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第二章「新たな旅立ち」

第33話「頂上へ 後編」

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 セグンダディオは剣のまま巨大化し、私達はそれに乗って楽に山頂へと辿り着けた。なんかずっこい気もするが、あのままじゃ落ちて死ぬだけだったので良しとしよう。無事に頂上へ足を置くとセグンダディオは再び元の剣のサイズに戻る。ミカちゃんはそれをじっと見ていたけど、今は答える暇がなかった。彼女もそれを理解しているのか、あえて深く聞こうとはしなかった。



「ナイトーヴァよ、これがあれば大丈夫」


確かに山頂の隅の部分にその草はあった。ミカちゃんが無言で回収し、鞄に仕舞う。



「ミカちゃんよく気づいたね、他にも似たような草がいっぱいあるのに」



周囲をよく見ると草花がたくさん生い茂っている。どれもこれも似たり寄ったりの草や花ばかり。そういえば、どんな草なのか見たことがない。てっきり一本だけ生えてるとかイメージしていたんだけど。



「匂いが違うのよ。ノノは妖精だからわかるんじゃない?」



「確かにミカが回収したその草は他のとはちょっと匂いが違うわね。それより、お客さんみたいよ」



「うわ……」



上空にはエビルバード達が大勢飛んでいた。1……10……100……1000……。ダメだ、数えきれない。それぐらいギャアギャアと飛び回っている。そして、中央に白い翼を持つ大型の鳥が飛んでいた。恐らく、エビルバード達の……この山のボスだ。



「あれは超危険2種レベルのギルティ・バードよ!マルディス・ゴアに仕えていたバード一族の末裔……腕がなるわね」



それぞれが得物の装備をする。ギルティ・バードはこちらを睨みつけている。怒りで血走った目が私達を捉える。



「コノ神聖ナ山ヲ土足デ汚ストハ……死ヌ覚悟ガ出来テイルヨウダナ人間ヨ。コノ山ハ我ラガ王、マルディス・ゴア様ノ攻撃デ生マレタ魔族ノ楽園。入山スル者ハ死アルノミダ」



辿々しいが、白い鳥は言葉でそう警告してきた。頭も良く、何より夜空に白が輝き、眩しい。それだけなら美しいで済む。だが、怒りの瞳と鋭く長い嘴はこちらを威嚇するのに充分だ。怖い感情が迫ってくるけど、逃げるわけにはいかない。




「私達はナイトーヴァが欲しいだけよ。目的は済んだからすぐに下山する。無駄に戦う気はないの!」



思い切ってこちらも言葉を伝える。避けられる戦闘なら裂けておきたい。だが、返ってきたのは冷酷な反応だった。



「ハイ、ソウデスカトイウトデモ思ウカ? オマエ達ヲコノママ返ス訳ニハイカン。ソレニ先程ノ光……忌々シキセグンダディオノ光。我ガ同胞ヲ絶滅寸前マデ追イ詰メタアノ光……。オマエヲ殺セバ、ゴア様ヘノ良キ土産ニナル」



「戦うしかないッスね」



やむを得ない。セグンダディオを握りしめ、闘志を燃やす。やるしかないのだ。



「オマエ達ハ良キ夜食ニナルダロウ。行ケ、子供タチヨ!ソイツラヲ喰ラエ!!」



エビルバード達が一斉に襲い掛かってきた。猛烈な嘴と足での攻撃が私達を襲う。咄嗟に手で防ごうとしたけど。



「堅牢障壁《プロテクト・ウォール》!」



ノノのバリアにより、攻撃は防がられる。エビルバード達は次々とバリアに向かい、衝突して焼け死んでいく。同胞が死んでもエビルバード達は尚もバリアに向かっていく。弱肉強食の世界、上からの命令は絶対なのだろう。しかし、ギルティは何もせずに上空で静観している。とりあえず、しばらくは安心ね。



「あの白いのを一気に倒すしかないッス。奴さえ倒せば雑魚は逃げるでしょう」



「でも、私や理沙の武器じゃあいつに届かないわ」



私のセグンダディオは剣だ。魔力の調整次第で剣を長くできるけど、その分膨大な魔力を使う。というか、さっきの飛行形態でも少し力を使ったので、少しキツイ。長くしたとしても、相手は飛んでいる。万が一避けられたら終わりだ。理沙のハルフィーナは斧なので、投げつけても当たるのは難しいだろう。ということは……。



「私しかいないって訳ね」



そう、ミカちゃんしかいないのだ。だが、相手は空中だ。雑魚のエビルバード達もまだうじゃうじゃいる。銃で狙うにしても至近距離でないと効かないだろう。どうすればいいのだろうか……。



「二人共、耳貸して」



そこから作戦会議がスタート。約5分でそれらが終わる。



「メイ、そろそろバリアが限界よ。作戦は立てられた?」



「バッチリよ。ノノ、バリア解放!」



「なるほど……OK!」



ノノがバリアを解放する。解除ではなく、解放なのは少し意味が違う。自発的に消すのではなく、バリアを限界まで拡大させて消失させる。それがバリア解放なのだと理沙に教わった。バリアはぐんぐん大きくなり、山頂をすっぽり覆うほどの大きさになる。



