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第二章「新たな旅立ち」

第40話「呪い」

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メイ達はシンシナシティへと戻ってきた。
時刻は夕方となり、空は真っ赤に染まっていた。だが、端の方には深い闇色の空も見える。数時間もすれば、空はペンキをこぼしたように黒く染まるだろう。全員、馬車から降りるが、唯一メイだけが眠ったままだった。



「メイ、そろそろ起きるッス」



「ううん……もう食べられないよ、理沙」



「また、ベタな寝言ッスね。夢に出演できるのは光栄ですが」



理沙は試しに彼女の体を揺すってみたが、メイが気づく様子はない。ゴブリン退治で疲れたのだろうか。しかし、ゴブリンは大勢いたとはいえ、メイの前では雑魚に等しい。大一番のカンガセイロとの戦いはサラの功績だ。ただの女の子ならともかく、メイもそれなりに場数を踏んでいる。正直、疲れる要素が見込めない。なのに、メイはどれだけ声をかけても眠ったままだ。



「ミカ、悪いけどメイを連れて宿屋に行って。少し休ませてあげましょ」



「わかりました。ほらメイ、宿に行くわよ」



サラの提案にミカは頷き、メイをおんぶする。当たり前のようにノノも「じゃ私も」と付いていく。「じゃあアタシも」と更に一緒についていこうとした理沙はサラに首根っこを掴まれた。



「理沙ちゃんは仕事の報告があるでしょ。仕事を達成した後、ギルドにちゃんと報告するまでが”仕事”よ」



「は、はいッス。メイ、また後で会いにいくッスからね~~」



渋々頷く理沙。その後、カンガセイロを青年団に引き渡した。



「じゃあ、よろしく頼むッス」



「ああ、了解した」



「メイによろしくねー」




ロランとミオに引き取られたカンガセイロ。彼は魔法の鎖で全身を固定され、身動きが取れずにいた。しかし、暴れる素振りは微塵も感じられない。奴はこちらを振り向かず、一言も喋らずに無言を貫いた。喋る気力すら無いのだろう。



「あいつはこれからどうなるッスか?」



「そうね、昔なら駐留しているナイトゼナ軍に渡すのが普通だったけど、お城は壊滅状態。今は青年団で書類が作られてるから、アルカザール城へ連行されるでしょ。あれだけの悪人なら確実に死刑よ」



「アルカザール城は裁判所兼牢屋でもある有名な所ッスね。貴族の所有していた古城を買い取って使ってるっていう」



「そうそう」とサラが頷く。この島はナイトゼナ本国が統治権を持つが、離れた離島でもある。一々本国まで罪人を連れて裁判するのは手間と金がかかる為、裁判所兼監獄として機能させるために貴族の古城を本国が買い取り、100年前に運営を開始した。シンシナシティでの悪人はすべてここで裁かれる。極悪人の場合、ギロチンによる死刑執行ショーが行われる。格安で大人子供でも見ることができるショーはシンシナシティの娯楽の一つだ。当日は大勢の見物人が集まり、罪人の最後を見届けるという。嫌だ嫌だと言いながらも人の死に様は見たいという、人間とは実に変な生き物である。



「さ、それじゃ報告に行きましょう」



理沙を促し、二人はギルドへと向かった。







「やっと報告終わったッス」



「お疲れ様。このやり方はメイにも教えてあげて」



「はいッス。サラさん、それじゃアタシはそろそろ……」



「はいはい、行ってらっしゃい」



「ではでは~」



満面の笑顔を浮かべると、理沙はギルドを去っていった。残ったのは梨音とサラのみになる。



「おい、サラ。今日はもう仕事ないんだろ?久しぶりに飲もうぜ」



「いいわよ、梨音。でも、その前にマスターと話をしないとね」



「あー、そうだったな。おい、ポールシェンカ。マスター帰ってきてっか?」



「ええ。地下で書庫の整理をしていますよ」



「あいよー」



二人にだけ聞こえるよう、ポールシェンカは声を潜めた。ギルドはさほど人がおらず、閑散としてはいる。まだ皆、仕事から戻ってきていないのだろう。いるのは2~3人ぐらいだ。だが、マスター狙いのマスコミや新聞記者もいるかもしれない。
その為の配慮だ。二人は地下へと向かう。




