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第二章「新たな旅立ち」
第43話「ガナフィ島へ」
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「あ……」
理沙とミカちゃん達の背がやがて遠くなり、見えなくなる。私はまだその背中を見ながら、一歩だけ足を踏み出す。けど、理性がその足を進めなくした。やはり心は不安でいっぱいだった。そもそも、あの二人は仲が悪い。でも、それはまだお互いをよくわかっていないだけ。誰だって、すぐに仲良くなれる人もいれば、時間をかけて仲良くなる人もいる。理沙は元々社交的な性格なので、仲良くなるのは時間の問題だ。でも、私の心には不安という感情と寂しいという気持ちが同居していた。
「……理沙、ミカちゃん」
思えば、理沙とはシェリルと戦った時から一緒だった。この世界で初めて出会った、私と同じクラスの親友。いつも私の事を気にかけてくれたし、彼女は私よりも半年間ナイトゼナにいる先輩だ。その知識で助けられた事も多い。何より中学時代の時の唯一の親友ということもあり、私にとっては大切な存在だ。ミカちゃんは付き合いが短いけど、今では大切な友達だ。この世界でできた初めてのお友達。宿屋で私が落ちこんでいた時、私を励ましてくれた優しい娘だ。これからも仲良くしていきたい。思い出をいっぱい作りたい。戦力的に見ても二人は強い。理沙は斧を使い、ミカちゃんは銃を扱う。前衛と後衛がきちんとしている。二人が協力すれば、戦闘もきっと切り抜けられる。でも、それでも……私は寂しさと不安でいっぱいだった。そんな風に考えていると、ノノが私の肩をぽんと叩いた。
「私達も行きましょう、メイ」
「う、うん。でも、あの二人、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫よ。あの二人、そんなに仲悪いとも思わないし。二人に負けないように私達も頑張りましょう、メイ」
「……うん」
気にはなったが、これ以上詮索しても仕方がない。仕事である以上、私のワガママで時間を潰すわけにはいかない。今はただ、あの二人が無事でいてくれることを祈るばかりだ。そう心では割り切りつつも、でも完全には割り切れていないまま歩きだした。
街へ出ると、人々は仕事の準備に追われ、今日も労働に精を出していた。ある人は野菜や果物を店頭に並べたり、奥さんとあーだこーだと話したり。ある建設現場では親方の話に若い衆が真剣な顔で聞き入っていた。多分、仕事の説明をしているのだろう。それは私達の世界でもナイトゼナでも変わらない日常だ。異世界とはいっても住んでいるのは人だ。それぞれの生活があることは何ら変わらない。そんな彼らを横目にしつつ、街の外まで行こうとしたんだけど。
「おう、メイ。今から出発か?」
と、声をかけてくれた姉御が一人。言うまでもなく、梨音さんだ。「与太来堂」のエプロンを着ていて、額には汗をかいている。仕事の休憩中らしく、手には煙草を持ち、火をつけている。でも、煙草の臭いは嫌いなので止めて欲しい。
「あ、悪い、悪い。一段落したから、ちょっと休憩しててな」
私の嫌そうな顔がわかったのか、すぐに携帯灰皿で煙草の火をもみ消す梨音さん。ああ、まだ新品だったのに悪いことしちゃったな。でも、正直苦手な臭いなので、少しホッとした。
「あ、はい。今から出発なんです」
「そうか。ところでよ、お前スマホ持ってるか?」
「スマホ……ですか?」
唐突な質問にびっくりする。なんか久しぶりに日本の言葉を聞いたわね。この世界にはスマホは当然無い。懐かしさすら感じる言葉の響きに郷愁を覚える。ノノはスマホ自体知らないらしく、キョトンとしている。まあ、妖精はスマホなんか持ってないよね。
「今よ、スマホのアルバムにある写真を魔法で現像する商売をしていてな。よかったら格安でやるんだが、どうよ?」
「そ、そんなことできるんですか?」
「ああ。現像した奴はこうしてフォトフレームに挟めばいい」
と、梨音さんが見せてくれたのはタブレット端末だ。なんでタブレットがこんな所にあるのだろうか。でも、そんな疑問は他所にして私は端末に目を奪われた。そこにはフォトフレームに彩られた写真がある。その写真には梨音さん、サエコさん、サラさんの三人が居酒屋で飲み交わしている姿が写っていた。ただ、猫が顔を赤くしてるのは微妙な物を感じる。サエコさん、飲み屋でも変わらず猫のままなのね。
「へぇ~、こんなことができるんですね。この写真いいなー」
「これって、絵じゃないのよね?絵にしては精巧すぎるし」
「ノノ、これは写真だよ。っていうか、タブレット端末まであるなんて凄いですね。使えるんですか?」
生憎、この世界にはスマホもタブレットも無ければ、写真という技術もない。妖精のノノにとっては非常に珍しいものだろう、端末を覗き込みながら感心と疑問の声を上げている。
「おうよ。上手く魔法を応用すればこれぐらいは簡単さ。タブレットもその応用でちょちょいとな」
「それならやってもらおうかな。あ、でも電池が無くて」
私達の世界なら家に帰って充電すればいい。外出してるなら、コンビニで充電器買ってスターパックスとかでコンセントに差し込んで充電完了するまで待っていればいい。電池残量が多少あるならアプリで充電器借りるのがあるけど。最近ではラーメン屋さんでもWiFi接続可能だったり、コンセントがあるので電池がなくてピンチの時はすぐに充電できる。だが、異世界ナイトゼナにはスターパックスは勿論無い。そもそも充電器も充電する場所すらない。なので、私の携帯は電池が切れたまま荷物となっていた。一度ミリィに奪われたけど、取り返してからは特に操作していない。だが、電池はとうの昔に切れていた。
「ねえ、二人共。さっきから言うスマホって何なの?」
「何でもできる電話だよ、ノノ」
「その、でんわ……って何?」
聞いたことのない単語に疑問符を浮かべるノノ。うーん、なんて説明したものかなぁ。
「ええと、スマホは正確にはスマートフォンって言うの。電話ってのは、その……どこにいても誰かとお話できる機械かな」
「……へぇ、どこでもねぇ。例えばナイトゼナとシンシナティとかでもできるの?」
「そだよ」
この世界には電波がないからそもそも無理だけど。以前、携帯見た時県外だったし。
「その、「たぶれっと」にあるサラさん達の……生きている瞬間をそのまま形にしたのが写真ね」
「ふふ、ノノ良い表現だね。そだよ。スマホはカメラ機能とか動画撮影機能があるから」
「かめら……どうがさつえい……。うーん、よくわからないわ。スマホは電話で……どこでも話せて、で、写真ってのが絵より精巧な……」
頭を悩ませるノノ。確かに言葉で説明しろって言うのは難しいわね。私達世代は感覚でわかるものなんだけど。妖精にそれを求めるのは酷だろう。ええと、なんて説明したらいいかな。
「まあ、やってみた方が早いだろう。フォトモードオン……っと」
梨音さんがタブレット端末を操作する。すると、タブレットがひとりでに宙に浮く。翼が生えた訳でもないのにプカプカ宙に浮く。これも何かの魔法だろうか。つか、なにが始まるの?