「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「ギャピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」



エビルバード達は次々とバリアに巻き込まれ、焼け落ちていく。山頂は死体が雨のように降り注ぎ、あっという間に黒い塊でいっぱいになった。不気味な光景に目を背けたくなるが、こればかりは仕方がない。



「次はアタシの出番よ!暴風竜巻弾《ウインドスラッシャー・ブレッド》」



明後日の方向に拳銃を撃つミカちゃん。彼女は魔力を込めた弾丸を銃で撃つことができるそうだ。これはその中の一つで暴風を起こすというもの。どこからか風が拭き荒び、エビルバード達の死体を高く放り捨てた。これでお掃除完了。



「何ヲ考エテイル……?」



「続いて、氷結床弾《アイスフィールド・ブレッド》」



今度は地面に向かって弾を撃ち込むミカちゃん。すると地面が次第に氷出し、辺り一面が凍る。それは山頂のみならず、山全体を氷にしてしまう。つまり、山がアイススケートリンクになったという訳だ。私はスケート靴を装備してミカちゃんをおんぶする。尚、スケート靴は理沙が持っていたものを使用している。氷の国で私とアイススケートを楽しみたくて持っているんだとか。おかげで足のサイズもぴったりで言うことなしだ。お礼にいつか滑ってあげてもいいかも。もちろん、みんなで。



「行くわよ!!」



大きな山のアイススケートリンクを滑っていく。自慢じゃないがアイススケートはそんなに得意じゃない。というか、元々体育系は苦手な方だ。けれど、お姉ちゃんと一緒に何度もプロのアイススケートの大会を見てきた。よくオリンピックとか大きな大会で終わった後にやるプロ選手達の氷の舞。それを何度も見ていることがあり、どういう風に動くかを頭で覚えている。自分の足でやるのは初めてだけど、コツは掴めてきている。



「はあああああああああああ!!!」



ミカちゃんは私の背中からギルティ・バードに何度も銃を撃ち続ける。奴は避けるものの、何発か当たったらしく、血が出ているのを確認できる。勿論、ギルティはこちらに向かって反撃してきた。大量の羽を超高速で矢のように発射してくる。だが、アイススケートで速くなっている私にはどうということはない。素早く回避し、更に滑っていく。元々、山頂から急斜面を駆けているのだ。スピードは物凄く出ており、自分でもブレーキが出来ないほどに進んでいる。あまりのスピードにビビるわ、矢を避けなければいけないわで怖さ倍増。でも、ミリィの氷柱に比べたらそれほど早いわけじゃない、矢を避けて、アイススケートとなった山道を進む。それだけだ。



「ミカちゃん、あの切り立った部分あるでしょ。あそこから作戦通り行くからね」


「OK!」



私はそこから一気にジャンプした。まるで空に浮いてるかのような跳躍感に満たされる。その私を蹴ってミカちゃんも跳ぶ。そしてギルティと彼女の位置は最も近くなる。お互い、狙いやすい位置だ。どちらにとっても長所と短所がある。だが、ミカちゃんの行動は早かった。




氷結吹雪弾アイス・ブリザード・ブレッド



弾が5発ほど撃たれ、その全てがギルティに命中した。ギルティはたちまち氷漬けにされ、翼も凍ってしまう。鳥は翼なしに跳ぶことなどできはしまい。



「オ、オノレエエエエエエエエ!!!!」



墜ちて行くギルティ。同じく落ちるミカちゃんをキャッチ。続いて、先行して安全確保をしていた理沙とノノと合流。ちなみに合流地点は山の入り口だった。


「ノノ、アイススケートは楽しかった?」


「怖かった……でも面白かったわよ」



「いやー、スケートなんて中学以来ッス。あの時は狭いアイススケートリンクでしたが、今回は楽しかったスー」



そして、地震が起きる。ギルティの死体がすぐそばに落ちたのだ。氷漬けになったそれは死体というより、芸術的な氷のオブジェクトという感じだ。理沙はギルティの首元を大雑把に斧で切り、その後丁寧に斧で切り続け、自分の持てるサイズにする。



「理沙、それどうするの?」



「超危険種は賞金が出るんス。でも倒した証拠がないと出ませんので。お金はいくらあっても困らないっス」



「なかなか目ざといけど、生活能力は理沙が一番強そうね。さあ、ナイトーヴァも入手したし、そろそろ帰りましょう」



「ミカ、その前に」



と、理沙は何故かミカちゃんの股間を触った。



「きゃあああああああああああああああああああ!!あ、アンタ何してんよ!変態!スケベ!つか、あんたメイ狙いでしょ!なんで私の、その……」



「ふむ……やっぱり漏らしてるっスね。ほのかに温かい。臭いも……」



「かぐなあああああああ!!!!!」



わーきゃー騒ぐ理沙とミカちゃん。なんかこういうのもいいなと思った。つまんないばかりのナイトゼナだと思ったけど。でも、そこには人がいて、友だちがいる。この世界も悪いばかりでもないかな?私はそんな事を思いつつも二人のやりとりを背中で聞いていた。
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