忘れ得ぬ過去

十条沙良

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父ちゃんと私に呼ばせる男の大きな足が、私の胸を踏み付けています。
足の指が私の鼻の先にあります。

さっきお風呂に入ったはずなのにツーンと変な匂いが鼻に入ってきます。
臭いからか苦しいからか声が出ません。

痛い、助けて、やめて、お願いと叫びたかった。

けれども声が出ません。
息も出来ません。

1歳の女の子の小さな私は今まで、もうこれ以上ヒドい事は無いと思っていました。

毎日です。

でも、あった事に驚きました。


大きな足の指が私のふわふわな身体に食い込みます。
ふくらはぎの毛と筋肉のスジが見えます。

自分の身体がメリメリいっているのがわかりました。

お酒を飲んで酔っ払っているせいか、怒っているのか目をひん剥いて顔が真っ赤です。

鬼だと思いました。

私は怒鳴りながら目を大きく見開いて私を踏み付けている男を、踏み付けられながら見上げていました。

絵本で見た、赤鬼が父ちゃんだったと思いました。
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