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第二章「新たな旅立ち」
第45話「ドラゴニスト」
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「お婆さん、何か心辺りはありませんか?声を聞いたとか、モンスターがいたとか」
「おばあさんじゃない、セレナ・ディアーレだ。あんた達の言う、それは見たことも聞いたこともないね」
「では、セレナさん、どうしてこんな所にいるんですか?こんな辺鄙で誰も寄らない僻地に」
「答える義務はないね。とっとと帰りな」
苦虫を噛み潰したような顔をするお婆さん。どう考えても呻き声と何か関わりがありそうだ。どうにかして話を聞き出したい所だけど。この調子じゃ何も答えてくれないわね。
「大体、ギルドの仕事なんかしなくてもいいだろ。妖精はどうか知らないけど、あんたは貴族のボンボンだろう?学校行って甘えられて育って、政略結婚すればいい。ギルドの仕事なんかする必要ないだろうに」
「私、貴族じゃないですよ。そもそも養子ですし」
というか、この世界の人間ですらないのだけれど。一応、ナイトゼナでは書類上、ボルノーさんの養子ということになっている。この世界では身分が大事だからとお義父さんがお膳立てしてくれたものだ。なので、嘘はついていない。
「ふん、そうかい。それにしちゃ身なりが整ってるね。それより、そこの妖精。アタシの顔をジロジロ見て何だ?正直、不愉快だ」
「あなた、ドラゴニストですね」
「な!?」
ノノの指摘にお婆さんは顔を引きつらせた。が、すぐに顔を背けてしまう。でも、態度でバレバレだ。明らかに動揺している。
「ドラゴニスト?」
「メイ、人間は人間同士で結婚して子供を生むよね。男と女がいて、結婚して子供を生み、育てる」
「う、うん」
「ドラゴンも同じようにドラゴン同士で子供を作り、育てていく。でも、中には例外がいてね。ドラゴンと人間が愛し合ってしまったケースがあるの。そういうドラゴンをドラゴニストというのよ」
「それって、いけない事なの?」
ノノは厳しい顔をして頷く。一体どういうことなんだろうか。
「人間は人間以外と交尾しても子供は残せない。けど、ドラゴンと人はどういう理由か子供を残すことができる。でも、それは龍族にとって最大の禁忌。ドラゴニストになってしまうと龍の力はなくなるし、寿命も激減してしまう。仲間からも里を追い出され、異端児として見限るの。同じ者が再び現れないための戒めの為にね」
「じゃあ、お婆さんは群れから追い出されて、傷ついてここへ?」
「お前たちには関係のない!!」
紛然と怒鳴り散らすお婆さん。でも、私もノノも怯まない。努めて平静でいるよう、逆上せずに気を静める。だが、私達のその態度にイライラしているようだ。
「……恐らく、呻き声は私の声だろう。どこの誰が聞いたかは知らない。けどね、私が誰に恋をしようが勝手だ。人とドラゴンが相容れぬ仲だとしても。それだけは譲らないよ。さあ、私の言いたいことはここまでだ。さっさと殺せ!!」
「そんな、殺すことなんてできません」
「原因を取り除くんだ。殺すのが一番効率的だ!」
平手打ちが私の頬に放たれる。私は避けずにそれを甘んじて受け止めた。痛さのあまり、地面に倒れてしまう。でも、避けなかった私にお婆さんは動揺している。何故、避けなかったと顔に書いてあるわ。
「メイ、大丈夫?」
「大丈夫」
ノノは支えてくれようとしたけど、自力で起き上がる。痛いことは痛いけど、耐えられない痛みじゃない。というか、そこまで力入ってなかった気がする。元ドラゴンの手だから普通の人が殴るよりは痛いけど。
「セレナさん、辛かったんですね」
「何を言い出すんだい、アンタは!」
「隠したって駄目です。顔にそう書いてあります」
「アンタには関係ない。アタシの辛さは人間のアンタには到底、理解できやしない。その妖精の言うとおり、人とドラゴンは相容れない仲だ。でも、私は後悔しちゃいない。たとえ、この身を八つ裂きにされたとしてもね」
私は我慢しきれず、お婆さんを抱きしめた。堪らず、涙が溢れてくる。頬が痛いから泣いているじゃない。心が痛いから泣いているんだ。
「なんで泣いてるんだい!? アンタと私は赤の他人だろう?」