地下はギルド関係の書物や書類が保管された場所だ。非常に重要な場所なので一部の者しか入れないよう、扉に魔法がかかっている。ここでは防音魔法も併せてかかっており、地下の声や音は上や外部には聞こえない。

一度、梨音が調子に乗って地下で歌を3時間ほど熱唱しまくり、サラが踊りまくったり、サエコがピアノを弾いた時があったが、その時でもそんな騒ぎや声は上の者たちにはまるで聞こえなかったという。書庫には猫がいて、あちこちを調べたり、書物を読み耽っていた。その猫こそ「マリア・ファング」現マスターのサエコだ。



「しばらくぶりだな、サエコ。あんた相変わらず猫だねぇ」



「ふん、こうでもしないと男共が五月蝿いからな。こうやって気兼ねなく話せるのはお前とサラくらいだ」



サエコはそう言って友人の来訪を喜んだ。
彼女はガイドブックにまでその美貌を書かれるほどの美人だ。しかし、それ故に彼女を狙うマスコミや男性諸氏が後を立たない。その為、人前に出るときは魔法で猫の姿をしている。梨音はそんな猫であり、友人でもある彼女の頭を撫でた。サエコもそれを嬉しく思う。



「ねえ、サエコ。メイの事なんだけど」



「ふむ」



「彼女が持つセグンダディオは多分、本物で間違いないと思う」



サラの言葉にサエコは興味深いという表情をした。空気が必然的に重くなるのを感じる。



「その根拠は?」



「伝承どおりだからよ、なにもかもね。加えてあの攻撃力。いくらゴブリンが雑魚とはいえ、普通の戦士はもっと苦労して倒すものよ。メイは多少場数を踏んでいるとはいえ、ごく普通の女の子。100以上いたゴブリンを1時間もしない内にほとんど殺していた。あの子がその気なら国すらも滅ぼせるでしょうね」



サラは戦闘を振り返りながら喋る。
圧倒的無比の攻撃力と一度で大人数を殺害していたメイ。彼女はセグンダディオをかなり使いこなしている。だが、このままでは……。



「いやいや、それはないだろう。メイは心根の優しい奴だ。人を殺す事を忌み嫌っている。シェリルやミリィという前科があるから尚更な」



梨音はよく覚えている。以前、メイが人を殺すことに抵抗があると彼女に訴えたことがあった。そして梨音に元の世界に戻る情報を集めてほしいと懇願してきた。多少、頭に血が登っていた所もあるだろうが、仕事の説明の時は真剣に聞いて、わからないところは質問していた。同じ日本人ということもあるが、仕事に対して真摯な彼女を梨音はかなり気に入っている。



「ええ。けど、このままじゃ伝承通りになってしまう。後進を指導する立場としてそれは避けたいわ」



実は後進を指導する立場というのは建前だ。勿論、それもあるにはあるが大きな理由はそれではない。メイには何か感じるものがあるだ。他人には感じない何か、特別な気持ちが。それが「愛」か「友情」かそれ以外の何かなのか。サラはその気持ちが何なのかわからない。けれど、その気持ちを失いたくない。あの子にはずっと笑っていてほしいと思っている。



「お主の懸念が当たったようだな、サラ。それを避ける為のプランがあるのだろう?」



サエコの言葉にサラは頷いた。これは以前から相談していたことだ。梨音にも内容を打ち明けるべきだろう。



「ええ。サエコには相談してたけど、梨音にも聞いてもらいましょう。その方法なんだけど……」



「待て。それよりもアタシも聞きたいことがある」



「何なの、梨音。後でもいいでしょ?」



サラの言葉に「いんや」と梨音は首を横に振る。そして、サエコに目線を合わせるためにしゃがみ、その瞳をじっと見つめる。
両者は視線を外さず、じっと見たまま動かない。



「サエコ。メイがお前に渡した手紙、あれは何だったんだ?死神から貰った手紙とかいう話だが」



「相変わらず耳が早いな、梨音」



サエコはため息をついた。手紙の存在を知っているのは面談したメイとその場にいたサラしか知らないはずだ。二人が話したとは聞いていない。どこで聞いたのか知らないが、相変わらず早耳だ。まあ、梨音にとってこのギルドもビジネスの一つ。抜かりはないということか。