「ほら、お前ら横に並べ」
「あ、はい」
「え、何?何が始まるの?」
取り敢えず並ぶ私と何が起きているのか把握しきれないノノ。梨音さんがタブレットに指をさす。
「今、タブレットに赤い丸と数字が写ってるだろ?」
タブレットの裏側部分。カメラの丸いレンズの下に赤い丸と白色の数字が浮かんでいる。数字は5を示したままだ。
「あの数字がカウントダウンするからな。0でパシャッと取る。フラッシュは無しでシャッタ―音だけだ」
「了解です」
「ええと、赤い丸を見て……」
私もノノも梨音さんもじっとカメラを見る。ついでに梨音さんも私の横に並ぶ。梨音さん、私、ノノの順だ。私は指でピースを作った。そして満面の笑みを浮かべる。
「デハ、イキマスヨ―」
タブレットから女性の機械音声が聞こえた。なんかATMの自動音声みたい。
「5,4,3、2、1……」
パシャ。音だけが鳴った。3回ほど撮り、タブレットはそのまま梨音さんの所に戻ってきた。空を飛ぶタブレットってなんて斬新ね。日本でその技術があれば特許で大儲けできそう……なんて邪推な事を考えてみる。
「ほれ、これが今写した写真」
タブレット画面には梨音さん、私、ノノが写っている。梨音さんがかっこよく髪をかきあげて、私がピースしてて、ノノがオドオドしていて強張った表情をしている。太陽光の反射もなく、三人が写真にきっちり載っていて風景も邪魔していない。まさに被写体も撮影場所もマッチしている。
「わああ、すごい!!そうか、これが写真なのね。すごいわ!!」
と、興奮気味に語るノノ。思えば誰かと写真を取るのは随分久しぶりだ。以前はお姉ちゃんや理沙とプリクラ撮ったり、スマホで写真撮ったりしたっけ。でも、この世界では写真自体がそもそもないから……。こうやって写真が撮れるなんて夢にも思わなかった。
「梨音さん、これお金出すんで欲しいです!!これ、この写真。家宝にしたいです!!大好きな主人の物って絶対欲しいから!!」
「ははは、メイは愛されてるなぁ」
「照れますね」
若干、ハイテンションなノノ。どうやら相当嬉しいらしい。でも、そういう私もかなり嬉しかったりする。こうなるとみんなとの写真も欲しくなるわ。理沙、お姉ちゃんは当然として、ミカちゃんもそうだし、ロランさんやミオさん。勿論、サラさんやマリアさんとも。
「お前らが仕事終わるまでには出来上がってるから、そん時にうちの店に取りにきな。金はそん時でいい。ついでに充電もしといてやる」
「わかりました。じゃあ、お願いします」
私は鞄からスマホを出し、梨音さんに手渡した。高校入学のお祝いで機種変してもらった携帯。私がこの世界に来るまでは最新機種だった。有名女優を起用したオシャレなCMがバンバンテレビで流れていたっけ。トレンドをこの手にしたんだと少し有頂天になっていた。今、日本ではどれだけ時間が経っているのだろうか。恐らく、もう最新機種とは言えない時だろう。下手したら時代遅れの機種と言われるかもしれない。まるで浦島太郎だなと心の中で呟く。お年寄りにはなっていないのが幸いだけど。
「今度はみんなで撮りに来いよ。もちろん金は取るがな」
「梨音さん、商売上手ですね」
「ったりめえよ!」
あははと笑い合う私達。もう電池が切れて使い物にならなくなったスマホ。すぐに友達とやり取りできるよう連絡アプリも入ってる。写真自体は以前の機種からバックアップしてたのもあり、あのスマホには写真がいっぱい入っている。そのほとんどがお姉ちゃんか、外食している時の私と理沙の写真だ。それ以外にも互いの家にお泊まりした時の写真とかがある。あの頃は異世界だの、戦いだの、考えたこともなかったな。当たり前だけど。
「じゃ、私は仕事に戻る。お前らも気をつけて行けよ」
「はい。それじゃ」
「メイとの写真、よろしくね梨音さん!!」
「おうよ!」
梨音さんと別れ、私達はさっそくガナフィ島へと向かうこととなった。
さて、本来ならガナフィ島へと向かうのだが。まず、ギルドでもらった地図で地理関係を把握しよう。
「ええと、シンシナシティからシルド鉱山まで馬車で約2時間ね。そのシルド鉱山から北に1時間ほどするとガナフィ島が見えてくるのね」
「メイ、シルド鉱山からガナフィ島までは悪路が多いから馬車は使えないみたいよ。ほら、地図にそう書いてる」
「あ、本当だ。そうなると馬車+歩きかぁ。大体3時間ぐらいかな。全部が歩きだと5時間はかかるかも。今からだと何時になるか調べてみよう」
日本と違い、ナイトゼナでは時計が普及していない。時刻は「クロックウォッチ」という魔法で調べる。太陽の位置などを瞬時に計算し、今の時刻を調べてくれる。理沙から教わったので、私はその魔法を使うことができるんだ。この世界では子供が最初に覚える初期の基礎魔法らしい。難しい演唱も必要なく、目を閉じて精神を集中すればいい。すると、現在の時刻が朝の9時頃だとわかる。さて9時から5時間以上かかるとなると、14時以降と大幅に時間が経過してしまう。それにこれは”何もトラブルがないと”仮定した場合での時間だ。モンスターの襲撃や野盗が潜んでいる可能性だってある。特に私はカンガセイロという野盗を捕まえたこともあり、その残党が私を狙っても不思議じゃない。親分の敵とばかりに数に物を言わせて襲ってくるかもしれない。そうなると時間も体力も大幅に消費してしまう。体力を温存しつつ、ガナフィ島へと素早く行きたいのだが。
「あー、さっき、梨音さんに馬車借りたいって言えばよかった……ミスったなぁ」
以前、鉱山に行った時に馬車を出してくれたのは梨音さんだった。写真を撮ったついでに頼めばよかったな。あー、しくじったなぁ。
「メイ、それなら馬を2頭借りましょう。馬車より安いし、便利よ」
「ノノ、私、乗馬の経験が無いんだけど」
「あ、そ、そうなんだ……異世界の人は馬を使わないのね」
「乗馬ができる人は少ないかもね」
ノノはあははと苦笑いした。江戸時代ならいざしらず、今の現代日本で馬に乗ることはあまりない。大多数の一般人は乗馬経験などほとんど無いだろう。乗馬体験とかさせてくれる施設とかにで初めて馬に乗るんじゃないかな。そもそも、馬など無くても近場なら自転車で事足りる。遠くても、電車やタクシーもあるし。免許があるなら車やバイクで遠出することだってできる。馬を使って学校へ行ったり、職場へ行ったりする人はまずいない。
以前、テレビ番組で馬に乗った人が大手ハンバーガーチェーンのドライブスルーに行って店員さんがビビってたけど、そんな非日常的光景はテレビだからできる事だ。一般人で乗馬を経験している人はお恐らくかなり少ないのではないだろうか。しかし、ナイトゼナには当然ながら車も無ければ自転車すらない。よって移動手段は徒歩、馬をレンタルもしくは馬車のレンタルがほとんだ。しかし、私もノノも乗馬経験はない。うーん、他に馬車とか借りれる場所は……。
「きゃああああああああああ!!」