「人とドラゴンは相容れない。でも、お婆さんはそれが間違いだって知っている。人だとかドラゴンだとか関係ないってわかっている。だから恋することを諦めなかった。周りにどう思われようと自分の意見を貫いた。だからこそ、私を叩くことにも躊躇した。あなたは悪者になろうとしてるけど、本当は人間が大好きなはず。人間と仲良くなりたい……そう心の中で思っているはず」
「べ、別にそんなことは」
「じゃあ、私を引き剥がさないのは何でですか。本当に憎たらしい他人なら殴って蹴って、突き飛ばせばいいじゃないですか。私みたいな小娘、セレナさんには大したことないでしょう? 大体、さっき殴ったのだってそんなに痛くなかったし、その後で動揺していたじゃないですか」
「……っ」
「私はセレナさんと仲良くしたいです。友達になりたいと思っています。これが私の勘違いだというなら、私をこの場で殺してください」
「メイ、なんてこと言うの!!」
ノノが一喝するが、私は怯まない。力を込めて、セレナさんを抱きしめる。それは昔、私が本当のお婆ちゃんにしていたみたいに。内気で引っ込み思案で、友達の少なかった私にお婆ちゃんは優しくしてくれた。私がこうやってぎゅっとすると、お婆ちゃんもぎゅってしてくれた。この人は言葉こそ乱暴だけど、その言葉は全部本気じゃない。気が立ってナーバスになっているだけなんだと思う。彼女の気が休まるのなら、どれだけ殴られてもかまわない。でも、きっと彼女は殴らないと確信している。人と龍とか、種族の差なんかどうでもいい。人に恋し、愛したことを後悔していない。そう信じている彼女が人間を嫌いになるとは思えないからだ。人間が嫌いなら、恋愛感情なんて抱かないはずだから。
「全く、近頃の子供は。言うことだけはいっちょ前になって」
「あ……」
「あんたは大馬鹿もんだ。ホント、あの人とよく似ている」
そう言って、優しく包み込むように抱きしめてくれた。その言葉に私は涙を流していた。大粒の涙がいっぱいこぼれて、溢れて止まらなくて。嬉しい気持ちが凍った心を暖かく溶かしていく。私は子供のように大声を上げて泣いた。
泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
「おばあさんじゃない、セレナ・ディアーレだ。あんた達の言う、それは見たことも聞いたこともないね」
「では、セレナさん、どうしてこんな所にいるんですか?こんな辺鄙で誰も寄らない僻地に」
「答える義務はないね。とっとと帰りな」
苦虫を噛み潰したような顔をするお婆さん。どう考えても呻き声と何か関わりがありそうだ。どうにかして話を聞き出したい所だけど。この調子じゃ何も答えてくれないわね。
「大体、ギルドの仕事なんかしなくてもいいだろ。妖精はどうか知らないけど、あんたは貴族のボンボンだろう?学校行って甘えられて育って、政略結婚すればいい。ギルドの仕事なんかする必要ないだろうに」
「私、貴族じゃないですよ。そもそも養子ですし」
というか、この世界の人間ですらないのだけれど。一応、ナイトゼナでは書類上、ボルノーさんの養子ということになっている。この世界では身分が大事だからとお義父さんがお膳立てしてくれたものだ。なので、嘘はついていない。
「ふん、そうかい。それにしちゃ身なりが整ってるね。それより、そこの妖精。アタシの顔をジロジロ見て何だ?正直、不愉快だ」
「あなた、ドラゴニストですね」
「な!?」
ノノの指摘にお婆さんは顔を引きつらせた。が、すぐに顔を背けてしまう。でも、態度でバレバレだ。明らかに動揺している。
「ドラゴニスト?」
「メイ、人間は人間同士で結婚して子供を生むよね。男と女がいて、結婚して子供を生み、育てる」
「う、うん」
「ドラゴンも同じようにドラゴン同士で子供を作り、育てていく。でも、中には例外がいてね。ドラゴンと人間が愛し合ってしまったケースがあるの。そういうドラゴンをドラゴニストというのよ」
「それって、いけない事なの?」
ノノは厳しい顔をして頷く。一体どういうことなんだろうか。
「人間は人間以外と交尾しても子供は残せない。けど、ドラゴンと人はどういう理由か子供を残すことができる。でも、それは龍族にとって最大の禁忌。ドラゴニストになってしまうと龍の力はなくなるし、寿命も激減してしまう。仲間からも里を追い出され、異端児として見限るの。同じ者が再び現れないための戒めの為にね」