「こちとら商売なんでね、地獄耳なのさ。それよりも、だ。死神からお前宛への手紙なんて笑わせる。天国への片道切符かい?」



「……お主らには関係のないことだ」



サエコの言葉にサラと梨音は目を見合わせた。三人はギルド立ち上げ時からのメンバーだ。元々サラは風来坊で様々な国を旅し、梨音は商人として商売を成功させてきた。サエコは美貌も才能もあると世間は評価するが、必ずしもギルドマスターになりたかったわけではない。元々マスターは兄がなる予定だったのだ。だが、諸事情で彼は行方不明になってしまった。それを継いだのがサエコだ。そして協力してくれたのが梨音とサラである。三人は生まれは別々だが、女同士気が合い、苦楽を共にした仲間。そんな彼女が二人すらも関係ないことと言い切るのは初めてだ。



「サエコ、どういう事だ?」



「言葉通りの意味だ。サラ、3サイズと男性遍歴を教えてくれるか?」



梨音の尋ねを一蹴し、サラに意味不明な質問を振る。サラはポカンとしたが、ブンブンと手を横に振る。



「どっちも嫌よ。3サイズはまだいいけど、男性遍歴は絶対嫌」



「んだよ、サラ。それぐらい言えって。アタシは小5が初体験だったな。あとは親戚のおじちゃんとか、友達のお父さんとか、隣町のヤンキーとか……」



指を折りながら数を数えていく梨音。その指は既に8を軽く超えている。どれだけ男性遍歴があるんだ、この女は。



「えーと、梨音、ショウゴってのは何歳ぐらい?」



「10歳ぐらいだな。最近だと商店会長ん所の……」



「あ~もういいから。つか、それ以上は聞きたくない!」



サラは顔を真っ赤にして耳を塞ぐ。にひひと笑う梨音。サエコの咳払いで取り敢えずの軌道修正を図る。



「……人は誰しにも話せないことがある。これはプライベートな事でな。お主らには関係がない」



「わーたよ。でもよ、話すときが来たらきちんと話せよ。アタシらはダチだぞ。隠し事は無しだ、じゃあな」



「ちょっと、メイの説明……」



「悪いがまだちょいと仕事がある。後で飲む時にでも教えてくれ。じゃあな」



梨音はそう言うと倉庫を後にした。本当は聞きたいのだろうが、引き際はきちんと決めている。それが彼女の良いところだ。っていうか、せっかくプランの説明をしようとしていたのだが。



「まったく自分本位なんだから……。さて、話がだいぶ飛んだけど、サエコ、メイ達について話を聞いてくれる?」



「うむ」



二人は暫くの間、話し合いをすることになった。互いに真剣な意見を交わし、情報を共有する。サラは頭を働かせるよりも先に手が出るタイプだ。サエコは頭脳明晰で考え方も深く、多様な考え方ができる。二人は言葉を重ね、議論を交わし、納得行くまで話し合いを続けた。







どれくらい寝ただろうか。
身体に柔らかくて気持ちの良いものがあたっている。瞼をうっすら開けると、蛍光灯の無い天井が見えた。白い壁は前にも見た覚えがあり、それが全てを教えてくれた。



「あ、メイ。やっと起きたわね」



「ん……」



ここは昨日泊まった宿だ。部屋の作りや雰囲気でわかる。窓に映る景色は晴れ渡り、雲ひとつなかった。だけど青空は失われ、今は漆黒の闇が空を支配していた。けど、その闇に負けじと街は張り合い、とても明るい。ナイトゼナには電気がないが、民家や店の入口の扉に魔法灯がある。簡単な呪文を唱えるだけで設置している家は外や中が明るくなる。おかげで夜でもとても明るい。



「メイ、なかなか起きないからミカと一緒にここまで運んだのよ」



優しく声をかけてくれたのはノノだ。
微笑みかけてくれながら頭を撫でてくれる。そんな彼女の手は優しかったが、顔はどこか暗かった。いつもに比べると少し表情が硬いというか……。



「そっか、ごめんね。えと、どれくらい寝てたの?」



「3時間ぐらいね。ミカちゃんは武器屋で銃のメンテナンス。理沙とサラさんは先にギルドに行ってるわ」



「そっか。つか、ノノも行けばよかったのに」



「前も言ったけど、あんまり人が多い場所は好きじゃないの」


そう言って首を横に振るノノ。まあ、私も街中とか人混みは好きではない。どちらかと言えば苦手な方で必要がなければ行きたくない。だからノノの気持ちはよくわかる。彼女は「それと」と付け足した。