と、絹を裂くような女性の叫び声が聞こえてきた。ノノと目を合わせ、声のした方へと向かうことにした。声が聞こえたのはここから近く、場所は裏通りの港近くの路地裏だ。耳の良い私には大体の位置が掴めていた。案の定、そこには船夫らしきゴツい男3~5人がいる。ガタイはいいが、いやらしい笑みを浮かべた汚い男達だ。そのキモい顔の先には女の子がいる。だが、女の子は普通の女の子ではない。足が馬になっていて、上半身は人間の女の子だ。確かアニメやマンガで見たことがあるわ「セントール」族ね。
「馬のお嬢ちゃんよう、仕事なら斡旋してやるって。すぐそこに娼館があるからよ。そこで娼婦になればいい。馬の女なら良い稼ぎになるさ」
ぎゃははははと笑う男たち。セントールの女の子は怯えていて、へたり込んでいる。涙を流し、辛く苦しい表情をしている。服装や髪型に乱れはないから、今の所はまだ何もされていないのだろう。だが、放っておいたら何をされるかわかったもんじゃない。これだから男はと不快感を感じつつ、私はすうと大きく息を吸う。
「あんた達、朝っぱらから何やってんのよ!!」
「あ?」
私の声に男たちが振り返る。だが、私の顔を見るとぎょっとした顔をした。なによ、その幽霊にでも遭ったかのような顔は。
「お前……七瀬メイだな?」
「あら、知ってくれてるなんて光栄ね」
「シェリル、ミリィ、カンガセイロ……物騒な極悪人ばっか倒した四英雄もどきを知らない奴はこの街じゃモグリだ。俺らの間じゃお前らの噂がガンガン入ってくる。いわば、お前は話題の中心だ」
「そ、そうなんだ」
それは知らなかった。なんか照れるし、悪い気はしないけど……でもなぁ、目立つのは好きじゃなのよね。
「つまり、お前を倒せば俺らは英雄で金も女もガポガポ入ってくるという訳だぜ!!」
ひゃほーと馬鹿笑いする男たち。その手にはナイフが握られている。殺気も充分だが、所詮はザコでしかない。さて、どうするべきだろうか。殺すことはできないから、戦意を削げばいいかな。普通に考えると獲物の影響力を無力化させるか、リーダーを倒せばいいんだけど。
「ここは私に任せてメイ。あなたはその娘と一緒に後ろに下がってて」
「う、うん」
私の前にノノが立つ。言われたとおり、彼女を保護しつつ、少しだけ後ろに下がる。その表情は私には見えないけど、あのガタイのいい船夫達が引いている。喧嘩慣れもしているであろう彼らをビビらせるとは余程だ。きっと悪鬼羅刹の如き顔をしているに違いない。万が一の為、セグンダディオを封印解除しておく。
「妖精ごときが何だ。ナイフの錆にしてやる。みんな、やっちまえ――!!」
男たちが声高らかに、よってたかって攻めてきた。ナイフで突き、斬り払いをして攻めてくる。初心者がナイフを乱暴に振り回すのとは違い、的確に胸や身体を中心に切りつけようとしてくる。頭よりも身体のほうが当然柔らかいから身体を狙ってくるのは当然だ。腕や足への攻撃は対象を弱体化できるし、胸なら即座に殺すこともできる。ただ、扱いに多少の慣れはあるものの、彼らは人殺しではないようだ。正直、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの理屈で5人がかりなら誰かの攻撃がヒットすると睨んだのだろう。男たちは楽勝だぜとタカをくくっていた。その表情にはとても余裕があったが……。
「ふん。遅いわね」
ノノはそれを完璧に避けていた。まるで踊り子のように舞いながら攻撃をかわしていく。どれだけ男達が死力を尽くしても攻撃はひらりとかわされる。全員で協力して襲いかかっても避けられ、別々で攻撃しても避けられる。その華麗な舞に私もセントールの女の子も見とれていた。ノノがドッヂボールしたらきっと最後まで生き残れそう。そんなことを思いながら、ノノの舞をしばらく観覧することに。
それから数十分後。男たちは徐々に余裕を無くし、顔つきがマジになっていた。一旦距離を取って休みを取りつつも、体力の限りナイフを振り回し続ける。その集中力を仕事に向ければいいのに……と私は一人思う。だが、彼らは遂にノノ髪の毛一本すらも切ることはできなかった。
「ぜぇぜぇ……く、くっそ……なんて回避運動だ」
「はぁはぁはぁ……うぐぐぐ、み、身のこなしの軽い奴め」
男たちも流石に疲れが見えてきた。誰もが肩で息をしているが、汗一つ流していないのはノノだけだ。どれだけ舞っても疲れは見えず、涼しい表情をしている。それが男達を苛立たせた。誰もナイフを手放そうとせず、殺気を抑えようともしない。寧ろ、最初のときよりも増大しているような気がする。地面に汗が滴り落ちても気にせず、その視線はノノだけに向けられる。その意気や良しとも言えるが、体力のペース配分が間違えている。初めから全力で狙いすぎだ。例えば、野球選手は1回表から全力で投げたり、打ったりしない。そんなことをすれば疲れてしまうからだ。最初は体力を小出しにし、ここぞという時に体力を使うの。ノノは相手の動きが鈍ったのをチャンスと捉えたのか、素早く呪文を演唱する。手の中に炎を生み出し、それを天に掲げる。
「火炎の豪速球!!」
その火球をまるでバレーボール選手のように地面に叩きつけるノノ。炎はワンバウンドして飛び跳ね、船夫たちに次々と命中。といっても、燃えているのは何故か背中だけだ。
「ぐあああああああああああああああ!!!!」
「ぎゃあああああああああああ!!みず、みずぅぅぅぅ!!」
「あづああああああああああああああああああああああ!!!」
男たちは服を脱ぐが、炎は消えない。つまり服ではなく、背中が燃えているのだ。彼らは堪らず走り出し、去っていった。恐らく海にドボンと入って消化する気だろう。裏通りなら港が近いから海もすぐそばだ。数分もしない内に盛大に飛び込む音が聞こえてきた。だが、それでも男たちの阿鼻叫喚は収まらない。むしろ更にヒステリーになって裏通り中に響いた。
「ノノ、あの炎は?」
「あれは特殊な魔法よ。普通の水じゃ消えないわ。妖精の魔法でないと消せないの。といっても永遠に燃えるわけじゃないわよ。6時間もすれば沈下するでしょ」
「ろ、6時間……」
「大丈夫。死にはしないから。大火傷程度で済むって」
これで脅威は去ったかに見えたが。一人だけ背中が燃えながらもこちらを睨みつける者が一人いる。
「こ、この野郎!よくも先輩達を……ぶっ殺してやる!」
自らを鼓舞するかのように暴言を吐く男。見た感じ10代後半で入ったばかりのヤンチャ系の新人君だと思う。血走った目をセントールの少女に向け、駆け出した。私の実力は噂で知っているだろうし、ナイフの当たらないノノは先輩たちが実証済み。なら、セントールの少女を人質にでも取ろうと思ったのだろう。さっきの男たちより幾分、頭は回るようだ。けれど、ハッキリ言って甘い。
「はああああああああああ!!」
「なっ!?」
奴のそんな企みを私は一秒で消し去った。セグンダディオでそのままぶった斬ったのだ。正確には彼の足の関節を斬り裂いた。あまりにの激痛と出血のショックで男は声も上げず、崩れ落ちた。あの炎は6時間続くものの、最終的に大火傷程度で済むだろう。だが、セグンダディオで斬られた以上、回復は困難だ。彼は一生松葉杖か車椅子の生活を余儀なくされることだろう。女の子に手を出そうとした罰をしっかり受け止めることね。
