハハハと笑い飛ばすジェット達。剣を握る手に力が入る。怒りを歯で食いしばり、暴走しないように理性を働かせる。それでも怒りや憎悪が胸の中に激しく渦巻いた。セレナさんは俯くことしかできず、男達の笑いに必死に堪えていた。
「もっと教えてやる……そのクソババアを含め、長や仲間たちも全てマルディス・ゴアの大陸焼きに付き合った連中の末裔だ。100万年前の話だが、龍に関する資料は数多く残っている。俺はそれを全部読んだ、それだけ人々の恨みは深かったんだろう。マルディス・ゴアは復活するなんて噂があるが、そうなったらきっと今いる龍達も勇んで参加するはずだ。つまり、俺達は竜殺しの英雄だ!!」
「五月蝿いわね……グダグダと」
私は歩を進める。もう我慢ならない。冷静と暴走を脳に叩き込む。血圧が上昇し、アドレナリンが沸騰する。八つ当たり気味にセグンダディオを振るう。大木が音を立てて崩れ落ちた。男達の笑い声はピタリと止んだ。彼らは皆、驚愕して顔色を変えていた。セグンダディオによると高さ112メートル、幹周り58メートルだそうだ。高さはタワーマンション25階ぐらいだと考えるとわかりやすい。幹周りは大人30人が手を繋いでやっと囲める太さだという。そんな木を切り裂く剣など誰も知らない。
「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと来なさいよ。それとも怖いの?」
「へっ、ガキが。いっちょまえに舐めた口叩くじゃねぇか。七瀬メイ、お前はなんでこんなババアを守る? 仕事なんて適当に報告すりゃいい。守った所でどうせババアはその内くだばる。ドラゴニストの寿命は人間よりも短いんだぞ。世間は龍を心底、憎んでいる。殺す理由はあるが、生かしておく理由はない」
「私はこの世界の歴史なんか知らないし、100万年前の事なんて興味ない。世間がどう思っていようと関係ない。けどね、私とセレナさんは友達なの。友達を守るのに理由は必要ない!!」
私が叫ぶと同時に男が跳躍し、襲い掛かってきた。それを真っ二つに切り裂く。アジの開きのように頭から股までバッサリだ。返り血がかかり、私を赤く汚していく。いつもなら自責の念が湧くが、そんなものはもう無い。龍だの人だの世間だの、そんなのどうだっていい。
「後悔するわよ、全員まとめて地獄行きだ!!」
そんな私に野盗達は怯えた。私がどんな顔をしていたのか、私は知らない。鬼なのか、夜叉なのか、それすらもわからない。私はもう、頭の中には全員を皆殺しにすることにしか考えていなかった。そして、セレナさんを罵倒したジェットを許す訳にはいかない。彼女を追い出したとはいえ、家族だった龍まで自分の私利私欲の為に殺す。そんな人間を生かしておけば、きっとまた誰かが涙することになる。怒りと憎しみと悲しさを剣に。友達の為に利他の心を胸に。私は駆け出した。
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