「っていうか、ご主人様を残して妖精が休んで、飲み食いしてるなんてダメでしょ」



「ありがと」



優しい気遣いに嬉しさを感じる。戦闘の後のせいか、そういう優しさが心地よい。荒んだ心が修復されていくような気がする。



「もう体調は大丈夫?まだキツかったら寝てて良いわよ。みんなには私から言っておくから」



「ねえ、ノノ」



「ん?」



「私さ、最近変なの」



「変って?」



「どこが?」という表情で私を見るノノ。
変わった場所は外見じゃないんだよな。私は淡々と心の内を話す。



「前に、梨音さんの前であれだけ戦闘や殺し合いが嫌だって言ったのに。今はさ、モンスターを殺したくて仕方ないんだ。ゴブリンをたくさん斬ったけど、もっと強い奴を斬りたい、殺してやりたい。今でも心の底でそういう気持ちがくすぶっているの」



「……メイ、それ本当なの?」



「うん。おかしいよね。私は元の世界に帰るためにマルディス・ゴアを倒そうと旅に出たのにさ。なんで、今はモンスターが殺したくて仕方ないんだろう?自分で自分のことがわからないよ」



「それが呪いだからよ」



第三者の声が聞こえた。声と共に入ってきたのはサラさんだ。傍には理沙やミカちゃんもいる。



「おかえりなさい。え、呪い?」



「ただいま、メイ。実はね、実はセグンダディオにはある種の呪いがかかっているの。持ち主は戦闘狂 バーサーカー
なってしまうの。四英雄・カムラ・セグンダディオもその呪いのせいで、死ぬまで戦いに身を投じた」



「どこからの情報ですか、それ?」



サラさんが語る言葉に頭が凍りつく。戦闘狂になる呪いなんて信じられない。でも、それだとこの破壊的衝動に説明がつく。



「古くから伝わる伝承よ。一般市民はほとんど知らないんだけどね。でも、サエコがそういうのに詳しくてね」



「そうなんですか?」



私は耳を集中させ、声を拾うことに集中した。



「ある文献によると、セグンダディオに選ばれた者は絶大な力を手に入れるの。けれど、その力と引き換えに契約者は戦闘狂となる。それは徐々に進行し、脳の構造をも変化させ、常に戦闘思考とさせるそうよ。だから殺意の衝動に駆られるのよ」



「殺意の衝動ですか」



妙に納得できる部分がある。人を殺したくない、戦いたくない。その気持ちに嘘偽りはない。けど、やはり心のどこかで戦いを求めている自分がいる。殺し合いを求める自分がいる。黒く禍々しい心が種から花へと育とうとしている。



「メイ、最初にこの世界に来た時のことを思い出すッス」



「最初?ええと、おねえちゃんにハサミを貰って家を出て、地下鉄のホームに続くエスカレーターに乗っていたら鞄の中のハサミが光ってて、気がついたらこの世界にいたわ」



「そう。そして森でモンスターに襲われていたミリィをセグンダディオで助けたッスよね?」



「うん。でも、それが何?」



 ?」



「あ……」



言われて気づいた。そういえば、あの時はミリィを助けることだけを考えていた。レッサーデーモンからどうやって彼女を助けようか必死に思考を巡らせた。その思考の末、頭に話しかけてきたセグンダディオと契約を結び、ミリィを助けた。

でも、普通に考えてみると、未知の世界に見たこともないような化物。そんなのに出会ったら普通、真っ先に逃げようと思うはずだ。例えば熊に出会った時、誰が戦って退治しようなどと考えるだろうか。まして、見たことも聞いた事もない化物なんて尚更だ。けれど、私には逃げようなどという考えは微塵も浮かばなかった……。



「メイ、これ以上セグンダディオを使い続けるのは危険だわ」



ミカちゃんが私と距離を縮め、私の視線に合わせる為にしゃがむ。その表情は心配で仕方がないと不安そうにしており、目には涙が溜まっていた。



「セグンダディオの力は確かに凄い。ゴブリンを大勢倒せるのもそうだけど、ゴルツ山脈での時、剣が私たちを乗せて運んだのよ。あれには正直、驚いたわ。凄まじい力を秘めているのは間違いない。でも、だからってメイが呪いにかかる必要はないわ。しばらくは他の剣を使いましょう。シンシナシティなら武器屋もあるし」