「さ、一緒に行きましょう。ノノも早く!」
「ええ!」
セントールの少女の手を引き、私達はその場を離れることにした。このままここにいても青年団から事情聴取を受けるだけだし、奴らの仲間が来ても厄介だ。私達は駆け出し、裏通りを後にした。
裏通りを抜けて、表通り南出口付近。表通りとあるが、実質、裏通りに近い。そのせいか、やや人が少ない簡素な場所だ。一旦ここで手を離す。セントールの女の子はすぐさま頭を下げた。
「あの……助けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ。それより大丈夫?怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫です」
私の尋ねに笑顔を見せるセントールの女の子。アニメではよく見るけど、この世界で馬の女の子を見るのは初めてだ。多分、私と同い年ぐらいに見えるけど、やや童顔だ。でも、落ち着いた喋り方だから、もしかしたら年上かもしれない。
「私はセントールのジェーン・ハルベルトと申します。よろしくお願いします」
「ジーナさんね。私は七瀬メイ。こっちは妖精のノノ。よろしくね」
「七瀬メイさんとノノさんですね……。あの、先程、不遜な連中が申していましたが、あのシェリルとミリィを倒したという?」
「うん、まあね」
「ああ、やはりそうでしたか……」
ジェーンさんは足を完全に地面につけ、上半身を平伏させた。これはセントール式の土下座だろうか。
「あ、あの?」
「実は我が家はナイトゼナ城で代々仕えてきました。曽祖父は四英雄様にも仕え、祖父も父も母もナイトゼナ城で騎士として仕えてきました。かくいう私も見習いではありますが、お仕えした身。貴女様は四英雄の武器であるセグンダディオをお持ちと噂で聞きましたが、真のご様子。我が主も同然なのでございます」
まるで舞台女優のように熱弁するジェーンさん。だが、その瞳は真剣で至って真面目に話しているのが伝わる。恐らく、これが彼女の素なのだろう。多分、良いところのお嬢様じゃないかな。改めてジーナさんをよく見てみる。一般人とは雰囲気が違うし、ウェーブがかった髪も綺麗だ。服装も一般人のそれとは違い、上品な服装だし。普段着というよりは余所行きの服かな。そして、肌の色もとても綺麗だ。触りたくなるほどの綺麗な肌だと思う。女の肌は生活面がよく出る所だ。どれだけ化粧で取り繕っても肌は嘘をつかない。彼女はきっと規則正しい生活を送ってきた事はまず間違いない。いったいどんなシャンプーや石鹸を使っているのかな? 私がそう口を挟もうとしたが、更に彼女は興奮しながら続ける。
「しかし、ご存知の通り、お城はシェリル達によって壊滅してしまいした。私はその時、仕事でナイトゼナから離れていたのですが噂を聞きまして。急いで戻った所、お世話になった方々は全員お亡くなりになっておりました。職場も仲間も無くした私は呆然とするしかありませんでした。でも、そうこうしている内に路銀が尽き、仕事を探しにここまで来ましたが、先程の不遜な輩に絡まれ……本当に助かりました」
「そうだったんだ。苦労したんだね」
そう、ナイトゼナ城は脱獄したシェリルとミリィによって壊滅させられた。王様は殺され、兵隊はおろか、メイド達すらも殺されたのだと聞く。職場の上司、同僚や後輩を無くした彼女の気持ちは計り知れない。さぞ、深い悲しみに包まれたことだろう。私はそっとジーナさんを抱きしめた。できれば、何かしてあげたいのだけれど。
「メイ、そろそろ仕事にいかないと。あまり時間を無駄にできないわ」
「そだね。でもなぁ……」
「お仕事ですか?」
「うん。私とノノは「マリア・ファング」ってギルドのメンバーでね。これから仕事でガナフィ島へ向かうんだ」
「でしたら、私を使ってくださいませ」
「え?」
「セントールは代々主人と決めた者のみを背中に乗せる伝統があります。メイ様の事は以前より聞き及んでいました。先程の戦闘も素晴らしいものでした。あなた様こそ主に相応しきお方。鈍重で愚鈍な足運びの馬より、私の方が確実に速く動けます。矢のように速く目的地へと着くでしょう」
「それって具体的にはどれくらい?」
「ガナフィ島なら2時間もしない内に到着できます」
断言するジーナさん。確か鉱山から島までは悪路で馬車は難しいはずだが。その事を伝えると彼女は「大丈夫」と自信たっぷりの笑顔を見せた。というか、自信家なのか、強調たっぷりに言う。
「我が家はセントールでも特に厳しい家柄。悪路での走行修行も数多く行いました。世界各国を周り、地図は頭の中に叩き込んでいます。勿論、近道や抜け道も覚えています。ぜひ、我が背中を使ってくださいませメイ様」
優雅に微笑むその姿は流石、お嬢様と言える。けど、頼りがいのある強い笑顔だ。女の私でさえ、美しいなと思った。まあ、今から梨音さんに頼むのも時間かかるし。そもそも馬車がレンタルできるかどうかも不明だ。その馬車よりも速く着けると自負する彼女。お金の節約にもなるし、断る理由もなさそうね。
「わかった。お願いしていいかな?」
私がそう言うとジェーンさんは、ぱああと明るい笑みを見せた。素直な人だなと思いつつ、釣られて私も笑顔になる。
「はい、勿論です! ですが、私の背は二人は乗れませんので、ノノ様が」
「大丈夫よ。羽で飛んでいくから」
ノノはそう言って背中から羽を生やした。白く半透明なその羽はまるで蝶のように美しい。
「ノノ、羽あるの!?」
「まあね、妖精だし。でも、普段は目立つから隠してるのよ」
「なんかノノって人間的というか……妖精って感じがあまりしなかったんだけど。それ見て改めて妖精なんだなって実感したよ」
「私達には色々なタイプがいるからね。宴会好きな子もいるし、球技が好きな子もいるわ。糸紡ぎや粉挽きが得意な子もいる。せっかく部屋を片付けたのにめちゃくちゃにする子もいるし、本当に千差万別よ。まぁ、私は人間と暮らして長いから、人間に似てきたのかもしれないわね。でもね」
「ん?」
ノノはしゃがんで私の頭を撫でる。その顔は優しく、笑顔に満ち溢れている。
「私は今が一番楽しいわ。メイと一緒にいる時がとても楽しい。さっきの写真もそう。だからこのお仕事をする時、とても楽しみだったの。もうすごくテンション高くてさ、自分でもわかるぐらい。だから、早く行きましょ」
「ふふ、そうだね。じゃあ、ジーナさんお願いします」
「心得ました。メイ様、魔法の手綱が私の背中に出ています。それをしっかり掴んでてください」
「うん」
ジェーンさんの背中に乗り、魔法の手綱を掴む。いつも見る景色とちょっと違う。高さが変わるだけで知っている場所も何だか知らない風景になる。荒野に出ると駆け出した。といっても、スピードは緩めで私を気遣っているのが分かる。私が慣れたのを感じてから徐々にスピードを上げていく。それを後ろから飛行しつつ、付いてくるノノ。目指すはガナフィ島だ。
