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しおりを挟む「やっぱり、駄目だよなあ……」
昨夜書いた手紙の返事が朝食を終えたラルスの下にやって来た。返事はシンプルにお断りのもの。今日は家族と出掛ける予定が出来ていてラルスとは行けないというもの。
元々急過ぎるお誘いなのは分かっていた。伯爵家で出掛けるローゼライトを責める気は毛頭ない。
「母上にチケットを返すか」
良い席であっても観に行く人がいないのであればただの紙切れとなる。
ラルスは母が寛いでいるサロンに顔を出し、ローゼライトには予定が入っていて観劇には行けないと話した。
「あら、そうなの。残念ねラルス。だったら、わたくしと行く?」
「母上と? どうせなら、父上と行けば良いのでは?」
「旦那様は観劇に興味がないの。折角のチケットが勿体ないから、わたくしと二人で行きましょう」
今日は予定もなく、小公爵としての仕事も昨日である程度のけりはついている。母と二人で出掛けるというのも子供の時以来で、ラルスは了承した。
――ローゼライトと行けなくて残念だ
劇場の近くにあるカフェは大人気らしく、終わったら彼女を誘いたかった。
カフェならいくらでも誘う機会があるかとラルスは出掛ける準備を始めた。
〇●〇●〇
出掛ける準備が整い、玄関ホールにて義弟と父を待つローゼライト。肩にお気に入りのポシェットを提げて中身を最終確認。といっても、念の為の財布とハンカチが入っているだけだ。
「あ、父上が来ましたよ」
フレアの言葉通り、執事を伴って父が現れた。
「二人とも揃っているな。では行こうか」
父の言葉で外に出て、正門前に待機させてある馬車に乗り込んだ。
父が乗り、最後に執事が乗ると扉が閉められ馬車は動き出した。
執事は観劇が終わるまでは馬車内で待機となる。
「人が多くて疲れないといいな……」
「大丈夫よフレア。劇が始まれば誰も声を出さないから、とても集中できるわ」
人の多い場所に不慣れらしいフレアだが、伯爵となれば多くの貴族と関わる事となる。特にシーラデン家ともなると魔法使いとの交流も増える。今の内に人の多さに慣れておくのがフレアの為。
劇が開始されれば、観客が声を出すのはマナー違反。誰も声を出さない。
マナー違反を犯して摘まみだされた人を見た事はないが過去には何度かあったらしいと父の話で知った。
「と言っても、その客は始まる前から泥酔状態だったと聞いた。酒を飲んでから劇に集中出来るものなのか」
「さ、さあ」
お酒が苦手なローゼライトはあまり飲まないようにしている。勧められてもラルスが相手をさり気無く誘導してくれる為、無理に飲まされる場面はない。
劇場には馬車の停車場があり、職員の誘導に従って御者が馬車を停車させるとローゼライト達は降りた。フレアから差し出された手を取って降りたローゼライトは相変わらずの人の多さに感嘆とする。きっと中には、自分達のように二度目の人もいるのだろう。
中に入って受付を済ませ、会場に入ると席はそこそこ埋まっていた。開演までまだ時間がある為、外でゆっくりしている人もいるのだ。
三人は席に座り、近くもなく、遠くもない丁度いい席に満足する。
その時「あ」とフレアが声を漏らした。
「どうしたの?」
「あれ。あそこにいるのって」
「うん?」
フレアに指差された方を見たローゼライトは薔薇色の瞳を見開いた。
今朝、誘いを断ったラルスが母であるベルティーニ夫人と席に着いていた。
「公爵夫人と来るなら、姉上を誘ったっていいのに」
「ああ、違うの。今朝、ラルスからチケットを夫人のご友人から譲られたから行かないかって誘われてはいたの。でも今日はお父様とフレアの三人で行きたかったからお断りしたのよ」
「そうだったのですか」
きっと折角のチケットだからとベルティーニ夫人がラルスを誘ったと予想した。
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