「多分、手に馴染まないと思うな。セグンダディオを握る時、感じるの。ああ、これだ。この感触だって。それに私、腕力ないのよね。握力測定でもクラスで最下位だったし。でも、セグンダディオは羽のように軽いの。だから他の剣なんてきっと持てないよ」



握力を最後に測ったのは中学三年生の時。
中学三年女子の平均握力は25kg前後だというが、私は16に届くかどうかというレベルだった。だから武器屋で剣を買っても重くて使えない。同じ理屈で盾や鎧を買っても重さに負けてしまう。



「で、でも、このままじゃ、どんどん思考が凶暴になるわ。今はまだいいけど、その内、モンスターだけ飽き足らず、一般人すらも殺そうと考えるかもしれない。殺せれば人間でもモンスターでも構わないとか考えてしまうかも。あなたが暴走したら、どんな軍隊や国家も敵わないわ。もし、そうなったら私は……ううん、私たちはあなたを殺さなきゃならなくなってしまう。そんなの嫌!!」



ミカちゃんはそう言いながら私を抱きしめた。大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らし、脇目も振らず泣きじゃくる。



「……なんで友達を殺さなきゃならないの?人生で初めて友達になろうって言ってくれた大事な友達に。まだまだ一緒にしたいこと山ほどあるのに。あんたの世界にも行きたいし、まだまだいっぱいおしゃべりしたいし、もっともっと一緒に遊びたいわ。このまま、くだらないまま死ぬんだろうなって思ってのを全部変えてくれたのはアンタなのよ、メイ!」



私をじっと見つめるミカちゃん。痛いぐらいにまっすぐな言葉が私の心を突き刺す。
こんなにいい友達がいてくれることを私は心の中で感謝した。



「あんたは自覚ないかもしれないけど、助けてくれたのも嬉しかったし、友達になってくれて、生きてて良かったって本当に思えれるようになったんだから!!私の人生はクソじゃなかったって思えれるようになったんだから!!」



ミカちゃんは捲し立てる。強い言葉がひしひしと私の胸を打つ。彼女は本気で言ってくれている。それはよくわかる。その気持ちはとても嬉しい。どんなお礼をしても足りないぐらいだ。けれど、頭の中は変に冷静だった。でも、急にどうしたんだろうという驚きもある。



……もし、セグンダディオを使わないようにしたとして。一体、私はどうすればいいのだろうか?いっそ、戦わずにお義父さん・お義母さんと一緒に住もうかな。たまに理沙やミカちゃんと食べたり、遊んだりして。アイン王子と結婚でもして子供でも産もうかな。男の子一人、女の子三人が理想的だな。ちゃんとしたお母さんになれるかな。その前に男の人とそういうことするのはまだ抵抗があるかな。   


ダメだ、なんか非現実的すぎる。そんな人生、きっと楽しくないだろう。全く楽しくない訳ではないだろうけど。けど、きっと退屈しちゃうだろうな。それにマルディス・ゴアを放置しておけば世界はいずれ滅びる。



「ミカは本当にメイが好きなのね」



ミカちゃんを抱き抱え、優しく抱きしめるサラさん。理沙もノノも気持ちは同じらしく、少し涙ぐんでいる。私はいつもみんなに心配かけてばかりだな……。



「恐らく四英雄の武器じゃないとマルディス・ゴアは倒せないわ。メイや理沙を誰が呼んだかはわからないけど、あなた達はこの世界に必要だからこそ来たのよ。この戦いは逃れられない宿命なのよ、きっと」



「じゃあサラさんはこのまま戦い続けろって言うんですか!? いつかメイが暴走してしまってもいいって言うんですか」



胸の中で抗議を上げるミカちゃん。けれど、サラさんは首を横に振る。



「そんなことは言ってないわ。でも、戦いは続ける」



「それじゃ意味が!」



「これは呪いを克服するための戦いよ。私のカンだけど、恐らくセグンダディオはまだ力を覚醒していない。その力を最大限に引き出すためにはメイ自身が強くならなきゃいけないの。肉体的にも精神的にも強くなってもらう。その為に修行が必要よ」



