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狩猟大会①
しおりを挟む年に一度開催される『狩猟大会』当日となった今日、準備を終えたセラティーナが屋敷を出ると外では父とエルサが既に来ていた。セラティーナの姿を確認した父は家令に向き留守を頼んだ。
「行きましょう、お姉様」
「ええ」
エルサに手を引かれ馬車に乗り込む。続いて向かいに父が乗ると扉は閉められた。馬車が動き出したのを感じると不意に母について訊ねた。一度領地へ行くべく父と向かい、途中父だけ屋敷に戻った後は宿に泊まっていた母はこの間父に手紙を飛ばした。
何時まで宿に滞在しなくてはならないのか、と。一度母を置いた宿に戻った父だが、母を再び宿に置いて屋敷に戻った。
「お母様を領地へ向かわせなくて良かったのですか」
「前にも言ったな。あれは一人で行く度胸のないやつだ。母とは気が合わん以上、一人宿にいさせる方が良い。店主には追加で金を握らせた。余程の粗相をせん限りは追い出されはしない」
……母がいなくて分かった事がある。母がいないと淡々としつつも父と会話が成立している。セラティーナが何かを話すと感情を荒ぶり声高く言葉を放たれていた。いくら祖母に似ているからと言えど、そこまで嫌うだろうか。溜め息を吐きたいのをグッと堪え、今年の『狩猟大会』に隣国の皇帝と皇太子が参加すると父は言い出した。既に知っているセラティーナは敢えて知らない振りをし、これも両国の関係改善を他国や自国にアピールするいい機会だと頷く。
「ところでお父様。先日のブティックの件、放っておいて良いのですか?」
ブティックの件とはルナリア伯爵夫人とルチアがセラティーナの名を騙って代金の支払いを騙った件。母の許へ向かっていた父には速達往復便で即エルサが報せた。往復で届いた父の返事は『放っておけ』というものだった。
「返事にも書いたがあの場には他の貴族もいたのだろう? なら、私達がルナリアを訴えずとも連中があることないこと好き勝手噂する。今回の件で大聖堂の連中も事態を重く見始めたようだしな」
セラティーナとエルサは知らなかったが大聖堂は密かに父に接触を図っていた。内容はルチアに聖女としての再教育を施し、暫くは大聖堂に住まわせ行動を制限すると。
呆れた眼をするのはセラティーナ。
「今更ですわね」
「久しぶりに生まれた聖女を大事に甘やかし続けた結果だ。後は大聖堂やルナリアの問題。向こうにとやかく言われようとお前達は無視をしろ」
また、無視を決め込む事でルナリア伯爵家や大聖堂を焦らす理由がある。
再教育でマシになるのなら大聖堂やルナリア伯爵家の苦労も少しは報われる。
馬車は『狩猟大会』開催場に到着した。広大な草原と少しずつ離れた位置にある森が恒例として使用される
。
三人が馬車から降りると騎士がやって来た。父は毎年参加しない。昔何故かと聞いたら「興味がないだけだ」と返された。
騎士の案内で待ち合いの席へ移動し、そこへ座った。狩猟に参加する紳士達は開始を待っておりそわそわとしている。
王族や皇族は最後の到着となる。多分フェレスもいる。
「今年は誰が優勝すると思いますか?」
「そうね。初めて皇帝陛下や皇太子殿下が参加するから、花を持たせる為にどちらかになりそうよ」
それが妥当だろうと父にも頷かれた時、会場が妙に騒がしくなった。気になって振り向くと白い衣に身を包んだ神官数名に囲まれ、聖女の衣装を着たルチアが会場入りした。ルナリア家は何処だろうと周囲を見たら――いた。伯爵夫妻と長男がいたものの、肩身が狭そうにじっとしていた。周りのひそひそ話や視線から察するに既に話は出回っていると見た。
「!」
不意に視線を強く感じ出所を探したら、セラティーナを強く睨むルチアと目が合った。
エルサも気付いたらしく半眼でルチアを見ていた。
「全く反省していないではありませんか」
「そう直ぐには変わらないわよ」
後は周りの努力次第。ルチアから視線を離したと同時に大きな声が上がった。
国王と王太子、皇帝と皇太子が同時に会場入りした。
――あ……
皇帝と皇太子の側にはフェレスがいた。何かを皇帝に囁かれると肩を竦めた。
どうしたのかと見ているとフェレスが此方に向いた。月を宿す濃い青の瞳が優しげに細められふわりと笑まれた。人外の美しさを持つフェレスがそんな顔をしたので当然女性達が顔を赤らめ小さな声があちこちから出始める。
セラティーナも微笑み返し、フェレスとは後で会えるからとそっと視線を逸らした。
「…………」
セラティーナを離れた場所から見つめる灰色の瞳。じっと……セラティーナだけを見つめていた。
もう一人もプラティーヌ家を見つめ……否睨んでいる者がいた。扇子を持つ手に力を込め、腕を組み瞼を閉じているジグルドを憎しみの籠った目で睨み続ける女性が。
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