理沙とミカちゃん達の背がやがて遠くなり、見えなくなる。私はまだその背中を見ながら、一歩だけ足を踏み出す。けど、理性がその足を進めなくした。やはり心は不安でいっぱいだった。そもそも、あの二人は仲が悪い。でも、それはまだお互いをよくわかっていないだけ。誰だって、すぐに仲良くなれる人もいれば、時間をかけて仲良くなる人もいる。理沙は元々社交的な性格なので、仲良くなるのは時間の問題だ。でも、私の心には不安という感情と寂しいという気持ちが同居していた。
「……理沙、ミカちゃん」
思えば、理沙とはシェリルと戦った時から一緒だった。この世界で初めて出会った、私と同じクラスの親友。いつも私の事を気にかけてくれたし、彼女は私よりも半年間ナイトゼナにいる先輩だ。その知識で助けられた事も多い。何より中学時代の時の唯一の親友ということもあり、私にとっては大切な存在だ。ミカちゃんは付き合いが短いけど、今では大切な友達だ。この世界でできた初めてのお友達。宿屋で私が落ちこんでいた時、私を励ましてくれた優しい娘だ。これからも仲良くしていきたい。思い出をいっぱい作りたい。戦力的に見ても二人は強い。理沙は斧を使い、ミカちゃんは銃を扱う。前衛と後衛がきちんとしている。二人が協力すれば、戦闘もきっと切り抜けられる。でも、それでも……私は寂しさと不安でいっぱいだった。そんな風に考えていると、ノノが私の肩をぽんと叩いた。
「私達も行きましょう、メイ」
「う、うん。でも、あの二人、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫よ。あの二人、そんなに仲悪いとも思わないし。二人に負けないように私達も頑張りましょう、メイ」
「……うん」
気にはなったが、これ以上詮索しても仕方がない。仕事である以上、私のワガママで時間を潰すわけにはいかない。今はただ、あの二人が無事でいてくれることを祈るばかりだ。そう心では割り切りつつも、でも完全には割り切れていないまま歩きだした。
街へ出ると、人々は仕事の準備に追われ、今日も労働に精を出していた。ある人は野菜や果物を店頭に並べたり、奥さんとあーだこーだと話したり。ある建設現場では親方の話に若い衆が真剣な顔で聞き入っていた。多分、仕事の説明をしているのだろう。それは私達の世界でもナイトゼナでも変わらない日常だ。異世界とはいっても住んでいるのは人だ。それぞれの生活があることは何ら変わらない。そんな彼らを横目にしつつ、街の外まで行こうとしたんだけど。
「おう、メイ。今から出発か?」
と、声をかけてくれた姉御が一人。言うまでもなく、梨音さんだ。「与太来堂」のエプロンを着ていて、額には汗をかいている。仕事の休憩中らしく、手には煙草を持ち、火をつけている。でも、煙草の臭いは嫌いなので止めて欲しい。
「あ、悪い、悪い。一段落したから、ちょっと休憩しててな」
私の嫌そうな顔がわかったのか、すぐに携帯灰皿で煙草の火をもみ消す梨音さん。ああ、まだ新品だったのに悪いことしちゃったな。でも、正直苦手な臭いなので、少しホッとした。
「あ、はい。今から出発なんです」
「そうか。ところでよ、お前スマホ持ってるか?」
「スマホ……ですか?」
唐突な質問にびっくりする。なんか久しぶりに日本の言葉を聞いたわね。この世界にはスマホは当然無い。懐かしさすら感じる言葉の響きに郷愁を覚える。ノノはスマホ自体知らないらしく、キョトンとしている。まあ、妖精はスマホなんか持ってないよね。
「今よ、スマホのアルバムにある写真を魔法で現像する商売をしていてな。よかったら格安でやるんだが、どうよ?」
「そ、そんなことできるんですか?」
「ああ。現像した奴はこうしてフォトフレームに挟めばいい」
と、梨音さんが見せてくれたのはタブレット端末だ。なんでタブレットがこんな所にあるのだろうか。でも、そんな疑問は他所にして私は端末に目を奪われた。そこにはフォトフレームに彩られた写真がある。その写真には梨音さん、サエコさん、サラさんの三人が居酒屋で飲み交わしている姿が写っていた。ただ、猫が顔を赤くしてるのは微妙な物を感じる。サエコさん、飲み屋でも変わらず猫のままなのね。
「へぇ~、こんなことができるんですね。この写真いいなー」
「これって、絵じゃないのよね?絵にしては精巧すぎるし」
「ノノ、これは写真だよ。っていうか、タブレット端末まであるなんて凄いですね。使えるんですか?」
生憎、この世界にはスマホもタブレットも無ければ、写真という技術もない。妖精のノノにとっては非常に珍しいものだろう、端末を覗き込みながら感心と疑問の声を上げている。
「おうよ。上手く魔法を応用すればこれぐらいは簡単さ。タブレットもその応用でちょちょいとな」
「それならやってもらおうかな。あ、でも電池が無くて」
私達の世界なら家に帰って充電すればいい。外出してるなら、コンビニで充電器買ってスターパックスとかでコンセントに差し込んで充電完了するまで待っていればいい。電池残量が多少あるならアプリで充電器借りるのがあるけど。最近ではラーメン屋さんでもWiFi接続可能だったり、コンセントがあるので電池がなくてピンチの時はすぐに充電できる。だが、異世界ナイトゼナにはスターパックスは勿論無い。そもそも充電器も充電する場所すらない。なので、私の携帯は電池が切れたまま荷物となっていた。一度ミリィに奪われたけど、取り返してからは特に操作していない。だが、電池はとうの昔に切れていた。
「ねえ、二人共。さっきから言うスマホって何なの?」
「何でもできる電話だよ、ノノ」
「その、でんわ……って何?」
聞いたことのない単語に疑問符を浮かべるノノ。うーん、なんて説明したものかなぁ。
「ええと、スマホは正確にはスマートフォンって言うの。電話ってのは、その……どこにいても誰かとお話できる機械かな」
「……へぇ、どこでもねぇ。例えばナイトゼナとシンシナティとかでもできるの?」
「そだよ」
この世界には電波がないからそもそも無理だけど。以前、携帯見た時県外だったし。
「その、「たぶれっと」にあるサラさん達の……生きている瞬間をそのまま形にしたのが写真ね」
「ふふ、ノノ良い表現だね。そだよ。スマホはカメラ機能とか動画撮影機能があるから」
「かめら……どうがさつえい……。うーん、よくわからないわ。スマホは電話で……どこでも話せて、で、写真ってのが絵より精巧な……」
頭を悩ませるノノ。確かに言葉で説明しろって言うのは難しいわね。私達世代は感覚でわかるものなんだけど。妖精にそれを求めるのは酷だろう。ええと、なんて説明したらいいかな。
「まあ、やってみた方が早いだろう。フォトモードオン……っと」
梨音さんがタブレット端末を操作する。すると、タブレットがひとりでに宙に浮く。翼が生えた訳でもないのにプカプカ宙に浮く。これも何かの魔法だろうか。つか、なにが始まるの?