「修行ですか」



私の言葉に頷くサラさん。そして私達を見渡し、うんと頷く。



「次の仕事よ。メイとノノはガナフィ島の探索。ミカとノノはオークの討伐よ」







「シルド鉱山から更に北に進むとガナフィ島という浮島があるの。普段は何もない普通の島なんだけど、そこから最近、変な鳴き声が聞こえるそうよ。聞いた者の話によると、どうも、動物とかの鳴き声じゃないみたい。モンスターか、それとも何か別の声なのか。その原因を解明して解決すること。この仕事はメイとノノの二人にしてもらうわ」



「はい。メイ、一緒に頑張りましょう」



「うん」



私達はぎゅっと手を取り合う。ノノの手、案外柔らかくて気持ちいい。ほのかな暖かさが心地よい。



「ミカと理沙はオークの討伐よ。最近、オークは人里に現れることが多くてね。街の食料を奪われる被害が多発しているの。どうも自然の物より人間の食べる物が美味だと気づいたみたい。そんでもって奴らは食欲旺盛。繁殖力もある。今、ギルドと青年団が人手を集めているけど、まだまだ人手が足りないわ。そこで二人に白羽の矢が立ったということ」



「な、なんで私がボール女と!?」



「そうッス。チビ娘なんていなくても強いっス。忘れてるかもしれまんせんが、アタシのハルフィーナも四英雄の武器だし、セグンダディオの奥さんッス!つまり、メイとアタシは対となる存在です。メイとはキスもしましたし、夫婦も同然!」



「ちょ、理沙。あんま、そいうこと言わないで……」



いや、まあキスをしたのは本当だけど。話がややこしくなる。



「あんた達がそんなだから組ませたのよ。いい、みんな。これはギルドからあんた達への正式な仕事のオファーよ。好きとか嫌いとか個人の感情は関係ないわ。ギルドに所属している以上、ギルドや私の意見は絶対よ。異論は認めない。キツイ仕事かもしれないけど、逆に言えばこれを乗り越えられないようじゃ、マルディス・ゴアに勝つなんて夢のまた夢よ」



その殺し文句に皆「うっ……」と黙ってしまう。確かにサラさんの言うとおりだ。いつもはみんなと一緒に戦うけど、今回は別れることになる。私とノノは特に問題ないと思うけど、理沙とミカちゃんは大変そう。なんだかんだで言い合いしてるもんなぁ、この二人は。憎しみ合ってるとかそういうのではないと思うけど。大丈夫だろうか。



「あと、ギルドの計らいで良い物件が見つかったの。これからはそこを拠点にするわよ。さ、みんな行くわよ。メイも起きて準備して」



「は、はーい」



準備を済ませ、街を歩くこと10分少々。
空はすっかり暗闇に覆われていた。外灯が明るくて、歩くには困らないけれど。町外れの裏通りに1軒屋があった。




「あんた達の家はここよ。ギルドの書類にはもう住所書いておいたから。シンシナティ34番街裏通り3-24よ。それじゃあね」



「あれ、サラさん行っちゃうんですか?ゆっくりしていけばいいのに」



「梨音と飲む約束があるからね。明日、朝イチで迎えに来るから準備よろしくー」



そう言ってサラさんは去っていった。ってゆーか、朝イチで来るのに飲みに出かけてよいのだろうか。お酒は飲んだことないからよくわからないけど……すぐ復活できるものなの?それともサラさんはお酒が強いのかな?疑問符に思いつつ、家の中に入る。が、部屋は玄関を抜けるとすぐに寝室の狭い家だ。ベットが4つ並べられただけで家具も何もない殺風景な部屋だ。あとは台所があるぐらいね。



「まあ、とにかく寝るッス」



「私、さっき起きたばかりなんだけど」



正直、全然眠くないんですが。しまった、変なタイミングで寝ちゃったなぁ。といっても朝イチで起きなきゃいけないし、どうしよう。



「じゃあ、お喋りでもしましょ。今日はメイと全然話せてないから寂しかったのよ。明日別れるなら尚更」



「OK、ミカちゃん。んー何から話そうかな」



「あーずるいっス!アタシも会話に参加するっス!」



「じゃあ、私はお茶入れてくるわ。妖精の家から取ってくるから待っててね」



私の会話にあーだーこーだと喧嘩しつつも駄弁るミカちゃんと理沙。こんなところでも気遣いを見せるノノ。このパーティとしばらく離れるのかぁ。なんだか、ちょっと寂しいな。そう思いながら、この日はみんなで夜を共に暮らした。


賑やかな語らいは深夜にまで続くこととなった。明日、起きれるか少し不安である。
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