「じゃあ、お婆さんは群れから追い出されて、傷ついてここへ?」
「お前たちには関係のない!!」
紛然と怒鳴り散らすお婆さん。でも、私もノノも怯まない。努めて平静でいるよう、逆上せずに気を静める。だが、私達のその態度にイライラしているようだ。
「……恐らく、呻き声は私の声だろう。どこの誰が聞いたかは知らない。けどね、私が誰に恋をしようが勝手だ。人とドラゴンが相容れぬ仲だとしても。それだけは譲らないよ。さあ、私の言いたいことはここまでだ。さっさと殺せ!!」
「そんな、殺すことなんてできません」
「原因を取り除くんだ。殺すのが一番効率的だ!」
平手打ちが私の頬に放たれる。私は避けずにそれを甘んじて受け止めた。痛さのあまり、地面に倒れてしまう。でも、避けなかった私にお婆さんは動揺している。何故、避けなかったと顔に書いてあるわ。
「メイ、大丈夫?」
「大丈夫」
ノノは支えてくれようとしたけど、自力で起き上がる。痛いことは痛いけど、耐えられない痛みじゃない。というか、そこまで力入ってなかった気がする。元ドラゴンの手だから普通の人が殴るよりは痛いけど。
「セレナさん、辛かったんですね」
「何を言い出すんだい、アンタは!」
「隠したって駄目です。顔にそう書いてあります」
「アンタには関係ない。アタシの辛さは人間のアンタには到底、理解できやしない。その妖精の言うとおり、人とドラゴンは相容れない仲だ。でも、私は後悔しちゃいない。たとえ、この身を八つ裂きにされたとしてもね」
私は我慢しきれず、お婆さんを抱きしめた。堪らず、涙が溢れてくる。頬が痛いから泣いているじゃない。心が痛いから泣いているんだ。
「なんで泣いてるんだい!? アンタと私は赤の他人だろう?」
「人とドラゴンは相容れない。でも、お婆さんはそれが間違いだって知っている。人だとかドラゴンだとか関係ないってわかっている。だから恋することを諦めなかった。周りにどう思われようと自分の意見を貫いた。だからこそ、私を叩くことにも躊躇した。あなたは悪者になろうとしてるけど、本当は人間が大好きなはず。人間と仲良くなりたい……そう心の中で思っているはず」
「べ、別にそんなことは」
「じゃあ、私を引き剥がさないのは何でですか。本当に憎たらしい他人なら殴って蹴って、突き飛ばせばいいじゃないですか。私みたいな小娘、セレナさんには大したことないでしょう? 大体、さっき殴ったのだってそんなに痛くなかったし、その後で動揺していたじゃないですか」
「……っ」
「私はセレナさんと仲良くしたいです。友達になりたいと思っています。これが私の勘違いだというなら、私をこの場で殺してください」
「メイ、なんてこと言うの!!」
ノノが一喝するが、私は怯まない。力を込めて、セレナさんを抱きしめる。それは昔、私が本当のお婆ちゃんにしていたみたいに。内気で引っ込み思案で、友達の少なかった私にお婆ちゃんは優しくしてくれた。私がこうやってぎゅっとすると、お婆ちゃんもぎゅってしてくれた。この人は言葉こそ乱暴だけど、その言葉は全部本気じゃない。気が立ってナーバスになっているだけなんだと思う。彼女の気が休まるのなら、どれだけ殴られてもかまわない。でも、きっと彼女は殴らないと確信している。人と龍とか、種族の差なんかどうでもいい。人に恋し、愛したことを後悔していない。そう信じている彼女が人間を嫌いになるとは思えないからだ。人間が嫌いなら、恋愛感情なんて抱かないはずだから。
「全く、近頃の子供は。言うことだけはいっちょ前になって」
「あ……」
「あんたは大馬鹿もんだ。ホント、あの人とよく似ている」
そう言って、優しく包み込むように抱きしめてくれた。その言葉に私は涙を流していた。大粒の涙がいっぱいこぼれて、溢れて止まらなくて。嬉しい気持ちが凍った心を暖かく溶かしていく。私は子供のように大声を上げて泣いた。
泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
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