「ほら、お前ら横に並べ」
「あ、はい」
「え、何?何が始まるの?」
取り敢えず並ぶ私と何が起きているのか把握しきれないノノ。梨音さんがタブレットに指をさす。
「今、タブレットに赤い丸と数字が写ってるだろ?」
タブレットの裏側部分。カメラの丸いレンズの下に赤い丸と白色の数字が浮かんでいる。数字は5を示したままだ。
「あの数字がカウントダウンするからな。0でパシャッと取る。フラッシュは無しでシャッタ―音だけだ」
「了解です」
「ええと、赤い丸を見て……」
私もノノも梨音さんもじっとカメラを見る。ついでに梨音さんも私の横に並ぶ。梨音さん、私、ノノの順だ。私は指でピースを作った。そして満面の笑みを浮かべる。
「デハ、イキマスヨ―」
タブレットから女性の機械音声が聞こえた。なんかATMの自動音声みたい。
「5,4,3、2、1……」
パシャ。音だけが鳴った。3回ほど撮り、タブレットはそのまま梨音さんの所に戻ってきた。空を飛ぶタブレットってなんて斬新ね。日本でその技術があれば特許で大儲けできそう……なんて邪推な事を考えてみる。
「ほれ、これが今写した写真」
タブレット画面には梨音さん、私、ノノが写っている。梨音さんがかっこよく髪をかきあげて、私がピースしてて、ノノがオドオドしていて強張った表情をしている。太陽光の反射もなく、三人が写真にきっちり載っていて風景も邪魔していない。まさに被写体も撮影場所もマッチしている。
「わああ、すごい!!そうか、これが写真なのね。すごいわ!!」
と、興奮気味に語るノノ。思えば誰かと写真を取るのは随分久しぶりだ。以前はお姉ちゃんや理沙とプリクラ撮ったり、スマホで写真撮ったりしたっけ。でも、この世界では写真自体がそもそもないから……。こうやって写真が撮れるなんて夢にも思わなかった。
「梨音さん、これお金出すんで欲しいです!!これ、この写真。家宝にしたいです!!大好きな主人の物って絶対欲しいから!!」
「ははは、メイは愛されてるなぁ」
「照れますね」
若干、ハイテンションなノノ。どうやら相当嬉しいらしい。でも、そういう私もかなり嬉しかったりする。こうなるとみんなとの写真も欲しくなるわ。理沙、お姉ちゃんは当然として、ミカちゃんもそうだし、ロランさんやミオさん。勿論、サラさんやマリアさんとも。
「お前らが仕事終わるまでには出来上がってるから、そん時にうちの店に取りにきな。金はそん時でいい。ついでに充電もしといてやる」
「わかりました。じゃあ、お願いします」
私は鞄からスマホを出し、梨音さんに手渡した。高校入学のお祝いで機種変してもらった携帯。私がこの世界に来るまでは最新機種だった。有名女優を起用したオシャレなCMがバンバンテレビで流れていたっけ。トレンドをこの手にしたんだと少し有頂天になっていた。今、日本ではどれだけ時間が経っているのだろうか。恐らく、もう最新機種とは言えない時だろう。下手したら時代遅れの機種と言われるかもしれない。まるで浦島太郎だなと心の中で呟く。お年寄りにはなっていないのが幸いだけど。
「今度はみんなで撮りに来いよ。もちろん金は取るがな」
「梨音さん、商売上手ですね」
「ったりめえよ!」
あははと笑い合う私達。もう電池が切れて使い物にならなくなったスマホ。すぐに友達とやり取りできるよう連絡アプリも入ってる。写真自体は以前の機種からバックアップしてたのもあり、あのスマホには写真がいっぱい入っている。そのほとんどがお姉ちゃんか、外食している時の私と理沙の写真だ。それ以外にも互いの家にお泊まりした時の写真とかがある。あの頃は異世界だの、戦いだの、考えたこともなかったな。当たり前だけど。
「じゃ、私は仕事に戻る。お前らも気をつけて行けよ」
「はい。それじゃ」
「メイとの写真、よろしくね梨音さん!!」
「おうよ!」
梨音さんと別れ、私達はさっそくガナフィ島へと向かうこととなった。
さて、本来ならガナフィ島へと向かうのだが。まず、ギルドでもらった地図で地理関係を把握しよう。
「ええと、シンシナシティからシルド鉱山まで馬車で約2時間ね。そのシルド鉱山から北に1時間ほどするとガナフィ島が見えてくるのね」
「メイ、シルド鉱山からガナフィ島までは悪路が多いから馬車は使えないみたいよ。ほら、地図にそう書いてる」
「あ、本当だ。そうなると馬車+歩きかぁ。大体3時間ぐらいかな。全部が歩きだと5時間はかかるかも。今からだと何時になるか調べてみよう」
日本と違い、ナイトゼナでは時計が普及していない。時刻は「クロックウォッチ」という魔法で調べる。太陽の位置などを瞬時に計算し、今の時刻を調べてくれる。理沙から教わったので、私はその魔法を使うことができるんだ。この世界では子供が最初に覚える初期の基礎魔法らしい。難しい演唱も必要なく、目を閉じて精神を集中すればいい。すると、現在の時刻が朝の9時頃だとわかる。さて9時から5時間以上かかるとなると、14時以降と大幅に時間が経過してしまう。それにこれは”何もトラブルがないと”仮定した場合での時間だ。モンスターの襲撃や野盗が潜んでいる可能性だってある。特に私はカンガセイロという野盗を捕まえたこともあり、その残党が私を狙っても不思議じゃない。親分の敵とばかりに数に物を言わせて襲ってくるかもしれない。そうなると時間も体力も大幅に消費してしまう。体力を温存しつつ、ガナフィ島へと素早く行きたいのだが。
「あー、さっき、梨音さんに馬車借りたいって言えばよかった……ミスったなぁ」
以前、鉱山に行った時に馬車を出してくれたのは梨音さんだった。写真を撮ったついでに頼めばよかったな。あー、しくじったなぁ。
「メイ、それなら馬を2頭借りましょう。馬車より安いし、便利よ」
「ノノ、私、乗馬の経験が無いんだけど」
「あ、そ、そうなんだ……異世界の人は馬を使わないのね」
「乗馬ができる人は少ないかもね」
ノノはあははと苦笑いした。江戸時代ならいざしらず、今の現代日本で馬に乗ることはあまりない。大多数の一般人は乗馬経験などほとんど無いだろう。乗馬体験とかさせてくれる施設とかにで初めて馬に乗るんじゃないかな。そもそも、馬など無くても近場なら自転車で事足りる。遠くても、電車やタクシーもあるし。免許があるなら車やバイクで遠出することだってできる。馬を使って学校へ行ったり、職場へ行ったりする人はまずいない。
以前、テレビ番組で馬に乗った人が大手ハンバーガーチェーンのドライブスルーに行って店員さんがビビってたけど、そんな非日常的光景はテレビだからできる事だ。一般人で乗馬を経験している人はお恐らくかなり少ないのではないだろうか。しかし、ナイトゼナには当然ながら車も無ければ自転車すらない。よって移動手段は徒歩、馬をレンタルもしくは馬車のレンタルがほとんだ。しかし、私もノノも乗馬経験はない。うーん、他に馬車とか借りれる場所は……。
