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しおりを挟む――夕食の時間。執事が呼びに来るがローゼライトは後で行くと言って追い返した。
「どうしようかしら……」
王国一の魔法使いダヴィデの協力は得られた。後は、どう円満な婚約解消にもっていくか、だが。
ローゼライトは机に向かってずっと頭を悩ませていた。ラルスとの婚約解消に必要なのは何かと。
手っ取り早く婚約解消するなら、どちらかが不貞行為をすれば良いだけ。だが、実家になるべく迷惑が掛からないようにしたい。
シーラデン伯爵家は広大な土地を所持しており、そこでは農作物や魔法薬に使用する薬草を作っている。領民の殆どは農家で、薬草作りに関しては専門の知識を持つ農家に育ててもらっている。ダヴィデとの出会いは領地でだが、今は関係ないので省く。
不貞行為をするとなると相手は誰か、となるもやっぱり実家に迷惑が掛かるから絶対に選べない。ラルスにしてもそう。不貞相手に別の女性を宛がったら、自分との婚約を解消後ヴィクトリアと婚約が難しくなってしまう。これも駄目。
「かと言って、私が勝手に家を出て行ったらねえ……」
家出をする理由がないのだ。
母はローゼライトを出産後、体を壊して以来ずっと領地で過ごしている。父との関係は可もなければ不可もないといったところ。
シーラデン家は父の妹の子を養子としてもらっており、その子が継ぐことになっている。
「でもそうか。ラルスとの婚約が解消されたら、私は出て行かないと」
義弟フレアが養子に来たのは十年前。以来、ずっと次期伯爵として努力しているフレアの居場所を奪ってはいけない。義弟との関係も可もなく不可もなくで、顔を合わせればお互い世間話はする。
「ダヴィデに婚約解消した後の話もしないと」
机に広げたノートに必要事項を書いていく。
「円満な婚約解消……」
一番手っ取り早いのは額にある傷の完全治療。かなり深く切れ、完全に傷跡を消すのは不可能だと診断された。
治癒魔法を扱える聖女がいれば話は別だったが、当時聖女は巡礼の最中で王国にはおらず、またローゼライトが怪我を負った場所はシーラデン領だったので無理だった。
間が悪いとはあれを言うのだ。
「円満な婚約解消……」
再度同じ言葉を紡いでも良案は浮かばなかった。
「誰にも迷惑が掛からない円満な婚約解消……」
それはつまり――。
扉が再度叩かれた。返事をすると今度は義弟フレアの声。入ってもらうとひょっこりと顔を出した。
炎のように赤い髪を揺らしながらフレアは部屋に入り、心配そうにローゼライトを見つめた。
「姉上、どこか調子が悪いのですか? 待ってても姉上が来ないから心配で」
「あ、ああごめんなさい。ちょっと考え事をね。今から向かうわ」
「考え事?」
「大した事じゃないの。もうすぐ開かれる夜会についてよ」
行きましょうとフレアの背を押して部屋を出た。
「姉上はラルス様と行きますよね?」
「婚約者だからね。フレアはお父様と?」
「はい。私も早く婚約者を見つけなればならないのですが……」
「そう焦るものじゃないわ。生涯を共にする人よ? フレアがこの人だと思える相手と会うまで、ゆっくり決めたら良いわ。お父様だって急かしたりしないでしょう?」
次期伯爵夫人となるなら父が決めても良いのだが、敢えてフレアの意思を尊重している。
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