「きゃああああああああああ!!」
と、絹を裂くような女性の叫び声が聞こえてきた。ノノと目を合わせ、声のした方へと向かうことにした。声が聞こえたのはここから近く、場所は裏通りの港近くの路地裏だ。耳の良い私には大体の位置が掴めていた。案の定、そこには船夫らしきゴツい男3~5人がいる。ガタイはいいが、いやらしい笑みを浮かべた汚い男達だ。そのキモい顔の先には女の子がいる。だが、女の子は普通の女の子ではない。足が馬になっていて、上半身は人間の女の子だ。確かアニメやマンガで見たことがあるわ「セントール」族ね。
「馬のお嬢ちゃんよう、仕事なら斡旋してやるって。すぐそこに娼館があるからよ。そこで娼婦になればいい。馬の女なら良い稼ぎになるさ」
ぎゃははははと笑う男たち。セントールの女の子は怯えていて、へたり込んでいる。涙を流し、辛く苦しい表情をしている。服装や髪型に乱れはないから、今の所はまだ何もされていないのだろう。だが、放っておいたら何をされるかわかったもんじゃない。これだから男はと不快感を感じつつ、私はすうと大きく息を吸う。
「あんた達、朝っぱらから何やってんのよ!!」
「あ?」
私の声に男たちが振り返る。だが、私の顔を見るとぎょっとした顔をした。なによ、その幽霊にでも遭ったかのような顔は。
「お前……七瀬メイだな?」
「あら、知ってくれてるなんて光栄ね」
「シェリル、ミリィ、カンガセイロ……物騒な極悪人ばっか倒した四英雄もどきを知らない奴はこの街じゃモグリだ。俺らの間じゃお前らの噂がガンガン入ってくる。いわば、お前は話題の中心だ」
「そ、そうなんだ」
それは知らなかった。なんか照れるし、悪い気はしないけど……でもなぁ、目立つのは好きじゃなのよね。
「つまり、お前を倒せば俺らは英雄で金も女もガポガポ入ってくるという訳だぜ!!」
ひゃほーと馬鹿笑いする男たち。その手にはナイフが握られている。殺気も充分だが、所詮はザコでしかない。さて、どうするべきだろうか。殺すことはできないから、戦意を削げばいいかな。普通に考えると獲物の影響力を無力化させるか、リーダーを倒せばいいんだけど。
「ここは私に任せてメイ。あなたはその娘と一緒に後ろに下がってて」
「う、うん」
私の前にノノが立つ。言われたとおり、彼女を保護しつつ、少しだけ後ろに下がる。その表情は私には見えないけど、あのガタイのいい船夫達が引いている。喧嘩慣れもしているであろう彼らをビビらせるとは余程だ。きっと悪鬼羅刹の如き顔をしているに違いない。万が一の為、セグンダディオを封印解除しておく。
「妖精ごときが何だ。ナイフの錆にしてやる。みんな、やっちまえ――!!」
男たちが声高らかに、よってたかって攻めてきた。ナイフで突き、斬り払いをして攻めてくる。初心者がナイフを乱暴に振り回すのとは違い、的確に胸や身体を中心に切りつけようとしてくる。頭よりも身体のほうが当然柔らかいから身体を狙ってくるのは当然だ。腕や足への攻撃は対象を弱体化できるし、胸なら即座に殺すこともできる。ただ、扱いに多少の慣れはあるものの、彼らは人殺しではないようだ。正直、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの理屈で5人がかりなら誰かの攻撃がヒットすると睨んだのだろう。男たちは楽勝だぜとタカをくくっていた。その表情にはとても余裕があったが……。
「ふん。遅いわね」
ノノはそれを完璧に避けていた。まるで踊り子のように舞いながら攻撃をかわしていく。どれだけ男達が死力を尽くしても攻撃はひらりとかわされる。全員で協力して襲いかかっても避けられ、別々で攻撃しても避けられる。その華麗な舞に私もセントールの女の子も見とれていた。ノノがドッヂボールしたらきっと最後まで生き残れそう。そんなことを思いながら、ノノの舞をしばらく観覧することに。
それから数十分後。男たちは徐々に余裕を無くし、顔つきがマジになっていた。一旦距離を取って休みを取りつつも、体力の限りナイフを振り回し続ける。その集中力を仕事に向ければいいのに……と私は一人思う。だが、彼らは遂にノノ髪の毛一本すらも切ることはできなかった。
「ぜぇぜぇ……く、くっそ……なんて回避運動だ」
「はぁはぁはぁ……うぐぐぐ、み、身のこなしの軽い奴め」
男たちも流石に疲れが見えてきた。誰もが肩で息をしているが、汗一つ流していないのはノノだけだ。どれだけ舞っても疲れは見えず、涼しい表情をしている。それが男達を苛立たせた。誰もナイフを手放そうとせず、殺気を抑えようともしない。寧ろ、最初のときよりも増大しているような気がする。地面に汗が滴り落ちても気にせず、その視線はノノだけに向けられる。その意気や良しとも言えるが、体力のペース配分が間違えている。初めから全力で狙いすぎだ。例えば、野球選手は1回表から全力で投げたり、打ったりしない。そんなことをすれば疲れてしまうからだ。最初は体力を小出しにし、ここぞという時に体力を使うの。ノノは相手の動きが鈍ったのをチャンスと捉えたのか、素早く呪文を演唱する。手の中に炎を生み出し、それを天に掲げる。
「火炎の豪速球!!」
その火球をまるでバレーボール選手のように地面に叩きつけるノノ。炎はワンバウンドして飛び跳ね、船夫たちに次々と命中。といっても、燃えているのは何故か背中だけだ。
「ぐあああああああああああああああ!!!!」
「ぎゃあああああああああああ!!みず、みずぅぅぅぅ!!」
「あづああああああああああああああああああああああ!!!」
男たちは服を脱ぐが、炎は消えない。つまり服ではなく、背中が燃えているのだ。彼らは堪らず走り出し、去っていった。恐らく海にドボンと入って消化する気だろう。裏通りなら港が近いから海もすぐそばだ。数分もしない内に盛大に飛び込む音が聞こえてきた。だが、それでも男たちの阿鼻叫喚は収まらない。むしろ更にヒステリーになって裏通り中に響いた。
「ノノ、あの炎は?」
「あれは特殊な魔法よ。普通の水じゃ消えないわ。妖精の魔法でないと消せないの。といっても永遠に燃えるわけじゃないわよ。6時間もすれば沈下するでしょ」
「ろ、6時間……」
「大丈夫。死にはしないから。大火傷程度で済むって」
これで脅威は去ったかに見えたが。一人だけ背中が燃えながらもこちらを睨みつける者が一人いる。
「こ、この野郎!よくも先輩達を……ぶっ殺してやる!」
自らを鼓舞するかのように暴言を吐く男。見た感じ10代後半で入ったばかりのヤンチャ系の新人君だと思う。血走った目をセントールの少女に向け、駆け出した。私の実力は噂で知っているだろうし、ナイフの当たらないノノは先輩たちが実証済み。なら、セントールの少女を人質にでも取ろうと思ったのだろう。さっきの男たちより幾分、頭は回るようだ。けれど、ハッキリ言って甘い。
「はああああああああああ!!」
「なっ!?」
奴のそんな企みを私は一秒で消し去った。セグンダディオでそのままぶった斬ったのだ。正確には彼の足の関節を斬り裂いた。あまりにの激痛と出血のショックで男は声も上げず、崩れ落ちた。あの炎は6時間続くものの、最終的に大火傷程度で済むだろう。だが、セグンダディオで斬られた以上、回復は困難だ。彼は一生松葉杖か車椅子の生活を余儀なくされることだろう。女の子に手を出そうとした罰をしっかり受け止めることね。
「さ、一緒に行きましょう。ノノも早く!」
「ええ!」
セントールの少女の手を引き、私達はその場を離れることにした。このままここにいても青年団から事情聴取を受けるだけだし、奴らの仲間が来ても厄介だ。私達は駆け出し、裏通りを後にした。
裏通りを抜けて、表通り南出口付近。表通りとあるが、実質、裏通りに近い。そのせいか、やや人が少ない簡素な場所だ。一旦ここで手を離す。セントールの女の子はすぐさま頭を下げた。
「あの……助けていただき、ありがとうございます」
「いえいえ。それより大丈夫?怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫です」
私の尋ねに笑顔を見せるセントールの女の子。アニメではよく見るけど、この世界で馬の女の子を見るのは初めてだ。多分、私と同い年ぐらいに見えるけど、やや童顔だ。でも、落ち着いた喋り方だから、もしかしたら年上かもしれない。
「私はセントールのジェーン・ハルベルトと申します。よろしくお願いします」
「ジーナさんね。私は七瀬メイ。こっちは妖精のノノ。よろしくね」
「七瀬メイさんとノノさんですね……。あの、先程、不遜な連中が申していましたが、あのシェリルとミリィを倒したという?」
「うん、まあね」
「ああ、やはりそうでしたか……」
ジェーンさんは足を完全に地面につけ、上半身を平伏させた。これはセントール式の土下座だろうか。
「あ、あの?」
「実は我が家はナイトゼナ城で代々仕えてきました。曽祖父は四英雄様にも仕え、祖父も父も母もナイトゼナ城で騎士として仕えてきました。かくいう私も見習いではありますが、お仕えした身。貴女様は四英雄の武器であるセグンダディオをお持ちと噂で聞きましたが、真のご様子。我が主も同然なのでございます」
まるで舞台女優のように熱弁するジェーンさん。だが、その瞳は真剣で至って真面目に話しているのが伝わる。恐らく、これが彼女の素なのだろう。多分、良いところのお嬢様じゃないかな。改めてジーナさんをよく見てみる。一般人とは雰囲気が違うし、ウェーブがかった髪も綺麗だ。服装も一般人のそれとは違い、上品な服装だし。普段着というよりは余所行きの服かな。そして、肌の色もとても綺麗だ。触りたくなるほどの綺麗な肌だと思う。女の肌は生活面がよく出る所だ。どれだけ化粧で取り繕っても肌は嘘をつかない。彼女はきっと規則正しい生活を送ってきた事はまず間違いない。いったいどんなシャンプーや石鹸を使っているのかな? 私がそう口を挟もうとしたが、更に彼女は興奮しながら続ける。
「しかし、ご存知の通り、お城はシェリル達によって壊滅してしまいした。私はその時、仕事でナイトゼナから離れていたのですが噂を聞きまして。急いで戻った所、お世話になった方々は全員お亡くなりになっておりました。職場も仲間も無くした私は呆然とするしかありませんでした。でも、そうこうしている内に路銀が尽き、仕事を探しにここまで来ましたが、先程の不遜な輩に絡まれ……本当に助かりました」
「そうだったんだ。苦労したんだね」
そう、ナイトゼナ城は脱獄したシェリルとミリィによって壊滅させられた。王様は殺され、兵隊はおろか、メイド達すらも殺されたのだと聞く。職場の上司、同僚や後輩を無くした彼女の気持ちは計り知れない。さぞ、深い悲しみに包まれたことだろう。私はそっとジーナさんを抱きしめた。できれば、何かしてあげたいのだけれど。
「メイ、そろそろ仕事にいかないと。あまり時間を無駄にできないわ」
「そだね。でもなぁ……」
「お仕事ですか?」
「うん。私とノノは「マリア・ファング」ってギルドのメンバーでね。これから仕事でガナフィ島へ向かうんだ」
「でしたら、私を使ってくださいませ」
「え?」
「セントールは代々主人と決めた者のみを背中に乗せる伝統があります。メイ様の事は以前より聞き及んでいました。先程の戦闘も素晴らしいものでした。あなた様こそ主に相応しきお方。鈍重で愚鈍な足運びの馬より、私の方が確実に速く動けます。矢のように速く目的地へと着くでしょう」
「それって具体的にはどれくらい?」
「ガナフィ島なら2時間もしない内に到着できます」
断言するジーナさん。確か鉱山から島までは悪路で馬車は難しいはずだが。その事を伝えると彼女は「大丈夫」と自信たっぷりの笑顔を見せた。というか、自信家なのか、強調たっぷりに言う。
「我が家はセントールでも特に厳しい家柄。悪路での走行修行も数多く行いました。世界各国を周り、地図は頭の中に叩き込んでいます。勿論、近道や抜け道も覚えています。ぜひ、我が背中を使ってくださいませメイ様」
優雅に微笑むその姿は流石、お嬢様と言える。けど、頼りがいのある強い笑顔だ。女の私でさえ、美しいなと思った。まあ、今から梨音さんに頼むのも時間かかるし。そもそも馬車がレンタルできるかどうかも不明だ。その馬車よりも速く着けると自負する彼女。お金の節約にもなるし、断る理由もなさそうね。
「わかった。お願いしていいかな?」
私がそう言うとジェーンさんは、ぱああと明るい笑みを見せた。素直な人だなと思いつつ、釣られて私も笑顔になる。
「はい、勿論です! ですが、私の背は二人は乗れませんので、ノノ様が」
「大丈夫よ。羽で飛んでいくから」
ノノはそう言って背中から羽を生やした。白く半透明なその羽はまるで蝶のように美しい。
「ノノ、羽あるの!?」
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「ん?」
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「私は今が一番楽しいわ。メイと一緒にいる時がとても楽しい。さっきの写真もそう。だからこのお仕事をする時、とても楽しみだったの。もうすごくテンション高くてさ、自分でもわかるぐらい。だから、早く行きましょ」
「ふふ、そうだね。じゃあ、ジーナさんお願いします」
「心得ました。メイ様、魔法の手綱が私の背中に出ています。それをしっかり掴んでてください」
「うん」
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